IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第170話 華戦(はないくさ)<後編>

「どういう意味?一夏が可哀想?まるで、僕達が一夏を苦しめているように聞こえるけれど…。」
『僕たちが原因で、一夏が可哀想?そんな覚えはない!』
 一夏がISを巡る各国の政治的利益を得ようとする動きに如何に振り回されて道具の様にされたのか、IS学園の専用機持ちは、皆、知っている。
 自分達のISの性能向上の代償に、どれだけ一夏という一個の人間としての人権がないがしろにされ、千冬がどれだけ怒りに震えながらもそれを抑え、悲しんでいたかも知っている。
 ブルーティアーズの最初の改修時に、セシリアは自分達イギリス人を嫌悪するようになったのではと考えて恐る恐る尋ねた。
 だが、関係する政治家や軍上層部は嫌っても、セシリア達は別。
 それが一夏の答えだった。
 一夏の優しさに、セシリアがどれだけ救われたか。
 それを聞かされたシャルロットは、我が事の様に理解した。
 二学期になって再び各国の思惑で一夏の人権は踏みにじられた、だが、一夏はシャルロット達を決して責めようとはしなかった。
 当時、文化祭において白式で使用する装備を納入した事が切欠で、一夏は外部技術顧問に就任。
 不良学生の言いがかりと大差ないレベルの抗議をしてきたIS先進国に外務省が結果的に屈する事等があった事で、一夏の希望とは関係なく自由国籍にされただけでなくIS委員会所属の国連安全保障理事会特別理事に就任。
 各国に好きに使われるということは無くなったが、国連安保理の要職に着いた事と一夏の中に眠っていた政治的才能が花開いた事で、国際政治の場において様々な国に頼られてある意味以前より悪くなった。
 IS委員会所属にする事で、母国が国益を得る為に人権を無視したり踏みにじったりする事を防ぐ。
 委員会の思惑はそこにあったのだろうと、冬菊は考えている。
 国連安保理特別理事に関しては、あきらめずに何かしようとしているIS先進国に即座に一夏が牽制できるようになるためではと、冬菊は考えたが、それなら相応の人間を送りこめばいい。
 よりにもよって、混沌とした国際政治の場に一夏を送るような事をするはずはなかったと冬菊は考えた。
 あるいは、可能な限りの肩書をつける事が牽制になり、一夏を守ると考えたのかもしれない。

『けれども…、ある事を見落としていたわ…。一夏さんが他人の為に何ら見返りがなくとも出来る限りのことをなさる優しい方だということを…。』
 相応の権威が伴いながらも、実務的な事には殊更拘わらない。
 表現は甚だ悪いが、実質何の権限もないお飾りでしかない肩書ならばそれで済んだだろう。
 だが、実務面。
 しかも、任期が限られる非常任理事国ではなく、任期は事実上無制限でIS委員会所属。
 世界でも五本の指に入るIS操縦者としての実力を持ち、当時世界でただ二機しかない第五世代ISを専用機としているだけでなく、開発面においても技術を徹底的に叩き込まれ日々努力を積み重ねた結果、師である束を除けば右に出る者がいない程の技術者になっていた。
 その上で特別理事となれば、周辺国が一夏をお飾りと見るかどうかは怪しいという見方はあったのである。
 事実そうなった。

 存在する。
 ただそれだけで、世界に影響を与える存在はある。
 影響を与えようと思わなくても、与えてしまう。
 砂場に磁石を放り投げれば、砂鉄が磁力によって引き寄せられ、磁場による一種の力場が形成される。
 磁石を一夏とすれば、砂鉄は頼る側。
 力場は、一夏の存在が及ぼす影響力。
 磁石に意思はなく、鉄を始めとする様々な金属を引き寄せようとしているわけではない
 「そういう存在」なのである。

 一夏もまた同様である。
 仲間の力になりたい。
 そう思っているだけで、世界に対する影響力があるとは砂粒ほども思っていなかった。
 しかし、処女作であるイリュジオンのハイスペック。
 BT兵器の運用や、装備が原因となる近接戦闘能力に関する問題を持つブルーティアーズの改修作業の中で、BT兵器の制御OSを修正。
 新兵装の開発で近接戦闘を充分に考慮した装備を開発。
 さらに、各スラスターの燃費を向上させただけでなく、高推力化と推力偏向方式の導入で、基本性能を格段に引き上げた。
 他のISもことごとく性能が向上。

