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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第159話 アルゼンチン到着<前編>

<<   作成日時 : 2015/07/25 23:55   >>

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 悪化してるな。
 事前の診察をして、データより症状が悪化しているのを俺は確かに感じた。

 患者さんは、ファン・ビセンテ・アントニオさん。
 55歳。
 自動車整備工場を、経営している。
 4年前、肺癌が検診で見つかり、右肺中下葉切除術を受ける。
 その後、化学療法を受けて退院。
 静養後に、仕事に復帰。
 しばらくは、通院と抗癌剤の服用をしていたが、その内定期検診だけでよくなった。

 ところが、そこからが大変だった。
 中下葉切除術で右肺の3分の2を切除していたアントニオさんは肺の機能が3割程度低下していたところに、さらに病気が襲い掛かった。

 特発性間質性肺炎。
 肺の内部に無数にあり、呼吸で得た酸素を赤血球に送り二酸化炭素を取り出すガス交換をする肺胞の壁が何らかの原因で損傷したり炎症を起こして周囲の壁がどんどん厚くなっていって、やがてガス交換機能がほとんどなくなる。
 原因は、自己免疫疾患、煙草、ペットの毛や羽、埃、アレルギーも関係している。
 ただ、特発性となると、原因を突き止めるのが難しい。
 これに追い打ちを掛ける様に、右肺上葉に癌が再発。
 当然摘出して、再び化学療法となった。
 どうにか落ち着いたところで、この病気を発症。
 片肺運転の所に、この病気を発症したんだ。
 呼吸器の機能は、健康な人を10とすると、今は3にまで低下している。
 酸素ボンベで酸素を補って、どうにか生きているという状況だ。
 けど、この瞬間も確実に病は体を蝕んでいる。
 こうなれば、残る手段は一つ。
 肺移植のみだ。
 日本よりは、海外は臓器移植の数が多い。
 その点は、まだまだ日本はこれからだ。
 ところが、その前の検診で再び病が発見された。
 心臓腫瘍だ。

 今のところ悪性か良性かは、解らない。
 良性なら、手術の難易度は下がる。
 けど、悪性なら難易度は大幅に上がる。
 腫瘍を完全にといけないのは当然だけど、心臓の動きを制御する刺激伝導系に傷をつければペースメーカーが必要になる。
 だからといって、残してしまうと腫瘍は再び大きくなる。
 取って大きくなった後、再手術でまた切除しないといけない。
 それが、延々と続く。
 腫瘍を完全に切除し、刺激伝導系にも一切傷をつけない。
 それが求められる。
 これだけでも大きな手術なのに、肺の移植も行う必要がある。
 でも、病気の進行具合、患者さんの体力を考えると大きな手術ができるのはあと1回。
 つまり、今だけだ
 だから、やるしかない。
 肺癌の病歴から、俺は高い確率で悪性だと見ている。
 素早く正確に終えて、移植を終える。
 これしか、患者さんを助ける道はない。

 けど、大きな問題が起きた。
 今回、コーディネーターから回してもらえるのは、左肺。
 必要な、右の肺じゃない。
 これだと、仮に移植に成功しても片肺運転は変わらない。
 左肺のまだ正常な部分と、移植した肺で患者さんの呼吸を正常に近づけるという大前提が崩れる。
 ブエノスアイレスに向かう公用機の中で、俺はあらゆる移植の症例や治験論文に目を通していた。
 その時、何てこともない事から、俺は今回の打開案を思いついた。

 ブエノスアイレス大学付属病院のスタッフに今回の術式を説明すると、半分が静まり返り、半分が周囲と話し始める。
「皆さんの反応は尤も。ですが、今回患者さんを救うにはこの術式しかありません。2回に分けられれば勿論その方がいい。ですが、今の体力では不可能。スピーディーに、的確に一つ一つを終わらせる。そうすれば、光明が見えると信じています。」
 俺だって、こんな術式は真っ平御免だ。
 けど、これしかない。
 だから、これでいく。
 それを、スタッフに理解してもらえるように言う。

「信じましょう。その為に、太平洋の向こう側からお出でいただいたんだ。お願いした我々が、ドクターを信じないでどうする?」
 スタッフの1人が、そういうと皆が賛同してくれる。
 よし、これなら大丈夫だ。
 カンファレンスを終えた後、俺はその人に深く感謝の意を込めて頭を下げる。
 後は、俺達医師の戦場であるオペ室に行くのみ。

 手洗い場で、一夏を始めとするオペのスタッフは前腕部、手、指、指と指の間、爪の部分を丹念に洗って泡を落として拭く。
 そして、小さく深呼吸をすると一夏を先頭にオペ室に入る。
 既に、人工心肺は準備が整っている。
 その他の機器も全て準備が整い、必要な手術器具も揃っていた。
 一夏は、足で操作する端末で最新の検査データを再度確認する。
 肺はまだ到着していな。
 これには理由がある。
 今回は、心臓腫瘍の切除手術後の移植となるので、あまり長い間保存液にいれていると提供される肺の状態によるが稀に気管支や肺胞に水が溜まる肺水腫になる事がある。
 それを考慮して、俺は数通りのパターンを算出して心臓のオペの時間を算出。
 ドナーからの摘出する時間に関して、充分に打合せの中で調整している。

