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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第99話 亡霊は夜に蠢く

<<   作成日時 : 2014/04/26 23:54   >>

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 ルイジアナ州ルイ・アームストロング・ニューオーリンズ国際空港。
 一夏は、ある目的で空港に降り立った。
 護衛として、ラウラに更識家のSPが付いている。

「ミスターオリムラ。お待ちしておりました。ノースロップ・グラマン・シップ・システムズを束ねております。スペンサーと申します。」
 50代で、やや太り気味の男性が俺を出迎える。
 目を見たが、問題無さそうだな。
 まあ、今の州知事はインド系アメリカ人だからそんなに心配する必要はないのかもしれない。
「お出迎え。恐縮です。イチカ・オリムラです。」
 殊更警戒する必要もないので、普通に挨拶をする。
「ヘリを待たせております。どうぞこちらへ。」
 空港の一角にあるヘリポートに待機しているヘリに乗って、俺は目的地へと向かった。

『ここは大丈夫そうだな。だが、ミシシッピ州は気をつけろよ。表には出さんだろうが、苛つく事が山盛りの可能性がある。』
『気にしていたら、始まらないさ。それに、俺が黙っていると思うか?そういう時は、きっちり言うさ。』
 実は今回の渡米に当たり、ちょっと懸念事項があった。
 尤も、心配していたのは山田先生達だったけどな。
 しばらく飛んでいると、目的地に着いた。
 エイボンデール造船所。
 ここが、今回の目的地だ

「現在。可能な限りの人材を投入して、アイオワ、ニュージャージーの近代化改修が行われています。船体の拡張工事と合わせて、機関の換装。換装可能な一部兵装の換装も同時並行させています。」
 再就役が決定した、4隻のアイオワ級戦艦の近代化改修の技術支援がこの造船所に俺が来た目的である。
 と言っても、設計図とスケジュールを確認してアドバイスをするのが主だ。
 別に俺がいなくても、自力で再就役させるだけの技術力をアメリカは持っているからな。
「竜骨は問題なかったようですね。」
「戦艦ですからね。肝心要の竜骨は頑丈ですよ。念のための補強をして、シミュレーションを行った結果、問題ないと結果が出ました。全幅を拡張する際は、各工場で製造した船体をこちらに運ばせていますので工期は大幅に短縮されております。」
「ですね。船体はかなり出来上がっていますね。」
 元々、この造船所はルイジアナ州で最大の企業だったが、当時以上に人を動員しているな。
 とは言っても、各部は随分機械化されているのでそれが大きいけどな。
 それに。

「EOSが想定以上に、作業に貢献しています。電源ケーブルを接続しているのが些か情けないですが…。」
 国連で開発したEOSは、アメリカや欧州の企業が中心になって開発が進められている。
 事実、ラウラが新装備のテスト用にドイツで使っていたのは、ドイツの産業ロボットメーカー、クーカ社製の製品だ。
 この企業も、EOSの開発プロジェクトに参加している。
 日本では、俺が開発指揮を執ったHEGが大型護衛艦の建造に試験的に導入されており、どの現場でも極めて好評との声を聞いている。
 これを見せたのは、何らかの形でEOSを日本に売り込むために俺を通じて情報を伝える為か、もしくはHEGのライセンス生産権を得ようと考えた際にライセンス料を少しでも少なくするための交渉カードとも考えられる。
 事実、EOSの開発にはノースロップ・グラマンやボーイングと言った軍需産業も参加しているからな。
 こういう駆け引きをする可能性は、否定できない。
「作業機械として、これだけ実用に耐えるのは評価に値すると考えます。各部の作業状況を拝見させていただきましたが、特に問題は無いようです。動力系の問題が未解決ではありますが、それさえクリアすれば用途は広がるでしょう。事実、HEGは既に免許試験の為の講習が始まっています。」
 芝崎の技術顧問兼社外相談役として、こういう場合でも牽制はしておく必要がある。
 経営にも関わる以上、HEGで利益を出す為の努力をする義務があるからな。
 さて、船体はかなり出来上がっている。
 機関は従来のボイラーとタービンが撤去され、ガスタービン、ディーゼル発電機、補助電動機を搭載する工事が行われている。
 スクリューも、新型の物を搭載しているな。

