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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第150話 糸くずと糸<前篇>

<<   作成日時 : 2015/05/09 23:55   >>

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 調査局で執務を終えた一夏は、公用車で帰途に着いていた。
『ロシアもやってくれる。委員会で非主流派なら、国際社会での影響力を高めるか…。』
 一夏は、ロシアについてある事を調査していた。
 それは、軍、民間、双方の船舶の建造についてである。
 ロシアにも民間の造船会社があるので、民間用の船が建造されていてもおかしくない。
 だが、その中で妙に増えている船があった。
 砕氷船。
 つまり、凍った海で進路を確保するための船だ。
 これ自体は、海自にも海保にもあるし、北海道の民間船にもある。
 だが、大きさが尋常ではないし、砕氷能力の向上の為に様々な工夫をしている。
 そして、それらがどういうわけか竣工して発注元に引き渡された後、あちこちを巡り巡って軍に渡っている。
 それらの企業を調べてみると、ほとんどがペーパーカンパニー。
 つまり、これらの砕氷船は始めから軍で使用する為に建造されたということだ。
『北海艦隊に、バルト艦隊。そっち方面に配備されている事で、見え見えだよ。』
 ロシアはこれらの砕氷船の購入に関しては、軍事予算の節約の為にたらいまわしになっている民間の砕氷船を買い取ったと発表しているが、こうも大量に出回るのは不自然である。
 しかし、表向きの経路は民間で調べても怪しい所は見受けられないので、マスコミも追及できなかった。
 できるのは、国家レベルの諜報機関や特別調査局のような組織だけである。

 前から、妙だとは思っていたけど、まさかこれが別の手だとはな。
 灯台下暗しだよ。まったく。
 にしても、事前に別の手の仕込みをするあたり、したたかだよな。
 伊達に、共産圏のボスを張ってたわけじゃないか…。
 ロシアは水面下で、日本とポーランドとの安全保障を密にすることに関わった人間と接触もしている。
 つまり、日本を仲介役にする気だ。
 これで、バルト海方面への影響力を増して西側勢力を牽制するってわけだ。
 もう一つの手は、太平洋艦隊に配備されている最新鋭戦略ミサイル原潜ボレイ級。
 1番艦は、タイフーン級が3隻配備されている北海艦隊に配備されているが、2、3番艦は太平洋艦隊に配備されている。
 けど、配備先はカムチャツカ。
 北極圏とは、目と鼻の先だ。
 つまり、北極圏とその周辺に6隻の戦略ミサイル原潜が配備されていることになる。
 アメリカは、14隻のオハイオ級と最新鋭のコロラド級4隻を配備。
 この内、6割ずつ。10隻程度をローテーションでアラスカ周辺に配備。
 同じペースなら、ロシアは4隻の戦略ミサイル原潜をローテーションで配備している計算になるが、ボレイ級の4番艦クニャージ・ウラジミール、5番艦のクニャージ・オレグがスケジュールよりかなり遅れて竣工。
 北海艦隊に配備されている。
 これで5隻か。
 しかも、予備役になっていたタイフーン級2隻に近代化改修をして、現役復帰させる計画を発動。
 まもなく終了して、そのまま、北海艦隊に籍を置く。
 加えて、元々北海艦隊所属だったデルタW型戦略ミサイル原潜6隻が近代化改修を受けて再就役。
 計14隻。
 ローテーションで8隻を、展開させることが可能になる。
 加えて、水上艦艇を増強して北極圏に再び構成された核抑止力のパズルをいつでも崩す事が出来るという暗黙のメッセージを送る事が出来る。
 ISがある今では、以前ほどではないにせよ、それでも核は脅威だ。
 本当にやる気があるかどうかは、今の段階では解らない。
 第一、アメリカも黙っていないだろう。
 艦隊の戦力では、圧倒的に有利だ。
 ロシアの対艦ミサイル及び巡航ミサイルは大型で、核弾頭を搭載するのは十分可能だ。
 最近は、ハープーン程度の対艦ミサイルも開発されてるけどな。
 とはいえ、これらのカードを何に使用してくるか、充分に注意が必要だな。
 うん?
「止めてくれ。野暮用ができた。」
「お前が出る程じゃない。私で十分だ。」
 今日、俺の護衛を担当するラウラは自分が行こうとする。
「女の子のピンチを救うのは、男の仕事だよ。」

「いいのか?額切ったみたいだぜ。」
「構わねえよ。血まみれの女を犯るのもおつなもんだろ?」
「下の方も、血を流すけどな。」
 数は3人。
 歳は18位か。
 見た通りの、チャらいゴロツキ。
 よってたかって、無理やりか…。
 正真正銘のクズだな。