「これより、心臓腫瘍切除術並びに脳死反転左肺移植を始めます。メス。」
 一夏はメスで胸部を切り、開胸器で固定する。
「ソー。」
 骨を切る為の医療用鋸で胸骨を切断すると、生体防御反応の一つ臓器や組織がくっついてしまう癒着で胸骨と心臓がびっちりと癒着してしまっていた。
『酷いな。これは、剥離だけでも1時間以上見ないと…。』
 第一助手の医師が、癒着の酷さに驚きつつ剥離の状況を大まかに算出する
「ハーモニックスカルペル。」
「はい。」
 超音波メス。
 超音波の振動により、組織へのダメージを最小限にする事が出来る医療器具である。
 使いこなすにはコツがいるが、一夏は既存の手術器具の改良に携わりながらより低コストに、そして、よりマスターしやすくなるように皆と知恵を出し合い工夫を凝らしていた。
 その甲斐あって、一夏は何でもない様に癒着を剥離していく。
 そして、心臓が現れた。

 やっぱり、弱ってるな。
 それだけ、今までのオペと肺炎の影響が大きかったって事だ。
 体外循環の時間は1秒でも縮めたいな…。
 よし。

「腫瘍を術中診断用分切除するまでは、このまま。血液の吸引よろしく。出来る限り早く腫瘍を切除する。視野を確保してください。」
「解りました。任せてください。吸引器、もう一つ。」
「お願いします。メス。」
 心臓にメスを入れると、すぐに血液を吸引して可能な限り視野を確保してくれる。
 その間に、俺は術中診断用に腫瘍を切除する。
 と同時に、ある事を確認する。
 よし。ここだな。

「大動脈遮断。完全体外循環開始。それと、ピオクタニンを。」
 ピオクタニンは、色素の一種で手術中にマーキングする際に用いられる。
 綿棒に染み込んだそれで一夏は、ある場所に印をつける。

「成程。いきなり体外循環にしなかったのは、そういう事か。」
 医学部部長ベルナンデス医学博士は、一夏の行動の意味を理解した。
「どういうことですか?」
 内科部部長のカスケーロ教授が訊ねる。
「第一に、患者さんの心臓の状態から可能な限り完全体外循環の時間を短くする。そして、もう一つ、この手術で留意すべき点は何かな?シガネル准教授?」
「そうか…。彼にとって、鼓動があるうちの方が刺激伝導系が見つけやすかったということですか。病歴を始めとする様々なデータから悪性の可能性が高い事を考慮していた。事実、あの腫瘍からしてほぼ間違いないでしょうからな。」
「そういうことだ。その状況に応じて最善の行動をとる。判断力と決断力があり、深い知識がなければああはいかん。」
 そして、検査の結果、悪性であることが伝えられた。

 やっぱり悪性か…。
 腫瘍マーカーが微妙だったから、良性である事にも望みを持ってたんだけどな…。
 しかも、右心室に血液を送り込む三尖弁に、びっしりと悪性腫瘍が発生している。
 間違いなく、肺癌からの転移だな。
 抗癌剤治療をしていても、ミクロ単位の癌細胞を必ず殺せるという保証はない。
 にしても、4割はないだろうが。
 心臓の状態にも影響は出るだろうさ。
 今回は、秘密兵器を持って来ているから血液内だろうがリンパ節の中だろうが、全滅させてやるよ。
「メッツェン。マーキングしていた甲斐がありましたね。」
「そういう事だったんですか…。」
「そういう事です。」
 感触も良かった。
 組織サンプルを何度も切らされては、違いを体に染み込まされたけど役に立つんだな。やっぱり。
 助手に入ってくれている先生達の協力もあって、スムーズに切除が終了する。
 次の検査は、きちんと切除しきったかだ。
 腫瘍が発生した周辺の細胞を僅かに切除して、検査をしてもらう。
 でないと、次に移れない。
 どうだ…?