 にしても、よく再就役が議会で承認されたよなあ…。
 運用コストや、仮想敵となる艦が存在しないというのもあったけど、何よりあちこちガタがきていたのが退役させられた理由だ。
 それを再就役させるなんて、まともな人間なら正気かと思うだろう。
 俺だって、その1人だ。
 それこそ、ズムウォルト級の建造計画を拡大した方がよほどいいと思ったからな。

「やはり。力の象徴としては、戦艦が一番解りやすい。最新型のミサイル駆逐艦が優れているのは理解できますが、どうしても見た目がね。それに、あれだけの巨大兵器に艦隊が襲撃されましたからな。国民も、不安になっていたのですよ。無論、議会や軍もです。いっそ、新造艦として戦艦を再設計した方が良いのではと議論も出ました。ですが、アイオワ級を上回る戦艦の設計図は我が国には存在しません。ズムウォルト級の拡大再設計艦という案も出ましたが、様々な面で検証すべき事が多すぎて、結局アイオワ級の再就役になったのです。
無論、近代化改修に際して様々な面でシミュレートせねばなりませんでしたが、それでも新規設計よりかは早く済みましたよ。」
 成程。
 出来る限りの早期再就役は予想していたけど、精神的支柱が欲しかったわけか。
 本土攻撃の経験がないし、アメリカ海軍はいまだ通常戦力では世界最強。
 想定外のアクシデントに弱い、国民性なのかな?
 確かに、戦艦ほど軍事力の象徴になりやすい艦艇は無いしな。
 アメリカの誇る機動艦隊も頼もしいけど、見た目ではやっぱり戦艦に軍配が上がる。
 まして、アイオワ級は歴戦をくぐり抜けてきた殊勲艦。
 それが、再び大規模な近代化改修を受けて生まれ変わったと宣伝すれば、効果は高いと踏んだか。
 現場での作業をチェックしてみたけど、特に問題点は無いな。
 後は、これからの作業予定や改修計画のチェックか。
 多分、大丈夫だと思うがきちんとチェックを入れておかないとな。
 さらに作業を効率よくすすめ工期を短縮するアイデアが出れば、改修に掛かる費用も節約できる。
 新規建造より費用が圧縮できるといっても、莫大な予算が掛かるの事実。
 それは、何とかしたいだろう。
 俺を呼んだアメリカの本音は、そこだろうからな。
 さて。チェックに入りますか。

「そうか。表向きは問題ないか。」
「はい。ですが、メインイベントが待っておりますので油断はできません。私と一夏ならそこらの連中に後れを取ることはないと思われますが、引き続き警戒を続けます。」
「そうだな。各方面機関の動きが気にかかる。更識家でもマークしてくれているが、警戒は厳重に頼むぞ。」
「はっ!」
 千冬の言葉に、ラウラが復唱し通信は終わる。
 6日間の予定で、ルイジアナ州エイボンデール造船所とミシシッピ州のインガルス造船所で技術支援を行い、一夏は幾つかのアドバイスと技術指導を行った。
 だが、今回の訪米の最大の目的が別にある為に、未だに警戒を怠ることは出来なかった。

