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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第90話 アンダーグラウンド 

<<   作成日時 : 2014/02/23 00:02   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

「お加減は、如何ですか?」
「お蔭様で、とても楽です。何より、経済的負担が比べものにならないくらい軽いのでとても助かります。なんと、お礼を言えばいいのか…。」
「いえ。頑張った甲斐がありましたよ。それでは、お大事に。」
 今日は土曜日。
 総合診療科の外来に出ているが、その中には特殊な病気の患者さんもいる。
 今日診たのは、5歳の男の子。
 クリオピリン周期熱症候群(CAPS:Cryopyrin−Associated Periodic Syndrome)という病気に罹っている。
 発症時期は乳幼児期。
 高熱に激しい炎症を繰り返し、病状が進むと視力の著しい低下、難聴、歩行困難に至り、最悪亡くなる。
 この病気の厄介な所は、患者さんの数が少ない事だ。
 日本での患者さんの数は、約50人程度。
 世界的に統計を取ってみても、発症するのは100万人に1人と言われている。
 非常に、稀な病気だ。
 そして、日本では治療薬が恐ろしく高い。
 海外で関節リウマチに対する治療薬として使用されている「アナキンラ」という薬が非常に効果があるが、個人輸入になるので1カ月当たりの薬代は10万〜20万。
 しかも粘液上の注射薬で、投与の際にはかなり痛い。
 学園に入学する前に、子供に投与する所を見たが痛みに泣きわめいていたのをよく覚えている。
 月に1回程度で効果がある「イラリス」という薬があるが、これは1回の費用が100万を超える。
 とてもじゃないけど、継続して払える額じゃない。
 親子で発症しているケースで、子供の為に治療を諦めて親の病状が進行したなんてのもある。
 厚労省の難病情報には掲載されているが、特定疾患への指定はされていない。
 高額医療費に対する助成制度はあるとしても、それでも患者さんの家族への経済的負担は大きい。

 それで、芝崎インダストリーの医療部門で俺がリーダーになって、この病気に良く効くモノクローナル抗体という抗体の一種を注入したナノマシンを開発した。
 この抗体は、うまく作用しにくいという欠点があったので難しい所があったが、それをナノマシン工学を応用して克服した。
 患者さんに対しての臨床試験が始まったが、副作用もほとんどなく経過も良好。
 さらに、この抗体を作るプロセスもコストを可能な限り抑えているので、今までに比べて費用は格段に安い。
 2週間ごとの投与になるが、1回の投与で5千円。
 1カ月で、1万円。
 保険適用が認められれば、1カ月当たり3千円台になる計算になる。
 プラス投与に使用する注射器は、糖尿病の患者さんが使っているインスリン注射の器具を応用しているのでさらにコストカットが可能だし投与時の痛みも針を可能な限り細くすることで抑えている。
 問題なのがこの病院でしか試験が行われていない事で、遠くからくる患者さんもいるのが頭痛の種だ。
 最近は、各地の自衛隊病院でも試験が行えるように厚労省と協議を進めつつ、このナノマシンを使用した治療のガイドラインを作成している。
 横須賀病院では、整形外科でリウマチ治療に強い先生にも臨床試験に加わってもらっている。
 もちろん。さらに副作用の少ない抗体の研究も、進めている。
 今、社では今回の結果を応用した癌の化学療法の研究も、進められている。
 こっちでも、リーダーを務めるのは俺だ。
 多くの患者さんの未来に関わることなので、何としても成功させたい。
 人が苦しんでいるのを見るのは、真っ平御免だからな。

「それじゃあ。お先に。」
「ああ。ハワイでの学会。よろしく頼むよ。」
「はい。」
 帰り際、院長と学会の話をして俺は迎えの車に乗る。
 護衛として、ラウラに更識のSPがついている。
 大げさだっての。
 この程度でへたばるようなら、医務官は務まらないぜ。
 でも、千冬姉もこの方がいいと判断したからな。
 やれやれだ。

