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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第83話 ダンスマカーブル・イン・ナポリ

<<   作成日時 : 2014/01/04 23:59   >>

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「本気で、仰っているのですか?」
 真耶は厳しい表情で、ジョルジに詰問するような口調で確認する。
「お気持ちは、私なりに察しているつもりです。しかし、全盛期とまではいかなくとも、相手はカモッラの中でも最大規模のルッソ一家。精鋭部隊を送り込んでも、相当の犠牲を覚悟しなければなりません。ここで潰し損ねるわけには、いかないのです。」
 事と次第によっては軍隊を派遣するという手もあるが、イタリアの南北問題を考慮すると南部への威圧的な行為とも解釈される可能性がある為に不可能だった。
「大使。このIS学園は、ISに関する技術や知識を学ぶ場所であって、人殺しの術を学ぶところではありません。専用機持ち達は、個人での戦闘訓練を受け武器も所持していますが、あくまでも自分と専用機を守る為。人を殺す為では、ありません。それを、ご理解なさっているのですか?現に、織斑君は今迄相手を戦闘不能にするに留めています。また、そうできるように日々厳しい鍛錬を重ねているのです。私はどのような形であれ、生徒が人を殺めるなど想像もしたくありません!」
 見方を変えれば、勝手な言いぐさである事は真耶も重々承知している。
 作戦に参加する部隊の隊員は、自らその責務に志願したとはいえ「人を殺す」事もあるのだから。
 イタリアは嘗て徴兵制の国家だったが、現在は志願制である。
 最年少の兵士は、18歳。
 学園の最上級生と同じ年齢で、「人を殺す」事もありえるのである。
 一夏も、亡国企業との戦いが続けばそうならざるをえない事も十分にあるだろう。
 が、もし、一夏が1人でも射殺すれば、マスコミが黙っていない。
 日本は、銃器の使用に関して警察に対してさえも非常に厳しい視線を浴びせ、正当防衛ややむを得ない事態であっても市民団体や人権団体が糾弾するケースもある。
 それ故に、一夏を作戦に参加させる事に真耶は断固反対であった。

「山田先生。それ位で許してやれ。大使とて、苦しい立場だ。解りました。承諾しましょう。」
「織斑先生!!」
「いずれにせよ。織斑は犠牲を減らす為なら、作戦への参加を申し出る。あれはそういう人間だ。それは、山田先生もよく知っている事だろう?」
 真耶は反論できなかった。
 クラス対抗戦の時から、学園が襲撃される度に一夏は自ら危険を承知の上で戦い続けてきた。
 今回の事も、自ら動かないで結果という果実を賞味するなどという事はしないだろう。
 一夏とは、そういう人間なのだから。
「但し、一つだけ各位にお伝えいただきたいことがあります。」
「承ります。」
「前例が出来たからといって、それを利用しようとは決してなさらぬよう。これからも似たようなケースが生じた時は、織斑の志願があって且つ事前に学園の了解を取ってからにしていただきたい。寝耳に水の状態で、生徒に「場合によっては人を殺せ。」などを言われるのは御免こうむりたいのです。」
 マフィア風情に、一夏が後れを取るなど千冬は露程も考えていない。
 実際に、日本のヤクザにあたるシカーリの一つをほぼ1人で壊滅させたのだから、手間が増える程度である。
 さらに、一夏は特殊作戦群での厳しい訓練を入学前で受けている。
 正規の軍人でも、2桁単位でなければどうにもならない。
 だが、それを理由に一夏の性格を利用し、他国が亡国企業とは何の関わりもない作戦に一夏を駆り出さないように釘を刺しておく必要があった。
「承知しております。大統領や首相を始めとする閣僚も、特別理事をいいように使いたいと考えてはいないと考えております。少なくとも、私自身はそうです。神に誓って。」
 ジョルジは、真剣な表情で千冬と真耶を見る。

「少なくとも、あの御仁に関しては信用してもいいようだ。他国の豚共は別になるがな。そちらは、私が手を打っておく。」
 職員室に戻りながら、千冬は真耶を安心させるように言う。
 無論、千冬とて一夏に人を殺すようなことはさせたくない。
 が、亡国企業が絡むとなると徹底的に叩き潰す必要がある。
 故に、参加を申し出ると確信していた。
 そして、それを制止することが不可能だという事も。