「どうでしたか?」
 真耶が心配そうに訊ねる。
「大丈夫だったようだな。さすがに、支援を要請したのだから一夏が不快感を覚えるような事はないようにするということだろう。」
「そうですね…。」
 真耶が危惧していたのは、ルイジアナ州とミシシッピ州が所謂“ディープサウス”と呼ばれる南部の州に含まれている事だった。
 嘗て、アメリカを二分した南北戦争のアメリカ連合国に含まれていた7つの州等を語源として、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州、ジョージア州、サウスカロライナ州の5つの州が通常上げられる。
 保守性の強い地域で、嘗ては根強い有色人種に対する人種差別が存在し、日本人旅行客が非常に不快な思いをした事もある。
 現在でも差別が残っている地域があり、アメリカ留学の際には注意が必要である。
 それ故に、真耶は一夏が不快な思いをしないかどうかを心配していた。
 無論、ディープサウスの全ての人間がそうではないし、根強い差別には他州の批判もある。
 アイダホ州出身のイーリと、国内のアジア系アメリカ人の3分の1が住んでいるカリフォルニア州出身のナタルはこの状況を良く思っていない。
 特に、一夏を愛しているナタルはディープサウスの根強い差別が残っている地域の現状が変わることを強く願っている。
 親日家であるマクドネルも、同様である。
「マクドネル大佐や、ファイルス中尉には良いお話が出来そうですね。お2人とも、とても心配していましたから。」
「まだ早いぞ。メインイベントが控えている。」
『さて…。どう動く。CIA。』
 最大の懸念。
 CIAの思惑を、千冬は考えていた。

 ミシシッピ州ジャクソン・エヴァース国際空港を出発し、バージニア州ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港で、俺はある人物と接触した。
「CIA。NCS(National Clandestine Service:国家秘密局)対テロ対策課長のクライド・トンプソンです。今回は協力に対して心から感謝します。」
「お気遣いなく。」
「ここでは。さすがに話せません。本部で詳細を話しましょう。」
 裏に待機していた車で、俺達は本部に案内させられた。

 バージニア州マクレーン。
 世界でもトップクラスの諜報機関である、CIAの本部がある。
 その地下に、俺は案内されていた。
「衝撃的な物を見る事になるが、ご容赦願いたい。」
 何だ?
 随分、抽象的な言い方だな。
 だが、部屋に入った時に俺は全てを理解した。
 そこは、遺体安置所になっており、ほぼ全てが極めて奇妙な死に方をしていた。
 どうやら、これが俺が呼ばれた理由らしい。
「いつからCIAは、死体のコレクションを始めたのですか?しかも、焼死体のようにお見受けしますが…?」
 まずは、状況確認からだ。
 CIAに、死体が集まっているのも気にかかる。
「第一に、警察に引き渡すわけにはいかないからです。」
「理由は?」
「焼死体ではないのです。夜に我が国の要人を暗殺し、朝にはそうなっていた。警察に軍の対テロ特殊部隊。誰も、手を下してはいない。異様にも程があるでしょう?」
 何だ?そりゃ。
 聞いたことないぞ。そんなの。
 只一つだけ言えるのは…。
「人間ではないようですね。まともな人間が、こんな死に方をするとは到底思えない。」
「それが第二の理由です。最初の検死解剖で結果が出た際に、この件は警察やFBIを関わらせるわけにはいかんという結論に達しました。これが、検死報告書です。」
 渡された検死報告書を見て、俺は目を疑った。
 これに該当する病気を、俺は一つだけ知っている。
 けれども、明らかに異様過ぎる。

「渡さなかったわけが、頷けます。手におえたとも思えませんね。急性のポルフィリン症で片付けて、その後は何もできなかったでしょう。何しろ、それ以降の死体はそれだとまるで説明が付きませんから。FBIの科学アカデミーでも、どこまで真相に迫れたか…。それ以上に、妙に外部に漏れでもしたら大変なことになっていたでしょうね。」
 ポルフィリン症。
 人間の血液や、筋肉に含まれるポルフィリンと呼ばれる物質の代謝異常が起きて異常に増えた結果、様々な症状が出る病気の事だ。
 主に、症状は2種類に分かれる。
 内臓や神経系に影響を及ぼす、急性ポルフィリン症。
 皮膚に水泡や壊死といった症状が出る、皮膚性ポルフィリン症。
 血液や尿。便の検査で確認できる病気だが、患者さんの数が少ないので他の病気と誤診されたりすることもある。
 以前は、日光を徹底的に避ける必要があったが、治療法が進歩して様々な治療薬や日光を遮断するための特殊な日焼け止めが保険適用になっている。
 症状が急に悪化した際に投与できる薬も、ある。
 それでも根本的な治療薬は無いので、患者さんは生活面で気を付けなければならない事が多いのが現状だけどな。
 ちなみに、今、増えすぎたポルフィリンの量を調節するための医療機器を芝崎で開発していて、間もなく完成して厚労省に治験の申請ができる。
 これは、人工透析器の技術を応用したもので、定期的に使用することでポルフィリンの量を一定値に保つための機器だ。
 特徴として、一般家庭で十分使用できる。
 病院への通院は、大変だからな。