 それに加えて束の依頼で開発した、簡易型展開装甲を実装した初の第三世代ISである巴御前。
 日本代表候補である簪の専用機であり、世界初となるマルチロックオンシステムを特殊システムとして搭載することを構想しながらもそれがネックとなり完成しなかった打鉄弐式も一夏は開発成功に導いている。
 巴御前を除けば、一夏はただ仲間の為にやったにすぎない。
 だが、これらの実績が示す一夏の技術力は世界に衝撃を与えた。
 より一層、各国は一夏を欲したのである。
 ISだけでなく、各種技術を加速度的に発展させれば、その国には通常の貿易だけでなく特許料を含めて莫大な利益が転がり込み産業の発展は雇用問題を解決させる。
 一夏にそういった気はなかったが、それが可能な存在である事に変わりはなかった。
 それが、一夏が国連安保理においても飾り物と見なされなくなった理由の一つでもある。

 さらに、IS学園生徒会長として文化祭やキャノンボールファストの運営に関わり地方自治体だけでなく、警察や自衛隊上層部に閣僚との会議においても一学生の範囲を大きく超えた実務能力が一夏に国際政治における実積と経験をつませるもう一つの原因となった。
 一国家の組織の上層部も関わるイベントの運営においての、見事な手腕。
 これを事前に知れば、政治にかかわっても多大な影響力を与える可能性は自然と見えてくるはず。
 にも拘わらずその兆候を無視し、一夏がさらなる義務と苦労を負う結果となっても対策を講じようとしなかったIS委員会に対して、冬菊はある意味日本を含むIS先進国以上に呆れ返った。
 その後、軍人としての地位を与え昇進させ部隊を構成する艦艇の設計を行わせ、最終的には司令官に任じてまた義務と苦労を負わせた。

 そして、一夏がそれらの責務を見事に果たしたことで今の様な一夏になった。
 一夏に一定の限界があれば、この様な事にはなっていないだろう
 軍事面や技術面はともかく、政治面における才能が無ければ、一夏の苦労はかなり減っただろう。
 だが、一夏には才能が有り、優しく誰かの為に力になりたいと願い続けた事が養分になり才能は高まっていった。

 冬菊は只一つ。
 只一つの事に、気づいてほしかった。
 どれ程の才覚があろうとも、一夏の本当の姿は「どこにでもいる一人の学生」。
 それ以上でも、それ以下でもないという事に。
『それに気づいていれば、一夏さんは…。』
 肌を重ねた後に眠った一夏の寝顔を見て冬菊が思うのは、それだった。

『目の前にいる方たちも、それに気づいていらっしゃらない。御自分に振り向かせる事を第一に考え、激務に追われる一夏さんを気遣って労わられても、それ以上はない…。』
 冬菊にとっての最優先事項は、一夏が幸せになる事。
 だが、自分と結ばれる事がその方法とは、限らない。
 もしそう解答が出たら、一夏と結ばれる事は諦めよう。
 悩み苦しみながらも、冬菊はそう決意したのである。
 そう思いながらも、セシリア達IS学園の専用機持ちの大部分は一夏の事で見えていない部分があまりに多すぎて、ただ気持ちを押しつけている。
 少なくとも、冬菊にはそう思えた。
 そして、それは大分的を得ていたのである。

「理解していないからこそ、一夏さんが御可哀想なのです。では、今度こそ失礼いたします。私はISを動かす事も銃を手に戦う事もできませんが、それでも一夏さんの為にできることがありますから。あなたがたと話すよりもずっと大切な事です。何より…。」
 一夏の傍に戻ろうとした冬菊は振り向かずに、言葉を続ける。
「あなたたちと一夏さんの時間は、あと1年と少し。私達はこれから、長い時間互いに寄り添って生きていくことになります。私なら、それができます。簡単な事なのですけれど、気づいていらっしゃらなくて、幸いでしたわ…。」
『それって…、つまり…。』
 冬菊が何を言おうとしているのか、シャルロットは明確に理解した。

