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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第116話 一夏と由香里

<<   作成日時 : 2014/08/23 23:59   >>

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「補機相転移機関。問題無し。」
「主機縮退炉。問題無し。」
 ブリッジでは、各部のチェックが行われていた。
「閣下。機関部に問題はありません。」
 がっしりとした体つきで、顎鬚を整えたIS委員会直属の軍服で大佐の階級証を付けた士官、オトマール・フォン・ヴァヒテル大佐が一夏に報告する。
「機関始動シークエンス。開始。」
「はっ!補機相転移機関、始動。」
「補機相転移機関始動。」
 ブリッジのクルーが復唱すると、機関部の相転移機関が始動する。
「相転移機関。異常なし。」
「出力100%。フライホイール始動。」
 相転移機関のフライホイールが、作動し始める。
「フライホイール、正常作動。補機出力安定。正常稼働。」
『ここからが、本番だな…。』
 補機であるプラズマ構造相転移機関は、確かに正常に稼働している。
 だが、主機がきちんと稼働しなければ意味がない。
 艤装前に、一夏は様々なケースを想定して各部のチェックを行っているが、それでも気は抜けなかった。

「主機縮退炉、始動!」
「主機縮退炉、始動。」
 縮退炉が指導する。
「縮退炉、出力上昇係数問題無し。」
「縮退炉、出力100%へ。」
「フライホイール始動。」
 縮退炉のフライホイールが、作動し始める。
「縮退炉。フライホイール正常作動。機関部出力安定、問題無し。」
「推進系及び索敵、各攻撃兵装、FCSに動力伝達。」
 オペレーターから、各部の状況が逐一報告される。

『よし。一安心だな。』
「閣下。出航準備完了いたしました。」
 ヴァヒテルの報告に一夏はうなずいて、前を見据える。
「両舷。微速前進。」
「両舷。微速前進。」
 一夏の命令を、ヴァヒテルが伝えて空中戦艦はゆっくりとドックを出る。

「ご覧ください。飛鳥商事のドックで建造されていた空中戦艦アヴァロンが、いよいよ竣工し、我々の前にその優美な姿を披露する時が来ました。全長473m。水線幅123m。基準排水量12万t。満載排水量13万8千tの前代未聞の超大型艦にして、人類初の空中戦闘艦。機関部には、総司令官にして設計開発の最高責任者である織斑一夏中将が開発したプラズマ構造相転移エンジン2基を補助機関とし、主機関にはフェルミ縮退炉1基を搭載。推進機関には超大型PICと磁気推進器を搭載。強力な兵装を各所に搭載し、索敵、火器管制も世界最先端の物を搭載。今年のIS学園実技試験の際に、南北米大陸の受験生達を護衛する艦隊を襲った謎の超大型機動兵器に対抗すべく、IS委員会が建造を決定。そして、今、本日の就役式典に臨んでおります。私も、この歴史的瞬間を目の当たりにして、興奮を抑えきれません。」

 テレビ局や、見てる人達には悪いけど、アホらしいことこの上ないね。
 こんなのが役に立つのは、ごく短期間だってのがどうして理解できないのかね?
 亡国企業を壊滅したら、あっという間にお役御免。
 保有し続ければ、恫喝の対象とか散々に言われるのは明白だ。
 お偉いさんも、その程度理解できないのかよ…。
 これも給料分と我慢しているけど、冗談じゃないぜ。まったく…。

「閣下…。」
 表情に微かに出たらしく、それを見た虚さんがそっと声を掛けてくる。
 ちなみに、虚さんは最近少佐に昇進。
 大尉から少佐に昇進するのは、ハードルが高いんだが、各国の軍隊の軍大学の入学試験をベースに作成した試験を虚さんは、満点でパス。
 物の見事に、少佐に昇進した。
「解っている。けど、あきれもするさ。君以外には気づかれないようにするがね。」
 クルーの士気にも影響が出るからな、表情にも気を付けないといけない。
 面倒というか、何というか。
 その後、式典が始まる。