「それにしても、見れば見るほど異常ですね。皮膚性ポルフィリン症に見える物ばかりだ。尤も、それで焼死体のようになるなどありえませんけどね。内服薬の他に、赤血球の成分輸血や瀉血。塗り薬で症状は抑えられますから。」
「さすがに、こういった患者数の少ない病気にも造詣が深いですな。総合診療の世界で、既に広く名が知られているだけの事はある。」
「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、とにかく異常過ぎます。もう少し検死解剖を進めたいのですが、よろしいでしょうか?それと、私なりに調べたいことがあるのですが。」
「無論です。その為に、我々に対する不信感をお持ちでも、無理を言って協力していただいているのですから。最大限、便宜を図らせていただきます。」
 俺は検死解剖をすべく、着替えに向かった。
 必要な機材には、事欠かない。
 事前に、可能な限り準備をしていたようだ。

 鼻腔内に、大量に浮腫が出来てるな。
 頭蓋は、内部から破裂してる。
 血管の状態から、血液が一気に沸騰したと見ていいな。
 皮膚も、あちこち炭化している。
 まるで、マグマの高温に長時間さらされたみたいだ。
 朝になったらこうなったって言ってたけど、日光程度でこうは絶対にならない。
 もしそうなら、とっくに人類は滅亡しているからな。
 警察の検死じゃ、もし、ポルフィリン症とは違う可能性を考えてもそこで行き止まりだな。
 あまりに異様過ぎる。
 FBIなら、もっと突っ込めたかもしれないが。
 成程。俺が呼ばれたわけがよく解ったよ。
 全ての遺体を見ると、遺体の損傷が暗殺の度に酷くなって行っているけど、体組織を採取しての検査は十分に可能だ。
 そして、DNAを検出しての各種調査も問題なくいける。
 そんじゃ、ま。
 いきますか。

『一夏。』
『どうした?ラウラ。』
 各種分析設備が置かれた部屋で分析をしていると、秘匿回線でラウラが通信を入れてくる。
 俺直属の護衛という事で、ラウラは部屋にいる。
 監視カメラや盗聴器の類がないことは確認しているし、そんな必要ないと思うんだけどな。
 ま、定期的にNCSのエージェントが顔を出しているけどな。
 監視というよりかは、今回の件ではCIAですらほとんどお手上げになっているって事か。
『それから、教官から連絡があった。更識の調査で判明したのだが、今回暗殺されたのは亡国企業派の政治家や官僚だけだそうだ。』
 うん?
 逆じゃないのか。
 意外だな。
『アメリカから手を引く準備を、始めたのか。それとも、邪魔になるから消して再構築を始めたのか。別の思惑か…。』
『どの可能性もあるな。』
 ラウラの言う通り、どの可能性も現在では否定できない。
 今回の、一番厄介な点だな。
 この生体兵器といえる兵士を作っている場所も突き止めなくちゃならないけど、思惑が一番気にかかる。
 それによっては、俺の動き方にも影響が及ぶ可能性がある。
 拠点が欧州だったら、相当に厄介だ。
 今一番信用できて、情報網を構築できているのが欧州。
 ここを潰されると、一からやり直し。
 それだけは、避けたい。
 さて、どうしたもんかね?

