IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第170話 華戦(はないくさ)<中編>

『来ちゃった…。』
 純白のノースリーブのサマードレス風の、ワンピース。
 つばの広い夏用の帽子。
 いざという時の事を考慮して、行動しやすいローファー。
 いつも以上にお洒落をして、スキンケア、日焼け止め、化粧をしたシャルロットが、寒河江駅に到着した。
 シャルロット自身、水準を大きく超える美少女なので、周囲の乗客の視線は釘付けになっていたが、当のシャルロットはまるで気にもしていなかった。
 少し離れたところには、一般人に巧みに擬態した人間が数人いた。
 無論、観光客でも地元住民でもない。
 フランスの情報機関、DGSE(対外治安総局:Direction Generale de la Securite Exterieure)のエージェントである。
 代表候補筆頭であり、フランス最強のISであるノブレスイリュジオンの専任操縦者であるシャルロットに何かあっては、フランスにとっては様々な面で大きな問題になる。
 その為にフランス政府から派遣されており、アサルトライフル、拳銃、コンバットナイフ等で武装した上でシャルロットの警護任務に就いている。

 シャルロットの手に持たれたアラログの旅行用鞄には、予備の拳銃である、ベレッタ Px4サブコンパクトの9mm使用タイプ、フランス軍で配備が進んでいるH&K社のアサルトカービン、HK416のフランス軍仕様HK416Fにフランス軍で配備が進んでいる新型照準器FELINをデュノア社が自社技術で再設計した派生型の小型汎用照準器とし、レーザーサイトが標準装備されているオリジナルのカスタムタイプが納められている。
 代表候補の中でも、銃器携帯が義務付けられているIS学園の生徒であるシャルロットだからこそ持っていける装備である。
『今度何かあったら、僕が一夏を守る…。』
 ポーランドの件で負い目を感じているが、アサルトライフルや遠距離狙撃の弾丸すら容易く回避する一夏に本来ボディガードはいらない。
 それでも、自分の力で愛する人を守りたい。
 既にシャルロットの表情は恋する少女ではなく、愛する人と生涯を共にすることを決めた女性の表情になっていた
 愛する人を守るためなら、命を投げ出す。
 女尊男卑の風潮の世の中では、古いと見なされる考え方。
 それでも、シャルロットはそうすると決めていた。

『伝えなきゃ…。あの時、きちんと伝えなかったから…。』
 デュノア社が諜報目的として送り込んだシャルロットだが、短期間で一夏にその事を暴かれた。
 だが、一夏はそれを学園に伝えようとはせずに、自分の為に政府と交渉。
 ノブレスイリュジオンの開発と引き換えに、シャルロットの行為は不問とされ、新しい戸籍も与えられた。
 一夏に知られた翌日に裸になろうとしたが、最後の一枚になった所で一夏は制止した。
 その後、自分の出生とこうなった経緯を話して、それを聞いた一夏は実の父親とデュノア社の経営陣に対して激しく憤った。
 そして、シャルロットを救う為に、行動した。
 その時の一夏に対して、シャルロットはかなり困惑していた。
 自分の諜報対象であっただけでなく、遺伝子。
 より具体的に言うと、一夏の精子を入手するよう命じられていたからだ。
 そんな相手の為に、危ない橋を渡ろうとするなど誰が考えるだろうか?
 少なくとも母の死後、父であるデュノア社の社長に秘密裏に引き取られてから今までのシャルロットの周囲に、そんな人間はいなかった。

 結局シャルロットの行動は失敗に終わったが、あの時、自分が女だという事を生まれたままの姿になる事で知らせて贖罪の一端になればと思った際に、一夏が止めなかったらとシャルロットは思った。
 シャルロットも年頃の少女だ。
 恥じらいは当然ある。
 だが、一夏になら裸を見られてもいいと思っていた。
 それどころか、その先。
 関係を持っても良かった。
 というより、持ちたかった。
 その時点で、シャルロットは一夏に恋をしていた。

 それからも、求めてもらいたくて行動を起こした。
 そうすれば今頃は恋人になって、母の墓前で紹介していただろう。
 既に、婚約もしていたかもしれない。
 親友にして、恋のライバル達。
 既に、一夏と関係を持ちプロポーズをしたナタル。
 一夏に命を救われた事をきっかけに恋をして、最初に両親そろってのプロポーズをした冬菊。
 いつ、一夏の心を射止めるか解らない状態である。
 急いで本国での仕事を終わらせてシャルロットは日本に戻り、一夏が再びこの地に来たのを知り追って来たのである。
 再び、想いを伝える為に…。
 強く、優しく、気高く、美しく、暖かく、聡明で、人の為に力を尽くし、時には命を対価に払う事を恐れず、むしろそれを貴ぶ、最愛の想い人。
 共に人生を歩み添い遂げたいと思う一夏を、自分の物にする為に…。