 やれやれ。
 長かったね。
 IS保有国の首脳がゾロゾロいるもんだから、警備も大変だし。
 本当に大変だね。
 で、これが終わればつくば型護衛艦に就役式典に、アイオワ級の再就役式典。
 式典ばっかだ。
 今回の試験航海が、今日中で終わるのがせめてもの救いだね。
 地球をぐるっと一周して来るけど、そんなに時間もかからないしな。
 それが、アヴァロンの凄さの一端でもある。
 というより、地球一周くらいはさっさとできないと話にならないわけで。
「周辺、障害物なし。離水に支障なし。」
「離水上昇。発進。」
 ヴァヒテル大佐が、発進用意の命令を出す。
 アヴァロンのPICで船体が浮上し、磁気推進器が作動して発進する。
「高度12000で水平飛行。各部試験に入る。」
「了解です。閣下。」
 既に、試験航海のコースでは様々なテストの準備が整っている。

「無事に、試験航海に出発しましたね。」
「私に言わせれば、数ある軍艦の中でも最も無駄な試験航海だ。一夏の設計が確かだと確認されても喜ぶ気には到底なれんな。」
 安堵している真耶とは対照的に、千冬は不機嫌の泥沼に浸かっていた。
 千冬の予想が正しければ、5年も経たずにアヴァロンは退役することになるだろう。
 既に亡国企業は、拠点を潰されただけでなく進出できる地域もほとんどなくなっている。
 本拠地を調べ上げるのは決して楽な事ではないが、それでもそう長い年月は掛からないだろう。
 一夏が奔走して、インターポールやユーロポール。
 さらに、各国の諜報機関とも連携しながら、調査を進めている。
 前例がない程に、調査が進んでいる。
 そうなれば、本拠地を壊滅させるまでの時間は短くなる。
 そして、亡国企業を壊滅させれば、アヴァロンの存在は各国にとって邪魔になるだけである。
 結果、退役せざるをえない。
 莫大な建造費用が、短期間で無駄になるのである。
 千冬にとっては、無駄以外の何物でもない。
 従来の水上艦をベースに、ISの装甲材と兵装を使用した艦を建造するなり、既存の艦を改修すればいい。
 その方が、ずっとコストは安く済む。
『馬鹿共が…!!』
 込み上げてくる不快感を、千冬はコーヒーと共に飲み干した。

「閣下。到着いたしました。」
「ご苦労。」
 夜。
 試験航海を終えて、各部の点検と整備。
 それから、データの検証を終えてから俺は寮に帰った。
「一夏。お帰りなさい。」
「ああ。ただいま。」
 寮に帰ると、由香里が待っていた。
「夕ご飯は?」
「まだ。レーションで済ませるよ。ストックあるしな。」
 こういう時は、本当に便利だな。
「駄目よ。きちんと食べないと。すぐに、作れるようにしてあるから。一夏の部屋のキッチン、借りていい?」
「ああ。じゃ、頼むよ。」
「うん。食事が終わって一休みしたら、訓練の事話し合おう。」
「ああ。」
 わざわざ、俺の帰りを待っていたのかよ。
 律儀と言おうか、何と言おうか。
 気にしないでいいんだぞ。

 和気藹々としている一夏達だが、それを見ている怨念じみた多くの視線が合った。
「おのれ…。一夏め…。」
「私を、選ばないなんて…。」
「霧島さんも、やってくれるじゃない…。私達をさしおいて…。」
「一夏…。僕たちの事、まるで忘れたみたいに…。」
「私の嫁だというのに…。」
「ラウラのお嫁さんじゃないけど、これはちょっとね…。」
「霧島さん。プロポーション中々よね…。やっぱり、一夏は胸のある子を選ぶんだ…。」
「一夏様…。酷すぎます…。」
「ちょっと、周囲を見なさ過ぎよね…。」
「私の方が、相応しいのに…。」
「いきなりしてやられるなんて…。」
 一夏が由香里のパートナーとなる事を承諾してから、翌日には全校中に知れ渡った。
 これに、箒たちは激怒。
 一般生徒達は、つい最近までは一般生徒だった由香里が一夏のパートナーになった事は心中複雑だった。