『今回の件に関しては、CIAは信頼できると見ていいだろう。無論、お前にちょっかいを掛ける一派もいるだろうが。』
『だろうな。それ位は解っているさ。邪魔は入るかもしれないが、分担作業だな。こっちで出来るだけヒントを提供して調べて貰おう。明日には、揃う。』
 今俺が行っているのは、システム生物学を用いての組織の分析だ。
 システム生物学は、システム工学の手法を用いて生命現象をシステムと捉えて分析する分野だ。
 白式の全容解明で得られたノウハウを利用して、医療関係の業務で俺はシステム生物学を積極的に導入して、分析に使用されるプログラミング言語SLBM(Systems Biology Markup Language)の他に、俺独自の手法でいろいろと生命の減少や遺伝情報に新陳代謝や体内の様々な生理学的な反応を解明しては、医療分野での開発に役立てている。
 この方面でも、俺はいくつも論文を書いているから学会じゃ知られている。
 CIAは、そこに目を付けたんだろう。
 後は、場合によってはドンパチになる。
 そっちもあてにされたか。やれやれ。
 まあ。連中が絡んでいるのは、すぐに予想が付いたからその部分だけは構わない。
 分析を進めて、解った事がある。
 この件の解決は、俺も関わらないといけないという事だ。

 翌日。俺は調査結果の報告をしていた。
「各々の検体を調査した結果。日光を浴びた場合に、皮膚性ポルフィリン症がさらにエスカレートしたような現象が起こる様に染色体に手が加えられています。アミノ酸配列も、同様です。また、特定の染色体へのアプローチも積極的に行われていました。この部分の染色体は、他のポルフィリン症の症状の併発に関係する染色体なのですが、起こる確率を可能な限りゼロにするような試みが行われていたとみてよいでしょう。」
「まるで、ドラキュラを思わせるな。より研究が進めば、日光を浴びた途端に灰になるということもあり得るのでしょうか?」
「最終的な到達点は、そこだと推測します。連中の狙いは、犯人の形跡を残さない暗殺者。そう見て、間違いないでしょう。公式書類からは個人情報が特定できず、さらにDNAを調べようにも灰からでは無理ですから。」
 トンプソン課長が、眉間に皺を寄せている。
 ホラー小説の世界の住人だったドラキュラが暗殺者になるなんて、考えただけでも気分が悪くなるからな。
 それ以前に、どっちも信じていないけどな。
 中世のドラキュラは、ポルフィリン症の事が知られていなかった事が理由だし、狼憑きはライ麦の保存方法が良くなかった結果、麦角菌に感染したライ麦で作ったパンを食べてアルカロイド中毒になったのが原因だ。
 だから、現代にドラキュラだの狼憑きが現れたなんて言われてもピンとこない。

「製造施設のある土地の候補は、どんな場所だと思われますか?ミスターオリムラ。」
「まず。都会は無いでしょう。妙な施設は都市伝説になって、人伝いに広まります。どんな形にせよ情報漏洩は避けたいはずです。そうなると、自然に囲まれた土地で、何らかの工場に偽装していると考えるのが妥当です。その上で、電力消費量や各種機材の購入の流れを追えば、判明する筈です。実は、私も既に始めています。」
 情報収集だけなら、ロバート達でも大丈夫だ。
 電力の消費量や、各種機材の購入状況はことさら危ない橋を渡る訳じゃない。
 前者は、電力会社関連の情報。
 後者も、実験機材を扱う企業関連の情報を整理すればいい。
 どちらも、取引である以上痕跡を残すのは不可能だし、躍起になって消そうとすれば却って怪しまれるぐらいは連中も理解できる。
 それより突っ込んだ事は、CIAの仕事だ。
 アメリカ国内の事件なんだから、自分たちの功績にしたいだろうからな。
 俺が口を出さなくても、必死になるだろう。

「製造施設の割り出しも重要ですが、暗殺対象の警護も必要ですな。既にリストアップはしていますが、数が少なくないだけに後手後手に回りかねません。」
「UAVを複数運用して、索敵を行えば早期に対応が可能でしょう。それに今までのデータから、事件が起きているのはワシントンD.C。網を張るのは、さほど難しくないと考えます。問題は、どの部隊を当てるかですね。CIAには、軍の特殊部隊のような組織はありませんし。」
 場合によっては、俺達でやるか。
 かと言って、碌に情報なしだと協力を要請した軍との間に軋轢が生まれそうだ。
 ホワイトハウスが通常営業なら、こんな事を考える必要はないけど今の状態じゃそうもいかないな。

