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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第148話 奏でられるプレリュード<前篇>

<<   作成日時 : 2015/04/25 23:42   >>

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「やっぱり、駄目かしら…?」
「1日空けるのは、ちょっと無理ですね。仕事が山積みですから…。」
 俺は、渚子さんと最近評判の創作料理のレストランで食事をしていた。
 例の、黛先輩からの頼みについてだ。
 そりゃ、読者の人の期待には応えたいとは思う。
 けど、今は亡国企業関連だけじゃない。
 新しく始まる、新型人工心臓の治験の事がある。
 左右の心室の心筋がかなり薄くなって、心室が血液を送り出す役目をほとんど果たしていない。
 心臓が血液を大動脈と肺動脈を経由して全身に送り出すポンプとしての役割を示す指標である駆出率がかなり危険で、よくこれで生きているなと思ったほどだ。
 かなり重度の、拡張型心筋症。
 簡単に言えば、心臓が肥大してポンプとしての役割を果たさなくなる病気だ。
 その結果、心筋が膨らんだ風船の表面みたいに薄くなる。
 これじゃあ、ポンプとしての役割を期待するなんて無理だ。
 心臓の血管を拡張して、送り出される血液の量を増やすっていう手もあるけど、それでどうこうできる容態じゃない。
 病気の影響で、大動脈弁と肺動脈弁も酷い状態になってる。
 人工心臓の埋め込みに、弁形成も必要になるな。
 日本でも移植例は多くなってきたけど、まだまだ諸外国より少ない。
 しかも今回は、14歳の少女。
 未成年となるとハードルは、格段に高くなる。
 海外で移植するにしても、費用は莫大な物になる。
 そんな時、担当医の先生が、俺が開発した人工心臓の事を耳にして問い合わせてきた。
 カルテを見たら、可能性はあったのでその旨を伝えたら、横須賀で手術をすることになった。
 幸い、自宅は横須賀に近かったしな。
 手術は明後日。
 明日から、俺は病院に詰めることになる。
 カルテを見て、今の心臓の状態は頭に叩き込んでイメージしている。
 オペのシミュレーションも、何度もしている。
 後は、明後日のオペだ。
 何としてでも、成功させたい。
 まだ14歳。
 死ぬにはまだ早い。早すぎるんだ…。
 それに今回のオペでいい結果が出れば、治験に弾みがつく。
 移植が出来なくて苦しんでいる患者さんを、大勢助けることができる。
 それが出来るか、出来ないか。
 重要な、分水嶺だ。
「それに、明後日にはとても大事なオペを控えているんです。そちらもありますしね。」
「薫子から聞いてるわ。いろんな仕事と並行して、そっちの準備も入念にやってるそうね。その事も聞きたいのよ。私の知り合いには、いろんな分野の出版社の人間がいるけど、どの雑誌も注目しているわ。特に医療関係はね。今回の手術の結果は、国内。いえ、世界中で同様の病気と闘っている人たちにとって他人事じゃないって、話していた物。あなたの性格なら、その事にあらん限りの力を注ぎこむ。それ位理解している。だからこそっていう面もあるの。グラビア撮影は、相手の人は、あなたが良く知っている人で、ポーランドの件で、とても心配していたから安心させてあげたいというのもあるの。何とか、引き受けてあげられないかな?」
 俺が良く知っている人間?
 誰だ?
 いろんな分野の人と知り合いになってるから、解んないな。
 ただ、あの件では周囲にかなり心配を掛けたからそれを出されると、断りにくいんだよな。