「ただいま。千冬姉。」
「お帰り。見ろ。お前のニュースだぞ。」
 マジかよ…。
 臨床試験が始まってから、取材の申し込みが凄いんだよな。
 プラス、今回の臨床試験の結果は、リウマチ治療の更なる向上にもフィードバックできるからさらに話題を呼んでいる。
 明日、ハワイでの学会に行くが、それが終わればリウマチ学会にも出席することになっている。
 リウマチは軽く見られがちだけど、最悪、患者さんが亡くなる場合もあるし、重い障害が残る可能性もある。
 決して、侮ってはいけない病気だ。
 その苦しみから患者さんたちを救う為に、俺達医師は存在する。

 さて、夕食だ。
 今日のメインは、スペアリブ。
 予め一晩ヨーグルトに漬け込んだ骨付きの豚肉を取りだして、骨の周辺に切り込みを入れる。
 そして、林檎、玉ねぎ、にんにくをすりおろした物を、ウスターソース、醤油、赤ワインを合わせた物に入れて豚肉を30分程漬け込む。
 ヨーグルトに漬け込むことによって、肉はより柔らかくなって味もマイルドになる。
 最後にじっくりとオーブンで火を通してから、出来上がりだ。
 焼いている間に、ハムにきゅうり。卵をたっぷり入れたポテトサラダを作って後は米を炊いて、ミネストローネスープを作る。

「うん。うまい。ワインにもよく合う。そこらのレストランではお前の足元にも及ばんな。」
 ワインを飲みながら、千冬姉はスペアリブに舌鼓を打つ。
 ちゃんと、ポテトサラダも食べろよ。
 レタスがあるから、器にもなるんだしさ。
 食事は、バランスよく作らないとな。
 俺もワインは飲んでいるが、そんなには飲まない。
 基本的に接待や会食以外では、俺は飲まないからな。

 ふ〜ん。これはちょっと、気になるな。
 ごく普通の人間が、何らかの妄想に取りつかれて殺人を犯すか…。
 メン・オブ・ザ・ワイルダネスの最新号の記事の一つを読みながら、考えていた。
 大抵の場合、妄想っていうのは統合失調症や極度の睡眠不足なんかが原因なんだが、今回のケースはそれには当てはまらないっぽいな。
 殺人は、2つに分かれると言っていい。
 計画的な殺人と、衝動的な殺人だ。
 前者は、ある目的を達成するために人を殺す。
 後者は、感情が制御不能になった時に人を殺すケースが多い。
 けど、今回はどっちにも当てはまらないな。
 一見すると衝動的にも見えるが、どこか違和感がある。
 証言によると、殺人を犯す直前まで精神状態に異常は見受けられないし、睡眠不足もなかったようだ。
 とすると、衝動的殺人に見せかけた第三者による計画的な殺人。
 俺は、そう結論付けた。
 問題が、理由だよな。
 被害者は、政財界の大物って訳じゃない。
 ごく普通の、一般市民だ。
 それにしても。全米各地で起きている殺人事件にうまく紛れ込ませるなんて、相当緻密に計画を練っているな。
 必ず、理由がある。
 いずれにせよ。拡大を防ぐ手立てを考えておこう。
 中々に、難しいけどな。
 さて。明日は、ハワイに向けてのフライトだ。
 早く、寝るか。

 翌日、ハワイに着いた一夏はトランプ インターナショナル ワイキキ ビーチ ウォークのスウィートルームにチェックインした。
 このホテルのスウィートルームには、ダイニングルームがあり部屋で食事を摂る事も可能である。
 中には、出張でシェフを頼む宿泊客もいる。
 無論、一夏にそんな意思は無い。
 レストランで、済ますつもりである。
 学会は、ホノルルにあるハワイ大学医学部で行われる。
 一夏は、その為のチェックに余念がなかった。
 ラウラは、銃とナイフの手入れをして護衛の任を全うできるように備えている。