「そろそろですね。」
「そうだな。」
 IS学園の職員室で一学期の総括を終え、二学期からの指導方針を考えていた千冬と真耶は何か話していた。
「今なら、問題ない。それに、帰国するたびに、特殊作戦司令部隷下の部隊と厳しい訓練を積み重ねている。そう簡単にやられはしない。それにな…。私のつてで、駒もいくつか配置しておいた。元々、申し出があったからちょうどいい。上層部に下心があるが、問題ないレベルだ。少しでも問題があるレベルになったら、こちらで釘を刺しておく。姉として、この程度はしていないといい笑い者だよ。束も、何か備えを済ませたそうだしな。」
 ポーランドの死闘以来、千冬は前以上に一夏の事に関しては心配性で過保護になっている事を、真耶を含む極僅かな教官だけが知っている。
 一夏に何かしようとする者がいないか、自身のパイプを使って監視網を築いていた。
「いざとなれば、私とお前がいけばいい。一夏が白菊専用に、重武装高機動パッケージを作っていた。スペックを見たが、上物だ。お前が使う事を前提にしているし、白菊もそれを踏まえて再セッティングが終わっていた。」
「そうですか…。一夏君が…。」
「舞桜も、再調整が終わっている。また、性能が向上したよ。既に一夏を相手に模擬戦をするのは、相当に骨が折れるのでな…。モンドグロッソの決勝トーナメントの準決勝戦レベルを超えて、難儀していた。正直助かる。みっちり鍛えてやるさ。」
『ありがとう…。一夏君…。万が一の時は、私が駆けつけて貴方の為にだけ全力で戦うわ…。』
 胸の中に生じた暖かい気持ちを大事に思いながら、真耶はそう誓った。
 教師が生徒に恋をするのは、本来言語道断。
 表にする事は、決してできない。
 だからこそ、自分の愛機である白菊を第四世代ISに生まれ変わらせ、性能向上の為の改修や調整を行ってくれるだけで、真耶の心の中は、嬉しさと暖かさで満たされる。
 今は、それで十分だった。
「それから、学園の武装教官たちに委員会から要請が来た。専用機持ちを始めとする学園の生徒に危害が及んだら、対象は躊躇わず射殺して欲しいとの事だ。私は煩わしいので、手早く片付けるだけだがな。第一、弾が勿体ない。更識家の方では、裏のルールで情報を引き出していると聞いた。専門業者が大忙しだそうだ。」
 裏のルール。
 専門業者が多忙。
 普通ならば、意味が解らない会話だが、千冬も真耶も理解していた。
「一夏には見せんように手を打っている。が、遅かれ早かれ気づくだろうな。その時は、私が対応する。今までが、少し甘すぎたようだ。」

 その頃、月山邸では高芳が帰郷していた
「そうか。冬菊さんがね…。」
「ええ。今頃何をしているか想像がつくけれど、複雑だわ。」
 一夏たちの事を話題に、冬菊が作ってきた和菓子を食べながら麦茶を飲んでいた。