「導入したばかりのグローバルホークで監視体制を敷き、財務警察は第3カラビニエリ大隊と連携してカモッラの他にも各ファミリーの密輸を一斉摘発する手筈を既に整えております。また、各銀行口座もいつでも封鎖する手配を織斑特別理事が整えて下さいました。他の資金ルートも、全て潰す手筈は整えております。」
 ファブリツィオ・サッコマンニ経済財政大臣が、報告する。
「後は、作戦を開始するだけか。封鎖状況は?」
「後、2時間で整います。GIS及びNOCSは密かに現地に到着しています。」
「よろしい。」
 レッタが満足そうに頷く。
「例の件も承諾を得ました。尤も、二度も三度もとは行きませんが…。」
「内務大臣。私もそのような気はないよ。良心が痛まない程、面の皮は厚くはないのでね。今後は、特殊部隊の増強で国内の取り締まりを図る。準備に取り掛かる様に。」
「はっ。」
『ほっとしたな…。』
 アルファノ自身、一夏に作戦参加を要請する事には罪悪感を持っていたので今後の事はどうなるかを危惧していたが、レッタにその気がないのを知って胸を撫で下ろした。
「作戦名はどうするね?」
「織斑特別理事より提案がありまして、それにしようかと。」
「ほう?何というのかね。」
「オペレーション・ダンスマカーブル。」
「死の舞踏か。奴らにはうってつけだな。」
 レッタは作戦名を了承し、ルッソ一家の殲滅作戦は「オペレーション・ダンスマカーブル」と命名された。

「作戦の最終確認をする。まず、ファニーニ准尉とマウロ軍曹率いるGIS2個分隊を正面玄関に突入させ橋頭保を確保。フランチア中尉率いるNOCS1個小隊は後方に展開しつつ、奇襲を掛ける。この際、窓からは当然反撃が来る。フリーゴ軍曹とリッチ軍曹率いる狙撃班は、これを制圧。援護しろ。周辺は第1カラビニエリ連隊が封鎖するので、存分に暴れろ。」
 今回の作戦の指揮を現場で執る、GISのロベルト大尉は部下たちに発破を掛ける。
「「「「「はっ!」」」」」
「よし。ここからは、第2段階だ。先行した2個分隊は1階の残党狩りを行いつつ、橋頭保の確保及び警戒。第2陣のラナリ軍曹とレッキア軍曹率いる2個分隊が突入を開始。先行部隊の援護を受けつつ、上の階を制圧。そして1個分隊は最上階からセレスティーノ・ルッソを確保。今回は、東洋のサムライとドイツの冷氷が加わる。上の分隊は運がいいぞ。シニョーレオリムラ。マッジョレボーデビッヒ。分隊の指揮をお願いします。」
「承りました。」
「了解した。」

「首相。財務警察及び第3カラビニエリ大隊。配置につきました。」
「銀行口座封鎖準備完了。」
「その他の資金ルートの遮断。いつでもいけます。」
 報告を聞いてレッタは頷くと、口を開く。
「始めたまえ。」

「了解しました。第1陣、突入!狙撃部隊、いつでも支援できるようにしておけ!」
 ルッソ一家を壊滅させる、死の舞踏会が始まった。

「ボス!港の取引に行った連中が、財務警察とカラビニエリに捕まってブツも押収されました。」
「何だと!?」
 キューバ産の最高級葉巻を吸っていた、50代半ばの恰幅のいい男。
 ルッソ一家のボスである、セレスティーノ・ルッソは突然の知らせに葉巻を折った。
「それだけじゃありません。テレビを見てください。」
 苛立ちながら、セレスティーノはテレビのスイッチを入れる。
「たった今、ナポリ港、パレルモ、レッジョ・ディ・カラブリアでの麻薬及び覚醒剤取引の一斉摘発が行われました。今年に入って早くも大規模な取り締まりが始まり、関係筋では今年中にさらに大規模な取り締まりがあると予想されています。さらに、関係するファミリーの銀行口座や資金ルートを抑えたとの財務警察からの発表がたった今ありました。」
 怒りに震えながら、セレスティーノはテレビを見ていた。
「どういう事だ!?警察にはたっぷりと鼻薬を嗅がせて、女も上玉をあてがっておいたんだぞ!!」
「ここ数日の間に、ローマが動いたとしか考えられません。しかも、相当周到に。」
「ボス!GISが。こっちに!!」
「全員、武器を用意しろ!蹴散らせ!!」
 八方ふさがりではあったが、それでもセレスティーノにはファミリーのボスとしての意地がありここで捕まる訳にはいかなかった。

