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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第163話 文月の白梅香る寝所にて肌け伝う愛し心<前篇>

<<   作成日時 : 2015/09/06 02:25   >>

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 スウェーデンから帰国して、大阪の脳外科学会での発表を終えた後、急遽人工臓器の研究者の研究発表会に出席し、ようやく寮に帰り人心地ついた一夏を待っていたのは、3年の黛と姉の渚子。それに千冬に摩耶。音楽教師の滝本であった。
 話を聞いて、考える事30分。
 一夏は溜息をついた。
「解りました。お引き受けします。」
 安堵の、空気が流れた。
「但し、条件があります。チケットの代金です。通常とは違う形の支払い方にさせていただきたいのです。」
「どんな支払い方?」
 渚子が訊ねる。

「まず、チケットを買う際はホールの使用料の分を。そして、コンサート終了後、俺の演奏にどれだけの金を払う価値があるのかお客さま方に決めていただきます。この条件は譲れません。」
 プロならともかく、俺はアマチュア。
 趣味で、音楽をやっている人間だ。
 そんな人間のコンサートで、いきなり高いチケット代を設定する事には納得しかねる。
 だから、来て下さったお客様に決めていただく。
 俺の演奏に、どれだけの金を払う価値があるのか。
 中には、興味があってきただけで払う気なんか無かったという人もいるかもしれない。
 でも、本当に力量のある演奏家ならそんな人にさえ、金を払わせる事も出来る筈。
 故に、俺の演奏の価値を決めていただく。

「解ったわ。そういう事にしておくよう伝えておく。御免なさいね。我儘を聞いてもらって。」
 渚子が、深々と頭を下げる。
 一夏のコンサートを望む声は日々積りに積もって、クラシック愛好家で社会的に地位のある人間も求める人間が増えてきた。
 ここまでくると、なんとかして一夏に承諾を貰わねばならない。
 そして、渚子はポスター用の撮影の準備と、ポスターを刷る手配を済ませて学園に依頼に来た訳である。

「結局、こうなりましたね。私の知り合いからも、コンサートを開くように一夏君を説得してもらうように頼まれてはいたのですが…。」
 ポスターの撮影の為に、渚子たちと共に一夏が撮影場所に行った後、真耶は千冬に話しかけた。
 真耶の友人には、Jポップスやロックの他に、クラシックも好きな女性が多くいる。
 その女性達が、CMで一夏の演奏を聞いて黙っているはずも無かった。
 IS学園の生徒の知り合いの音大の教授に、音楽教師達も、「プロになるべき。」だと、強く考えていた。
 そして、日に日に多くなる一夏のコンサート開催を求める声。
 時間の問題だと、真耶は考えていた。

「ある意味。良いのかもしれん。気分転換にはな。」
「どういう事ですか?」
「神無月のお嬢さんが、一夏に手紙を送ってきてな。野点でもどうかと。」
「一夏君は茶道の師範ですから、不思議ではないと思いますが…。他にもいろんな方がいらっしゃると思いますし。」
『まさかね…。』
 一抹の不安を、真耶は心の中に押し込める。
「今度は最初から、手作りの着物を贈ってきた。しかもだ。一夏が言っていたが、間違いなく反物を自分で機織り機で自分で織った物だそうだ。」
「自分でですか?というより。一夏君、そういうの解るんですか?」
 一夏が料理だけでなく、編み物等裁縫の面でもかなりの腕であることは利いていたが、まさか反物を織る事が出来る事までは知らなかった。
「私の浴衣の中には、あいつが反物を織るところから始めた物もあるぞ。以前に町内に住んでいた反物職人の人に一から教わってな。友人には、本当に羨ましがられたよ。」
 千冬にとっても、一夏が自ら織ったどこにも売っていない反物から縫った浴衣は自慢だった。
 音楽や茶道、華道に通じ美的センスを磨かれている一夏は、俳句の季語や季節の花をモチーフに反物を織り浴衣を作っていた。
 市販のオーソドックスなデザインとは違う独特のデザインは、同級生だけではなく他の女性の目も引き、その浴衣を着て美しさを引き立てられた千冬に男性の視線は釘づけだった。
「だからな。何かありそうな気がしてならんよ…。」
 何か起きそうな予感がして、千冬は考え込む表情になる。
『ないわよ…。そうよ…、一夏君だもの。』