「僕はさ…。例え、一夏がそうなっても責める気には、まるでなれないよ…。今までの一夏が、色んなことを堪えすぎていたんだから…。初めて会った時、よくできた子だなと思った。凄く礼儀正しいし、しっかりしていたし…。けど、少しして、あまりに良く出来過ぎていると思って、気になったんだ…。身の上話を聞いて納得したよ。あれじゃあね…。」
 明王流の門下生になる事が決まって、高芳に挨拶をしに来た際の一夏は、年齢以上に礼儀作法に則った挨拶をして、言葉遣いも非常にしっかりしていた。
 そこに、年相応の子供らしさは、ほとんど感じられなかった。
 説明できない危惧のような物を感じて、一夏に家族の事を聞いた高芳は得心した。
 子供らしさがないという表現は間違いで、子供らしくできなかったのである。
 僅か六歳という年端もいかない子供の時に、姉の千冬と共に両親に捨てられた一夏。
 その時の千冬も、まだ十四歳。
 親に甘えたり、時には喧嘩をしたりするコミュニケーションと親の庇護が必要な年頃である。
 にも拘らず、千冬は十四歳で家族の大黒柱となり、働いて学校にも通い、それに加えて、たった一人の弟である一夏の姉と親の二人分の役割をこなさなければならない。
 一夏は、家の中の仕事として、食事の支度、片付け、風呂洗いに支度は最低限やらなければならなかった。
 一夏自身、朝から学校と仕事で疲れている千冬に家事をさせたくなかったので、家の事は全てやっていた。
 そんな状態で、年相応に「子供らしく」いられただろうか?
 答えはNOである。
 ある日突然に両親に捨てられて、二人きりの家族として助け合い。
 加えて、二人共互いをとても大事に思っていた。
 千冬は、せめて習い事の一つもさせたいと思い、篠ノ之神社の道場に通う費用を捻出。
 一夏は、千冬に恥をかかせまいと勉強で手を抜くことは無く、常にテストは100点で運動でも上の学年にも勝つことは珍しくなかった。
 毎日の食事でも、栄養に関する本を読み漁り自作のノートに書き留めて、レシピも作り、出来るだけ多くの食材を使ってバランスの取れた、目でも楽しめる色彩鮮やかな弁当や食事を作ろうと一生懸命で、気が付いたら管理栄養士クラスの知識を持ち合わせていた。
 篠ノ之流の道場でも、同学年で一夏の右に出る子供は道場の師範である篠ノ之柳韻の娘である箒を含めても一人もいなかった。
 千冬に恥をかかせる事。
 それは、一夏にとって絶対の禁忌であった。
 千冬にとっても、一夏の為に出来る限りのことをするのは当然の義務だった。
 互いを大切に思うが故に、不要な義務を課してしまう二人は年相応という言葉とは無縁の日々を過ごしていた。
 周囲は明らかにまずいと思っていたが、どう言えばわからずに時間だけが過ぎ、誘拐事件が起きる。

 退院してから明王流に入門したが、一夏の瞳に何か不穏な物を感じて仕方が無かった。
 それからの一夏は、ひたすらに強さを求め道場での稽古以外でも自分をどこまでも追いつめてそこから這い上がり、再び追いつめる。
 この繰り返しだった。
 それを案じた、師である月山竜芳は様々な教養を一夏に身に着けさせた。
 その後、世界でただ一人ISを動かせる男性として、事前に習志野で訓練を受けた一夏は、今まで培ってきたものを最大限に活かして、特殊部隊でも十分任務につけるまでに成長した。

 しかし、一夏の「世界でただ一人ISを動かせる男性。」という状況故に、機密だらけであり、亡国企業関連の事も積み重なり、一夏は「年相応の自分」を心の奥深くに埋めてしまった。
 それからという物、あまりに色々な事がありすぎ、ポーランドでは生死の境で死に近づき続ける状態となったが、医師団の努力で死への世界の入り口から奇跡的に戻って回復。
 だが、休む間もなく多忙な日々が続いた。
 ポーランドに馳せ参じた高芳は、一夏の兄弟子として鍛え抜いた剣術で一夏を狙う兵士達を叩きのめした。
 その間眠っていた一夏は、以前にプロポーズされた冬菊に眠ったまま抱きかかえられ母乳を授乳させられていた。
 その時が。
 一夏が、眠りの世界にいる時だけが、僅かに年相応の面を見せているのかもしれない。
 特に、冬菊に抱きしめられている時だけが…。
 ならば、このまま冬菊と結ばれるのがいいのではないか?
 高芳は、そう考えていた。
 そう考えていると、呼び鈴がなる。

「シャルロットさん…。」
 来るとは聞いていなかったので、高芳はしばしの間目を丸くする。
「突然お邪魔して、すいません…。一夏が去年に続いて舞を引き受けると聞いて…。」
「あ。なるほど…。そういうこと…。」
 その時、高芳はまずい事に気づいた

『これ…、和服用の履物…。静音さんのじゃない…。』
 シャルロットの頭の中で、一つの予想が出た。
『まさか…。』

「すみません。上がらせていただきます。」
 いてもたってもいられず、シャルロットは家に上がった。

「Good night, Canary…
Good night, Canary…
Good bye,Canary

Wave at me, smile for me now

Good night, Canary
You’ve been hard day,you should sleep
Starlight in the sky, singing to you lullaby
Cherish your dream