「小娘共。いつまで、そこに張り付いている?」
 通りがかった千冬が、全員の頭の上に拳骨を投下する。
「とっとと、部屋に戻らんか。霧島とペアを組むのを選んだのは、織斑だ。お前たちが、どうこう言う問題ではない。それとも、この中の誰かと織斑がペアを組んだのなら納得したのか?」
 千冬の言う事は正論なので、誰も言い返せなかった。
 仮に、セシリア達の内の誰かとペアを組んだとしても、残りのメンバーはやはり激怒しただろう。
「こんなところにいる暇があるのなら、本番に備えて戦術を組み立てていろ。」
 そう言って、千冬はその場を去った。

 翌日。
 一夏は、由香里と共にタッグマッチに向けてのトレーニングをしていた。
 準専用機持ちから専用機持ちになり、短期間で最新鋭第三世代ISである瑞鳳を使いこなせるようになったとはいえ、由香里はまだまだ未熟だった為に、それを考慮して一夏はトレーニングメニューを考えている。
 必ず、基礎訓練をして、それから修正点を洗い出してそれを自覚させ直させながらレベルアップさせる。
 それが、一夏の方針だった。

 大分、修正点は減ったけどまだ残ってるな。
「由香里。付喪神を、もっと積極的に使ってみてくれ。種子島とうまく連動させるんだ。片方をメインにしている時に、もう片方がまだ宝の持ち腐れになってるぞ。」
「解ったわ。」
 瑞鳳の兵装の一つ、BTデバイス「付喪神」。
 初期のBT兵器と違い、格段に扱いやすいので単体なら由香里は十分に使いこなしている。
 ただ、多目的ライフル「種子島」をメインに使っていると、どうしても性能を引き出し切れていない。
 双方に意識を割く事が、まだ出来ていないんだな。
 これだと、もったいない。

「全てのターゲットを、どうやって叩くかをイメージしてみてくれ。最初の内は、大まかでいい。戦術的思考を少しずつ組み込んでいけば、もっとうまく使えるようになる。」
「解ったわ。」
 う〜ん。
 BT兵器の制御系に、問題がありそうだな。
 由香里の技量には、これといった問題は見受けられない。
 今日中に見ておくか。
 そう言えば、白兵戦兵装にもBT兵器の技術を応用しているんだっけな。
 両方、見ておく必要があるか。
 ロールアウトしたばかりだから、大分あちこち手直しが必要になりそうだな。
「付喪神の方は、俺が見ておく。ちょっと使いづらいだろ?今日は、それ以外の戦闘技術のおさらいをして終わりにしよう。」
「うん。でも、よく解ったわね。さすがは、一夏か。」
「俺も含めて、BT兵器を使う奴多いからな。」
 白式の式神、紅椿の白拍子、ブルーティアーズのブルーローズ、イリュジオンのサントシュバリーズ、シュヴァルツェアレーゲンのベスティエ等とにかく周囲にBT兵器を運用するISは多いからな。
 使っているのを見れば、どんな状態かはすぐに解る。

 酷いな。おい。
 あちこち問題だらけだぞ。BT兵器系。
 ハード系の改修に、OSにも手を加えないと。
 その他の部分でも、あちこちに見逃せない問題が見受けられる。
 きっちり、確認してからパイロットに任せろよな。
 BT兵器単独なら大丈夫だけど、他の兵装と一緒に運用しようとすると途端にパイロットの思い通りに使えないようになる。
 言いたくないけど、欠陥品に近いぞ。
 仕方ない。今日中に問題点は解消しよう。
 これじゃあ、先が思いやられるし事故でも起きたらまずい。
 まずは、ハード系か…。
 げ…。
 コアの調教が必要だぞ。
 まあ。これ自体は楽なもんだが。
 はあ。やれやれ…。
 ここの所、忙しかったからあまり時間が取れなかったとはいえ迂闊にも程がある。
 BT兵器単体では問題ないんだが、ちょっと複雑な運用をすると途端にボロがでる…。
 今回の事は、メーカーに報告しておくか。
 焦っているのは解るが、まともなISが作れないようじゃ意味がないからな。
 それとも…。
 ありうるな…。
 セコイ真似しやがって…。