「やはり北欧に、きな臭さを感じます…。」
 特別調査局の会議で、ライリーが調査結果を基に発言する。
「或いはと思っていたが、やはりか…。」
 ヴェッセルが、顎を撫でる。
 北欧には、金融業が盛んな都市が少なからずある。
 その関係で、ライリーは、調査対象に含めて資金の流れを遡って追い続けていた。
 ヴェッセルは、別のラインから追っている。
 日露戦争の最中、ロシアを内側から崩壊させるべく、明石元二郎日本陸軍大佐がロシアの圧政に苦しんでいた北欧の国の革命家や活動家を一堂に集めたパリ会議をプロデュースしている。
 その辺りから、巧妙だが常に日本や世界の警察となる前のアメリカ等の国を観察している節があるのを突き止めていた。
「スイスの方はどうか?この国も、やはり無視はできないだろう。」
 永世中立国であるスイスは他国との戦争には加わっていないが、マネーロンダリングに使用されるのは戦前からであることを考慮して、亡国企業。
 もしくはその母体となる組織が、巧妙に姿を隠して金の流れを作っていた可能性を一夏は充分にあると考えて、注視させていた。
「マネーロンダリングに関して、細かく分けてはいますが思ったより手間取っています。今しばらく、時間が必要かと。」
 ライリーの報告を聞いて、一夏は考え込む。
 元々、そう簡単に行くとは考えていなかった。
 第二次世界大戦時、いざとなれば国自体を要塞化して抵抗することを決定し、ドイツ陸軍参謀本部の分析でも陥落は不可能という結論となったこともあったが、マネーロンダリングでも使いようが十分にあるので、ヒトラーが侵攻しなかったのがスイスだ。
 そして、戦後も海外でのマネーロンダリングと言えば、スイスが真っ先に頭に浮かぶ。
 無論、スイス当局もそれを防ごうと必死だが、そう簡単には根絶できず最近はまた増える傾向にあった。
「グリント達も手伝える限り手伝ってくれ。ひょっとしたら、北欧だけでなくスイスにもきな臭い物がある可能性が高い。」
「「「はっ!」」」
『永世中立国だから、戦争の歴史という演目では部隊には上がっていないが、観客席から演目を見ながら、裏で何かを画策していた可能性は十分にあり得る。今までの調査からもそれを匂わせる調査結果も、出ているからな。』
 衛星の分析結果を精査するにつれ北欧周辺に新たな道が見つかっている事で、北欧に何かがあることが確信に近づきつつあるが、同時にスイスにも何かがある。
 過去のデータと、メン・オブ・ザ・ワイルダネスのネットワークから得たデータからも、スイスについては気にかかる点が少なからずある。
 いずれにせよ。
 調査対象から、外す事の出来ない国だった。

「大分、絞れてきましたかな?」
「ええ。それなりに。
 一夏は、久方ぶりに協議局のトンプソン、クライトンとビリヤードをしていた。
 無論、しながら亡国企業についての情報交換と今後の調査についての連携に関しても話し合う。
 アメリカはアメリカで、多くの衛星を使用しての様々な調査を行っている。
 一夏の調査ほどの精度はないが、やはり北欧に何かありそうだという結論が濃厚であった。

「にしても、奇妙ですな。」
 クライトンが副局長が、4番をポケットし損ねて渋い顔をしながら言う。
「私も奇妙に思いますよ。あれだけ、近くにスタート視点があるのにその先に何かがある形跡がさっぱり見つかりませんし。」
 俺が、4番、5番とポケットしながら言う。
「本国の専門家が言うには、スタート地点からどこかに繋がっていると仮定しても、気づかれないようにするのはかなり難しいのではないかという事です。よほど深く掘れば話は別ですが、マントル層周辺まで掘削するような技術は現代でも確立されていませんからね。そもそも、今これだけの海底トンネルという道が多くあること自体、驚きだと言っていました。」
 トンネルは、只でさえ掘削に時間が掛かる。
 さらに深さにしても、日本がボスポラス海峡に作った海底下60mの海底トンネルが深さでは世界一。
 それに掘る際に、深海部の水圧に耐えられるかという点もある。
 いや…。
 ISなら、オートクチュールの性能次第で何とかなるかもしれない。
 シールドに、絶対防御もあるしな。
 後は、装甲材か…。
 潜水艦に主に使用されるのは、特殊な高張力鋼だがISの装甲は強度が格段に高い。
 それを考慮すれば、いけるか…。
 後は掘削手段に掘削した時に発生する砂と、周囲を固める技術だ。
 人為的なら周囲と比較して明らかに差が出るから、見分けるのは簡単だ。
 委員会の承認を取り付けて、直接周辺で調べる必要があるかな…。
 よし、6番ポケット。