 よし。チェック終了。
 後は、こっちか。
 ロバート達との専用の連絡ルートで届いたデータに、目を通し始める。
 やっぱり。変だよな。
 テレビドラマじゃあるまいし、いきなり一般市民が殺人鬼になるとは到底思えない。
 何らかの精神疾患を無意識に発症していたり、不眠が続いて異常に攻撃的になっているようにも思えない。
 やっぱり、第三者による計画的な犯行とみていいだな。
 でも、何でだ。
 気に入らない隣人でも殺すサービスを始めた、殺し屋でもいるのか?
 だとしたら、ちょっとリスクとリターンのバランスが釣り合うとは思えない。
 中流階級に支払える依頼料なんてたかが知れているし、まさかカードローンになんてできないしな。
 とすると、このデータの解析か…。
 よし。始めよう。

 某国の高級ホテルの、ロイヤルスウィートに高級スーツを着込んだ壮年の男達が幾人も集まっていた。
「今は、ホノルルか…。」
「どうする?始末という選択肢もあるが…。」
「手錬の護衛がついている上に、奴自身、護衛を遥かに上回る戦闘能力を持つ。尻尾を掴まれると何かと面倒だぞ。」
 キューバ産の高級葉巻の紫煙と、フランス製高級コニャックの芳香が部屋の中に溢れる。
 それに加えて、謀略の匂いも充満していた。
「いずれにせよ。このまま放置は出来まい。イタリアの二の舞を踏み続ければ、各地が危ない。」
「開発は、どうなっているのかね?資金調達も楽ではないのだぞ。成果を出してもらわんとな。」
 比較的若い男に、部屋にいる男の1人が訊ねる。
「開発は進んでいます。データの送信がされてこないのは痛いところですが、よりハイスペックを目指せばいい。シンプルですよ。」
 葉巻の紫煙を燻らせながら、悠々と男は答える。
「いつまで、その余裕が続くかな?こちらの予想を大きく上回る進歩を遂げられれば、全てが水の泡だぞ。解っているのか?」
「所詮は孺子。御心配なく。」
 さして、危機感も感じないで答えて、高級コニャックを口にして部屋を出る。

「額面通りに、受け取ってよいのかね?」
 東洋系の顔立ちをした男が、他の男達に疑問を投げかける。
「この件は、彼に任せている。もうしばらく、様子を見よう。ここまで来たのだ。無能でもあるまい。」
「だが、後任の人選は済ませておくべきではないか?何が起きるか、解らないぞ。」
 別の男が、提案する。
「そうだな。考えておくとしよう。こちらも、追い詰められつつある。イギリスも大分動いている。ホワイトハウスも、動き出している。他に考えることもあるので、片づけることのできる問題は片付けておくべきだろう。例のテストは、続けよう。」
 それから、幾つかの事を話し合って男たちはホテルを立ち去った。

「今回のケースでは、大動脈弓再建と僧帽弁の再形成については、経験と技術が相応に備わっていれば問題はないケースです。しかしながら、問題は肺動脈です。今回の症例の肺動脈は…。」
 ホノルルに到着した翌日、ハワイ大学医学部で心臓外科学会に出席していた一夏は手術の映像やその後整理したデータをもとに講演をしていた。
「このように、ほとんど症例の無い非常に稀なケースです。肺に近い部分の太さは問題ありませんが、分岐部からそこに至るまでが異常に細く拡張が極めて困難でした。さらに、26週の早産で、体重は1340gの極低出生体重児。という悪条件も重なりましたので、有茎自己心膜で擬似的な肺動脈を形成。置換するという決断に至った訳です。この際、特に注視すべきはテンポラリーバイパスチューブを使用して肺に動脈血を送っている間の動脈圧であり。特に…。」
 講演が終了した後、多くの質問に答えて一夏の講演は終わった。

