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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第163話 文月の白梅香る寝所にて肌け伝う愛し心<後篇>

<<   作成日時 : 2015/09/06 03:00   >>

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『よかった。喜んでいただけて。』
 野点に招待すると決めた日から、着物を作る傍ら、当日の昼食の献立を考えていたが、自らも料理の腕はかなりの物で会食や会合等であちこちの一流店で食事をしている一夏を満足させられるかは、中々自信が持てなかった。
 今日は、下処理をした後に調理について厨房担当と何度も打合せをしていたのが功を奏し、一夏は満足そうに料理を楽しんでいる。
 その一夏の姿に、将来夫婦になって、仕事から帰ってきた一夏と生まれてきた子供達と食卓を囲んでいる風景を重ねる。
『そうなれば、どんなにいいかしら…。』
 料理を口にしながら、冬菊はそう考えていた。
 誰が一夏を幸せにするか?
 それは、一夏を含めて誰にも解らない難題だ。
 一夏の幸せを心から望んでいる冬菊だが、同時に一夏と共に互いの幸せをはぐくんでいきたいという願望もある。

「ご馳走様。堪能させてもらったよ。流石に料理上手の冬菊だな。ありがとう。」
 デザートの水菓子にも満足して食べ終えた俺は、冬菊に礼を言う。
 さすがは冬菊。
 一流料亭真っ青の、完成度の高い見た目も美しい料理だったな。
「いえ。喜んで戴けて何よりです。では、ここで…。」
 うん?和琴?
「私の演奏、お楽しみいただければ幸いです。」
 演奏の時に使う琴軋という撥の一種を付けて、曲を奏で始める。
 これは…。
 千鳥の曲。
 主に寛政年間に活動した、吉沢検校が作曲した曲だ。
 江戸時代になって、急速に発展したのが三味線だった。
 武家にも庶民にも、広まっていったからな。
 そして、発展も行き詰った。
 一方、三味線に寄り添うような感じで発展していったのが和琴だった。
 天保年間に、京都の盲人音楽家光崎検校は、和琴の作曲の余地を見出して様々な事を試し、そして和琴は三味線から離れて独自の発展を始める。
 その中で、幾つもの曲が作られた。
 千鳥の曲も、その一つだ。
 多くの、何種類もの取りに囲まれてとても穏やかな雰囲気を感じさせる。
 そんな、美しい音色だった。

「お見事。和琴もやるのか。」
「ありがとうございます。」
『一夏さんが、喜んでくださった…。』
 和琴は、様々な習い事と共に人気があり、冬菊も習う事になる。
 母が才能豊かな人であり、その血を冬菊も受け継いだのか腕は見事であった。

「では、返礼に一曲。」
 人前で弾くのは、本当に久しぶりだな…。
 千冬姉の前では、よく弾くんだが。
 やがて、一夏が和琴を奏で始めるが、最初、冬菊は曲名が解らなかった。
『どこかで聞いたような旋律…。これは…、蘭陵王…!和琴用にアレンジしたの…!?』
 蘭陵王。
 本名は高長恭という、6世紀に存在した北斉の皇族でその美しさを隠すために仮面をかぶり戦場で戦った名将としても知られる。
 中国ではドラマにもなり、日本には8世紀当時林邑(ベトナム)の僧仏哲によって日本に持ち込まれたとされる。
 元々の曲はシンプルだったが、日本で様変わりして使用される楽器が大幅に増えた。
 しかし、曲目ごとに当然パートが違う。
 が、一夏は、全体の流れをそのまま和琴の曲として、アレンジして弾いている。
 これには、冬菊も驚いた。
『凄く素敵…。』
 驚きながらもうっとりとして、演奏を聞き続けている内に、終わる。

「どうだったかな?」
「とても、素敵な演奏でした。一夏さん。編曲もできるのですか?」
「ああ。まあな。楽器は色々と習ったから。それでじゃないのか。蘭陵王は雅楽でも好きな物だし、だったら最初から最後まで弾いてみたくなってな。」
 少し恥ずかしげに一夏は笑うが、簡単に出来るものではない。
 少なくとも、作曲家レベルでなければとても不可能だろう。
『そうよね。何にでも全力で取り組む一夏さんなら。こういう事が出来てもおかしくないわよね。』
 傍らで優しく笑う一夏を、冬菊は見る。

 しばらく色々と話し込んでいると、空の色が変わる。
 そろそろ帰るか。
「じゃあ。そろそろお暇するよ。今日はありがとうな。じゃあ。」
 そう言って、一夏は迎えの車を呼ぼうとする。

「待って!!待ってください!」
 冬菊が俺の腕に自分の腕を絡めて、行かせまいとする。
 何だ?

