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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第86話 嵐の後の嵐<後篇>

<<   作成日時 : 2014/01/26 00:52   >>

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 ロイヤル・アルバート・ホール。
 ヴィクトリア女王が、夫アルバート公に捧げた演劇場。
 そこが、チャリティ・オークションの会場だった。
 参加するのは、皆、各国の富裕層ばかり。
 俺もどういうわけだか、富裕層になっている。
 IS以外の研究成果も様々な特許になり、莫大な富を生んだ。
 その中から、孤児院等に寄付もしているがそれを差し引いても莫大な額になる。
 だからと言って、生活を改める気もないけどな。
 青いドレスを着て、コートを着たセシリアが俺の腕に自分の腕を絡める。
 男としては、きちんとエスコートをしないとな。
 ちなみに俺は、タキシードに冬菊からプレゼントされたドレス・チェスターフィールドコートに帽子。
 黒檀にプラチナで細工が施された、ステッキ。
 こういうのまで必要になるんだから、世も末だよな。
 そして、周囲には下に防弾チョッキを着こみ、見事にそれと見えないような警備員。
 その雰囲気から、特殊部隊系なのはすぐに解った。
 亡国企業が手を出してくるとは思わないが、念には念を入れてか。
 IS部隊も、出撃準備を整えているだろうな。

「長官。まもなく、オークションが始まります。」
「警備状況は?」
「今の所、平穏そのものです。IS部隊はマールバラ中尉の指揮の下、待機しております。」
「うむ。最後まで気を抜くなよ。」
 モルダー=ブラウンは報告に頷きながらも、念を押す。

「それでは、これよりオークションを開始します。本日は多くの方が招待をお受けくださり、主催者として厚く御礼申し上げます。」
 グレッグソン=ウィリアムは主催者として、壇上で挨拶をする。
「それでは、開始させていただきます。まずはエントリーナンバー1。15世紀後半のフルプレートアーマー。5千ポンドから開始させていただきます。」
「7千!」
「8500!」
「1万!」
「12000!」
「14000!」
 すぐに入札されていき、3倍近くまで値が上がる。
「14000。他にいらっしゃいませんか?」
「17000!」
「17000。他には?」
「18000!」
「18000。他には?」
「2万!」
「25000!」
 25000ポンドの値が着いたところで、更に高い値をつけようとする参加者はいなくなった。
「それでは、25000ポンドで落札とさせていただきます。続いて、エントリーナンバー2…。」
 次のオークションに、移った。

 なるほどね。
 各国から来て、色んな物が出品されて大金が飛び交うか…。
 骨董品は好きだけど、こういうのは今一つ好みじゃないな。
 ま。一度見ておく分にはいいけど。
 それから、いくつかの物が落札されたけどセシリアは買っていないな。
 気に入ったのが、無いのかな?

「それでは、エントリーナンバー7。フランスはバカラ社製のアンティークワイングラスとデカンタのセットです。赤、ロゼ、白がそれぞれ6人分揃っておりデカンタも3つございます。単品ですと出回りますが、揃った品となると貴重になります。では、2千ポンドから。」
「3000!」
「3500!」
「4000!」
「4500!」
「5000!」
「5000。他には、いらっしゃいませんか?」
 結構、白熱してるな。
 バカラ社は、ガラス関係じゃ知る人ぞ知る名門。
 これ位はいくか。
 状態もいいしな。
「6000!」
「6000が出ました。他には?」
 うん?セシリアが、狙ってるっぽいな。
 でも、動きを見せない。
 成程ね。
「6500!」
「7500!」
「8500!」
「9000!」
 最後まで競っていたのは、ドバイから来ていた富豪とドイツの富豪。
 ドバイの富豪に、軍配が上がったみたいだな。
 他にも買いたいものがあるみたいだから、ここは弾く事にしたかな。
「では、エントリーナンバー7は、9000で…。」
「1万。」
 セシリアが動いたか。
 ネットオークションでよくあるんだが、お目当ての物があった場合ギリギリまで入札を控えて一気に高値を付けて競り落とす。
 セシリアは、そう来たか。
「さあ。そちらのお嬢さんの挑戦を受ける方は、いらっしゃいませんか?」
「11000!」
「12000。」
 ドバイの富豪が、値をさらに上げるがすぐにセシリアがさらに高い値を着ける。