「成程…。その見方はあながち的外れとは言えんな。」
 瑞鳳の整備・改修を終えて、メーカーへの報告書を作成し終わった後、俺は職員室にいる千冬姉にコピーを渡した。
「運用データを基に仕上げていくのは珍しい事ではありませんが、確かにこれは問題というか、酷すぎますね…。」
 山田先生が、深刻そうな表情になる。
 実を言うと、山田先生と辻島重工には浅からぬ縁がある。
 代表候補時代、専用機としていた第二世代IS「白菊」は辻島重工製だったからだ。
 当時の資料に目を通してみて気付いたが、機体に今一つキレがない。
 その部分は、山田先生が腕でカバーしていたが最終トライアルで、倉持技研製第二世代IS「飛鷹」に敗れた。
 機体性能にも若干差はあったが、何より機体のキレの面が最後にたたって飛鷹を専用機にしていた当時二尉だった岩本一尉に敗れている。
 こうなるのも、ある意味当然かな。
 だからこそ、俺が瑞鳳を改修した時のデータを欲しているか…。
 自分自身が、馬鹿なピエロに思えて憂鬱になりそうだ。

「まずは、向こうのリアクションを見よう。山田先生。織斑と明日辻島に行って報告書を渡してくれ。今回は、山田先生の方がいいだろう。」
「解りました。」
 明日の予定が決まると、一夏の携帯の着信音が鳴る。
「はい。うん…?解った。出来るだけ早く行く。」
 そう言って、一夏は携帯を切る。
「すいません。病院から呼び出しがかかって…。」
「じゃあ、パイロットに連絡を…。」
「いえ。ヘリの運転訓練なら、習志野時代で嫌になる程やっていますから大丈夫ですよ。」
 通常の半分以下の時間でISに関する訓練を終わらせた一夏は、戦車、装甲車、各種ヘリ等の操縦訓練も受けており、特例ながらヘリコプター操縦士の資格も持っている。
「こういう時の為に、パイロットがいる。いちいち気にするな。」
 夜も遅いので、一夏は自分で操縦しがちなので千冬はそれに関して言。
 その間に、出発の準備は整っていた。

「一夏?どこかに行くの?」
「由香里か。病院から呼び出しが来たんだ。」
「じゃあ。ちょうどいいかな。お礼に海苔巻作ってきたけど、向こうでお腹がすいたら食べて。一口サイズだから空腹しのぎにしても手軽だと思うし。」
 手に持っていた、弁当箱を渡してくれた。
「じゃあ。お仕事頑張ってね。」
 そう言って、俺の頬にキスした後、由香里は部屋に戻る。

「状況は?」
 病院のヘリポートに着いた俺は、救命センターの名塚先生に状況説明を求める。
「交通事故で搬送された患者さんが、12人。現在処置中が8人で、残りはオペ中です。こちらにカルテが。」
 こりゃ、酷いな腕の骨が複雑骨折した上に外に飛び出ている。
 切開した上で、骨をプレートでつなぎ合わせなきゃならないがちょっと手間食いそうだな。
「整形外科に連絡。他に事故の連絡は?」
「今の所はありませんが、処置中の患者さんの中に膵臓破裂に十二指腸と腸間膜損傷の多臓器損傷の患者さんが確認されています。既に腹部は血の海に…。」
「そちらは、引き受ける。オペ室に運んでいる時間はないな。処置室で執刀する。麻酔医と当直の外科医を呼んでくれ。容体が酷すぎるから、こちらを最優先にする。処置で手が足りない場合は、他のスタッフを緊急招集。クロスマッチ血液を30。いや、40単位用意。それから、自己血輸血装置」
「解りました。」
 かなり酷いな…。
 検査データを見る限り、膵臓破裂の具合が相当酷い。
 修復可能なのが、せめてもの救いだ
 PD(PancreaticoDuodenectomy:膵頭十二指腸切除術)か…。
 もう、何度もやってるけど、今回のは膵臓の状態が相当に酷いからかなりヘビーだな。
 PDの執刀時間は、平均4時間。
 けど、4時間なんてかけてたら患者さんが持たない。
 体力を考慮すると、3時間程度で済ませられるのが理想的。
 やるしかないな…。
 手洗いを済ませて看護師にガウンを着せてもらいながら、俺はそう考えていた。
「オペ準備完了しました。いつでもいけます。」
「よし。いくぞ。メス!」
 ここからは、時間との勝負だ。

