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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第148話 奏でられるプレリュード<後篇>

<<   作成日時 : 2015/04/25 23:56   >>

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「たった今。織斑医師執刀による。新型人工心肺の埋め込み及び大動脈弁及び肺動脈弁置換手術が開始されました。今回使用される人工心肺は、バッテリーとコントロールユニットが一体化した初めての方式であり、外部にあるのは小型のコントローラーのみという非常に画期的な物であるだけに、医学界、医療器具業界の注目度も高く、またご家族の御許可の元。手術を全世界の医療機関にリアルタイムで公開するという物であります。」
 IS学園でも、休み時間では教師や生徒達が、ニュースを固唾を飲んで見ている。
「やっぱり、注目度高いですね。」
「症状も重いというからな。以前に一夏に聞いたが、技術が進んで小型冷蔵庫並みの大きさだった人工心臓も大分小さくなったとはいえ、外部にバッテリーやコントロールユニットがある分、どうしても不便さがある部分が否定できんそうだ。それが解消されるうえに、患者は苦しさと別れを告げられる。注目もされる。まして、患者は14歳の少女だ。」
「そうですね。」
 次の授業の準備をしながら、千冬、真耶、ヘンリエッテといった教師たちもニュースを見ていた。

「大動脈弁再建終了。次に、肺動脈弁に入る。メイヨー。」
「はい。」
 機械出しのナースから渡された器具を使って、一夏はボロボロになった肺動脈弁と正常な心臓の組織の境を正常に見極めて弁を切り取る。
「膿盆。」
 渡された膿盆に切り取った弁の残骸を素早く入れる。
「コロレーヌ8−0。」
「はい。」
 針付きの縫合糸を渡された一夏は、素早く弁を縫い付けていく。
 素早く、確実に。
 少しでも弛んでいれば、血流は正常にはならない。
 ほんのわずかな気の緩みも、許されなかった。
「脳波チェック。」
「異常無し。」
 縫い付けた部分を素早く結紮して、次の部分の縫合に移る。
 その間に、細かく脳波のチェックを行う。
 人工心肺が心臓の代わりに全身に血液を循環させているので、患者の容態を知るには脳波チェックが欠かせない。
「赤井先生。血液の漏れは?」
「認められません。」
 視野を確保しつつ、細部のチェックを行うために第二助手に入っている赤井医師がチェックの結果を報告する。
「肺動脈弁再建終了。時間は?」
「1時間ジャスト。」
『悪くないな。』
 弁形成手術の一つ僧房弁形成で弁形成に必要な時間は医師によって差はあるが、1時間から1時間20分程度と言われる。
 それを考慮すれば、一夏は半分の時間で弁の再建を終了したと言える。
「人工心臓の埋め込みに入る。」
 山場である、人工心臓の埋め込みが始まる。
 本来ならば、心臓からの血液を引き込んで大動脈と肺動脈にバイパスする形にするのが理想だが、メイズ手術と呼ばれる正常な刺激伝導系の信号の通り道を作り不整脈を改善する処置を施しても、稀に再発して血栓が形成されるケースがある。そうなれば再手術が必要になるが、心臓の機能が弱っていることから、症状が出た際の死亡率は高いと言っても過言ではない。極めて迅速な処置ができれば話は別になるが、常に誰かが付き添っていない限りは、難しい。かなり早急な移植手術が必要になっているが、日本では、未成年になると格段にハードルが高くなり、それが不可能なので今回の手術となった。ドール手術と呼ばれる手術によって、薄くなった心筋と正常な心筋の境を見極めて切除。パッチをあててちょうど巾着袋を作る様に切除部を巾着の口を絞る様に縫合。肥大した心臓の大きさを正常に近づける方法もあるが、これは左心室肥大に対応する術式であり、右心室に関しては別の手術が必要になる。期間を置いて手術するにしても、患者への負担が大きく、成功の保証が低い。何より、2回目の手術で心臓を停止させると再び拍動する事は、ほぼないという結論に達した。結果、心臓に送り込まれる血液を人工心臓に送り込み、血液の通り道とポンプ内部に血栓が作られるのを抑制するヘパリンコーティングを施した人工心臓側から大動脈と肺動脈へ理想的なリズムで血液を送り込む方式が採用されている。
 人工心臓へ血液を送るチューブと、大動脈と肺動脈へ血液を送るチューブが素早く取付けられる。

「時間。」
「1時間47分。」
 よし、人工心肺の使用時間は安全圏と言われる、2時間以内でいけそうだ。
 ただ、2時間以内に人工心肺離脱を終えても拍動が戻らないケースもある。
 それが心臓手術の怖さ。
 成功と失敗が、これ以上なく鮮明に、残酷に別れる。
 だからこそ、人工心肺の接続時間は短いに越したことはない。
 もちろん、的確にやらないと何の意味もないけどな。
「ポンプ機能チェック。刺激伝導系から収集した信号を送って。」
「送ります。」
 さあ。どうだ。
 俺は、ポンプと稼働状態を示す空中投影型ディスプレイを見る。
 ポンプの稼働状態は良好。稼働状態を示すディスプレイに表示されたデータも、オールグリーン。
 よし!
「機能。正常確認。」
「人工心肺、離脱用意。」
「離脱用意、開始します。」
 的確に人工心肺の離脱が行われる。
 そして、大動脈遮断を解除。人工心肺の離脱が終了し人工心臓に血液が送り込まれて、そこから全身に送り込まれる。
「機能。正常。問題ありません。」
「よし、閉胸に入る。骨同化固定リング、骨再生ナノマシン、縫合糸、万能細胞用意。」