「いえ。我々にもそう言った面でのカードはあります。」
「それは何より。」
 そう言ったカードは機密だから、さすがに教えてくれないだろう。
 だから、聞かない。
「これは、CIAでも極秘事項の最たる物になりますので、くれぐれも他言は無用に願います。あるチームを使います。NCS特殊工作部隊“アンダーテイカー”。それが、チームの名です。」
 アンダーテイカー。
 葬儀屋か。
 物騒な名前だぜ。
 確実に相手を葬り去るだけの練度を、持っているって事か。
 抜かりはないな…。
「私は、要人暗殺犯の精密検査及び射殺した場合の死体の検死解剖。今回は、それに徹すると解釈して良いのでしょうか?」
「今回、アンダーテイカーの指揮をお願いしたい。亡国企業という得体のしれない相手だけに、あなたが最適です。危険にさらす事は重々承知の上ですが、なんとか承諾いただきたい。」
 だろうな。
 俺が駆りだされることぐらい、予測はしていた。
 向こうとしても、鍛えぬいた虎の子の部隊を投入するんだ。
 犠牲者は、少なくしたいはずだ。
「トンプソン課長。イタリアの件は耳に入っているでしょうが、IS学園の承諾が必要です。解っておいでですか?」
 ラウラが、念を押すように言う。
「無論です。学園の承諾を戴けないのなら、無理にやっていただこうとは思っておりません。」

 トンプソンと話した後、ラウラは千冬に連絡を入れていた。
「一夏は納得しているのか?」
「はい。連中が絡む以上、自分が出るのは義務のように考えている。そんな感じがします。」
「そうか…。それならば、許可を出さんわけにはいかんな…。サポートを頼む…。」
「はっ!お任せください。」

 通信を終えた千冬は、椅子に座り沈痛な表情になって何かを考えていた。
『何かが…。一夏の中で、何かが変わった。そんな気がしてならない…。しかも、たまらなく嫌な予感がする…。いつか、当たりそうな…。』
 考え続ける千冬を、真耶は心配そうに見ていた。

「アルファリーダーより、ヘッドクォーター。情報を求む。」
「こちら、アルファリーダー。敵影を捕捉。これより、データを送る。」
 手元の端末に、データが送られてくる。
 今回使われているUAVは、ロッキード・マーティン RQ−170 センチネル。
 全翼型で、ステルス性を強く意識した機体設計になっている。
 極秘部隊のこの部隊にとっては、都合がいいか…。
「こちら、アルファリーダー。オールアルファ。状況を報告せよ。」
「アルファ2。配置につきました。」
「アルファ3。準備よし。」
「アルファ4。対象の家族への襲撃の気配は、今の所ありません。」
「アルファリーダー了解。引き続き待機せよ。」
「「「了解!」」」
 今回動員したのは、1個小隊。
 あまり多いと、目立ちすぎるからな。
 俺とラウラが直接率いる、第1分隊。
 狙撃とバックアップを担当する、第2分隊。
 護衛対象の護衛と遊撃役の、第3分隊。
 そして、家族の護衛を担当する第4分隊。
 それを、センチネルを操作するトンプソン課長たちが支援する。

「そろそろ来るぞ。今回は、護衛対象の生命が最優先だ。相手を生け捕るに越したことはないが、無理だと思うなら即刻射殺しろ。アルファ2。狙撃準備。アルファ3も配置につけ。アルファ4は、引き続き周囲を警戒。」
 指示を出していると、端末に新たな情報が来る。
 俺がAN/PVS−15 暗視装置を下ろすと、全員が続く。
 練度の高い部隊に、余計な指示はいらない。
 最小限の指示で、理解してくれる。
 頃合いか。
「状況開始。」
 敵は、護衛対象を挟撃しようとしている。
 センチネルには、ジャミングポッドも搭載されているので情報戦ではこっちが上。
 先手を取らせてもらうぜ。