「両親は、すっかり一夏さんを気に入っていますわ。グループは人事部を中心に卒業後一夏さんをグループに引き入れるプロジェクトを立ち上げています。私達の間には、何の問題もありません。義理の両親になりますが、そこには家ができます。一夏さんが幼い頃に何の落ち度もなかったのに失われてしまった家が…。」
 何か言おうとするシャルロットだが、冬菊の言葉は強い確信を込めた口調になっておりそれが一種の威圧感になっていた。
「グループの要職に就けば、相応の苦労が待ってはいます。父がそうですから…。けれども、仕事が終われば家に帰っていらっしゃいます。そこには、家族がいます。」
「駄目…。」
 震える声で、シャルロットは必至に言葉を紡ぐ。
「家族は、時を過ごせば増えます。私と一夏さんとの間にできた、子供達が…。」
 冬菊はそれが待ち遠しいという声と、表情になる。
「駄目…。」
 シャルロットは、他に言いたいことがあった。
 それを言おうとしても、中々出てこない。
「一夏さん。きっとよい父親になられますわ。そして、そんな一夏さんを産まれてきた子供達が慕わない筈がありません。二人。もっといてもいいでしょうね。家の中が、明るく、暖かくなりますもの…。」
 冬菊の脳裏には、仕事から帰ってきて子供達の相手をする優しい父親の一夏がいた。
「そんなの…、駄目…。」
『それは…、僕だって…。』
 言葉にならない言葉は、シャルロットの心の中に留まったまま。
 父親に認知されず母親と二人だけの家族だったシャルロットは、ごく普通の暖かい家庭に憧れた。

「私はあなた達のようには戦えません。けれども、家庭を守る事は出来ます。築き上げた暖かい家庭を。一夏さんが世界で一番心が安らぐ場所を。」
「やめて…。」
 振り返らずに話し続ける冬菊の声に、シャルロットの震える声が
「それが、私の戦い…。一夏さんを支える事…。あなた方ではできない事…。」
「やめて…。」
 シャルロットの青い瞳から、涙が零れ落ちる。
 否定したかったが、否定できなかった。
 少なくとも、今の自分には…。
「故に、あなた方には一夏さんを渡す事は出来ません…。それ以前に、そういった対象でもありませんが…。」
「やめて…。」
「マザー・テレサは、ノーベル平和賞受賞時に賞金についてこう尋ねたそうです。『このお金で、どれだけパンが買えますか?』と…。あなた方なら沢山のパンが買えるでしょう。パンならば…。ですが、他にこんな言葉も残されています。『一切れのパンではなく、多くの人は愛に、小さなほほえみに飢えているのです。』。あなた達には、それが理解できていなかった。私にはそれが理解できた。だから、私に出来る事が見つかった。あなた達が見つけられませんでしたが…。いずれにしても、あなた達に一夏さんを幸せにできるとは、到底思えません。では、失礼します。そろそろ、一夏さんが御目覚めになる頃ですから…。ああ。それから最後に…。おそらく一夏さんは、夏季休暇の間は我が家でお暮しになると思います。一夏さん所有のマンションでもいいですわ…。私が住み込みで、身の回りのお世話をさせていただきます。菫さんという、ライバルがいますし、ファイルス中尉や楯無さん達もいらっしゃいますが、それでも最後に一夏さんの心は、私の腕の中にあります…。私には、それが解ります。」

「やめて!!」
 シャルロットの叫びに、冬菊は始めて振り返ったがポーカーフェースのままだった。

「母さん。」
「行ってはいけませんよ。これは当人同士の問題ですから…。」
 席から立とうとする高芳を、静音は制止する。
 本心では行きたかったが、今は行くべきではないと考えていた。

「お願い…。やめて…。やめてよ…。一夏を私から取り上げないで…。」
 いつも自分を「僕」と呼ぶシャルロットが、「私」。
 一人の少女として、涙を流していた。

「一夏さんは、誰の物でもありません。そして、世界の物でもありません。一夏さんは、一夏さんの物です。それを犯す権利は誰にもありません。無論、私達にも。それを決めるのは一夏さん。そして、あなたの物になるのを一夏さんは望まれましたか?今は、一夏さんの御心の一部は私の物。一夏さんが望まれた結果です。取り上げる気はありません。私は受け止めるだけ。それだけです。」
 振り返る程というより、僅かながら怒りを込めた視線がシャルロットに向けられたが、極僅かな時間だった。

「一夏は…。一夏は、ただ恋をした男の子じゃない…。私を助けてくれた人…。無彩色で、寒くて。でもそれすらもやがて感じずにいた私を、普通の…。色がある鮮やかな暖かい世界に、連れ戻してくれた人…。」
 デュノア社が考え出した稀代のペテン劇の駒にされ抗う事もできず、その後に待っていると考えていた獄中生活から救い出された瞬間。
 自分の信頼に応えて、フランス政府と取引をする大博打を打ってまで助け出してくれた瞬間。
 その事を思い出しながら、シャルロットは大粒の涙を流し続けていた。