「ドクターオリムラ。実に素晴らしい、講演でしたな。私もこのような症例は見たことが無かったので、大変参考になりました。」
 ハーバード大学医学部部長で、心臓血管外科の権威であるバートリー博士。
 さらに、新生児の先天性心疾患のスペシャリストでもあるドクターファリントンら名だたる名医が、学会終了後一夏の元を訪れる。
「恐縮です。私も、今、この瞬間、多くの医師が様々な形で技術を進歩させていることをしかと確認することが出来ました。」
 嘘偽りのない、一夏の本音だった。
 日進月歩で進む、医学。
 常に全方位にアンテナを張り巡らし様々な情報を入手しないと、医師としての自分を向上させることは出来ない。
 故に、様々な医師の意見を聞ける学会は、非常に意義のある物だった。
「ですが、まだ課題も多いですね。様々な、テンポラリーバイパスチューブやよりリスクの少ない人工心肺、伸縮性に格段に優れた人工血管。やるべき事が、山の様に頭に浮かびます。そして、それらの設計に入っている自分がいるんです。」
「貴方は優れた医師であると同時に、医療機器開発においても抜きんでて優れた技術をお持ちだ。新しい術式や治療法は私にもできますが、そちらはお任せするしかない。多忙の身であることは重々承知していますが、頑張っていただきたい。」
「無論、そのつもりですよ。博士。」
 バートリーらと、一夏は固く握手をする。

 さて、終わった、終わった。
 後は、明日帰るだけだ。
 いろいろ得る物もあったし、帰ったら時間を見て図面を引くか。
 企画会議の資料作成も、しないとな。
 開発するにしても、経営陣を納得させないとどうしようもない。
 その時、端末がメールの受信を知らせる。

「忙しいのにすまないな。」
「いいよ。フリッツ。それにしても、よくこんな場所をキープしてたな。」
 ロバート達の連絡を受けた俺は、ホノルルのある場所にいた。
 ラウラは、周辺をそれとなく警備している。
「じゃ。本題に入る。学会の後で、一夏も疲れているだろうしね。例のデータで何か解ったかな?」
 ロバートが、俺に質問をする。
 ま、そこは気になるな。

「例のデータだけど、一種のマインドコントロールの手段だ。あれだけじゃ、無理だと思うけどな。働きかけが中途半端過ぎる。」
「成程。送って、正解だったよ。」
「こっちで、さらに分析した結果面白いことが解った。からくりがね。」
「こっちも、妙な物を見つけた。これを見てくれ。最近、こんな物が内緒で使われている。どうも、関係しているようだね。」
 ロバートが、化学合成式のデータを見せる。
「農作物に付着していた。農薬だろうね。」
「ネオニコチノイド系の新しい農薬?こういった物にアレルギーを持つ患者さんがいるからいつもチェックしているけど、これは初めて見るな。」
「認可にすら出されていない。どうも、それとは別の目的じゃないかってネットワークのメンバーが言っているよ。」
 フリッツの言葉を聞いて、俺は再度化学合成式を見直す。
 ははあ。そういう事か。