「たった今、手術が終了。人工心肺の使用時間は安全基準とされる2時間以内。手術所要時間は2時間15分。患者の容態は良好で、現在ICUで経過観察に入っています。」
 放課後、ニュースで一夏の執刀による新型人工心肺の埋め込み及び弁再建手術の成功が報道される。
「さすが、織斑君よね。」
「あんなに一生懸命、手術のシミュレーションをしてたんだもん。成功するわよ。」
 生徒達は、一夏の手術の成功のニュースに大喜びしていた。
「やったな。」
「ええ。」
「うん。」
 箒たちも、嬉しそうな表情でニュースを見る。

「手術は成功です。現在はICUにいらっしゃって、意識も回復しています。長い時間は無理ですが、ある程度の時間なら面会も可能です。これからの日常生活に関しましては…。」
 この人工心臓は、稼働データがリアルタイムで外部コントローラーの大容量メモリーに蓄積され、自宅の小型データディスク。
 拡張アクセサリーとして、データディスクも用意されている。
 つまり、本体、自宅、主治医。
 それぞれに、リアルタイムで埋め込んだ人工心臓と患者の状態が記録され続ける。
 体調不良が起きた際にも、素早くデータの精査が出来る。
 また、抗菌及び抗ウィルス仕様なので、人工心臓が菌やウィルスの巣窟になる可能性も非常に低い。
 起こり得る様々な可能性を考慮して、設計されている。
 後は、普段通りに健康に気をつければいい。
 運動も、トップアスリート並みのハードな物でなければ問題はない。
 フルマラソンも年に一回なら、許容範囲である。
 つまり、普通の日常生活に戻れると考えればいい。
 バッテリーは、20年連続稼働できるだけの容量があり、問題が起きた際の予備バッテリーも搭載されている。
 これは、コントロールユニットも同様であり、各部がユニット化されており交換も容易である。
 年に1回病院できちんと動作しているかのチェックを受ける必要はあるが、それ以外は週に1回の通院で問題ない。
 薬の服用もほとんど必要ない程である。
 この人工心臓に、一夏はイエス・キリストの母である聖母マリアの名を付けた。
 「MARIA」
 それが、この人工心臓の名である。
 MARIAは、しっかりと少女の命を紡いでいた。

 やれやれ。
 手術より記者会見の方が疲れるって、何なのかね?
 もう、質問攻め。
 価格とか、生産体制とか、メンテナンス体制とか、質問が出るわ、出るわ。
 きちんと資料に、書いてたんだけどなあ。
 ん?
 おろ?
 何で、ござろうか?
 執務室の俺の机の上にバスケットがある。

「ああ。神無月さんという方が、置いていかれたんですよ。」
 冬菊が?
 さて、何だろう。
 バスケットの中には、中華料理のデザートを入れる器が入っていた。
 ふたを開けると、いろんなフルーツに沢山のクコの実、杏仁豆腐がシロップに何かを入れた物の中に浮かんでいる。
 これ、薔薇のジャムだな。
 ちょっと濃いめに煮詰めたのを、甘さ控えめにしたシロップで伸ばしたのか。
 で、メッセージカードが添えられていた。

 手術、お疲れ様でした。
 この日に備えて一生懸命に準備をなさっていたことを、色んな人から聞いています。
 一夏さんが、人の何倍も努力なさることは存じています。
 きっとうまくいくと考え、作っておきました。
 お召し上がりください。
 いつも、患者さんの為に全力を出す一夏さんを、心からお慕いしております。

 冬菊

 …………………………………………………………………………………………。

 内容的には、ちょっとどころか相当に困る…。
 諦めてないんだな。本当…。
 まあ、でも戴くか。
 美味い…。
 もっと甘みが強いかと思ったら、杏仁豆腐やフルーツとのバランスを考えて、シロップで伸ばしたジャムは香りも甘さも控えめにして全体的にちょうどいい。
 薔薇は、ハーブティーやアロマオイルでもメジャーで、リラックス効果がある。
 大変な手術だったからな。それを考えてくれたのか。
 何より、疲れた時には甘い物がありがたい。
 量もちょうどいい。
 最初で確かな一歩だった。
 術式は症例ごとにまとめ終っているから、すぐに医師向けの資料にできる。
 今日のオペは公開だったかから、各医療機関でも今後に向けての資料になるだろう。
 後は、役立つのを願うのみ。
 だな…。
 ご馳走様。
 さて、もう一回見に行ってくるか。