「私を助けてくれた、私だけの白馬の王子様…!だから、渡さない…!絶対に、渡さない!」
「一夏さんに助けていただいて、優しさや温もりを与えていただいて、あなたは何を与えることができるのですか…?」
 初めて冬菊は、シャルロットの方を向いた。

「そればかり…。与えてもらうばかりで、与えようとすれば押し付け。それで一夏さんが幸せになることは無いと、どうしてお解かりにならないのですか?」
 冬菊が浮かべていた表情は、明らかに怒りの表情だった。
「それから、誤解なき様申し上げておくことがあります。お部屋をお借りして、床の中で私が一夏さんに抱かれていたわけではありません。逆です。一夏さんの最も傷つきやすく、でも本当の部分。それを私は抱きしめていました。男女の体の関係で、女性が常に受け身とは限りませんよ。むしろ、逆の事もあります。でも、それはとても悲しい事…。そうならなくては、一夏さんはそう遠くない内に…。」
 呼吸を整えて、冬菊は改めてシャルロットに向き合う。
「私は待っていたのです。そうなるのを…。今の一夏さんには、それこそが必要だと思いましたから…。痛い程、差し上げたい物があったから…。後は、御自分でお考えください。では今度こそ失礼いたします。」
 冬菊は、一夏がいる部屋に戻った。

『何…。何なの…?僕たちに足りていなくて、冬菊さんに見えていた物?何なの…。』
 同じ屋根の下で生活し、共に肩を並べて戦い競い合ってきた自分達やライバル達。
 まるで、自分達が一夏の為に本当に必要な事が何も見えていないような気がして、表情は青ざめ、視界は全て漆黒の闇の様に感じたシャルロットは膝から崩れ落ちた。

 あきらめちゃうんだ…。

『え…?』
 目の前にいたのは、シャルロットに似た気が強い女性騎士だった。

 所詮、貴方の彼への想いはその程度…。負けるのは、当然か…。

 小さな溜息をつき、吐き捨てるように言う。

『違う!僕の…。僕はそんな簡単にあきらめるつもりなんかない!そんないい加減な気持ちで一夏を好きになったんじゃない…。』

 ポーランドに襲い掛かった亡国企業の大軍を退けた後、瀕死の状態になった一夏が紙一重で高く険しい峠を越えた後、一夏を守る為に専用機持ち、準専用機持ちの中から、選抜して、バックアップ役となる整備課の生徒達と共にポーランドへ赴く事を発表。
 当然、二年の専用機持ち達は全員志願した。
 もう、二度と一夏を死の淵に追いやるような事はさせない。
 向かってくるのならば、倒すのみ。
 全員の決意は、固かった。

『尚、学園や関連施設への襲撃も考えられる事から、委員会から学園の守りも怠らぬようにとの連絡が入りました。よって、専用機持ち及び準専用機持ちではなく、整備課の生徒が主力です。専用機持ち達は、大多数は残ってもらうことになります。二年のリーダーは、ボーデヴィッヒさん。残った専用機持ち達のリーダーとして指揮をお願いします。』
『了解…しました…。』
 本来ならボディガードであるラウラは自分が行くべきだと主張したかったが、ドイツ陸軍の軍人にして部隊長でもあるラウラはIS学園の専用機持ち達をこぞって向かわせるわけにはいかない事も承知していた。
 感情では拒んでいた。
 だが、それ以上に理性が受け入れていた。
 そして、選ばれたのは現状IS学園に存在するISの中で第三形態にまで形態移行を遂げて、何より展開装甲を装備するオールラウンダーにして二年生ではラウラ達に次ぐ実力者である箒。
 優れた射撃戦のセンスと、自分を守りきるだけの近接戦闘能力を持つセシリア。
 そして、三年生の専用機持ちにしてIS学園ビックスリーの二人である、楯無とフォルテ。
 数の少なさを質で補う為に、この二人が選抜された。
 準専用機持ちは今回の救援には力不足と最終的に判断され、ラウラのサポートと残った専用機持ち達の中にできうるかもしれない感情面からの軋轢。
 これは、残った専用機持ちが多くとも少なくとも生まれる。
 そこで、潤滑油役としてシャルロットが選ばれた。
 整備に関しては、整備を教える教員に本音が担当。
 本来はもっと多く専用機持ちを送る予定だったが、IS委員会の不安を煽らないために少数で行く事となった。
 その為に、様々な状況を考慮しつつ選ばれたのである。