 相手のアサルトライフルは、イジェマッシ AK−12。
 AKシリーズの、最新モデルだ。
 発射音から、5.45×39mm弾だと解った。
 5.56mmNATO弾を使うと、政府関係者が裏で糸を引いていると思ったかな。
 7.62×39mm弾は、海外で米軍の特殊部隊がつかう事もあるけど、5.45mm弾は珍しいからな。
 普通なら、選択は間違っていないかもしれない。
 けど、こういう場合は却って疑惑の種になるぜ。
 あからさまに素性を隠したいのが、解っちまうからな。
 にしても、連中いい腕してるな。
 予想はしていたけど、生け捕りは無理か。
 仕方ないな…。
 俺は容赦なく、急所を狙う。
「アルファ2。狙撃開始。」
 アルファ2のスナイパー達が、H&K MSG90A2で容赦なく仕留めていく。
『ラウラ。そっちは?』
『1人だが。戦闘不能にした上で捕えた。ほとんど、射殺するしかなかったがな。さすがに練度が高い。負傷者が出ていないのが、幸運だな。』
『こっちは、粗方片付いた。』
 ラウラと通信をしている間に、俺の率いるチームは次々と敵を射殺していく。
 念の為の備えをしているとはいえ、ここを抜けさせるわけにはいかないからやむを得ないか…。
 結局、残りの敵は全員射殺した。
 だが、そんな中で正真正銘の人間がいた。

「こいつが例の?」
「はっ!敵の指揮官と思われます。サー。」
 常識的には、そうだろうな。
 やむを得ず、射殺したのは痛かったな。
 確率は低いにしろ、何かを聞きだせたかもしれない。
 今さら言っても、仕方ないか。
「よし。死体を回収。後始末は手配してある。撤収準備。」
「こちら、アルファリーダー。状況終了。これより撤収する。アルファ3及びアルファ4は、任務を続行する。」
「了解。2分後に別班が到着する。到着次第撤収されたし、すでに検死解剖の準備は整っている。」
「アルファリーダー了解。敵生存者1名を捕縛している。尋問の用意を頼む。」
「ヘッドクォーター了解。」
 交信を終了すると、後始末の班が到着する。
「よし。撤収するぞ。」
 さて、次はどう出てくるかな。
 その前に、根城を潰したいところだな。

『一夏。いいのか?これからも、こういう事が続くなら私から教官に上申して、対応するが…。』
『いつまでも、俺だけ綺麗なままではいられないさ。奴らを潰すには、俺自身も汚れないとな。もし、政府の要人を殺さなきゃならないなら、俺は殺すぜ…。奴らを潰すのに、俺が直接動いている以上そういう時もいつかは来る。罰は潰した後で受けるさ…。そうすれば、セシリア達を巻き込むこともないだろうからな。』
 コアネットワークでのラウラからの通信に、俺はそう答えた。
 気遣ってくれるのは、嬉しい。
 ただ、亡国企業を潰すには各国の諜報機関との連携だけじゃなく、俺自身も積極的に動く必要がある。
 時に、この手を汚す事になってもだ。
 暗殺を積極的にする気はないが、やむを得ないならそれをする覚悟はできている。
 もちろん、それは最後の手段だから、そうならないように努力する。
 でも、そう言っていられない時が来ないとは到底言えない。
 だから、覚悟が必要だ。
 どんな事があっても、どれだけこの手を汚す事になっても戦い抜く覚悟が。

後書き
習志野の訓練後は、アメリカ出張の一夏です。
まずは、近代化改修中のアイオワ級戦艦の状況を見ての、技術支援です。
ディープサウスというちょっと微妙な地域に造船所があったので、真耶やラウラが懸念していましたが大丈夫でした。
頼まれてきただけに問題を起こせば、大変なことになりますしね。
それでも、尚、この地域での保守性や人種差別に対しては他の州からの批判が今でもあります。
表向きは無いようで深く根を張っている、人種差別というアメリカ社会の病巣の一つの形でしょうね。
そして、CIAが担当している謎の事件。
持てる知識を総動員して、真相に迫る一夏。
その先に迫る真実は?






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