「撮影を含めて、出来る限り短時間で。そこに十分配慮していただけると確約していただけるなら、お引き受けします。できますか?」
 一夏が渚子を真っ直ぐに見て、返事を待つ。
 多忙な中でも引き受けるとしたら、自分の事情も汲んでほしい。
 一夏も経営者として、渚子の立場は理解できる。
 編集長としても、一夏の企画はまさにドル箱。
 できれば、毎週、何らかの形で一夏の事を扱った連載も組みたいところだろう。
 だが、それが無理な事は理解している。
 ならば、偶にでいいから一夏へのインタビューとグラビア撮影を誌面に載せて読者の期待に応えて、部数を稼ぐ。
 とにかく、何らかの形で一夏とのパイプを確保したい。
 副編集長で、妹が一夏の先輩である渚子は交渉の窓口。
 構図は、一夏も既に理解している。
 それに、理解は示す。
 ただ、自分の立場、義務、責任にも理解を示せるか?
 一夏は、それを問うていた。

「解った。十分配慮してインタビューの内容に、撮影も考えておく。約束するわ。」
「でしたら、お引き受けします。薫子先輩には、随分ご心配もお掛けしましたし。これ位は…、ね…。」
 そう言って、グラスに残ったワインを飲み干す。
 すかさず、グラスにワインが注がれる。
 店側としても、今や侯爵家の当主であり、社会的地位のある上流階級の人間である一夏が来店するとは思ってもおらず、接客には細心の注意を払っていた。

「それでは、日曜に。」
「ええ。手術の成功。心より祈っているわ。これは私の本音よ。一生懸命開発した人工心臓。きっといい結果を残すわよ。じゃあね。それと、無理を言ってごめんなさい。」
 渚子が深々と頭を下げて、今回の事で一夏に謝罪する。
「俺も、経営の世界に身を置く人間ですからね。そういった事情は、解ります。けれども、他の世界にも身を置いている。そして、それぞれの世界での義務を果たす責任を負っている。それを、理解していただければいいです。では、これで。」
 別に酔ってはいなかったが、外の空気に当たりたくなってしばらく一夏は歩く。
 周囲は気付いていないが、一夏のまわりは選りすぐりの護衛でガードされている。
 個人戦闘のプロフェッショナルである一夏に護衛は不要と言ってもいいが、それでも万が一という事もある。
 護衛の必要はあった。

 やれやれ。
 誰だか知らないけど、後を引くよなあ…。
 薫子さんの知り合いで、俺の事を知っている…。
 知っているというのも、程度の差があるしな…。
 誰だ?一体…。
 会ってみれば解るよな…。
 多分…。
 さて、誰なんだか…。

 翌日。
 一夏は、自衛隊横須賀病院にいた。
 明日の人工心臓埋め込み及び大動脈弁及び肺動脈弁再建手術に備えて、最後のカンファレンス及び家族への説明を行うためである。

「患者さんは。藤井恵子さん14歳。8歳の頃に拡張型心筋症を発症。当初はACE阻害薬の中からカプトリルを服用。後にジギタリスを追加。経過を慎重に見ながら、スピロノラクトンが追加。ですが、不整脈を発症。現在では…。」
 カンファレンスで、俺は患者さんの病状の経過を説明する。
「カラードップラー検査でも、左右の心室がほとんど機能していない事が明白です。また、これに伴い、肺動脈弁及び大動脈弁も機能が徐々に低下。駆出率の低下の一因にもなっております。現状では、かなりひどい状態です。今後の事を考え、今回の術式を選択しました。これが不整脈に関するデータになります。今回の症例では僧房弁及び三尖弁に異常はありませんので、こちらから人工心臓への血流を確保。大動脈弁と肺動脈弁を、心膜を使用して再建。全身への血流を確保します。留意すべき点は、人工心肺のポンプ機能が患者さんにとって理想的であるか否かです。これに関しましては、今までの検査データからシミュレートした結果から判明しておりますが、刺激伝導系からの指令を人工心臓に伝達させて術中にチェックを行います。埋め込み後、最低3日間はICUでの経過観察が必要になります。この3日間が最後のハードルです。これをクリアしたら、一般病棟に移り10日程で退院の運びになります。」
 麻酔科医の大山先生、臨床工学技士秋本さん、助手の心臓外科医山村先生、赤井先生。
 皆、百戦錬磨のベテラン。
 腕は信用できるが、かなり緊張してるな。
 無理もない。
 今回使用する人工心臓は、今までとは違う。
 通常人工心臓は本体を体内に埋め込んで、コントロールユニットに電池は体外にある。
 まだ、ペースメーカーの様に全てを一体化する技術が無かったのもあるが、移植を待つ間に患者さんが亡くなるケースも少なくない。
 今回使用する人工心臓は、コントロールユニットとバッテリーを一体化し、外部コントローラーは小型のリモコン式になっている。
 ほとんどSF映画か、仮面ライダー、サイボーグ009の世界だからな。
 緊張もするさ。
 でも、俺は開発陣と共に幾つもの思いつく限りのケース。
 しかも、最初から高いハードルを設けて実用に充分に耐え得る物を目標に開発を進めてきた。
 今まで歩んできた道程が無駄でない事を、俺は信じている。
 何より、開発チームのリーダーの俺が信じないでどうする。
 そして、俺は執刀医と主治医を兼ねているんだ。
 信じなければ、成功する手術も成功しない。
 だから、信じる。
 自分を、開発スタッフを、共にオペ室で手術に挑む医師や技師たちを、何より患者さんの命を。