『そろそろ。限界ではなくて?アラブからのお客人。』
 セシリアは、相手の表情を観察しながらそろそろ決着が近い事を察していた。
 オークションで目当ての物を手に入れるには、相手の表情を観察して入札するタイミングを決める。
 これが、セシリアの必勝法である。
 そのセシリアの目には、相手の限界が近づいていると映っていた。
『そろそろ、決めさせていただきますわよ…。』
「13000!」
「15000。」
 それ以上の値を着ける参加者は、いなかった。
「それでは、15000ポンドで落札とさせていただきます。続いて、エントリーナンバー8。ここにいらっしゃる、ミスターオリムラの故郷。日本のサムライの鎧です。」
 運ばれてきたのは、ニ枚胴の甲冑に竜の前立てが付いた唐冠の兜の当世具足。
「16世紀後半の作です。これ程の品は、滅多にお目に掛かれません。では、8千から。」
「1万!」
「12000!」
「14000!」
「15000!」
「17000!」
 白熱してるな。
 日本の甲冑は、海外でも人気あるからな。
 けど、日本人としてはそう簡単には渡さないぜ。
 資金を、多く用意しておいてよかったぜ。

「2万。」
 そろそろ俺も参戦させてもらうぜ。
「ミスターオリムラが、2万で参戦です。さて、勝負を挑まれる方はいらっしゃいませんか?」
「21000!」
 さっきのドイツの富豪さんか。
 あの目は、相当入れ込んでるな。
 なら、手は抜かないぜ。
「23000。」
 さ。どう出る?
「25000!」
 へえ。諦める気ないか。
 上等だ。
 生涯に、何度かの散財。
 負けないぜ。
「28000。」
 会場がどよめく。
 一気に、51万円上乗せしたからな。
 さ。どうするね。
「3万!」
 まだ勝負するのか。
 いいぜ。嫌いじゃないしな。
 けど、さっさと決めないとな。
「6万。」
 日本にも甲冑を作っている職人さんは、少ないけどいる。
 中には本当に極僅かだが、戦国時代と同様の技法を用いた甲冑を作っている甲冑師の人もいる。
 見積もりに関して聞いたことあるけど、どうやらあの人は聞いたことないようだな。

「さあ。一気に6万です。若き勇者に挑まれますか?」
 10万ポンド位なら、向こうも用意していそうだな。
 それを想定して、一気に終わらせるかな。
「8万!」
「10万。」
「さあ。一気に10万です。ドイツの紳士と東洋の若き勇者。勝利の女神は、どちらに微笑むのでしょうか。」
 後は、向こうがどれくらい用意しているかだな。
 こっからは、予測が難しい。
「11万!」
 脂汗か。
 そろそろ限界か。
 じゃあ…。
「15万。」
 相手がうなだれた。
「戦いは、東洋の若き勇者に軍配が上がりました。15万で落札です。続いて…。」
 それからは、あのドイツ人の富豪さんはリベンジとばかりに狙った物を落札した。
 腹いせか?

「それでは、本日最後の品です。イタリアの名ヴァイオリン職人の一族ガダニーニの2代目ジョヴァンニ・バティスタ・ガダニーニの逸品です。」
 ガダニーニか。
 俺が持ってるのは、19世紀前半のフランス製で決して悪いのじゃないけど欲しくはなるな。
 資金はあるし、やってみますか。
「それでは、1万から。」
「15000!」
「2万!」
「3万!」
「35000!」
 じゃあ行くか。
「5万。」
 俺だって、ヴァイオリンを嗜む物の1人としていい楽器は欲しいからな。
「さあ。またしてもミスターオリムラの参戦です。現在は5万。他にはいらっしゃいませんか?」
「7万!」
 随分上乗せしたな。
「10万。」
「12万!」
「14万。」
「さあ、14万。しかし、ミスターオリムラはまだ余裕の様です。他にはいらっしゃいませんか?」
「16万!」
 名器と呼ばれるヴァイオリンは、それ自体がステータスだからな。
 中には、一流の演奏者に貸し出している人もいる。
「18万。」
「20万!」
 粘るな。なら…。
「25万。」
 詰んだな。
 もう、誰も入札しようとしない。
「最後の品は、25万ポンドでミスターオリムラが落札なさいました。これで、本日のオークションは終わりとさせていただきます。それでは、縁がありましたら、またお会いしましょう。」