「あ、あの…、その…。」
「うん?何だ。」
 一夏は、一転して何か必死に言いたげな冬菊を見る。
「夕食ですが、一夏さんの分も用意しております…。姉君様には、今日はこちらで泊まっていただくと既に…。勝手とは思いますが…。今日は、我が家で。病院の勤務もお休みと聞きましたし…。ごゆるりとなさってください…。」

 は?何でそうなる。
 というか、千冬姉OKしたのか?
 とは言っても、必死に腕を掴んでいる感じの冬菊を見ると、帰れそうもない。
 何をしてでも、家に泊まらせるつもりだな。
 今まで感じた事のない、強引さを感じる。
 振り切る事も出来るが、それはそれで危険そうだな。
 まあ、何もなければいいだけか。
「じゃあ。お言葉に甘えて。」
「はい。」
 嬉しそうに言うと、女中さんを呼ぶ。
「片付けと夕餉の支度。お風呂と一夏さんのお部屋の準備を。」
「はい。直ちに。」

 千冬と真耶の、行きつけのバー。
 連絡を受けた千冬は、やや険しげな表情で考え込んでいた。
「神無月さんからですか…?」
「ああ。今晩、一夏は泊まっていくと一方的に言って、電話を切った。ひょっとすると、ひょっとするかもしれん。ただ…。」
「ただ…?」
 さらに考え込んだ千冬の表情を、真耶は見る。
「その方が良いかもしれんと、時々思う。真耶。一夏の剣をどう見る?」
「一夏君の剣ですか?そうですね。どこまでも、愚直で、真っ直ぐで。守る物の為に磨き続けられている剣。そう見ますけど。」
 「やはりそう見るか。」と言って、千冬は黒ビールを飲む。
「私は別の見方をしている。誘拐後、月山さんの門弟になってからの一夏はどこまでも自分を追い込んで、文字通り千尋の谷底から這いあがって強くなっていた。習志野の訓練でも、格闘術やナイフはともかく射撃やその他の分野。特に軍用車両に攻撃ヘリを含む各種ヘリコプターや、バイクでの偵察でも特殊部隊クラスになる。実はありえないんだよ。それで、私が出した結論はな…。かなり危険だ…。」
 残りの黒ビールを、千冬は一気に飲み干す。
「自分より強い者と戦う時の為だけに、ひたすら鍛え続けられた剣。そして…。」
「そして…。」
 やや寒気を感じた真耶が、先を促す。
「ただ1人で、勝利する剣。これが私の結論だ。今までも加勢があったとはいえ一番荷の重い役目は一夏が背負っている。それからもずっとそうだ。ポーランドは特にな。だがこんな事を続けていれば…。」
「そう…ですね…。」
 その果てに待つ物を理解して、2人は口をつぐむ。
 そして、千冬が頼んだのが、辛口のバーボンとビールを同じ割合にしたアメリカのカクテル、「ブロイラーメーカー」だった。
 爆弾酒とも呼ばれるほど、強いカクテルとして知られる。
「やり方は強引かもしれんが、一夏をその気に…。恋人を持ち、自分の心の奥底までも委ねられるのなら、それでもいいと思いもする。小娘どもは、その辺りでは一歩も踏み出せていない。あれでは、一夏はどんどん自分を追い詰める。あいつが自分より強い者との戦いだけに剣を鍛えるのは、誰にも頼らずに勝利を収めるためだ。あの誘拐の事があって以来、どこか誰かに頼る事に酷い罪悪感を持っている。そんな気がしてならん。そして、誰かに頼らざるを得ない自分を激しく憎悪し、心を引き裂き続け、傷口を煉獄の炎で炙っている。そう思えて、仕方がないんだ…。もし、それを変えられるのなら、それでも…。」
 真耶は空になったカクテルグラスを見つめながら、考えていた。
『それが赦されるなら、私だってするわ。その上で、一夏君を守りたい…。』
 白菊の待機形態を、手に取って見つめる。
『一夏君…。私は、あなたの為に何が出来るの…?できることは、何だってするのよ…。だから、望む事を言って…。』