「失礼します。」
 一夏が回診で患者の病室に行くと、両親と共にいる少女。
 今回の一夏の患者である、藤井恵子が酸素マスクを着けたまま横になっていた。
「初めまして。今回の手術の執刀を担当させていただきます織斑です。回診と術式の説明の為に伺いました。」
 心臓の状態が悪いが、それでも必死に生きようとしている目の前の少女に、一夏は笑顔を見せる。
「初めまして。ちょっと、診察をさせてもらいますね。」
 心音を聴いて、脈診をすると改めて容態の深刻さが解る。
『カラードップラーに、3Dエコー。その他の検査で理解しているつもりだったけど、予想以上に悪いな。よくこれで持ち堪えられているよ…。』
 一夏もプロなので、心の中の事は顔には出さない。
 普通に、診察をしていくだけである。
『カルテにあった通り、僧房弁と三尖弁は大丈夫だ。なら、見込みはある。』

「では、術式の説明になります。お嬢さんの心臓は、血液を全身に送り出す力が弱いので今の様な症状になっています。これを改善する為に、今回は埋め込み型の人工心臓を使用します。機能としては、血液を全身に送り出すポンプの役割をする心室の働きを肩代わりする物です。心室に送られてきた血液が人工心臓に送られてきます。これを大動脈弁と肺動脈弁に直結して、全身に送り出します。それに伴い、機能が著しく損なわれている大動脈弁と肺動脈弁の再建を行います。今回は、心臓を包む膜上の組織、心膜を使用しますので、血栓。つまり血の塊が出来て心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクは格段に下がりますし、抗凝固剤等の服用が必要になる確率も非常に少なくなります。今回使用する人工心臓は、初めて治療に使用されるのでリスクをゼロと申し上げる事が出来ないのは誠に申し訳なく思います。ですが、ゼロに近づける様、私どもスタッフは全力でオペに取り組む所存です。」
 どんなオペにも、危険は伴う。
 悔しいけど、医療に絶対はない。
 けど、ゼロに近づける努力は出来る。
 今回のオペは初めての症例になるので、無論危険はつきまとう。
 それでも、俺達は全力でその危険に向き合い小さくする努力を惜しまない。
 そして、成功させる。
 俺達に出来る、全てをやりつくしてだ。
「「よろしくおねがいします。」」
「全力を尽くします。」
 頭を下げられる両親に、俺は全力を尽くしてオペに取り組むことを約束する。