Shall we come to tomorrow
Don’t cry anymore
I hold you through the night

Smile, smile, Canary

Take your time,enjoy your life
Starlight in the sky, singing to you lullaby
Cherish your dream
Shall we come to tomorrow

Good night, Canary
I hold you through the night
Don’t cry anymore
You’re my sweet dream

Darling...
(お寝すみなさい。
お寝すみなさい。
 
さようなら。
あなたの笑顔が、波の様に私の元へ来ます。
大変な日でしたね。ゆっくり休んでください。
空に光る星が、あなたへの子守歌を歌っているわ。
あなたの夢が大事にされる明日が、来ますように。

泣かないでください。
夜の間、私があなたを抱きしめているから。

笑顔でいて下さい。
あなたの時間をゆったりと楽しんで過ごしてください。
空に光る星が、あなたへの子守歌を歌っているわ。
あなたの夢が大事にされる明日が、来ますように。

お寝すみなさい。
夜の間、私があなたを抱きしめているから。
泣かないでください。
良い夢を、みられますように。
私の愛しい人。)

 安らいだ表情で赤ん坊の様に母乳を飲む一夏の頭を優しく撫でながら、子守唄を歌うように歌いつつ、冬菊は優しく、精一杯の愛情をこめて抱きしめている。
『一夏さんのお顔。とっても可愛らしい…。』
 安らいでいる一夏の普段とは違う愛らしい寝顔を見ると、冬菊はさらに一夏が愛おしくなる。
 同時に、一夏が特別でも何でもない、そこらにいるごく普通の年頃の少年である事を改めて理解する。
『今は…。いいえ…。一夏さんがお望みなら…、生涯、私がお傍にいますから…。どんなことがあっても、お傍にいますから…。今は、休むことだけをお考えになってください…。』
 眠っている一夏にそう語りかけながら、冬菊は一夏の額にキスをして頭を撫でていた。

 そうしていると、襖がいきなり開けられる。
「誰かと思えば、シャルロットさんですか。せっかく、一夏さんがゆっくり眠っていらっしゃるのに、騒々しくするのはおやめいただけませんか?」
 殊更慌てもせずに、冬菊はシャルロットを窘める。
 そして、何も無かったように、一夏の頭を撫で続けていた。

「一夏…。それに…。」
 顔色が真っ青になったシャルロットは両手を口に当て、呆然としていた。
 目の前には、布団と周囲に散らばっている服や下着。
 そして、眠っている一夏を優しく抱きしめ、母乳を飲ませている冬菊の姿があった。
 フロントホックの繊細なレースがあしらわれた高級だと解る白のブラジャーの近くには、複数枚重ねた乳洩れパッドがあった。
「お話があるのでしたら、後にしていただけませんか?一夏さんが起きてしまわれるので。」
 一夏の髪を優しく撫でながら、シャルロットを見ようともせずに冬菊は話しかけた。
 今の冬菊にとっては、自分の腕の中で母乳を飲んでいる一夏の傍にいる事の方がずっと大事だったからだ。

「どうして…。二人が…。そんな…、事に…。」
 真っ青な表情がさらに青くなって、シャルロットは呟く。
「少しお待ちいただけますか…?どこか部屋をお借りしましょう。」
 少し待っていてくださいね。
 と、一夏に語りかけてから、布団から出て襖を閉めると身なりを整え始める。
「それでは、行きましょうか…。」

 冬菊が話を纏めて少ししてから、静音と高芳は麦茶を飲んで羊羹を食べ終えた。
「いいの?母さん。確実に一荒れするよ。」
 シャルロットが来た時に嫌な予感がした高芳は、シャルロットには申し訳ないがどこかホテルなりを取ってもらうのがいいと判断していた。
 二人の想いは理解している。
 が、一夏に何らかの悪影響を与えるような気もしていたので、事を荒立てる様な事は避けたかったのである。
「二人共、一夏さんを愛しているわ。遅かれ早かれこうなるわ。それに私はどちらか片方にだけ肩入れする気はないのよ。公平に一夏さんを手に入れる為にアプローチする権利を持ち合せている。そういうことよ。高芳。」
 静音は当たり前の様に麦茶を飲んで、水羊羹を一口食べた。