「これは、農薬なんかじゃないよ。勿論、農薬として作物につく害虫を殺しはするけど本当の目的は違う。」
「どういう事だ?」
 ロナルドが、俺に質問する。
「ネオニコチノイドのメカニズムは、知ってるか?」
「神経伝達物質の一つアセチルコリンの受容体に結合して、興奮させ続けて昆虫を殺す。」
 ロバートが、答える。
「その通り。噛み砕いていえば、生物が興奮するメカニズムを暴走させて殺すって事だ。制御不能にするとも、言えるな。」
「成程。解りやすいね。先を続けてくれ。」
 フリッツが、説明を促す。
「これは、受容体に対するアプローチが違うんだよ。ある一定の条件で、受容体に作用して、アセチルコリンが増えたと錯覚させて異常な興奮状態にさせるんだ。いわば、弾丸の雷管みたいなものだと思ってくれ。そして、例のデータは拳銃のハンマーだな。これで、最近の妄想に取りつかれての殺人の説明がつく。例のデータは、詳しく分析した結果、可視映像を除いた後に残る特殊な光の配列と、人間の耳には聞こえない極めて特殊な音だったんだ。催眠効果を持ったね。」
「成程な。視覚と聴覚による催眠効果か…。」
「脳内のアセチルコリンが増加すると、統合失調症に似た状態になって妄想を抱くケースがある。今回の事も、それで説明がつく。巧妙な事に、今までのとは違って、これは通常では人体や自然環境に対する影響も極めて出にくいみたいだな。反面、害虫。特にミバエ科に、物凄い効果を発揮する。」
 データをもとにシミュレートした結果を見せながら、俺は説明を続ける。
 妙な目的に使われてなければ、夢の農薬と言われるだろうな。
 ネオニコチノイド系の農薬は、蜂の大量死に関係していると見なされて使用を禁止された物が少なからずある。
 こいつは、ミバエ科。
 特に、野菜だろうが果物だろうが容赦なく駄目にする農家の不倶戴天の敵、チチュウカイミバエに抜群の効果を発揮するという分析結果が出ている。
 沖縄の農業を大ピンチにしたウリミバエにも、効果を発揮するだろうな。
「個人差は、どうして出るんだ?俺達が調べた限りじゃ、結構個人差が出たぜ。」
 ロナルドが、調査データを俺に示す。
「第一に、色弱や色盲。色弱は見過ごされるケースもゼロじゃないから、自覚がないんだろうな。第二に、ある種の周波数の音が聞こえづらかったり嫌悪感を示すケースだ。結構、知り合いにいないかな?低い声が聞こえづらい人とか。ある程度の低音や高音に、苛つく人とか。」
「電話が聞こえづらい事があったり、バイオリンやチェロの演奏に耐えられないっていう、ケースか?」
「そう。それ。作ったチームも、とんだドジを踏んだもんさ。こんな身近なイレギュラーケースを見過ごすとはね。勿論、比較検討の為にあえてそうしたという可能性も否定できないけどな。」
 にしても、面倒な事してくれたよな。
 こんなことする暇があるんなら、もっと世の為人の為になる事をやれっての。

「後は、ハンマーがどう落ちるかだな。映像と音だってのは解るが、それ以上となると…。」
 ロバートが考え込む。
「予想だけど、地上波デジタル放送の受信設備じゃないかな?アンテナとか、電波の受信状態が悪い時に使うブースター。チューナーって線もありかもな。後は、ケーブルテレビのスクランブラも考えられるよ。調べるのは、そんなに難しくないだろ。工事をした業者とか。」
 十中八九、テレビ映像だからそれに関する設備だと考えるのが自然だしな。
 後は、周囲が首を傾げるしかない程の平凡な人間を厳選して実行する。
 筋書きは、こんなとこだろう。
「成程ね。後は、この薬剤を散布した奴を見つけ出すだけだが、一番骨が折れるな。そもそも、認可に向けた試験すら知られていないのに、ぶちまけているんだ。殺人に至る過程を考えても、相当用心深く事を進めている筈だ。」
「それは、こっちで進めるよ。解り次第。データを送る。」
 以前に打ち上げた衛星で、調査は十分に可能だ。
「頼む。わざわざ、ホノルルくんだりまで来た甲斐があったよ。」
「それは良かった。後は、ゆっくりバカンスを楽しんできなよ。」
「そうさせてもらうさ。一夏もどうだ?」
「明日には、帰るから。」
 元々、学会で来たんだからな。
「そりゃ残念だ。」
 フリッツの言葉に、肩を竦めるしかなかった。

「さてと…。」
 夜、ホテルに戻った一夏は人工衛星で、密かにホノルルを調べていた。
『特殊なUAVだな。しかも、極めて高度なステルス性を持った。けど…。』
 機影を捉えた一夏は、データを分析に掛ける。
『その程度じゃ、俺の目はごまかせないぜ。』
 飛行ルートに、打ち上げた人間の顔まで一夏は完全に把握していた。
『油断し過ぎだぜ。最低でも、人相を知られるようなことは避けろよ。間抜けが。』
 さっそく、ロバート達に送るデータの整理に掛かった。