「どうでしたか?織斑先生。」
 今回のオペで第一助手を務める山村先生が、回診の様子を聞いてくる。
「思った以上に悪い。けど、オペが出来る範囲ではあったよ。予想より容態が悪くなっているのも想定はしていた。」
 「勿論、明日まで充分に注意する必要はあるし、オペが早くなることもあるけど。」
 と、一夏は付け加えながら、回診のデータを入力して容態のデータを更新する。
『刺激伝導系のデータをきちんとシンクロさせれば、大丈夫なはず。そこが勝負だな。』
 人工心臓は様々な種類があるが、基本的には心臓の機能であるポンプの役割を全面的に代行したり部分的にアシストする面では変わりはない。
 後はポンプの方式に違いがあるだけだ。
 一夏が開発した人工心肺は、「リズムシンクロ方式」と名付けられている。
 これは、患者の刺激伝導系からの命令を受けて、限りなく心臓の動きに近づけた人工心臓を稼働させる方式である。
 人間の組織に限りなく近い人工組織の研究・開発で世界最先端を行く芝崎ならではの人工心臓と言えるだろう。
 そして、容態が悪化する事なくオペの日になった。

 オペ室には、人工心肺等心臓外科に必要な様々な器具が運ばれる。
 その中に、人工心臓の調整用コンソールも含まれている。
 家族用の待合室では、両親が既に入っていた。

 この人工心臓を使用した、初めての手術だ。
 やっぱり、緊張はするよな。
 ま。誰でもそうだろうけど。
 一緒に手を洗っている山村先生も赤井先生も、普段通りの表情だけど緊張しているのが空気で解る。
 けど、やることは同じだ。
 患者さんの為に、全力を尽くす。
 ただそれだけ。
 そう言えば、俺が14の時って何度も進路指導室に呼ばれていわゆる進学校に入学する様に勧められてたっけ。
 そんな気は欠片も無かったから、断ってたけど。
 にしても、何処から嗅ぎつけて来たのかマスコミまで来てるしなあ…。
 はっきり言って、滅茶苦茶迷惑だっつーの!
 周りで騒がれるのは、本当に嫌だね。
 よし。洗い終わった。
「行きましょう。」
 今日改めて検査をして、イメージの再確認は既に終えている。
 準備は整った。
 後は、俺達外科医の戦場。
 オペ室で、患者さんの命を奪おうとする死神をぶちのめすのみ。

「麻酔は?」
「OKです。」
「人工心臓の調整準備。」
「終了。」
「山村先生と赤井先生は、人工心肺の装着を。私は弁の再建準備に入ります。」
「「はい。」」
 心膜を切り取って、再度、検査データでの大動脈弁及び肺動脈弁の理想の状態を確認する。
 よし。いくぞ!

 頭に描いたイメージ通りに一夏は大動脈弁と肺動脈弁の形成を進める。
 心臓外科の手術は、F1レースに例える事が出来ると言った心臓外科医がいる。
 スピーディーに、やるべき事を確実にやる。
 少しでもそれが出来なければ、リタイア。
 即ち、患者の死が待っている。
 その手を止めることなく、一夏は交換する大動脈弁と肺動脈弁の形成を行う。

 よし、終了。
 俺が頭に描いていた理想通りの、弁に仕上がった。
「人工心肺は?」
「いつでもいけます。」
 いいタイミングだ。
「大動脈遮断。心筋保護液注入。」
 大動脈鉗子で、しっかりと遮断する。
「心筋保護液注入しました。心臓停止。完全体外循環開始。」
 さあ。スタートだ。
「メス!」

後書き
仕事とは縁が切れない一夏。
今回も仕事、しかし、IS委員会関係ではありません。
以前にもやりましたが、医師としての仕事。
一夏が手掛けている、医療機器関係とをリンクさせた物です。
医療もののドラマとか漫画はよく読むので、これをメインにしたのを以前からやりたいというのもありまして、今回やることにしました。
今回は、人工心臓。
最近は、小型化が進んでバッテリーにコントローラーを外に出すほどになっているそうです。
ただ、個人的には、全部一体化出来たら、使用している人も楽になるのではと思って、話の題材にしました。
医師の目から見ても、もっているのが不思議という14歳の少女を救うための一夏の戦い。
始まります。











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後篇へ続く。

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