「では、お話を伺わせていただきます。前もって申し上げておきますが、私は楯無さんとファイルス中尉以外の方からは、何も伺う気にはなれませんので、そのおつもりで…。では、どうぞ…。」
 険しい表情のシャルロットとは違って、冬菊は至って冷静だった。
 いや。むしろ冷淡と言ってもよかった。
「じゃあ。聞くよ。一夏と何をしていたの?」
「同じ布団に、男性と女性。それ以上に説明が必要でしょうか?尤も、私と一夏さんの場合、些か変わってはいますが…。」
 そう言って、麦茶を一口飲む。
 振る舞いの一つ一つに余裕がある。
 それが、シャルロットの表情を険しくさせる。
「無理やりじゃないよね…?だったら、僕はあなたを赦さない…!」
 一夏に限ってそれは無いとシャルロットは考えているが、念を押す必要があったのと、冬菊の余裕に対する苛立ちをぶつけたいという無意識の欲求が生まれて念を押した。
「一夏さんがどのような方か御存知ならば、そのような愚問をなさらないと思いますが敢えてお答えします。そのような問いは、一夏さんに対するこれ以上ない侮辱。そうは思われませんか?」
「そうだね。でも、人様の家で昼日中にああなっていたらとても尋常ではいられない。そう思わないかな?」
 百歩譲っても、自分か一夏の家。
 そして、他に人がいない時間。
 尤も、双方、少なからず使用人がいるので人がいない時間は無理だろう。
 それでも、相応に考えるべきではと、シャルロットは問いを含ませた。

「承知しています。念の為に、お話を通しての事。それも、一夏さんの亡きお師匠様の家。そして、ポーランドでの事を御存じの高芳さんの御母上がいらっしゃらなければ、こうはならなかったでしょう。何より…。」
「何より…、何…?」
 何か問いを含んでいる気がしたが、それが解らなかったのでシャルロットはやや苛立ちげな口調で問う。
「お答えする前に、一つお聞きしたいことがあります。一夏さんは、シャルロットさん達IS学園の方々。特に専用機持ちの方々から見て、どのような方ですか?」

『いきなり、何のつもり?会って、一年も経っていないあなたに、一夏の何が見えてるっていうの…!』
 さらにシャルロットは苛立った。
 デュノア社社長である遺伝子学上の父からスパイとして送り込まれて、ルームメイトとして共に暮らし、諜報活動を続けながら一夏を見てきた。
 これ以上なく優しく、誠実で真っ直ぐな少年。
 覇気や上昇志向はあるが、世俗の物とは全く別物で清廉潔白な性格。
 長い間積み重ねてきた武術にさらに磨きをかけて、刀一本で学園最強となった実力者。
 自分の相棒であるISノブレスイリュジオンを開発した時は、勝手に愛人を作り、産まれたシャルロットを娘とは見ずにただ道具として扱った事を知りシャルロットが驚くほど憤り、激怒し、シャルロットを救う為にイリュジオンのデータでフランス政府と取引。
 シャルロットの性別を偽っての諜報活動については不問とし、新しい戸籍を与える事を受諾させる事と引き換えに突貫工事で完成させた。
 それまでのシャルロットの専用機、ラファールリヴァイブMk.Ⅱと機体特性が似た高機動性と汎用性を特徴とした機体だが、性能は格段に上で、各所に新技術をふんだんに投入しつつも、後の改修を考慮して拡張性も十分に持たせたISである。
 イギリスが実用化したBT兵器は、特殊兵装である補助制御機構「デュー・コネサンス」によって、パイロットの負担が格段に減った事で、世界で初めて高機動戦闘を行いながら自在に運用が可能な兵装となる。
 デュー・コネサンスの大きな特徴として、その他の様々なオプションを限界まで搭載しても、制御系はハード、ソフト含めて何の問題も生じない、破格の演算機能を有している。
 このISは、第三世代IS開発で概要すら固まっていないフランスにとっては、宝石の山よりも貴重な資料であり、垂涎とも言える技術や各種アーキテクチャーの塊であった。
 この機体を出発点として、今のフランスのIS開発技術がある。
 そして、BT技術を発展させて従来では考えられない運用面での柔軟性と、極めて高い処理速度、並列処理キャパシティの大きさによって実現したマルチタスクによるマルチロックオンシステムが問題になっていた、日本最大のIS開発メーカーである倉持技研の最新鋭ISにして簪の専用機である打鉄弐式。
 新たに専用機持ちになった玲子の専用機にして、箒の専用機である第四世代ISの特徴である装備。マルチロールデバイス「展開装甲」の簡易版である戦衣を装備しつつ、射撃戦、近接戦双方でバランスの取れた性能を有した高性能多目的対応型IS巴御前を開発。
 セシリアと鈴の専用機である、ブルーティアーズと甲龍も改修され性能が向上。
 上級生でやはり学園の専用機持ちである、前生徒会長である楯無のミステリアスレイディ、二年生でもう一人の専用機持ちであるフォルテ・サファイアのコールドブラッド、三年生唯一の専用機持ちダリル・ケイシーのヘルハウンドも改修を行い、さらに性能が向上。
 特に、コールドブラッドとヘルハウンドは第二世代にも拘らず、特殊兵装が無い点を除けば弱点である燃費の悪さを抱えつつも基本性能が向上し続けている第三世代とも十分に戦える性能を持ち合せていた。
 そして、専用機持ちとしても毎日の過酷な訓練で、技量を高め続け、IS学園の守りの要であり、ポーランドを襲った亡国企業の大軍を僅かな部隊を率いつつ自ら最前線に立って、最後は命の最後の一滴までも振り絞って撃退した猛将であり、義に篤く仁を尊ぶ武人でもある。
 さらに、様々なIS、医療器具、軍隊の通常兵器等を開発していったが、どれもハイスペックな物ばかりで、南米に至っては骨董品ばかりだったのを、コストを考慮しつつ、性能を可能な限り高くして開発。
 軍のハイテク化が一気に進み、アメリカに依存せずに済むようになり、自国は自国で守るという主権国家のあるべき姿を取り戻し、同時にマフィアや犯罪組織を一掃する作戦を、貧困地域の生活環境改善及び経済格差の解消を目指したミレニアムプロジェクトとリンクさせて実行。
 治安を大幅に向上させるなど、ISパイロットや一人の兵士、技術者だけでなく政治家としての外交手腕、優れた政治的センス等を示し、自ら各国とパイプを作り上げて、今なお、国際政治の場において様々な分野で活躍している。
 そして、訓練時代から培ってきた医学の知識をより高めて、医師免許を取得。
 多くの患者を救い、今や評判は世界中に広まり各国に赴いては、匙を投げられた多くの患者を救っている。
 不可能を人の何倍もの不屈の意志と努力で可能にしている努力家にして、天性の才能を磨く事を劣らなかった結果、文字通り一騎当千の驍勇を誇る武人として、各国の軍からも軍人の鏡として慕われている。