「ルームサービスです。」
 頼んだっけか?
 いや。待てよ。
 ちょうどいいか…。
『敵の攻撃に備えて、待機。援護しながら、2人で攻撃する。』
『了解。』
 ハンドサインで指示を出して、俺はP7とバタフライナイフを。
 ラウラは、USPとサバイバルナイフを手にして備える。
 銃には、サイレンサーを装着する。
 SPには、手出しをしないように伝えた。
 大がかりに動くと、他の宿泊客に不安を持たせるからな。
 ラウラがドアを開けると、どこにでもいそうな中年の男性がM16A2を構える。
「死ね!!皆殺しにしてやる!もう、こんな砂漠になんか居たくないんだ!!」
 俺はP7で男の手を撃って銃撃を未然に防ぐと、ラウラが男を拘束する。
「居たくない…。居たくないんだ…。」
 血走った眼で、男は呟き続けた。

「マイク・デューリー。元海兵隊軍曹。バージニア州出身。何年か前まで、中東に派遣され任務に従事。現地で戦闘神経症と診断され、除隊。カリフォルニア州ラホーヤにある復員軍人省医療センターでの治療を終了後、職業訓練において農業を学ぶ。その後、ホノルルに移住。郊外で、農業に従事。病気がぶり返したのか、誰かに妙な事を吹き込まれたか。いずれにせよ。教官に、報告だな。」
 ま。当然か。
 ロバート達の事には、何か感づいているようだけどラウラは触れようとしない。
 最大の譲歩だろうな。

「解った。引き続き、一夏の警護を頼む。」
 学園で千冬はラウラからの報告を聞き、警備を続けるよう指示する。
「あったんですか?襲撃。」
「十中八九、奴らだ。ある意味、アメリカの方は余裕が無い様に思えるな。」
 真耶の質問に答えながら、千冬は思案を巡らせる。

「どうですか?犯人は。」
 ホノルルにあるサナトリウムで、俺は刑事と話をしていた。
「ソラジンを大量投与して、今は落ち着いています。後はそちらで詳しい検査をしていただく必要がありますが、今は大丈夫でしょう。念の為、血液検査をした結果、アセチルコリンの量が異常でした。おそらく、これが原因でしょう。それから、奇妙な成分が…。ああ、これです。農薬に良く似ているんですが…。」
 真相は知っているが、警察にとっては突飛すぎるので自分達で確かめさせる方に俺は誘導することにした。
 無論、それだけじゃないけどな。
「解りました。後は、お任せください。ところで、今の段階で犯人の責任能力を問えるとお考えですか?」
「正直。何とも言えません。今回のような事が起きないとは、否定できませんしね。専門のチームを結成して、あらゆる観点から徹底した精密検査をしないと結論は出ないでしょう。仮に責任能力を問えないにしても、かなり長い期間の治療が必要でしょうね。看護師や医師の安全を考慮して、刑務所の独房並みの病室に入れた上で。」
 これは、俺の本音だ。
 こんな事をしでかす奴なんて聞いたことないから、長期間に渡っての経過観察をしないと結論は出ないだろう。
 裁判に出廷するにしても、その状態に回復するまで何年掛かるか…。
 診察をしてみないと解らないが、戦争神経症をぶり返している確率も高いと見ている。
 もし、そうなら。立件も相当に難しいだろうな。
 アメリカ本土にしても、未だに立件されていない。
 どこの警察も、対応に苦慮している。
 かと言って、真相を教えても向こうもパニックになりそうだ。
 自分たちで考えながら、証拠をつかんで事実に近づく方がその過程で冷静に判断できるだろう。
 後押しは、ロバート達に上手くやってもらおう。