「その程度にしておけよ。そのままでも鑑別所決定だぜ?」
 俺はゴロツキの集団に、警告する。
「ああ!?ナイト気取りかよ!!怪我したくなかったら、失せろよ!!」
 どこから手に入れたのか、バタフライナイフ。
 しかも、両刃で先端が鋭く殺傷力も高い物を取り出して向けてくる。
 銃刀法違反も、おまけに付くと。
「もう一度言う。その程度にしておけ。でないと、痛い目を見るのはお前たちだぞ…。」
 精神のスイッチを切り替えて、俺は再度警告する。
「るせえ!!」
 クズはどこまでもクズか。
 というかだな…。
 俺は手首を掴み、足を引っ掛けバタフライナイフを手から放して地面に叩きつける。
 弱いんだよ…。
「まず1人。ここらで、素直に自首しろ。そして、心を入れ替えろ。」
「うるせえって言ってんだろうが!!」
 1人が叫ぶと、もう1人と一緒に突っ込んでくる。
 両方の手首を持って、手首を捻ってバタフライナイフを放させると、突っ込んでくる力を応用して地面に叩き付ける。
「ラウラ。警察に連絡。少佐、そちらのお嬢さんを頼む。救急用の処置セットも。」
「解った。」
 すぐに電話を出して、ラウラは警察に通報する。

「まだやるか…?今度は、背中が痛くなる程度じゃすまないぞ…。」
 一夏から、僅かに冷たく威圧感のある“気”が漂う。
 そして、冷たく鋭い視線。
 相手は、只のチンピラ。
 一方一夏は、生死の境から幾度も戻ってきた百戦錬磨の軍人。
 話に、ならなかった。
 今更ながら、チンピラたちは自分が相手にしたのが一夏だと知って恐怖を感じ、腰を抜かして失禁する。
 少しすると、警察が来て暴行未遂、傷害罪、銃刀法違反で逮捕する。
「貴様らは運が良かったぞ。私なら、腕や足の一本は複雑骨折させていたからな。そして、あり得んことだがもし一夏に僅かでも傷を付けたら、腐った頭に鉛の弾をプレゼントしていたところだ。その事を、肝に銘じておけ。」
 パトカーで警察署に連れて行かれる際、ラウラはチンピラたちに忠告する。

 あの馬鹿共は向こうに任せて、俺は治療だな。
 消毒用スプレーを腕、手、爪の間に噴霧して医療用のゴム手袋をはめる。
 結構、砂が傷口に入ってるな。
 小石もか。
 ガラスの、小さな欠片もある。
 近くに、ジュースのガラス瓶の欠片があってそれで切ったんだな。
 それに、結構深そうだ。
 これは、縫合だな。
 最近は、傷口を洗い流して時には薬剤で消毒、オペで縫合した後に使用するテープで傷口を固定して、創傷被覆材を張って終わらせる。
 ある程度の裂傷なら、縫合する必要はもうない。
 消毒にしても、逆に治りを遅くすることもあるし、それどころか急性アレルギーで、大変なことになることもある。
 するとしても、傷口の周囲位だ。
 ただ、膿や壊死した組織が無ければ消毒は必要ないけど、縫合は必要だな。
「落ち着いてください。応急処置をしておきます。何か、アレルギーはありますか?薬とか。」
「特には…。」
「解りました。傷口に砂や小石、ガラスの欠片がだいぶ入っていますのでこれを取った後、縫合して念の為に破傷風ワクチンを注射しておきます。局所麻酔をしますね。」
 新しい、注射針は極力痛みを抑える構造になっている為にこういう時には都合がいい。
 何しろ、防いだとはいえショックも大きいだろうから、こういう時に痛みが伴う治療は不安を増大させるだけだろう。
 麻酔をした後、傷口の周辺に特殊な吸水ポリマーの壁を作って水が滴らない様にして、生理食塩水とブラシ、ピンセットを使って小石やガラス片を取り出しつつ、傷口を洗浄し、終わったら周囲を消毒する。
 後は、オイフと呼ばれる治療に使用する布を被せる。
 壊死の類はないな。
 6−0PDSで、縫合を始める。
 女性だし、傷も長さ6cm深さも6、7mmはあるな。
 丹念に縫合しておこう
 俺は皮膚の内側から縫合する真皮縫合を、通常より細かく行う。
 表皮の下にある真皮を縫合するので、縫合の痕が出来にくいし仕上がりも綺麗だ。
 この方法は吸収性の縫合糸を使うのがいいんだけど、高いのが難点かな。
 ただ、吸収性の糸は抜糸をする必要がないので患者さんにとっては楽だ。
 俺の場合は、安く仕入れるルートを知っているから、大分安く仕入れて常時応急処置の器具と一緒に様々な種類の縫合糸と一緒に持ち歩いている。
 傷口の洗浄を終えた時に、縫合のイメージは出来上がっている。
 後は、その通りに縫合する。
 終わった後、万能細胞を薄く塗って、皮膚接合テープと創傷被覆材を貼って包帯を巻く。
 後は、破傷風ワクチンを注射する。
 よし。これで終わり。