『行きたかった…。傍で守りたかった…。でも、許されなかった…。この気持ち、解る…?』
 ようやく生死の境より戻った一夏の傍にいて、守れない。
 その時の気持ちは、今でも疼く時がある。

『僕だって…。僕だって…。』
 一夏の為に、何かしたかった…。
 体の回復を助けるための手料理を、食べさせてあげたかった…。
 自分に寄りかかっていいと。
 たいして、何もできないかもしれない。
 それでも、精一杯出来る事をするから。
 一夏を愛しているのだから、出来る事は全部するから。
 自分の命を差し出して一夏を守れるのなら、それでいいから。
 愛情に飢えているのなら、欲しいだけ愛するから。
 そう伝えたかった。

 でも、そこで泣いているだけのあなたに何が出来るかしらね?やれるものならやってみれば。

「はっ…。え。コード249?」
 コアネットワークの通信に、コード249が発令された事を示すメッセージが届いていた。
「一夏は休暇中で発進しない…?」
 シャルロットはメッセージを読むと、肺の中の全ての空気を入れ替える様に深く深呼吸する。
「了解…!」
『ISでの戦いなら、僕にもやれる事はある。今まで遊んできたわけじゃないんだから。』

 三沢基地。
 航空自衛隊が駐屯する要衝である。
 そこには、在日米軍第13戦闘飛行隊。第14戦闘飛行隊が駐屯している。

「あらあら。まあまあ。やってくれるわね。航空自衛隊だけじゃなくて、アメリカ空軍も駐屯しているこの三沢の目と鼻の先で、こういうことをしてくれるわけ?舐められたものね。」
 合同演習に赴いていたナタルが、筋肉をほぐしながら極めて危険な目つきで唇を歪ませる。
「おお。怖い。ま。ここまで舐めた真似されて、黙っていられねえか。空自さんもそうだろうよ。」
 三沢には空自の主力ステルス戦闘機F-3は配備されていないが、F-2を改修して高いステルス性と多目的戦闘能力を備えたF-2改。
 イギリスが、クィーンエリザベス級空母用に発注。日本メーカーも開発に参加した結果、視察に来た空自の上層部や部隊長が高く評価した事で日本向けに改修して大量配備され、共に日本の空を守っているEF-2000J タイフーンⅡ、更に最新兵器でありアメリカが何とか自軍にも配備しようと粘り強く交渉を続けているG-TMAを擁する航空自衛隊第三航空団が駐屯している。
 自衛隊が陸海空共に第三世代ISに更新が終了しているのは周知の事実だが、アメリカ空軍も完成した第三世代ISを三沢基地に配備していた。
 千歳と共に北方を守る要衝という意味もあるが、アメリカに意見を求められた千冬が太平洋側、日本海側双方に睨みを利かせる三沢基地への配備は有効という結論を出したことで配備されていた。
 北海道の千歳には空自のみが配備されている為に、在日アメリカ軍駐屯地最北の地は三沢である。
 この地に相応の部隊を配備するのは、自明の理でもある。
『三沢が在日アメリカ軍最北の地である事が、ここで利いてくるとはな…。』
 三沢基地の発進準備が整った事を聞き、念の為にISスーツに着替えていた千冬は地図を見ながら、今後の亡国企業の動きについて考えていた。

 シャルロットはドラグーンを実体化させて、指定のポイントに向かっていた。
 スクランブルを想定して抜群の加速性能のみならず上昇性能を誇る一夏が開発した追加兵装パッケージ、サイントエールを発展させたドラグーンは、トップクラスの上昇性能を誇る。
 高々度を含む様々な状況での迎撃性能ではトップクラスの迎撃戦闘機であるミコヤングレビッチの傑作、Mig―31 フォックスハウンドをも大きく上回る。
 フランスの航空機用エンジンメーカースネクマ社との共同開発で完成した高性能エンジンを搭載。
 サイントエールを上回る性能を得て、スーパークルーズ。
 特に酸素濃度の薄い高々度でも、M4を超える。
 すぐに、ポイントに到着した。