「逮捕されたよ。最悪の形でね。」
「あの孺子が、助言をした可能性は高いな。」
「否定はできん。中止だな。これ以上は、リスクが高い。」
 男性たちは、ホノルルでの事を聞いて今後の対応を考慮していた。
「ところで、ホワイトハウスは接触する可能性があると思うかね?」
「あるだろうな。だが、孺子が協力関係になるのを承諾するのは別の問題だ。イギリスの件を考えてみろ。内務省やSISといった機関も、外務省が妙な事をしでかさない事が前提の危うさを持った関係だ。今のこの国の状況を、かなり正確に把握しているからこそ、ホワイトハウスとは関係を持とうとしなかった。ホワイトハウスとは関係なく協力体制を持とうとする一派がいたとしても、うまくいくかは疑問だな。」
 その男性のいう事は、非常に理に適っている。
 本来ならば、イギリスと同時に一夏はアメリカとも協力関係を持ちたかった。
 CIAやFBIといった機関との協力関係があれば、事はずっと楽に進んだからだ。
 それをしなかったのは、アメリカと協力関係になるのを一夏がリスクが高いと判断したからだ。
 それを払しょくすること。
 一夏と協力関係を結ぶには、それが絶対条件だった。
「しばらくは、静観するとしよう。下手に動けば、我ら亡国企業の存亡にかかわる。今まででも、手痛いダメージを被っているからな。」
 その言葉に全員が頷いて、解散となった。

 謎の農薬と、怪しげな人影。
 連続殺人に潜む、真実か…。
 うまく素材を、調理してくれたな。
 記事のタイトルだけ見ればゴシップ誌のくだらない記事だが、警察の組織力なら裏付けをしてさらに真相に迫れるだろう。
 任せて、正解だったな。
 ホテルに送られてきた、メン・オブ・ザ・ワイルダネスの増刊号に目を通しながら俺はロバート達の手腕に満足していた。
 情報の使い方が、さすがに絶妙だ。

 そんな事を考えていると、足元にヌード雑誌が落ちた。
 アメリカは無修正だからな。
 勘弁してくれよ。
 つうか。空港で読むなよ。
「失礼。ついつい、場所を選ばず読んでしまってね。僕の悪い癖だ。」
 そう言って、20代後半から30代に差し掛かる男性がヌード雑誌を拾い上げて去っていく。
 うん?何か落ちてるな。
 折りたたまれた、紙?
 ハイパーセンサーで調べたが、正真正銘ただの紙だ。
 ただ、こんなのを人前に落としたんだ。
 何か、あるんだろうな。

「渡しはしましたが、乗ってくるという保証は定かではありません。向こうも、かなり警戒しながら事を進めていますから。」
「解っている。だが、彼の協力は是が非でも欲しい。その為には、友好関係が不可欠だ。だからこそ、君にメッセージを渡してもらったんだ。すぐに、戻ってきてくれ。」
 一夏に謎の紙切れを渡した男性は、ワシントンD.C行きの飛行機に搭乗口に向かった。

 日本への帰途で、アンダーグラウンドの戦いがさらに激化したことを一夏は自覚していた。
 紙は表面に僅かながらの凹凸があり、明らかに何かが記されていたからである。
『何かのメッセージか…。けど、どこからだ…?』
 一夏は、このメッセージの意味。
 渡しに来た男性の正体を、考える。
『いずれにしても、いよいよ幹部達との戦いが本格化する。より正確に言えば、亡国企業全体とのな…。』

後書き
亡国企業の幹部達が、遂に動き出します。
学会の為ハワイを訪れた一夏に襲い掛かった、魔の手。
一夏やラウラクラスともなると、どんなに巧妙にしてもプロの殺し屋では気づかれるだろうと考えて、マインドコントロール。
催眠効果を持った画像と音。
さらには、農薬に似せた薬での二段構えで気づきにくくした上で、一般市民を殺人鬼に仕立て上げて仕掛けましたが、徒労に終わりました。
一般市民と言っても、退役軍人でしたがね。
ネオニコチノイドについては、以前から様々なホームページで知っていたのでいいネタになりましたし、映像や音を利用したマインドコントロールもスパイ小説の類では、結構使われているので仕掛け作りは楽でしたね。
しかしながら、ネオニコチノイドのメカニズムは人間にも影響を与える可能性がちょっと否定できないようですし、マインドコントロールにしても危険です。
ネタにしておいて言うのもなんですが、ちょっと怖かったですね。
そして、他にも一夏に接触を計ろうと試みた組織もあるようです。


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