 俺は、亡国企業の本拠地を見つけることについて考えながら、殲滅時の戦力編成を考えていた。
 道は特殊なバンカーバスターの類で埋めて使用不能にして、戦力を封じ込める。
 その上で、空中、水上の全艦隊を投入。
 IS部隊双方の艦隊に、グリフォン隊や水中戦闘用無人兵器は潜水艦部隊に既に配備しているけど、水上艦隊に配備する分の増産も考慮するか。
 オートクチュールの設計も、進めておこう。
 拠点殲滅の無人兵器は、あまり作りたくはないけど案自体はあるんだよな…。
 そもそも、響き自体が嫌だね。
 拠点攻略型にしても、変わらないしな…。
 何かいい呼称は、ないもんかな…。

 にしてもだ、何でまた冬菊が一緒に入ってくる?
 ここ、絶対おかしいぞ。
 嫁入り前の大事な娘が、他の男と一緒に風呂に入るのを許すか?普通。
 まあ…。プロポーズはされているが、俺といても碌な事にならないからって、断っているんだぞ。
 すぐに、それを断られたが…。
 で、それを忘れるべく、こうして亡国企業対策をしているわけだ。
 情けないけどな…。

「一夏さん。お風呂なのですから、心も体もほぐしてください。」
 そう言って冬菊は、体をより密着させる。
 ほっそりとしているが、プロポーションはいい。
 肌は真っ白で触れた感触は、極上の絹みたいだ。
 胸は凄く柔らかくて、伝わってくる心臓の鼓動がとても心を落ち着かせる。
 いつしか、俺はファンタジー小説の魅惑の魔法にでもかかったかの様に冬菊に魅入られていた。
 よくは解らないが、今日の冬菊はいつもと違う。
 それは確かだ。
「使える時間は、入浴時でも使わないと。色々あってな。」
 その後背中を互いに流し合って、俺はもう少し今後の戦略・戦術を練っていた。

『増々おかしい…。布地が薄い麻なのは夏だから、理解できる。けど、白?この時代に?昔の公家や武家ではないだろうに…。少し、時代錯誤な気がする…。前は、違っていた。』
 去年の湯殿山の山籠もり、今年の新年の取引企業の重役を招待しての挨拶。
 双方共に、冬菊は一夏と寝床を共にしたが、このような寝間着ではなかった。
 それを考えると、一夏は時代錯誤な感じだけでなく、違和感も感じる。
 自分を寝室に案内する女中は、何一つ言おうとしない。
『この雰囲気もまた、気にかかる…。何だ…?』
「こちらです。それでは、ごゆっくりとお寝すみくださいませ。」
「会長には、くれぐれも良しなにとお伝えください。」
 経過はどうあれ宿泊する以上、礼を言うのが筋なので一夏は伝える様頼む。
 本来なら、直接会いたいのだが用があるので無理と言われたので、やむをえなかった。
「畏まりました。」
『とりあえず、寝るか。頭を使わなければならないのは、山ほどあるし。とにかく休まないと。』
 そう思いながら、一夏は襖を開ける。
『そういうことか。』
 寝室には、二つの枕を並べた布団と、一夏と同様に麻の薄い布地で作られた白い寝間着を着て、髪を下ろした冬菊が三つ指をついて一夏を迎えた。
 その瞬間、一夏は全てを悟った。
 何故、冬菊が野点に誘ったのか。
 何故、宿泊する様にお膳立てをしたのか。