「よし。狙撃開始!」
 フリーゴが、部下に命じる。
 今回の作戦では、迅速さと正確さが要求される為に狙撃銃はボルトアクション方式のサコー TRGではなく、H&K PSG−1が使用されていた。
 ミュンヘンオリンピックで起きた「黒い9月」事件をきっかけに当時の西ドイツで開発された高性能セミオート狙撃銃であるPSG−1は、その性能をいかんなく発揮していた。

『ドアを破る。散開し警戒しながら、援護しろ。』
『了解。』
 ドアの横に辿り着いたファニーニが、ベネリ M4ショットガンを持った部下にハンドサインで指示を出す。
 ドアを蹴破ると、ホールにはM18クレイモア指向性対人地雷が備え付けてあった。
 M4から、スラッグ弾が立て続けに発射される。
 破壊された時には、事前の指示通りに危険範囲から逃れて分隊は、散開していた。
『突入!』
 イタリア軍正式アサルトライフル、ベレッタ SC70/90のショートカービンタイプ SCP70/90を手に本拠地である館に突入し銃撃戦が開始される。

「裏側から、レザーヘッドが来ました。」
「1人残らず、殺せ!」
 SC70/90を持ったルッソ一家の構成員が、窓からNOCSの隊員を射殺しようとする。
「援護射撃開始。」
 リッチ率いる狙撃班が援護を始め、確実に射殺していく。
『こちら、アンコーナ1。1階に突入。ほぼ確保した。以上。』
『こちら、アンコーナ2。突入を開始した。以上。』
「了解。第2段階。第2陣突入!」

 よし。今の所は上手くいっているな。
 グローバルホークから送られてきた情報を見ながら、作戦の推移を確認する。
「一夏。作戦は第2段階に移行したぞ。」
「頃合いだな。出発。」
「了解。」
 ベル・エアクラフト社製汎用ヘリコプター UH−1 イロコイに分乗して俺達は出発する。
 全員、ヘリからの降下訓練は十分に受けているのは自分の目で確認した。
 ラウラや俺は、やれて当然。
 というか、夜間でのパラシュート降下からの奇襲制圧訓練も十分に受けているので、はっきり言って問題ない。
 俺は、XM8をPDW仕様にして、EOTECH 553 ホロサイトにAN/PEQ−2 IRレーザーサイト。
 念の為に、M320グレネードランチャーをXM8に装着するためのオプションを付けて装備している。
 グレネードランチャーは、状況に応じて色々と使えるからな。
 後はサポートとして、HK454CTに各種の予備マガジンにグレネードの予備の弾。サバイバルナイフとバタフライナイフ。それにカランビットを持ってきている。
 ラウラは、G36C以外は俺とほぼ同じで、USPの45口径版にレーザーサイトを持ってきている。
 今回は、極端な事を言えばボス以外は射殺命令が下りているのも同然で、ルッソ一家にしてもここで俺達に負けたら破滅なのは解っているだろう。
 必死になって、反撃してくる。
 今回の作戦に参加した部隊は、防弾ベストも最高クラスの物を装備している。
 文字通り、殺るか殺られるの戦いだろう。
 内務省直属で警察系のNOCSにしても、同様。
 それだけ、一連の作戦にイタリアが力を入れている証拠でもある。
『一夏。大丈夫か?その…。』
 ラウラが気遣わしげに、コアネットワークで通信を入れてくる。
『心配するなよ。いつかは、こういう事になる位の覚悟はできているさ。いつまでも手を汚さないままでいられるなんて、思っていないさ。大丈夫だ。』
『そうか…。』
 ラウラは軍隊育ちでテロリスト殲滅の作戦の経験もあるが、俺は基本的にはISやゴーレムばかりだからな。
 気も遣うか…。
 少しすると、ルッソ一家の本拠である邸宅が見えてきた。
『カウントダウン。20秒後に、降下。突入。』
 特殊作戦群では、基本的にはハンドサインで指示を出す。
 映画の様に、大声は出さない。
 指示はラウラ達が乗っているUH−1にも、通信で行っている。
『突入。』
 ロープを伝って一斉に降下し、窓ガラスを割って突入する。
 俺達の分隊は8人編成。
 それぞれ分かれて行動するが、ラウラは任務上俺と一緒だ。
『各グループ。速やかに制圧。』
 さあ。俺達の仕事の開始だ。