「ああ。先生。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「いえ。お嬢さん、頑張られましたよ。私どもは、そのお手伝いをさせていただいただけです。それから、これ。よろしければお持ち帰りください。オペの最初から最後までを記録した映像です。ご覧になるかは解りませんが、記念にはなるかと。」
 好んでオペの映像を見る一般の人はいないだろうけど、それでも頑張った記録にはなるはずだ。
「持ち帰らせていただきます。」
 ご両親と話していると、患者さんである藤井恵子さんが白衣の裾を引っ張る。
「気分はどうですか?」
「苦しかったのが嘘みたい。とても楽です。」
「人工心臓が、藤井さんの脳からの指令通りに動いて全身に血液を送り込んでいる証拠ですよ。3日間は経過を慎重に見て、順調なら4日後に一般病棟に移ります。移ってから1週間後に退院ですね。」
 傍らのモニターに映っているヴァイタルのデータに目を通すが、特に問題はない。
 人工心臓は正常に稼動している。
 このまま、きちんと動いていてくれよ。

「先生。私、退院したら、恋をしてもいいんだよね?」
「勿論。」
「結婚して、赤ちゃん産んでも大丈夫なんだよね?」
「ええ。そうなる様に手術をしたのですから。」
「これからは、普通に体育の授業に出たり、友達と遊びに行っても大丈夫なんですよね?」
「トップアスリートみたいな、相当にハードな運動をしなければ大丈夫。年1回ならフルマラソンも大丈夫ですよ。近くで誰かが携帯を使っていても、問題ない。普通にCTとかMRIの検査も受けらますから、日常生活にもさほど影響はないでしょう。月に一度の定期通院と、年一回の検診は必要になりますが、それ以外はないでしょう。」
 これが、MARIAの最大の売り。
 X線や電磁波への耐性は、軍事クラス。
 耐衝撃耐久性等の、頑丈さもな。
 日常生活をきちんと送れるようにするには、頑丈に作る必要があるしな。
 今までISや軍事関係で培った技術を投入して、頑丈に作っている。
 新型の人工心臓ではある物の、技術自体は既存の技術を応用しているから開発費もかなり抑えられた。
 そして、技術自体も成熟しているので信頼性は高い。
 勿論、念には念を入れて月に一度診察を受けて、年に一回の検診は受けてもらうけどな。
「よかった…。ありがとうございます…。」
 嬉しそうな笑顔で、お礼を言ってくる。
「私はお手伝いをしただけですよ。それでは、何かあったら呼んでください。」
 その日は病院で待機していたけど、経過は良好だった。
 翌日からは、普段通りの日常になったけど、必ず病院には行って容態をチェックするし、いつでも駆けつける支度はしてある。経過も、リアルタイムで俺の元に届くようになっている。

 放課後、ISの組み立てを始めようとした俺は、経過をチェックする。
 今日は一般病棟に移る日だったので、朝の鍛錬を終えてから病院にいった。
 今日からは体調を考慮して、食事は流動食だけど今までは高カロリー点滴や輸液で水を飲む事も出来なかった事に比べれば、進歩していると言っていい。
 少し歩いてみたけど、容態もかなり安定している。
 今は、点滴が3種類点滴台で投与。
 点滴台を持ちながら、トイレにも行ける。
 排泄機能も、正常に戻った。
 今日の診察と精密検査の結果を精査してカンファレンスで議論した結果、1週間後には退院。
 自宅療養を1週間。
 その後、学校に復帰でよいだろうという結果になった。
 後は、きちんと通院と検査を受ければいい。

 ISは、メインフレームが完成。
 メイン、サブ各スラスターも完成して、テスト結果も良好。
 武装も組みあがって、想定通りの威力だ。
 明日に組み上げて、明後日からテストだな。

 その時、特別調査局からちょっときな臭い情報と学術的データが入ってきた。
 勘弁してくれよ…。
 あちこち駆けずり回って、いろいろ話し合いの場をセッティングして、会議でも知恵を絞って、作戦を立案して、最終的には作戦指揮を任されてやっと終わったと思ったのに、またかよ…。
 ったく、雑草並みに厄介な奴らだな。
 いや、雑草より厄介で1000倍は性質が悪いな…。
 俺に回ってきたって事は、処理の依頼か…。
 けど、向こうにも花を持たせないとな。
 やれやれ、調整しながら、他の調整かよ…。
 まったく、忙しいんだから…。
 とはいえ、放置できないよなあ…。

 はあ…。

後書き
自分がリーダーを務めて開発した人工心臓を、自分が担当の患者さんに埋め込むという、技術者としても執刀医としても責任重大のオペ。
全身全霊の力を尽くして、一夏はやり遂げます。
患者さんも手術を終えて、だいぶ楽になった様子。
経過も良好で、一般病棟に移りました。
その後は、IS委員会で運用される第三世代ISの開発。
その合間にも、患者さんのチェックと余念がありません
そして、さらに何やら特別調査局からも情報が来たようです。
放って置けないとなると、あちらさんが動き始めた事のようです。

















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