「成程…。始めからこのつもりだったのか…。」
 妙に感情の無い言葉が、俺の口から出た。
「私を軽蔑なさいますか…?」
 冬菊の手が、若干震えてる。
 表情も、不安に満ちてるんだろう。
 別に軽蔑するつもりはない。
 けど、伝えることは伝えておかないとな。
 俺はしゃがんで冬菊の手を取り、顔を上げる様に促した。
「軽蔑はしないさ。俺の責任と言ってもいい…。断ったのなら、プライベートでは会わないようにすべきだった…。私的な交流も断つべきだった。箒たちは、さすがにそうはいかないから、時間をかけて友人同士の関係に戻らないといけないけどな…。済まない…。」
 そうだ…。
 俺の中途半端な態度が、冬菊をこんなに追い込んだんだ…。
 女の子にこういう決意をさせてしまう事がどういう事かは、ナタルとの事で解っていたはずなのに…。

「明日、お暇してからはもう会わないようにしよう。それが冬菊の為でもある。」
 そう…。
 それがいい。
 仕事の時とかは、仕方ないけどな…。
 それももう、ないだろう…。

「駄目です!!」
 冬菊が倒れ込んできて、俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
 この後何があるかは、俺だってすぐに解る。
 すぐに歯を閉じて、歯茎に力を入れる。
 そうしていると、首筋から何かの匂いが漂ってくる…。
 艶があるけど、どこか優しい…。
 これ、白梅香か…。
 それだけじゃない…。
 部屋全体に、何か…。
 艶っぽいというか、そんな匂いがする。
 何かを考えていると、次第に体の力が抜けてくる…。
 それを感じたのか、冬菊の舌が俺の口の中に入ってきた。
 不器用だけど、必死に何かを掴んで離さないという気持ち。
 それが伝わってきた。
 そして、いつの間にか互いの体勢が入れ替わっていた。

「離しません。決めたんです。一夏さんが私以外の誰かを選ばない限り、決して離さないと…。」
 俺の右手を取った冬菊は、そっと胸元に俺の手を運んで襟を肌蹴させる。
 肌蹴た寝間着の下から、一目で高級だと解るフロントホックの白いレースのブラジャーが見えた。
 体に力が入らない…。
 というより、体がまるで求めているようだ…。
 催淫剤でも口にしたか…?
 そうか…!
 話にだけ、聞いたことがある。
 インドの性に関する書物、カーマスートラ。
 アロマテラピーに似た方法で、催淫というか誘惑するような香りを作る方法が書かれていると。
 けど、俺がそんなのに負けるのか…?
 そんなことある訳がない…!
 まさか…、望んでいるのか…?
 俺は精神を統一して、平常な状態にする。
「下着を着けようかどうか迷いました。でも…、最後はやはり一夏さんにと思って、そして、一夏さんが以前に不思議に思って解らなかった事を、お教えしようと思いました。取ってください。」
 そう言われて、「はい解りました。」とはできない。
 けど、ずっとこのままでいる気だろうと悟った俺は、フロントホックを外した。
 そして、今まで何度も見た特別大きくはないけれど形が良くて見るからに柔らかそうな冬菊の胸が見えた。
 すると。冬菊はそっと俺の口に乳首を含ませる。
「そのまま吸ってください。少し強めに。」
 何故か解らないけれど、俺はこの先どうなるかを知っている気がして無意識にそして夢中になって吸っていた。
 すると、ある味が広がった。
 ポーランドの国境で、亡国企業の大部隊を迎撃した俺が瀕死の状態になって黄泉平坂に落ちるほんのわずか前に息を吹き返して、カモミールティーを飲む前に感じた不思議な味…。
 乳首から口を話した俺が冬菊の顔を見ると、恥ずかしそうな表情で頷く。
「あの時、免疫機能が落ちたままの一夏さんの為に何かできることはないかと思いまして、先生に聞いたのです。そうしたら、効果があると聞きまして…。起きていらっしゃる時では、恥ずかしがられて無理だと思いまして、お寝すみになっていらっしゃる時に…。上手くいくか自信がありませんでしたが、上手くいきました…。」
 そうか、そうだったのか…。
 俺は…、また…。