「落ち着いて聞いてください。場所が場所ですし、傷口が思ったより大きかったので通常より丹念に縫い合わせました。包帯が取れるのは、1週間後になります。最初の内はちょっと見た目が良くないかもしれませんが、包帯が取れてから遅くとも2週間もすれば、まず傷口は解らなくなるはずです。救急車を呼んでおきましたので、念の為によく診察をしてもらってください。大丈夫。治りますよ。」
 俺は、安心できるように話しかける。
「助けてもらって、傷の治療もしてもらって本当にありがとうございます。かならず御恩はお返しします。」
「私は医者です。傷ついた人や病に苦しむ人を助けるのが、本分。お気になさらず。」
 俺は治療の経過と、今後の事についての意見を書いたカルテを救急隊員の人に渡して病院に搬送してもらう。
「さて、遅れたけど帰ろう。まったく、ああいった馬鹿は放置しないで欲しいね。」
「お前の髪の毛一本でも傷つければ、私が地獄へ放り込んでやる。そうなれば、減るだろうよ。」
 自分の仕事を邪魔された感じのラウラが、ちょっと不機嫌そうに言う。
 いずれにせよ。応急処置としては、出来るだけの事をやった。後は、病院できちんと診てもらえば大丈夫だろう。
 お大事に。
 これで、この件は終わった。
 終わったはずだった。
 普通なら…。

 10日後、俺は病院に呼び出されてオペを終えた後、ご家族に今後の事について説明を終えて、一息ついていた。
「先生、急患です!森で足を滑らせて落下。頭部をかなり強く打っているとの事です。すぐヘリが来ます!」
 森?
 こんな、夜遅くにか?
 少なくとも、カブトムシやクワガタを取りに行ったってわけじゃないな。
「何でまたそんな所に?」
「それは、患者さんに聞かないと解らないな。MRI、CTスタンバイ。十中八九手術になる。オペ室に麻酔科医と脳外科医を待機させて。」
 高度救命センターのスタッフの1人森先生が首を捻るが、今は患者さんが最優先だ。
 すぐに検査に入れるように、準備を指示する。

 ヘリポートに着陸したヘリから、患者さんが運び出される。
「10代後半。女性。勾配のある森の中で、転倒。勢いがついて、連続で頭部を強打ようです。森の入り口近くで倒れていたところ、防犯の見回りをしていた地域ボランティアが発見。神経の反応がありません。それから、酷い吐き気があるようです。呼吸困難でしたので、現場で挿管。血圧110−60。」
「急ごう。後は、任せて。」
「よろしく。」

「移すぞ。1、2、3。」
 患者さんを処置室に運んで、処置台に移す。
「バビンスキー反応あり。」
 神経の指令が、まともに伝わってないか。
 大脳がヤバいな。
 十中八九血腫が出来てる。
「頭蓋内圧を下げる。マニトール75mg瞬時投与。頭部X線、CT、MRI。それから、血流をモニター。脳の状態を把握する。」
「血圧115−70良好です。」
「脊髄液の漏れは、認められません。」
 せめてもの救いか…。
 でも、かなり厳しいのは間違いないな。
「検査結果出ました。」
 やっぱり、頭蓋骨折あるな。
 そして、予想はしてたけど脳挫傷か…。
 それに伴って、複数の血腫。
 しかも、一つ一つが結構デカい。
 脳内の神経細胞も、かなり破壊されてるな。
 神経細胞が集中している大脳基底核までは達していないけど、脳死の半歩手前だ。
 けど、これならまだ…。
「オペ室は?」
「準備できています。」
「すぐにオペを始める。まだ可能性がある。身分証明書の類は?」
 可能性がある限り、諦めてたまるか。
「生徒手帳が。」
「大至急親族に知らせて。」