『一夏。今頃、頑張ってるんだよね。』
 夜、トイレに行った後、寝つけない由香里は寮の廊下の窓から、自衛隊病院の方向を見ていた。
「どうした?就寝時間は過ぎているぞ。」
 見回りをしていた千冬が、由香里を見つけた。
「すいません…。お手洗いの帰りだったんですけど、一夏のこと考えてたら、寝付けなくて…。」
 頭を下げながら謝る由香里を見て、千冬は頭痛を堪える表情になった。
「あの馬鹿者。また増やしたのか…。まあ、今はいい…。心配するな。あれは、ちょっとやそっとで根を上げるような柔な男じゃない。それは、この学園の生徒なら知っているだろう?心配しないで、早く寝ろ。改修後の瑞鳳の事もある。」
「はい…。」
 不承不承といった感じではあるが、由香里は部屋に戻る。

「何も心配はいらん。一夏は私の。初代ブリュンヒルデにして世界最強のISパイロット、織斑千冬の唯一人の血を分けた弟だ。それを覚えておけ。」
 そう言い残して、千冬は見回りに戻る。
『そうか。そうだよね。』
 ようやく納得した由香里は、部屋に戻ると冷蔵庫の中身を見る。
「よし。これなら大丈夫。」
 エプロンを着けて、ルームメイトを起こさないように下拵えを始める。

「手術は成功です。」
「よかった…。先生…。ありがとうございます…。」
「頑張られたのは、ご主人ですよ…。出血量が非常に多く内臓損傷もかなり酷かったのですが、よく頑張ってくださいました。10日程でICUから、一般病棟に移れるでしょう。1カ月半もすれば退院できます。その後は、自宅療養で予後を見ながら職場復帰の時期を相談しましょう。それでは、お大事に。」
 患者の家族に説明を終えて、一夏は再度状況の確認をする。
 オペが必要な患者は、無事成功。
 その他の患者も、現在は病室にいる。
「織斑先生。少し、休んでください。3時間未満でPDを終えたのですから、相当に体力は消耗している筈ですからね。とにかくあれは酷すぎた。」
 開腹してみると、膵臓の破裂の具合は予想以上に激しく、再建するにしても非常に高い技術が必要で、さらに一夏は患者の体力を考慮して可能な限り短時間で終わらせようと、いつも以上に正確で迅速に終了させた。
 それが、どれほど体力を消耗するか、オペ室のナースも助手の外科医もよく理解していた。
「解った。ちょっと、腹ごしらえをしてくるよ。何かあったら、必ず呼んでくれよ。」
「はい。」

 ま。確かに、いつものPDよりかはハードだったけどそんなでもなかったんだけどな。
 まあ。いいや。
 ちょうど、小腹が空いてたしな。
 どれ。由香里のお手製海苔巻。
 開けてみますか。
 お。鉄火巻に太巻き。かんぴょう巻に裏ごしした梅にゴマを巻いたのとかっぱ巻き。
 おかずは、鶏肉の照り焼きか。
 デザートには、ゼリーが入っている。