 ポイントには大量のディースとゴーレムがいた。

「今の僕って、凄く機嫌が悪いんだよ…。何の権利があって、ここに来たのかな…?」
 いつもの優しげなシャルロットはそこにはおらず、その青い眼は氷の様だった。
「答えるようなのもいるわけないか…。じゃあ…。壊されてもらうよ…。」
 ラピッドスイッチでバススロットに搭載されている武装を呼び出そうとした瞬間に、それは起きた。

「ノブレスイリュジオンに、高エネルギー反応。これは…。間違いありません!形態移行です!」
「とうとうデュノアもか…。」
 いつかは、イリュジオンも形態移行を遂げると考えていた千冬だが、予想以上に早かったので今後の事を考慮すると、中々に頭が痛かった。

NOBLESS ILLUSION SECOND FORM
“Charlemagne”

「ノブレスイリュジオン第二形態、シャルルマーニュ…。」
「フランク王国カロリング朝第二代国王、西ローマ帝国皇帝、初代ローマ帝国皇帝か…。ごたいそうな名だな。さて、性能の程はどうかな。」
 ローランの歌に出てくる人物だが歴史上実在の人物でもあり、後のルネサンスの先駆けとも言える時代を築いた偉大な王でもある。
「織斑君の処女作にして、初の実戦配備型第三世代ISともいえるISで、性能面でも他国のISを上回っていたイリュジオン…。一体、どんなISになっているか…。」
 緊張を隠しつつ、千冬は戦闘を見守る事にした。

 形態移行を遂げたイリュジオンの各スラスターは、推力偏向方式に変更されてより運動性を重視した事が理解できる。
 特にメインスラスターは今までの一夏の開発経験をフィードバックした高推力磁気推進スラスターとなっており、特殊な推力偏向方式になっている。
 高機動性と高運動性を両立させている。
 その他に装甲で作られたマントのようなユニットにマウントされている十二基のBT兵装、肩部六連装リボルバーカノン、膝部多連装ミサイルポッド。
 両腕には高出力プラズマブレードを搭載した円形シールドと一体化した、クロスボウ型兵装が搭載されている。
 特殊兵装は、外見からはまだ何かは解らない。

「それじゃあ。始めようか。」
 両手には、変形機構を搭載したらしい高出力プラズマブレードタイプの銃剣を装備したライフルが呼び出される。
 シャルロットが兵装を呼び出したのを合図とばかりに、ゴーレムが襲い掛かる。

「その程度…?招いていないのに湧いて出てきて、その程度…?」
 呆れと苛立ちが混ざったような声が、シャルロットの口から洩れる。
 右腕に持ったライフルが、変形する。
「消えてよ…。」
 凄まじい破壊力を持つエネルギーの槍がゴーレムのシールドと装甲を薄紙のように貫き、凄まじい爆音と爆発を伴い所々溶けた部品が落ちてゆく。

「解析終了。高出力インパルス砲です!」
「火竜のデータか?それとも、白式のコアとの取引か…。」
 白式は第五形態に形態移行する際に様々なコアと情報をやり取りして、最適な進化形態を模索している。
 それが他のコアに反映されたのではないか?
 そう千冬は考えた。
『だとすれば、ますますまずいな…。今の一夏の心労を増やすのはまずい…。』
 千冬の予想が当たっていれば、各国は今以上に自国の専用機持ちを送り込みデータ収集を試みるだろう。
 仮に第二世代機であろうとも、他のISのデータを参照することで第三世代機と同等あるいはそれ以上の性能を得る可能性が浮上する。
 開発者としても、深い知識を持つ一夏がそれに気づかないはずがない。
 第二形態になったイリュジオンの圧倒的な性能と今までの学園生活で磨き上げた技量で亡国企業の部隊を蹴散らしていく。

「その程度!」
 ビットを格納していたローブ状のマウントポイントがビットを展開しているシャルロットを守る。
 そして、ビットがゴーレムとディースを蹴散らしていく。
 中には攻撃を回避した物もいるが、肩部のリボルバーカノンに膝部の多連装ミサイルが撃ち落とす。
 高出力インパルス砲は、片方をフロワ・アンジュ・デシュにして搭載されている銃剣を併用して亡国企業の部隊を蹴散らしていく。
 一部はアウトレンジして狙おうとするが、クロスボウ状の精密狙撃用高インパルス砲で逆にアウトレンジされる。
 ラピッドスイッチは健在。
 バススロット自体も総合性能が向上しているものと見て、間違いなかった。