 患者は藤代麻衣。
 私立女子高の2年生。
 隣の県から来て、寮に入っている女子高生だった。
 そう簡単には来れないので、まずは容態を説明して手術の同意を得てから、一夏は手術を始める。
 その間に、両親がこちらに駆けつけてくることになっている。
『それにしても、また会うとはな。』
 一番に駆けつけてきたのは、患者の友人で一夏が先週助けた少女だった。
 木谷恵。
 高校は同じだが、助けた場所から10分程の場所に住んでいる患者の一番の親友だった。

「始めます。レーザーメス。」
 切開の部分を確保するための必要最低限の髪の毛を剃っている部分を、レーザーメスで切る。
 切開した後を、器具で固定して頭蓋骨を露出させる。
「ピンセット。トレイ。」
 欠片になった頭蓋骨をピンセットで取って、トレイに載せる。
「尖頭する。クラニオトーム。」
 頭蓋骨に穴を開けるドリル、クラニオトームで等間隔に穴を開ける。
 そして、専用の電動鋸で頭蓋内の組織を傷つけないように、穴を繋げていき
頭蓋骨を除去する。
 救命センターで、頭蓋内圧を下げる処置を施してきたけど、頭蓋骨の一部を切除した方が、圧力が外に逃げてくれるのでいい。
 ここからが大変な作業だ。
 人間の脳は、硬膜、くも膜、軟膜で覆われている。それぞれを丁寧に分けて脳にたどり着く必要がある。
「クーパー。」
 まずは、一番外側の硬膜からだ。

「γグロブリン追加。ヴァイタル及びICP。」
 脳に辿り着いた一夏は、ヴァイタルと脳圧を確認する。
 脳圧は高すぎても低すぎても、リスクとなる。
「心拍数70。血圧114−68。ICP正常です。」
『まずは、第一関門クリアだ。これからは、きついな…。絶望的とまでは言わないけど、脳挫傷が酷い。幸い、それ以外は大脳の血流は確保されているから、血腫を取って壊死した脳を切除すれば希望はあるとはいえな…。』
「脳内血腫及び壊死した脳組織の除去に入る。ライト、患部のみ。」
「ライト、患部のみ。」
 オペ室の無影灯が、血腫のある患部以外は消される。
「患者さんへ衝撃と振動を与えない様に。他の神経組織を傷つけたら、植物人間決定だ。みんな頼むよ。」
「「「はい!」」」

 脳外科手術は、脳を傷つけないように患部へ慎重に辿り着いて、処置をする。
 一見すると地味だが、僅かなミスが患者に様々な障害をもたらすリスクが高く、集中力と冷静さが必要な分野である。
 血腫の部分に吸引器を慎重に辿り着かせて、血腫を吸引する。
「レーザーメス。照射範囲最小。」
 脳は血管がびっしりと張り巡らされている臓器なので、昔は出血との戦いだった。
 それを何とかしようと日本で開発されたのが、レーザーメスである。
 患部を焼く事で、瞬時に止血が可能。
 しかも、焼きすぎる事はない。
 開発されてから、さらに性能は向上している。
 一夏は出力を調整して、血腫除去後の止血と壊死した脳組織の切除で使い分けていた。
『やっと半分か…。』
 乱れかけた呼吸を、一夏は整える。
 オペ開始から、7時間が経過していた。
 既に夜が明けている。
 それでも、手術は続いていた。
 正常な組織や神経を傷つけないように、慎重に、慎重にオペを進める。
 ヴァイタルと脳圧を確かめて、必要なら薬剤の追加を指示する。
 極限まで集中力を高めながら、一夏は同年代の少女を救おうと手術を進める。

「よし。オペ終了。」
 骨折した頭蓋骨を修復した部分を含めて、切除した頭蓋骨を戻して脳を囲む組織と頭皮を縫合して手術が終了する。
 既に、正午過ぎ。
 14時間近い大手術だった。
 だが、普通なら20時間を軽く超える程であり、それ以前に手術に踏み切れる脳外科医がいたかどうかすら怪しい程の症状だった。
 それを約14時間程度で終了させた一夏が、どれほど非凡な外科医かが解る。

「すぐにICUに。ベッドアイソレータで外部からの細菌やウィルスの感染のリスクを無くす。それから、くれぐれも脳圧には注意。何かあったら、すぐに知らせて。」
 ICUに運ばれる患者さんを見て、俺は到着したご両親をご案内する。