 うん。美味い。
 鉄火巻は、ヅケにしてるのか。
 普通の鉄火巻も美味いけど、ヅケはさらに美味い。
 そう言えば、江戸前寿司は本来ヅケが主流だったからな。
 太巻きは、でんぶにふっくらとした厚焼き玉子。
 椎茸を甘辛く煮た物に湯がいた三つ葉。
 でんぶは海老を使った物か。
 厚焼き玉子もいい出来で、でんぶとの相性もばっちり。
 甘辛く煮た椎茸は、泣かせるよな。
 ちらし寿司もそうだけど、酢飯と本当によく合う。
 そして湯がいた三つ葉が、味を引き締める。
 何か、ご馳走食べた気分になるんだよな。
 かんぴょう巻は、いつ食べてもほっとするんだよな。
 第一、飽きがこない。
 梅とゴマを巻いたのは、梅の酸味とゴマの香ばしさが最高だ。
 かっぱ巻きは、簡潔に言えばきゅうりを巻いただけなのに何でこんなに美味いんだと言いたくなる。
 海苔巻には、やっぱり欠かせない。
 おかずの鶏肉の照り焼きはたれの甘さを抑え気味にして、海苔巻と一緒に食べても満足できるように工夫されている。
 デザートはさっぱりとしながらも、デザートとして満足感がある梅のゼリー。
 そう言えば、由香里の実家は寿司屋だったな。
 具もそうだけど、巻く時の力の入れ具合もちょうどいい。
 海苔巻は巻く時にゆる過ぎず固過ぎずが中々難しいんだが、この塩梅がちょうどいい。
 ご馳走様。
 よし。腹ごしらえも済んだ。

「先生。立て続けに、6歳から8歳の子供が4人運ばれてきます。」
「症状は?」
「保護者の方の話だと、どうも喘息らしいのですが診察ではそうは見られなかったようです。」
 喘息らしいのに、診断されなかった?
 どういうことだ?
 別の病気か?

「また、酷い咳をし始めて。ここの所、酷くなる一方で。」
「何か、薬は?」
「これを。」
「先生。酸素飽和度98です。」
 咳は酷いのにサチュレーションは、正常。
 出された薬は、ノスカピンにムコダイン。
 ん?サルタノール?
 軽い鎮咳剤に、去痰剤。
 ここまでは解る。
 なのに、サルタノール?
 何。考えてるんだよ?
 喘息と診断しないのに、大人でもコントロールが難しくなるようなのを出すなんて何考えてるんだ?
 こんな事言いたくないが、とんだ藪医者だぞ。
「お子さんは、以前から風邪を引いた時とか、夜に咳が酷くなる時はありませんでしたか?」
「ほとんどいつもです。」
「何か、検査をお受けになられたことは?」
「アレルギーと最初の血液検査以外、特には…。」
「何かアレルギーは?」
「いいえ。何も。」
 つくづく、呆れる!
 これだけの酷さ、しかも昔から咳が出る時。
 典型的な、喘息の症状じゃないか!
 検査をした後の薬の処方のおざなりさに、加えてあれを少しでも疑わなかったのか?
「お子さんを診察したのは、内科医の先生でしたか?」
「いえ。近くの病院の呼吸器専門の先生でした。」
 馬鹿野郎!!
 呼吸器専門で、こんな無責任な治療しやがってそれでも専門医か!?
 典型的な隠れ喘息じゃないか!!一から勉強し直せ!!
 とにかく、発作を治めないと。
 この分じゃ、これから来る子供たちも同じと見ていいな。
「吸入前後に、ピークフローを計って。スペーサーを使ってアドエア50を50μg吸入。それから、ソルメドロールを200のソリタT3に30mg加えて点滴。落ち着いたら、血液ガスと気管支の検査をする。すぐに準備を。」
「はい。」
 さてと。これからの治療方針も話し合わないとな。