 その中で、千冬はあることに気づく。
「やはりだ。」
「何がですか?」
「イリュジオンが相手のシステムにクラッキングをかけて、性能を落としている。」
 千冬の言葉に、真那は驚きを隠せなかった。
 そのようなISは、真那が知る限り白式しかなかったからである。
「より正確に言えば、攻撃及び防御の。だがな。特殊兵装が進化したか。十中八九、白式の影響だろう。参ったな…。」
「ええ。これを知ったら、各国がどう動くか…。幸い、学園在学時は特記事項で公開要求を断れますが、フランスに関してはどうしようもありません。いずれにせよ。他の専用機持ちを送り込む可能性は、否定できません。」
 フランス代表候補。
 しかもその筆頭ともなれば、国もより有効な追加装備を送るために性能を知る必要がある。
 データ収集で見れば有効な環境が、この場合はネックになっていた。
「束に私から話をしておこう。あとはデュノアに釘を刺しておく。これくらいか…。」
 千冬は大きな溜息をつく。
「デュノアさんには私が。」
「頼む。うん?いい知らせだ、三沢が片付いた。亡国企業の馬鹿共。うちの生徒じゃなければ、容易だとでも思ったのか?向こうのデータを収集しようとしていたのかもしれないが、高い代償を払ったな。あとは、こちらだな…。」
 最後に朗報を聞いて、幾分か千冬の気持ちも上向いたがそれも些細なものだった。

 俺が到着した翌日の夜。
 頼まれていた案件をこなしていた。
 去年やった神巫子神社の奉納の舞をまた頼まれたので、墓参りのついでに引き受ける事にした。
 いろいろありすぎて心が乱れていたので、それを何とかしたかったというのもある。
 純粋に舞が好きだというのもあるけど、それに関わりなくとにかく舞に集中したかった。

 舞を終えた瞬間、拍手が鳴り響いた。
 師の教えだからでもあるが純粋に舞が好きな一夏は、待っている時は舞の事しか考えていない。
 舞の間だけだが。

「お疲れ様。凄く素敵だったよ。一夏。じゃ。お化粧落とさないとね。はい。クレンジングと石鹸。簡単にスキンケアしたら、今晩は必ずパックしておいてね。」
 舞の準備では冬菊が俺の化粧を手伝って、唇に紅を刺したりしていた。
 なので、終わった後はシャルロットが。
 何でこうなったかは知らない。
 十中八九俺が原因だろうけどな。
 帰ったら冬菊の申し出にもちゃんと返事出さないと。
 とはいえ、今の俺じゃ答えをきちんと出せるかどうか。
 千冬姉に相談するか。
 あとは束さんかな。
 滅茶苦茶な人だけど、俺と千冬姉。
 そして箒相手なら、相談相手として信頼できる人だ。
 後は、亡国企業の正体か…。
 これが解れば、一番楽なんだけどな。

後書き
今まで一夏の争奪戦をしていたシャルロット達。
それを客観視していた冬菊。
突きつけられた、重い疑問。
「一夏の事をどう思っているか?一夏の事を第一に考えているか?」
顧みれば、シャルロット達はほとんどといっていいほど自分の方に振り向かせることばかり考えて、自分本位の一夏争奪戦を繰り広げていました。
それに対し冬菊は、一夏をありのまま受け入れて包み込んできました。
自分の傍では、仮面をつけなくていい。
ありのままの一夏でいていい。
一夏が「みっともない。」と思える姿のままでもいい。
それらを含めて一夏を愛していました。
周囲と冬菊を比較すると、決して偶像視していなかったことでしょう。
別に立派な人間でなくてもいい。
自分が好きになった、ありのままの一夏であればいい。
その冬菊の想いは、一種頑なだった一夏の心を解きほぐしていました。
そして、一夏と添い遂げ心から安らげる温かい家庭を作って見せる。
そう宣言。
これに対してシャルロットは反論しますが、論破されてしまいます。
その時、亡国企業の襲撃。
休暇中の一夏に代わってシャルロットが出撃。
イリュジオンが第二形態シャルルマーニュに。
圧倒的な戦闘力で、撃破。
必要とあらば、一夏の為に戦う。
シャルロットの愛情表現でした。
ちなみに、シャルロットの話だった理由ですが。
私がシャルロッ党員だからです。
ヴィヴ・ラ・シャルロット!
私の中では、シャルロットと一夏が結ばれるというシナリオもありました。






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