「受け取った細胞に悪性腫瘍は、認められませんでした。」
 OK!きっちり取り切った。
「三尖弁形成に入る。自己心膜リングと残った心膜を。」
 第二助手の先生には、三尖弁形成に必要な自己心膜で作ったリングを作ってもらっていた。
 よし、余裕を見てくれたな。
「8−0プロリン。」
 まず弁形成の準備として、リングを縫い付ける。
 通常は人工リングがほとんどだ。
 芝崎の製品も含めて、抗凝固剤を服用する必要もずいぶん減ったし、服用の必要があっても、私生活にはほとんど影響がない。
 そういえば、納豆の血栓溶解作用に着目したベンチャー企業が、新しい抗凝固剤を開発していたな。
 主成分はナットウキナーゼだし、相性の悪い食べ物はまずない。
 そういう、植物や食品の効果を最大限に活用した薬が世に多く出てくれるのを願っている。
 俺も、ナノマシン治療とか医療機器の開発をがんばるけどな。
 リングを縫い付けて切除した弁を自己心膜で再現してリングに縫い付ける。
 他にも一部を切除した部分があるので、これも修復。
 終わりだ。
 我ながら、いい出来だ。

「自己組織を使用した治療では、世界でも一、二を争うノウハウを持っているのは論文に学会発表、データベースでの手術映像で理解していたつもりだが、こうしてみると本当によくわかる。一つ一つを確実に為しながら、流れるように進められていく、三尖弁形成。オペによって修復したとは思えんよ。どこからどうみても受精卵から人になる過程で作り出された自然な三尖弁だ。人工物も使用していないから、抗凝固剤も使用する必要はまずないな。患者さんへの負担は通常より大きく減らされる。」
 やがて、切開された傷の縫合が終わる。
「大動脈遮断。解除。」
『さあ。こい。いつでもいいぞ。』
 一夏とスタッフたちが見守る中、心臓は再び力強く鼓動し始めた。
 術中検査の結果も良好である。

「時間。」
「2時間37分。」
 よし。いいタイムだ。
 弁形成は思ったより時間が掛かるからな。
 それにこの後、肺移植が控えてる。
 可能な限り短くしないとな。
 
「肺が届きました。」
 さて、状態は…。
 いいね。バッチリ。最高の状態だ。
「若い人の肺ですね。」
「22歳。ノーヘルでバイクに乗って、事故を起こして脳死だそうです。」
 やれやれだ…。
 でも、それで移植に使える肺が手に入るのは、複雑だな。
 体内埋め込み型の人工肺でもあればな…。
 おっと。
 今はオペに集中しないとな。
 付着している心膜も、この量なら問題ないな。
「肺移植を開始します。人工心肺は、心臓のアシスト40%。呼吸補助はそのまま。」
「解りました。」
 臨床工学技士が一夏の指示に従って、人工心肺を操作する。
移植する肺に残っていた心膜を使用して、適切な形状の肺動脈、肺静脈の形成に入ります。8−0プロリン。そっち把持お願いします。」
「解りました。ピンセット2つ。」
 肺保存液を満たした盆に入れて、患者さんの体内に収める前に肺動脈、肺静脈を肺に付着していた心膜を使用して適切な形にする。
 これをしっかりやらないと、移植しても血流が正常にならないで肺を駄目にしてしまう。
 イメージはしっかりと作り込んでいる。
 若干の修正をして完璧なイメージになり、その通りに俺は縫合して形を整える。
 そして、鉗子で気管、肺動脈、肺静脈を遮断して切除する肺を事実上、患者の体との繋がりが無い状態にして切断。一夏は肺を摘出する。

 摘出して見ると、本当に酷いな。
 コントじゃないけど、駄目だこりゃ。って感じだ。
 まさに瀕死。
 どうにか、ぴくぴく動くように肺の役割を果たそうとしているって感じだった。
 さあ。移植する肺を体内に収めるぞ。
「7−0プロリン。」
「はい。」
 丁寧に素早く、血管と気管を繋ぎ合わせる。
 特に気管は血管よりも、脆い。
 慎重にいかないとな。

 終わった。
 肺動脈、肺静脈、気管。
 全てをしっかりと繋ぎ合わせた。
 さあ。動き始めてくれよ。
 人工呼吸器から空気が送り込まれる。
 移植した肺が、その役目を果たし始める。
 血管からの血液の漏れもないか、チェック。
 肺がしっかりとその役目を果たしている。
 血管も問題ない。
「時間。」
「8時間50分。」
 よし。予定より時間が短縮できた。
「人工心肺。離脱開始。」
 臨床工学技士に指示を出して、患者さんから離脱させる。
「離脱完了。」
「しばらくは、状態を観察する。ヴァイタルの変動に注意。」
 しばらく様子を見て人工心肺がなくても、患者さんは大丈夫な事を確認。
「縫合に入ります。」
 骨を固定し、修復用のナノマシンで切開した骨が修復する様にする。
 そして、最後に切開した傷を縫合して、接合テープを張る。
「オペ。終了です。」

後書き
何やら、奇妙且つ由々しき事件が起きているらしいアルゼンチンでの事件解決に、協力することになった一夏。
ですが、ここではもう一つ仕事があります。
心臓腫瘍切除と、肺の移植手術。
普通なら、1回ずつやればうまくいくでしょう。
しかしながら、大きな手術ができるのは、現状あと1回。
それだけ弱っている状態では、危険すぎてとてもオペは無理。
ということで、一夏に白羽の矢が立ってアルゼンチンで。
ごくありふれた事からヒントを得て、一夏は見事に手術をやり遂げます。
いよいよ、本題。
事件の詳細は?






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