「ごめん…。本当にごめん…。」
 これ以上なく悲しそうに、辛そうな表情で大粒の涙を流しながら一夏は冬菊に謝罪する。
「一夏さん…。」
 予想外の事態に、冬菊は驚きを隠せなかった。
「知らない内に、俺、冬菊に凄く頼ってたんだな…。知らなかった…。知らなかったよ…。」
 涙を流し続ける一夏をとにかく抱きしめながら、冬菊は何故一夏が涙を流しながら謝罪しているのか理解できなかった。
「ポーランドの戦い…。俺は何があろうと、俺の後ろにいる人たちを守ろうと全身全霊の力を出して戦った…。どうにか、守り切れた…。けど…、沢山の人達の力を借りてやっとだ…。そして、戦いが終わった後は死んでもおかしくない状態…。それが俺の限界だった…。」
 一夏が顔を上げた時、一夏の表情は、悔しさ、悲しさ、辛さが混じりあった言葉で表現できない物だった…。
「何で…。何で…。こうなんだろうな…。千冬姉や色んな人に頼って…。勧められたからってのもあったけど。剣術を学んで、せめて自分の身くらい守れる強さを…。いつか、それ以上の強さを手に入れたくて、一生懸命頑張って…。でも、誘拐されて…。散々千冬姉を心配させて…。それからも、何かと誰かに頼って…、頼り続けて…。ようやく、そうならないようになるチャンスが来た。習志野で教えられることは全部物にできるように…、俺…、毎日…、死にもの狂いで頑張ったよ…。その甲斐あって、誰かが理不尽な暴力にさらされた時に、守れる強さも身に着けられた…。誘拐された時の俺みたいな人が、少しでも減らせるような強さを…。学園に入学してからも、毎日頑張った…。でも…、結局は…、周囲に散々頼ってる…。そして、極めつけがポーランドだ…。何で…、何でなんだろうな…。いつから、頼る人間から頼る必要のない人間になれるんだろな…。医師としてもそうだ…。出来る限り多くの人を助けたくても…、どうしても助けられない人が出てしまう…。いろんな仕事をしていて…、割ける時間が少ないのなら、その時間を何倍にも活かす努力をしてるつもりなのに…。それなりに成果も出ているのに…。何で…。それなりなんだろうな…。教えてくれないか…?俺…、こんなだから…。それなりでしかないから…。解らないんだ…。頼るのは、守られるのは、辛いし、悔しいし、悲しいよ…。あとどれだけ頑張ればいいんだろうな…?」
 大粒の涙を流しながら、血を吐くような口調で冬菊に問う。
 それを見ながら、冬菊は気づいていた。
 これでも、精一杯堪えているのだと、本当に胸の中にある物を吐きだすとこの程度では済まないのだという事を…。

『ポーランドで一夏さんのうわごとを聞いて、今は違うんだと…。昔より出来ることは多いのだとご自分に言い聞かせていらっしゃるのは知っていたけど、本当は、そんな生やさしい物じゃないのだわ…。今まで姉君様や周囲の方々に守られて、頼っていることをこれ以上なく、辛く、悔しく、悲しく思われて、それにずっと耐えていらっしゃって、そこから抜け出すために、昔から死にもの狂いで、頼ることが大きくなると…。その分、辛さも、悔しさも、悲しさも増してしまう…。だから、更に努力を積み重ねられる…。少しでも頼らないようにと、少しでも守られないで済む様にと…。今度はご自分が誰かを守り、頼られる様にと…。でも…、そんな生き方…、只苦しいだけ…。』
 人は生きる限り、誰かに何かに頼り、守られる。
 例えば、法律や司法機関。
 犯罪を取り締まる刑法に、それに基づいて犯罪を摘発し、または未然に防ぎ市民を守る警察。
 冬菊もまた、その中の1人。
 だが、一夏は幼いころの体験から、頼ること、守られることをこれ以上なく辛く、悔しく、悲しく思い、心が傷つく。いや、自分で心を引き裂くパーソナリティーが形成されてしまった。
 それを防ぐ方法。
 頼らないこと。
 守られないこと。
 頼られる様になれること。
 守れるようになれること。
 それらが揃って、初めて一夏の心の傷は癒され、傷つく事も無くなる。
 だが、そんな人間は未だかって、この世にはいなかった。
 支え合い、互いに頼り、助けあうのが人の生き方。
 一夏が理想とする生き方は、まともな生き方とは到底言えない。
 だが、一夏はそれを理想とする己の姿として求めている。
 誰かの恋心に気づかない理由は、さらに深い所に真相があった。
 互いに恋をしたら、その人に自分の心を癒すのを求めてしまう。
 それは、己の理想に反する。
 故に、赦さない。
 誰かと、心を通わせる事を。
 故に認められない。
 こんな人間と、誰かが心を通わす事を
 相手を、傷つけ、悲しませてしまうから…。
 それが、一夏の自分に恋をした女性に対する精一杯の優しさであり愛情なのだから…。