「頭蓋骨骨折。その時の衝撃による脳挫傷に、脳内で血腫ができていました。正直に申し上げてかなりの規模でしたが、血腫と壊死した脳組織は全て除去しました。ですが、脳の神経細胞の破壊の規模も小さくはありません。麻酔から目覚めても、何らかの障害が残る可能性も少なくありません。今は、術後感染をふせぐ処置をしています。後は、頭蓋内の圧力が上がらなければ、おそらく意識は戻ると考えられますが、見通しは決して明るくはないのが現状です。とにかく、目覚めるのを今は待つしか。」
「よろしくお願いします。」
「出来る限りの事は、させていただきます。」
 俺はご両親への運ばれてきた時の状況と、手術の説明。
 そして、これからの事を説明して、ICUに面会に行く後姿を見た。
 医者は、こういうのを避けて通ることは出来ない。
 亡くなって悲嘆にくれるご家族の後ろ姿は、俺だって当然見て来ている。
 「出来る限りの事」か…。
 検査結果から予想される状況をシミュレートして、対処法を考えておくか。

「かなり難しい手術だったが、よく成功させてくれたな。さすがに、横須賀病院の看板医師だ。」
「院長。」
 三島海自一佐。
 横須賀病院の院長だ。
「まだ、これからです。脳挫傷とそれに伴う血腫。神経細胞の破壊の酷さを考えると、障害が出ない可能性はかなり少ないですから。可能な限り手術は早く終わらせたつもりですが、それでも約14時間。この間、除去されていなかった血腫が脳にダメージ与えたかもしれない危険性を思うと、明るい気分には到底なれません…。」
 問題は、そこだ。
 大脳は、脳の大半を占めるだけあって、知覚、記憶、運動神経、神経の伝達等様々な物を司る。
 それだけに、どんな障害が出てもおかしくない。
 まだ、修行不足か…。

「それでもよくやってくれたさ。並みの脳外科医なら、容態を見たら逃げ出したくなっただろうからね。手術に踏み切れた医師も何人いたか。確かに、道は険しいが、織斑先生はよくやってくれたよ。とにかく、後はやれることを精一杯やろう。リハビリ科とも相談しておくといい。明日の午後2時頃までは麻酔が効いている。次は目覚めてからだ。」
「はい…。」
 そうだよな…。
 今は、きちんと目覚めるのを待つだけ。
 その間、やれる事を考えよう。

「あの…。」
「ああ。木谷さん。藤代さんの御友達とは知りませんでしたよ。額の傷。もう、包帯が取れたようですね。」
 巻いていた包帯は取れて、創傷被覆材が張ってあるだけ。
 順調みたいだな。
「あの時は、どうもありがとうございました。カウンセリングまで手配して下さって。」
「事が事でしたからね。心の方もケアは必要だと思った。それだけですよ。」
 性的犯罪は、体の傷より心の傷の方が大きい。
 いわゆるトラウマになっても、9割は根気強く治療すれば乗り越えられる。
 けど、残りの1割。
 多くは、虐待や強姦の性的暴力で一生苦しむことになる事が少なくない。
 考慮して正解だったな。
「額の傷も、病院の先生驚いてましたよ。完璧な処置だって。凄く細かく丁寧に縫合してるって。こんな事が出来るのは、世界でもごく一握りの限られた医者だけだって。」
「縫合は練習をすれば、きちんとできるようになりますよ。どれだけ練習するかにも左右されますけど。私も、毎日の縫合の練習は欠かしませんからね。で、それだけですか?何か、御用向きがあると見ましたが。」
 そう。
 お礼を言いに来たのかと思ったが、どうも違う感じがした。
 瞳に陰りが見えたからだ。
「その、ここじゃ…。」
「では、私の執務室に。」
 どうやら、この件、訳ありだな。
 妙なお客さんもいるようだ。
 そっちは、あちらに任せておくけど。

後書き
日常で起きた事が、別の事に繋がるという事はない事ではないと思います。
時代劇では、相手が凶悪な犯罪者がごく普通の町人に成りすまし、奉公してごく普通の町人の娘さんと結婚する事によりさらに身を隠し、さらに犯罪に手を染めようという展開は少なくありません。
大岡越前では、結構よくあるネタでしたね。
他にも、偶然に見た物が大きな犯罪に関係しており、口封じの為に殺されるというのも刑事ドラマでは使われるネタです。
この話も、どうもその傾向がありそうです。
そもそも、夜の森に1人で入る時点で不自然極まりなし。
近くの林とかなら、カブトムシやクワガタを取りに行くということで納得は行きますし、私も子供の頃はよく取りに行った物です。
さて、大手術を終えた一夏に以前に助けて、手術をした患者さんの友人でもある少女の話とは?









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