「政府の犬共だ!」
「殺せ!!」
 SC70/90を持った構成員がホロサイトの照準に重なると、俺は引き金を引く。
 発射された弾丸は命中し、相手は息絶える。
 銃で撃って殺したのに、命が消える瞬間が体にはっきりと伝わってくるようだ。
 そうか…。俺は今日初めて、人を殺したのか…。
 そうか…。
 何度も死にかけて、そして殺した。
 来るべき日が、来たか…。
『警戒し援護しつつ、前進せよ。』
 指示を出して、俺は最上階の部屋から出てくる構成員に照準が重なると躊躇わずに引き金を引く。
 半分死んで、半分戦闘不能か。
 マガジンを交換している時に、俺を狙う奴が出る。
 まるっきり素人だな。
 狙いが全然出鱈目だよ。
 接近しながらマガジンを交換し懐に飛び込むと、サバイバルナイフで頸動脈と気管支を一気に両断して、止めを刺す。
 ナイフを通じて、人体を斬り裂く感触が伝わり体に染みつく。

『コモ1より司令部。現在、最上階を制圧中。推移は極めて良好。他の部隊はどうか?』
 通信は使用するが、今回は全てモールス信号を使用して且つ暗号になっている。
 無論、全員暗記済みだ。
『こちら司令部。他の部隊も、順調に作戦を遂行中。引き続き作戦を継続せよ。以上。』
『コモ1了解。以上。』
 ちなみに、今回の各部隊のフォネティックコードは、正面部隊とNOCSがアンコーナ。
 狙撃部隊がバーリ。
 そして、俺達がコモだ。
 ちなみに英語圏だと、アンコーナはアルファ。バーリはブラボー。コモはチャーリーになる。
 今回は、イタリア語圏のフォネティックコードを使用している。

『コモ2より、コモ1。目標は確認されず。以上。』
『コモ1より、コモ2。当たりを引いたのはこちらだ。引き続き制圧任務を継続せよ。損害は?』
『コモ2より、コモ1。損害ゼロ。以上。』
『了解した。』
 こっちは7割方制圧か。
 ハイパーセンサーで多い所から、潰していくか。
 真ん前か。
『カウントダウン。5秒後に突入。目標以外は射殺を許可する。拘束できるようなら、拘束しろ。』
『了解。』
 5秒後に突入すると、いかにもボスって男がいる。
 左手のHK454CTで幹部らしいのは掠めて動けないようにして、下っ端はXM8で射殺する。
「E ’tempo di tirare sipario.E avere accettato docilmente.Se stai resistendo contro, non so?(幕引きの時間だ。素直に受け入れてもらうぞ。抗うのなら、解っているな?)」
 こんなに冷たい口調になったのは、初めてだろうな…。
 自分で嫌と言うほど解る。
 目の前にいる、ルッソ一家のボス。
 セレスティーノ・ルッソは、腰が抜けて動けなくなった。
『コモ1より司令部。目標を確保。以上。』
 こうして、カモッラ最大のファミリールッソ一家は壊滅した。
 逃亡に成功した構成員は、一人もいなかった。

「セレスティーノ・ルッソと幹部を含め拘束したのは4割。他は全て射殺しました。」
「シニョーレオリムラは?」
「負傷した隊員の、応急処置の指揮を執っています。」
「よく働いてくれるな。」
「本当ですよ。指示も的確極まりないですし。」
『そんな人間に、人を殺す可能性が高い事をやらせるなんてローマのお偉方は何をやってるんだ!!俺達じゃ力量不足か!?覚悟のない奴は、ここには1人もいないんだぞ!!』
 ロベルトは、今回の作戦に一夏を参加させたアルファノ達を心の中で激しく糾弾していた。