「ああ。そうだ。本国からの伝言を預かってきました。ノルウェーの件で、お手数をおかけして申し訳ないと。」
 ああ。あれの件か。
「さすがに大統領にしても、企業活動を抑えることは無理ですからね。それでは国家社会主義になってしまいます。既にそちらの件は、対応済み。お気になさらずと、大統領にお伝えください。それより、国内を固められ亡国企業に一層備えていただきたく。もうないとは思いますが、念の為に。」
「無論です。それと、これをご覧ください。」
 タブレットを俺に渡す。
 最終局面の備えを、始めていたのか。
 こういう面では、アメリカの危機管理意識はしっかりしているからな。
「新技術を投入し、従来に比べ大型ですが排水量を抑え込んだユリシーズ・グラント級原子力空母。最新鋭無人戦闘機ノースロップ・グラマン タイガーキャットU。それを運用する空中戦艦ナビス・エクス・マキナ級。アヴァロン級を始めとするIS委員会の艦には及びませんが、充分戦力になると考えます。」
 確かにな。
 無人戦闘機は、かなり過激な機動も可能にしてるからゴーレムでも撃墜は苦労しそうだし、ユリシーズ・グラント級は従来の空母と比べて防御力は格段に高いし搭載機数も多い。この空中戦艦にしても、そうそう作れるもんじゃないな。量産されるかは解らないが、ISとの連携がうまく取れれば充分戦力になる。
 他にも、対歩兵戦闘や装甲車両を考慮したパワードスーツの類も、間もなく試作機が完成するか。
 日本でも既に完成して、部隊編成が進んでいるけどアメリカもか。
 そして、例の人型機動兵器。
 亡国企業との戦いを睨んでの開発だろうが、その後も考えている。
 基本的には、ISがあっても通常兵器同士の戦闘になるからな。
 その点では、アメリカの強大な軍事力は変わらずか。
 そして、うまく日本にアピールできれば、G−TMAの共同開発まで持っていけると考えてると。
 やれやれ。
 ま。戦後の事も考えるのが政治だから、その点では間違っちゃいないんだけどな。
「いずれにしても、連中の根拠地に繋がる裏の道。それを探さなければなりませんね。それに関しては、こちらで動くつもりです。」
「我が合衆国も、全面的に協力いたします。出来ることは言っていただきたい。」
 ふむ。
 大統領本人は、信頼に値するか。
 頼んでみるかな。
「それでは、お願いがあります。」
 俺はあることについて、本国で協議してもらえるように依頼をした。
 尤も、俺の計画が委員会で承認されればの話だが。

 俺は執務室に戻ると、委員会からの通信が来たのであることについて了承を得られるよう話をすると、有効だと考えて承認を貰えた。
 が、その代りかどうかは解らないが、日本政府からのとんでもなく阿呆な依頼を受けることになった。

「つくば型を凌ぐ、超弩級大型護衛艦だと?」
「ああ…。」
 寮に帰った俺は、委員会を通しての日本政府の依頼を話した。
 つくば型は、エヌマ・エリシュの脅威に対抗すべく記念館等になっていたアイオワ級を大改修して再び実戦配備させた艦だが、それに同調するのを依頼して、海自に配備された30.5cm荷電粒子砲を主砲とする3万トン級の護衛艦だ。
 対水上、対空、対潜全てに対応できるように開発された汎用性の高い艦で、4隻が各護衛艦隊に配備されている。
 だが、アメリカとの亡国企業との戦いやその後の事を考慮して、日本はさらに強力な艦がある方が望ましいという結論になり、日本政府は建造を決定。
 委員会を通して、一夏に設計を依頼してきた。