「隠れ喘息?じゃあ…。」
 付き添ってきた患者さんのお母さんが、やはりという表情になる。
 つか。普通はなるな。
「ええ。検査はこれからですが、お母さんのお話と今の症状からほぼ間違いないでしょう。正真正銘の喘息です。これは通常の喘息とはタイプが異なるので、見逃されるケースがあります。それでも、呼吸器科医ならば知っているのですが、お子さんを診察なさった先生は知らなかったようですね。」
 正直、腹の底から怒りが込み上げてくるが今はそれを堪える。
 目の前の患者さんが、最優先だからな。
「あの…。今晩の発作が治まったとしても、これからどうすれば…。」
 今通院している所じゃ、満足な治療は受けられない。
 冗談抜きで、死にかねない。
 かと言って、あまり遠いと緊急の時は困る
「お住まいは、どちらに…?」
 住んでいる所の近くに、信頼できる呼吸器の専門医の人を知っているので今日の症状の詳細なカルテと俺からの紹介状を渡す。
 その後、容態が落ち着いて検査をしてみたけど、やはり隠れ喘息だった。
 気管支の炎症が慢性化して、気管支の内腔が狭くなるリモデリングが起きている。
 おかしいと思ったら、どうしてステロイド治療をしないんだよ!?
 昔はともかく、今は色々あるだろうが!!
 ああ!!もう!!
 とにかく、頭にくる!!

 早朝に、俺は寮に戻った。
 結局、運ばれてきた子供は揃いも揃って隠れ喘息。
 幸い容態は落ち着いて、住んでいる地域を考慮して信頼できる医師への紹介状を書いて、詳細なカルテと共に渡した。
 診察した医師の頭をたたき割って、中に脳みそと糠味噌のどちらが詰まっているかの確認をしたくなったぜ。

 溜息をついて、ドアを開けようとするとドアの傍にバスケットが置かれているのを見つける。
 ん?手紙。
 えーと。どれどれ。

 お仕事。お疲れ様。
 一夏の事だから、どうせ訓練には出るんでしょうけど、ある程度はお腹に入れておいた方がいいと思ったので、サンドウィッチを作っておいたわ。
 じゃあ、訓練の時に。

 由香里

 そんなに、気を遣わなくていいのに。
 でも、せっかく作ってくれたんだ。
 鍛錬前の腹ごしらえで、食べておきますか。

後書き
無事に一夏のパートナーは決まりましたが、一夏の多忙さは相変わらず。
空中戦艦「アヴァロン」の就役式典に、試験航海。
試験航海のデータのチェック。
タッグマッチに向けての訓練で発覚した、瑞鳳の不具合とそこから透けて見えるメーカーの思惑。
そして、箒たちの怒り。
まあ、箒たちに関しては、千冬の言う通り一夏のパートナーは一夏が決める事であって、外野がどうこう言う事ではありません。
相手が千冬であるのに加えて、完全に正論なので反論はできません。
そして、医師としての仕事では、あまり知られていない隠れ喘息といい加減な治療。
この隠れ喘息は実際にありまして、呼吸器の専門医でも気づかないケースが少なからずあります。
特徴的な症状がないと喘息ではないと診断したり、しても大したことは無いと診断して、薬の処方もいい加減な事がこれまた少なからず。
事実、私も隠れ喘息に近い喘息で、いくつかの病院を転々としたことがあります。
喘息じゃないと診断されたこともありますし、いい加減な薬の処方をされたこともあります。
一時期、医療不信になって病院に行くのも嫌になりましたが、父の勧めで北里大学付属の漢方科で症状をどうにか抑える事が出来ました。
それから、就職してしばらくしてから再発。
本屋で喘息の名医について調べて、今の掛かりつけの先生に診てもらっています。
大変に喘息やアレルギーに知識のある方で、他の医師に新しい薬の使用の指導もしていらっしゃる人です。
元々は、ある大学病院の呼吸器科の医長だった人で開業しようとした時には、周囲から散々引き止められて開業が遅れたそうです(笑)。
今回は、いつもとはちょっと話の内容も違ってきます。
最近、専用機持ちになった由香里の存在が影響してきます。
一夏も何か思う所があるようですし、さてどうなりますか?
















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