『このままでは、一夏さんはご自分の心を永久に引き裂きながら、生きていかれる…。それではいつか…、一夏さんの御心が…。』
 一夏の心が持たなくなり、嘗て心だった何かの切れ端だらけの物をばら撒きながら、やがて廃人の様になってしまう。
 冬菊は、そう考えた…。
『そんな一夏さんを…。私は見たくない…。考えたくない…。』
 冬菊は一夏への愛情の全てが伝わる様に、優しく、愛おしむように抱きしめる。

「冬菊…。」
 一夏が、母親に抱きしめられた小さな子供のような表情で、冬菊を見る。
「でしたら、私には…、私にだけは頼ってください…。私、精一杯一夏さんの心を抱きしめます。辛さも、苦しさも、悲しさも…、お心の傷も…。」
 それを聞いた一夏は、目を背ける。
「駄目だ…。そんなの赦されない…。それだと、俺は俺が求める守るための強さに辿り着けない…。冬菊も傷つけるし、悲しませる…。駄目だ…。俺なんかを好きになったら駄目なんだよ…。解ってくれ…。」
 一夏は、必死に冬菊に思いとどまらせようとする。
 無意識に一夏は悟っていた。
 一夏が理想とする自分は、まともな人の姿ではないと。
 まともどころか、人ですらないと…。
 そんな自分の傍に、誰かが傍にいてはならない。
 社会的な立場云々を別にして、一夏はそう考えていた。

「構いません…。一夏さんが辛い思いをなさるのなら、私も辛い思いをします。苦しまれるのなら、苦しみます。悲しまれるのなら、悲しみます。傷つかれるのなら、私も傷つきます。一夏さんと離れるくらいなら、私はそれを選びます。私にとって、人を愛するとは、喜びだけでなく、辛さも、苦しさも、悲しみも、傷も共有すること。一夏さんの御心は、傷だらけ…。あまりにお優しすぎて、傷だらけ…。ですから、私が一夏さんを精一杯抱きしめて温もりをお伝えします。ご存知ですか?人の心の苦しみを癒すのに何よりよいのは、人の温もりです。そして、私は一夏さんを精一杯愛します。ですから、私の前では、無理をなさらずありのままでいて下さい。差し当たって、まず、今から…。」
 そう言って、冬菊は一夏の涙をぬぐって、両瞼にキスをして、唇を重ねる。
 唇が離れた時の冬菊の表情から、一夏は冬菊の言いたいことを悟った。
「男性と女性が肌を重ね合うのは、相手に愛おしいという想いを伝える意味もありますわ。少なくとも、私にとっては。ですから少しでも伝わったのなら…。その事で、一夏さんを束縛する気はありませんわ。私をもっと知っていただいて、あなたへの想いを、あなたをどれほど愛しているかを知っていただいて、そして心を通わせる事が出来たれば、おのずとその時は来ますわ。ですから、今は…。」
 少しして、互いに唇を重ねると、衣擦れの音がして一夏の手が冬菊の寝間着の帯をほどいた。
 寝室の中は、白梅香と部屋の中に漂う別の香りに女性独特の優しい香りが、広がる。
 布団には、一夏と冬菊の艶やかな髪が広がり、互いの手を繋いで冬菊の普段からは想像できない艶っぽい声が、寝室の中に演奏の様に響いていた。