「やるしかないとはいえ、よくもまあそんなあほらしい事を考えた物だ。戦争が勃発してそれを持ち出してみろ。今でさえ廃墟が幾つできるか解らんというのに…。」
 千冬姉が、怒るのも呆れるのも馬鹿馬鹿しいという顔になる。
「戻って来るまでに設計はほとんど済ませたから、今夜中に済ませて寝る。変な顔を冬菊に見せたくないしな。」
「その件だが、大丈夫か?送ってきた夏用の和服の出来を見ても、何かあるかもしれん。気を付けろよ。」
「解ってるよ。」
 確かに、何かある可能性はある。
 早めに、お暇しよう。
 さて、設計だ。設計だ。

 翌日、一夏は護衛に守られて神無月家を訪問した。
 着ているのは、改まった訪問等に着られるお召一つ紋付。
 背中の背紋と袖の袖紋には、織斑家の家紋である八つ剣菱がついている。
 白の羽織に紺色の袴。
 足袋に雪駄まで、手作りだった。
 そこまでする必要、ないだろうに…。
 家紋にしても、普通は専門の職人が着物に家紋を付ける。
 それをここまでしっかりできるだけでも、裁縫に関しての腕前が解る。
 まあ、俺も着物の一番格の高い正装は作れるし、千冬姉が結婚する時となれば花嫁衣装は俺が作ってもいい。
 というより、できれば作りたいな。
 ウェディングドレスと、白無垢。
 どっちがいいのかな?
 今度、それとなく聞いてみるか。

「お待ちしておりました。本日はようこそお越し下さりまして、とても嬉しく思っています。」
 お付きの女中さん2人を連れて、冬菊が俺を迎える。
 京友禅の、かなり高い振袖だな。
 髪は冬菊の艶ややかな髪の魅力を引き立たせるように、セットされている。
 これなら、合うな。
「これ。着物のお礼だよ。」
 俺は細長い桐の箱を出して、渡す。
「開けても、よろしいですか?」
「もちろん。」
 紐をほどいて箱を開けると、中には一本の簪が入っていた。
 金属の部分は純金を使用し、飾りには小粒の真珠に、赤の珊瑚等が加工して使われている。
「綺麗…。竹取物語で、かぐや姫が要求した蓬莱の木の枝みたいですわね。」
「やっぱり、解ったか。」
 まあ、すぐに解るとは思っていたけどな。
 竹取物語では、かぐや姫に求婚した5人の貴族がそれぞれ難題を与えられる。
 その中の1人、車持皇子(くらもちのみこ)は蓬莱の木の枝。
 根は銀。枝は金。そして実は真珠でできている。
 皇子は職人に、それに似せた物を作らせて持ってきたと言って渡すが、職人たちに料金を払っていなくて、料金を求められたことで、からくりがばれてしまった。
 ミッションで、月に落下したかぐやを回収にいったからな。
 作ることにした。
 俺は、町工場みたいに色んな工具を使って何かを作るのは、慣れっこだ。
 というより、昔ながらに手を使って何かを作るのが、楽しくてたまらない。
 今は、金属の型を作るにもコンピューターに手順を入力して、その通りに機械が作るけど、どうも俺は好きになれない。
 それに、全てを機械でやるのはまだ不可能だ。
 最終的には、人間の手が必要になる。
 人間の手は、万能の工具であり、万能の手術器具でもある。
 総合すれば、万能のツールだ。
 人間の手を上回る工具は、まだ開発されていない。
 結局は、人間の手が必要になるのがどうしても必要になる。
 金属の型を作るにしても、加工する部分の周囲に力を入れ過ぎない最適な加減は皮膚感覚で判断する。
 工具に伝わってくる感覚で、どの程度削るかを判断して、最適な加工をする。
 機械は、この点だとまだまだだな。

「ありがとうございます。大切にいたします。」
「こっちこそ、着物ありがとうな。」
 真心には、真心をもって応じる。
 それが、人の道だ。
「つけて、くださいますか?」
「解った。」
 俺は、簪を冬菊の髪につける。
 うん。良く似合ってる。
「綺麗…。」
 お付きの女中さんが鏡を出して、冬菊が簪をつけた自分を見る。
 金に、真珠に珊瑚、翡翠等を木の実をイメージして付けた簪は、よく似合っている。
「では、一夏さん。参りましょう。」
「ああ。」