「緑のタグをつけた隊員は、ここで治療。黄色のタグをつけた隊員は、大至急軍病院へ。赤のタグの隊員は、応急処置をした後に軍病院へ。容体によってはオペを。現在の状況は?」
「参加した部隊では、狙撃を担当した分隊の負傷は皆無です。GISは、48名中緑は15名。黄色は6名。赤は6名。2人はオペ中です。NOCSは、40名中緑は16名。黄色は3名。赤は1名ですが、オペの必要はありません。」
 災害医療や戦場において、負傷の度合いで優先順位を決定してつけるトリアージタグの分類を一夏は確認していた。
 緑は軽傷。黄色は緊急。赤は重症で早急な処置が必要なことを意味する。
『搬送するのは、14名か。突入を受け持ったGISは、どうしても多いな。』
 軽傷の緑のタグをつけられた隊員は、その場でファストエイドキット等を使用しての治療で問題ないケースがほとんどだった。
『後は、悪化しない事を祈るだけか…。』
 一夏も処置に参加し少なからぬ負傷者は出た物の、殉職者はゼロだった。

「そうか。ご苦労だった。病院に搬送された隊員の手当てを全力で頼む。」
 連絡を受けて、アルファノは受話器を置く。
「作戦は成功です。ルッソ一家壊滅に投入したGISとNOCSの損害は、負傷47名。その内重傷は9名。重傷の隊員は、既に回復に向かっているとの事です。負傷者も、大部分はかすり傷程度で縫合の必要もないとの事です。」
「87名中、軽傷38名。重傷9名。死者なしか。戦死者が出ると思っていたが、何よりだ。」
 レッタは、胸を撫で下ろす。
「記者会見の準備を頼む。」
 記者会見の準備が進む中、治療とオペを終えてルッソ一家の構成員の死体を死体袋に入れて回収し部隊は撤収していた。

 うん。重傷者も、命に別状はないな。
 俺は軍病院で、搬送された隊員の容態をチェックしていた。
 奇襲が成功したとはいえ、向こうも必死だったからな。
 黒のタグ。死亡も使うかと思ったが、そうならないでよかった。
 さすがに、よく訓練されているな。
 最後のカルテに目を通して、サインをする。
「じゃあ。お願いします。」
「はい。」
 看護師にカルテを渡すと、ロベルト大尉が歩いてくる。
「今回の作戦。貴方方がいなければ、少なからぬ戦死者が出ていたでしょう。指揮官としてお礼を申し上げます。」
 制帽を取って、大尉が深々と頭を下げる。
「お役にたてたのなら、幸いです。収容された隊員の方は、命に別状はありません。しばらく入院が必要になりますが、退院してリハビリをすれば原隊復帰できます。」
「現場での応急処置の指揮も執ってくださり、感謝しております。部下達もそうでありましょう。」
「私は医師。傷ついた人を救うのは、当たり前の事です。お気になさらず。さて、そろそろお暇します。私が執刀した少女の事も、気になるので。」
 リスクファクターは可能な限り排除したけど、自分の目で確かめたいからな。
「ああ。例の、シカーリに拉致されたという。」
「ええ。では。」
 俺は礼をして、借りていた白衣を返すと病院を後にする。

「命を救って、命を奪ってか…。」
 一夏はローマの病院に戻るヘリコプターの中、そう呟いた。
「大丈夫か…?」
『やべ…。口が滑ったか…。』
 心配そうに自分を見るラウラを見て、一夏は口の中が苦みを感じた。
「ああ。鞘から抜かれた刀は、いずれ血を吸う。早いか遅いかだ…。そして、その時が来た。それだけだ。それに、いつまでも綺麗なままではいられないよ。そうだろう…?」
 そう言って、窓越しに外を見ながら一夏は何も喋らなくなった。

「そうですか。意識を取り戻しましたか。」
 俺は病院で、容態を確認していた。
「はい。ヴァイタルは正常。接合した上下肢の具合も良好。神経もきちんと繋がっていることは、検査で確認済みです。」
「あとは、むくみが出ないかですね。リンパ管も吻合しましたから、大丈夫だとは思いますが。」
 残念だけど、医療に絶対はない。
 どれだけ手を尽くしても、アクシデントが無いとは言えない。
 いくつか起こりうる懸案事項に関してお願いをして、俺はICUに向かった。