 普段の一夏は様々な趣味を持ちつつも、後輩に慕われ、上級生に可愛がられているごく普通の学生で絶世の美少年だが、共に戦い続けて来て一夏の戦いぶりを目の当たりにしている為に、一夏は英雄譚や神話に出てくる戦の神か勇者の様に映る。
 そして、イリュジオンの事もあり、シャルロットにはもう一つ別の面での見方もある。

「凄い人だよ…。努力家は何人も見てきたけど、一夏ほどの人は初めて見たかな。領地と城を持つ貴族に叙せられたのも解る。時代が時代なら、一夏は一国の王様になっていたと思うよ。普段でも、凄く魅力的な男の子だね。だから、僕は一夏が欲しい。結婚して本当の家族になりたい…。」
 話し続けていると、冬菊はうんざりしたような表情で深い溜息をつく。

「他の人もほとんど同じなのでしょうね…。これでは、一夏さんが御可哀想…。」
 うんざりしたように冬菊は溜息をつき、麦茶を一口飲む。
「これで終わりにしましょう。あなたたちとは、いくら話そうと徒労でしかありません。そして…。」
 鋭い針のような視線で、冬菊はシャルロットを見る。
「あなたたちに、一夏さんは渡せません。例え、何があっても…。」
 そう言って、もう終わりと態度で示して立とうとする。

後書き
初めての中編です。
この話は今までで一番のページ数になりました。
月山邸に来たのは一夏たちだけではありませんでした。
シャルロットも訪ねてきました。
ですが、最悪のタイミング。
肌を重ねあっている一夏と冬菊をシャルロットは見る羽目に。
そしてその後は、冬菊とシャルロットが対峙することになります。
しかしながら、その様子は今までとは違います。
シャルロット達学園の専用機持ちから見て、一夏はどう見えるか?
その返答に冬菊は激怒。
一夏は渡さないという宣戦布告をします。
その理由は何か?
そのあたりと冬菊の想いは?
明日にアップ予定です。




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後編へ続く。

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