 神無月邸の庭には、既に野点の用意がされている。
 神無月家の家紋である、月に時鳥が描かれた野点傘と敷物が用意され、茶を点てる場所と、食事を楽しむための組み立て式の東屋が整っていた。
 あれ?
 他に幾つか用意されてるけど、何だ?
 誰か来るのかな?
 菫とか。

 茶器が置かれた場所に座ると、女中さんが箱を持ってくる。
「どうぞ、お掛けになってください。」
「では。」
 中に入っていたのは、案の定和菓子だった。
「お茶菓子か…。葛の中に何か入っているな。夏みかんをほぐしたものか。」
「はい。葛に、和三盆を混ぜた物に、和三盆を水に溶かしたもので甘く似た物を入れた物です。」
 どれどれ。
 葛が口の中で、ぷるぷるしてあちこちをくすぐる。
 こういう食感は、初めてかもしれないな。
 かすかな和三盆の甘みに、甘く煮てほぐした夏みかんがよく合う。
 葛の甘みと、夏みかんの甘みが喧嘩せずに上手くまとまっている。
「うん。これは見事だな。さすが、お茶菓子を作る腕前も見事だな。」
「気に入ってくださって嬉しいです。では…、お茶を点てさせていただきます。」

 冬菊が、静かに茶を点てる。
 なかなかだな。
 手つきは鮮やかで、力を入れ過ぎていないし、足りなくもない。
「どうぞ。」
 俺の前に、冬菊が立てた茶が置かれる。
「お点前。いただきます。」
 冬菊らしい、優しい味だな。
 抹茶は苦いだけって言う人もいるけど、味に慣れるとその人の個性が出てくる。
 冬菊が茶道を収める流派は、表千家。
 様々な流派の中でも、最も格式が高いと言っていいだろう。
 その特徴は、一切の無駄のない美しさを追求すること。
 祖である千利休の思想を、脈々と受け継いでいる。
 冬菊のお点前はまさにそれだ。
「けっこうな、お点前で。」
「お粗末様でした。」
 冬菊は、心からほっとして、そして嬉しそうな顔をする。
 さて、次は俺だな。

『よかった…。一夏さんに喜んでいただけたようで…。』
 冬菊は、この野点の前に、茶道の師に一夏の茶人としての号を知っているかどうか、ふと訊ねた。
 それを聞いた、冬菊の師は遠州流茶道師範「清夏」と冬菊が知り合いなのを知って、目を丸くして驚いていた。
 遠州流は近江小室藩初代藩主小堀政一を祖として、わびさびに和歌や藤原定家の書を学んでいた政一が王朝文化の美意識を加えた独特の綺麗さびが特徴の流派である。
 元々、一夏は書を嗜み、茶道を習い始めてから和歌も学んだ。そうしている内に土台がしっかりと出来上がり、免許皆伝の際に師範の免状と号を授かった。
 以前に、一度、茶会で一夏の師と共に出席して自己紹介をしてお点前を披露したが、遠州流の特徴である綺麗さびの精神に、清々しさや雅やかさが加わり何ともいえない見事なお点前は出席していた各流派の茶人たちの間に一気に広まった。
 冬菊の師もその一人である。
 それ以降、ISの訓練やそもそも精神の鍛錬の一環として茶道を学んでいた為に茶会に出席する気はなかった一夏は、一度として茶会に姿を現していない。
 華道の流派の一つ嵯峨御流師範「聖華」としても、一度発表会に自ら活けた花を出品したがそれきり、華道の発表会に出品していない為に、幻の華人とも言われている。
 そこまで有名な、茶人であり華人とは知らなかった冬菊も相当に驚いた。
 故に、お点前を披露する際は緊張して粗相をするかと思ったが、一夏がいると空気が柔らかく感じ、自然体でいられた。
『一夏さんのお点前。先生が話された通り…。清々しくて、とても雅やかで何とも言えない…。』
 茶を点てる一夏の姿に冬菊は、すっかり見惚れていた。
「どうぞ。」
 一夏が点てた茶は、どこか清々しく、高貴さすら感じさせる。
 それでいて、心がとてもほっとする味だった。
『さすがに、師範になられただけのことはあるわ。もう、お弟子さんも取れるのよね…。結婚したら、家のどこかに専用の茶室を作って何とか時間を作って茶道の教室を出来たらいいわね…。』