「お兄…ちゃん…?あたしを…、助けてくれた…。」
「具合、どうだ?」
 顔色はいいな。
 心音はいたって正常。
 ヴァイタルも、問題なし。
 後は、懸案事項が起きないかどうかだけど、起きないと願いたいな。
 場合によっては、長距離移動用のオートクチュールでもう一回来て、再手術も考えるか。
「手と足。まだ痛いかな?」
「うん。でも、痛いのはちゃんと手足が繋がってるからだって、先生が言ってた。」
「そうだよ。よく頑張ったな。偉いぞ。じゃ。お大事にね。」
「お兄ちゃん。」
「うん?」
「ありがとう。」
「うん。」
 患者さんの嬉しそうな顔が、医師にとっては最大の報酬。
 俺は、そう思っている。
 だから、医師を本業にするときは別になるけど、そうでない時は報酬を貰う気はない。
 ま。今までの稼ぎで、贅沢しなけりゃ暮らしていけるからそれでもいいか。
 ICUを出ると、御両親がいて泣きながら俺にお礼を言ってきた。
 あの屑野郎。半殺しにしといてよかったぜ。
 顎と歯が元通りになっても、裁判が待っている。
 それまで、痛みにのた打ち回ってろ。
 末路は終身刑。26年で仮釈放になるケースはあるけど、今回の場合はどんな敏腕弁護士でも無理だな。
 捜索したところ、大分ムービーを売ってたそうだからな。
 生涯、檻の中で反省してろ。
 そう思いながら、病院を後にした。

 明日は帰国か。
 ホテルのレストランで夕食を済ませると、ふとピアノが目に映った。
「Anche fammi giocare il pianoforte, Sei sicuro?(ピアノを弾かせていただいても、よろしいですか?)」
「Per favore. Si prega di prendere il vostro gioco.(どうぞ。お弾きになってください。)」
「Grazie.(ありがとうございます。)」
 レストランの人に許可を貰って、ピアノの前に座る。
 イタリアが誇る、ピアノ製造メーカー「ファツィオリ」のピアノか。
 創業したのは1981年と歴史は浅いけど、その確かな仕事ぶりには定評がある。
 流星群か。
 珍しいな。
 じゃあ。これにするか。

Cosi a lungo, la luce dell’alba
oscurita, portami in silenziosamente aggrappandosi

Nel mondo del silenzio profondo, molto tempo fa
tutto quello che restera il cuore spezzato, addio

Memorie di giorni migliori
chiuse entro nella speranza che ricorderemo
un giorno potremmo svegliare trovare sunrise

Cielo d’argento, cade su di voi e mi
un’altra speranza svanisce nella notte
melodie lontane, una dolce ninna nanna
mi portera a voi

Firefly, bagliori su di voi e mi
un’altra speranza svanisce nella notte solitaria
quando arriva la mattina, la voce gentile vi condurra
alla luce

Chiudete gli occhi come le stelle crescono dim
sussurra ora, un eterno crescere dim
Abbiate fede nel vostro cuore quando la speranza e dimenticato
Seguire il crepuscolo

Cielo d’argento, cade su di voi e mi
un’altra speranza svanisce nella notte
melodie lontane, una dolce ninna nanna
mi portera a voi

Firefly, bagliori su di voi e mi
un’altra speranza svanisce nella notte solitaria
quando arriva la mattina, la voce gentile vi condurra
alla luce

(夜が明けるまで、静寂の中にいたわ。

奥に残る失望に、さよならを言うの。

良き日の思い出がこめられた希望。いつか日の出を見つけた時に思い出すの。

2人の上の銀の空。
夜に希望となり、遠き旋律と優しいララバイがあなたへ私を導くの。

2人の上で光る蛍。夜、独り、希望になるわ。
優しい声が光へあなたを導くの。

薄暗い星空の下、瞳を閉じて永遠に囁くわ
希望を信じる心があると。
微かな光を辿って。

2人の上の銀の空。
夜に希望となり、遠き旋律と優しいララバイがあなたへ私を導くの。

2人の上で光る蛍。夜、独り、希望になるわ。
優しい声が光へあなたを導くの。)

 小さかった頃、俺は流れ星が銀色の光に見えた。
 3回願い事を言うと、願いが叶う。
 小さい頃は信じてたから、いろいろ願い事してたっけ。
 それから、楽器の弾き方を教わって当時の事を思い出して、流れ星が希望になってこの世界の誰かの願いを叶えてくれればと願って書いたのがこの曲だ。
 俺が願うのは、今回のスナッフムービーに出演していた子供たちの様なケースが少しでも少なくなる事。
 人身売買は、未だに根絶されていない。
 労働力。ポルノ。臓器移植のパーツ。
 様々な目的で、子供が誘拐されている。
 政治に関わって、知れば知る程世の中に絶望しそうになる。
 それでも、世の中には救いがある。
 俺はそう信じたい…。
 流れ星が本当に願いを叶えてくれるなら、今の世の中を少しでもいい方向に導いてほしい。
 そう願いながら、ピアノを奏で歌う。