 翌朝。
 子供の様にすやすやと眠る一夏の寝顔を、冬菊は髪を撫でながら優しく慈しみに満ちた笑顔で見ていた。
 布団の周囲には、脱ぎ捨てられた寝間着に帯。下着が散乱していた。
 布団には紅い染みと、ピンクの染みがついており、冬菊の太腿にも紅い染みとピンクの染みがついている。
 ふと昨夜の事を思い出す。
 一夏をしっかりと包み込んだ時に感じた、体を引き裂かれるような痛み。
 それは、一夏の心の痛みだったのではないかと。
 錯覚かもしれない。
 だが、それでもいい。
 一夏の心をほんのわずかだが、ようやく知ることが出来たのだから。
 冬菊は、そう考えていた。
『大丈夫です。どんな時でも、私があなたの傍にいます。そして、ずっとあなたを抱きしめ続けます。私以上に、一夏さんを愛して抱きしめる人が出ない限り…。ずっと…。そして…、添い遂げます…。』
 しばらくすると、一夏の瞼が開く。

「おはようございます。一夏さん。湯浴みを済ませてから、朝食を一緒に食べましょう。」
 優しくキスをしてから、冬菊は朝の挨拶をする。

後書き
互いに和琴の演奏を披露したり和やかな雰囲気で時は進み、さてお暇しようかと考えた一夏を冬菊は必死に引き留めます。
千冬に連絡しているので、今日は今まで多忙だったので自分の家でゆっくり休んでほしい。そう言って宿泊するよう求めます。
千冬にも伝えているし、このまま断るのは却って何か危険な感じがした一夏は、申し出を受けることに。
夜、行きつけのバーで、千冬は真耶一夏について、ある懸念を話します。
一夏の剣の性質。
それは、己より強い者と戦うためにのみ備えて、鍛え抜かれてきた剣。
そして、頼る事に対する一夏の罪悪感。
そこに、千冬はある種の危うさを感じていました。
そうならば、一夏がそんな事を考える必要が無くなる相手として冬菊がそうならば、結ばれる方がいいかもしれないと…。
無論、一夏を愛する女性の1人として、真耶は心穏やかではありません。
そして、入浴、寝間着、雰囲気から違和感を抱いた一夏の懸念は的中。
寝室には、枕を二つ並べた布団が敷かれており、髪を下ろし、一夏と同じ麻の白い寝間着を着た冬菊が…。
昔の上級武士や公家ならいざ知らず、今となればこういった寝間着を着る時は…。
愛しい想いをぶつけられ、冬菊から漂ってくる白梅香と部屋の中の淫らさを感じさせなくもない甘い香りに、ペースに載せられていく一夏は、ポーランドでの授乳の事を知ると、一転、悲しく、辛く、苦しい表情で冬菊に謝罪。
命を懸けて戦っても、守りたい人達を守るには多くの人達に頼らなければならない自分に、一夏は嫌気が差していました。
いつになったらそうならずに済むのだろうか。一夏は必死に涙をこらえながら、冬菊に心中を話します。
その一夏を、冬菊は優しく受け止め、抱きしめます。
人とはかけ離れた生き方を目指す一夏に、自分の前ではありのままでいて欲しい。
一夏が感じる苦しみも悲しみも辛さも何もかも共に感じながら、傍にいるからと。
一夏の心を優しく解きほぐしていく中で、2人は一夜を共にします。
朝、子供のように安らかな寝顔を優しく眺める冬菊は、誰かを選ばなければ一夏と添い遂げることを決め想いを再確認。
目覚めた一夏に優しくキスをして、朝の挨拶を。
多忙さもありましたが、壁を作って箒たちと接してきた一夏。
その状態が続いている内に、冬菊は一種の強硬手段に。
これを知った時、箒たちは何を想いどう行動するのでしょうか。
にしても、この手の話は書いていて体がかゆいし、難しい…。








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作者さんへ、ISの次の話を心よりお待ちしています。
後、忙しいのなら無理を為さらずに頑張って下さい。
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2015/11/28 16:53

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