「結構なお点前で。」
「お粗末様でした。」
 優しく微笑んで、一夏は茶器を清める。
「私が茶道を習っている先生が、一夏さんのことをご存知で、私が一夏さんと度々お食事を一緒にしたり、色々と家とのお付き合いがあることをお話したら、それはもう驚いていらっしゃいましたわ。一度、茶会に出席したきり一度も出席せずにいるから、何とか出席する様に頼んでほしいと。」
 ああ。そんなことあったな。
 遠州流師範になった俺を、他の流派の人達に紹介する意味も合って出席したのが、習志野での訓練が始まる少し前だ。
 元々、茶道の世界に深くかかわる気はなく、茶道の精神を学びながら己の精神を鍛えていくのが目的なので、そういう事には興味が無い。
「かれこれ、2年になるのか。偶に、俺に師範の免状と号を授けていただいた師匠からお手紙をいただくけど、偶には茶会に顔を出せと。いつも書かれてるな。」

 互いにお点前を披露し話している内に、昼食時になった。
「お口に合うかどうかは、解りませんが…。」
「冬菊の料理は、全部美味しいよ。自信を持てって。」
 俺がそう言うと、冬菊はかすかに頬を染める。
 先付として出てきたのは、卵焼きを薄く切った物で何かを巻いて無視挙げた感じだな。
 どれどれ。
 あ。海老か。
「海老の黄身寿司がヒントか。卵は普通の出汁巻卵の様にしないで薄めの味付けにして蒸された海老のすり身と喧嘩しないように、いい塩梅だ。これは美味しいな。」
「はい。以前に食べた時から、他の物に応用できないかと思って。それでできたのがそちらになります。」
「成程ね。薄味にしているけど、卵の美味しさはしっかりと引き出されていて、海老に負けていない。調和のとれた逸品だな。流石だよ。」
「ありがとうございます。」
 卵って、味付け次第だと個性が強くなりすぎたりする事があるし、匂いも結構強い物だからな。
 それをきちんと抑えながら、美味しさを引き出すのはこれがまた苦労する。
 普通の卵焼きでも、プレーンオムレツでも、フライパンに入れる前の準備と焼いている時の手際よさで、味に少なからず影響が出るからな。
 次は、椀物か。
 夏の山菜がメインの、椀物ときたか。
 これも美味い。
 山菜は物によっては、苦みが出たりするのも少なくないから人によっては食べにくいのもあるんだけど、それを考慮して選んだ上で作っている。
 歯ごたえも残っていて、山菜の味も楽しめて、ほんのわずかな苦みがむしろ心地いい。
 なんだかほっとする、椀だな。
 これから、いよいよお造り、焼物、煮物、物相とメインとも言える物が続くがその前にはこういう椀が望ましいな。
 気分がすっきりして、続く品への期待が膨らむ。

後書き
日々多忙に過ごす一夏。
その中で、真理亜との撮影の時に秘密裏に話が進んだ演奏会。
遂に決定。
但し、その料金設定は一夏らしいもの。
そして、千冬が不安というか何か違和感を感じるイベントが。
冬菊からの野点のお誘いです。
要するに茶道の野外版です。
茶道の師範でもある一夏を呼ぶのは、別に不思議でも何もない。
だが、反物を自分で織り家紋まで作った改まった訪問儀。
家紋も自分で着けて、足袋も雪駄も手製となれば、何かあると考えるのは当然でしょう。
そんな中、野点の日が。
着物の礼に、竹取物語に出てくる蓬莱の国の枝をイメージした、簪をプレゼントする一夏。
そして、始まる野点の中で、一夏が茶道と華道の世界でかなり名の知れた著名な茶人であり華人であることが話題になったりと二人きりとはいえ、終始和やかに進んで昼食も始まります。
ちなみに、椀に山菜を使ったのは私の好みです。
ぜんまいとかの山菜を使った蕎麦やうどんは、大好物でして(笑)。
食糧難に苦しんだ記憶をお持ちのお年寄りの方には、お嫌いの方もいるそうですけど。
さて、どうなるでしょうか?






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