 が、大事な事を忘れていた。
 ここはレストランで、しかも多くの人がいる事を…。
 まるまる、スマホで動画撮影をしていた人が何人かいたし、周囲からは拍手が聞こえてくる。
 あの声で歌ってるのを、聞かれた。
 顔が赤くなるのが、嫌になるのが解る。
 と、とにかく、早く寝よう。

 一夏が寝た時、千冬は不機嫌の泥沼に頭まで浸かっていた。
 シカーリにルッソ一家の壊滅作戦。
 及び、各ファミリーの一斉摘発は、大成功を収めた。
 だが、報告には一夏が作戦遂行の際に構成員を殺害したことが、書かれていた。
『奴らがどう思おうが、もはや気にするのも阿呆らしい。問題は一夏だ…。念の為だ。カウンセリングを受けさせよう。』
 人を殺したことが一夏に心理的な悪影響を与える可能性を視野に入れて、千冬はそう決めた。
 国際ニュースを扱うサイトでは作戦決行前の一夏の周到な準備と自ら勇敢に戦った事を大々的に取り上げているが、それを日本のマスコミがどう扱うかについてまるで考えていない事もさらに千冬を激怒させた。
 愛知県で立てこもり事件が起こった際に、県警の突入部隊が現場に動員されたが発砲を許されずに殉職者を出している。
 県警の上層部が、必要な手が打てなかった結果だ。
 さらに、当時マスコミが上空から生中継をして配置についていた狙撃手をも映しかねない愚挙も犯していた。
 他に、射殺やむなしの状況で事件を解決しても殺人罪で警察が告訴された例がある。
 1970年5月に起きた、瀬戸内シージャック事件がそれである。
 刑法の専門家及びマスコミ、世論も「今回はやむなし。」との声が大部分だったが公益法人自由人権協会の弁護士によって、当時の広島県警本部長と犯人を狙撃した警察官が告訴されている。
 警察、マスコミ。
 双方がテロや立てこもり事件に対して有効な対処ができるかと問われれば、決してイエスとは言えないのが日本という国である。
 今回の事にしても、ゴシップ誌が何を書きたてるか容易に想像がつく。
『手を打っておくか…。』

 帰途に就いた俺は、各国の状況について確認をしていた。
 今の所は、順調か。
 NATO艦隊は、シンガポール沖を過ぎて台湾海峡まであと僅か。
 北南米艦隊は、既に第7艦隊が護衛任務を引き継いでいる。
 東南アジア諸国及びインドの艦隊は、海自と合流し日本に向かっている。
 筆記試験に合格して、実技試験に臨む受験生たちは間もなく到着する。
 今の所、亡国企業は動きを見せていないが、このままでは済まないだろう。
 いずれにせよ。俺はどれかの艦隊の直援に回りそうだな。
 いっそ。北南米艦隊にしてみるか。
 向こうの反応も、見る必要があるしな。
 さらに言えば、一番距離がある。
 襲われた場合、リスクが高い。
 俺は今後の事を考えた後、仮眠に入った。

後書き
前回から続いた、イタリア編の完結です。
この話で、遂に一夏は人を殺します。
遅かれ早かれ、一夏はこうなっていたでしょう。
各国のISを強奪できる組織力、ゴーレムシリーズ等の兵器開発が可能な技術力に資金力。
独自の戦力を保持しているとなれば、亡国企業との戦いはもはや戦争。
利用されたカモッラの殲滅にしても末端の組織を潰すのと何ら変わりはありませんし、南米の麻薬組織や各国のマフィアとの戦いでは相手を射殺する事も当然あるわけです。
日本はその面では、特異な国なんですよ。
我々が、それを意識していないだけで。
愛知県の立てこもり事件や瀬戸内シージャック事件のような状況は、起こり得るんです。
あさま山荘の事件もまた然り。
日本という国が国際的にみても、非常に珍しい国であることを再認識した気がしました。
今回、一夏が歌ったのは蒼き鋼のアルペジオの10話の挿入歌「Silver sky」の歌詞をイタリア語に訳した物です。
日本語への翻訳は私がやりましたが、大変でした。
間違えだらけでしょうね。
その手を血に染めた一夏。
これからは、どう亡国企業と戦い、自分に向き合うのでしょうか?










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