 ホールの談笑室で、俺はセシリアと紅茶を飲んでいた。
「何だか、いつもの一夏さんとは別人の様でしたわね。」
「何も買わないってのは、何だしな。それに、甲冑は刀と同じくらい武士にとっては大事な物。ヴァイオリンにしても、俺はアマチュアだけどやっぱり欲位はあるさ。」
 本当。普段から想像もつかない程、金使ったよな。
 甲冑とヴァイオリン合わせて、40万ポンド。
 日本円にして、6800万円使ったわけだ。
 ちなみにセシリアにはいっていないが、ヴァイオリンは1億位なら買えた。
 つまり、余力はあったわけだ。
 言わないけど。
 束さんが訊いたら、ストラディバリウスのオークションの情報を送ってきて勝ってこいぐらい言ってきそうだな。
 まあ、ガダニーニがあるからもう買う気ないけど。

「失礼。ミスオルコット。ミスターオリムラをお借りしてよろしいですかな?」
 いよいよか。
「はい。殿方同士のお話もあるでしょうし、私はご婦人とお茶を楽しんでおりますわ。」
「では。失礼。向こうのプレイルームを、確保しております。ビリヤードでも楽しみましょう。」
 ビリヤードは、カラオケボックスに行った時に中学の友達と結構やってる。
 ちょうどいいか。
 俺と内務大臣は、プレイルームに移った。

「それにしても、あなたも中々勝負師でいらっしゃる。」
 先攻は俺なのでブレイクショットに入ろうとすると、内務大臣は今日の感想を言ってくる。
「つい。熱くなってしまいましてね。甲冑は、ぜひ日本に持ち帰りたかったですし、ヴァイオリンもいいのが欲しくなってしまうんですよ。」
 ブレイクショットを済ませて、1番と2番を順調にポケットする。
「貴方は、あまりああいう風にお金を使わないと聞いていましたが、欲しい物を手に入れる時はやはり熱くなられますか。」
「そうですね。結構、子供っぽい所はありますね。」
 3番をポケット。
「ですが、世の中には面倒な輩もおりましてな。国内にも国外にも。」
 本題に入るか。
「捕まえるしかありませんね。」
 4番をポケットし損ねたか。
 交代だ。
「こちらも関係各所を総動員しているのですが、中々ね。新大陸はゴタゴタしていて、しばらくあてにはなりませんな。織斑特別理事ならどうなさいますかな?」
 内務大臣が、4番と5番を立て続けにポケットする。
「そちらへの流れを調べられては、如何でしょうか。湖や海原には繋がる川がある物です。上流から下流へと辿って行けば、海原が自然と見えましょう。そして、下流から上流を見る事が出来ればより流れが鮮明に写る物です。」
 アメリカがゴタゴタしてるなら、そちらに流れる資金の流れを調べれば様々な情報が得られる。
 そして、アメリカに繋がる流れも見つける事が出来る。
 向こうが非協力的だとしても、やりようはあるだろう。
「おっと。もう少しだったのですが惜しい。」
 8番をポケットし損ねた内務大臣が肩をすくめると、一通の手紙を俺に渡してくる。
「では、失礼して。」
 受け取ってから、8番と9番をポケットして俺の勝ち。
「中々の腕前ですな。どうですか?ご自宅にプレイルームを増築なさっては?ビリヤード台はよい業者を知っていますので、紹介させていただきますよ。」
「そうですね。考えておきますよ。」
 ゲームを終えて、俺は一通の手紙を内務大臣に渡す。

「ゴタゴタは、何時収まるとお考えですか?」
「予想は、難しいですな。大統領も議会から相当に突き上げを喰らっていますからね。」
 だろうな。
 隠れ蓑とはいえ、額は半端じゃなかったし。
 けど、俺は意外に早く収まると考えている。
 このまま政治が停滞すれば、与党も野党も国民の支持を失う。
 そうなれば、選挙は厳しくなるからな。
 後は、向こうのリアクションか。
 毒草が芽吹く可能性を放置するような馬鹿は、いないだろう。
 そうなれば、向こうも本気で動く必要がある。
 その時に、本拠地を突き止める大きな一歩になるはずだ。
 今は、それを待つ。
 とにかく、焦ったら負けだ。
 まだ、解らない事だらけだけど確実にこっちが追い詰めつつあるんだ。
 ここでそれをおじゃんにしたら、間抜けの極み。
 一つ、腰を据えていくか。
「さて。そろそろ戻りますか。ミスオルコットがお待ちかねだ。」

「そうか。無事帰宅したか。」
「はっ。今回は、襲撃の類は無かったようです。」
「今回はな…。だが、次もこうだとは限らんよ。」
 モルダー=ブラウンは窓からロンドンの街を見ながら、厳しい表情になる。
「君は、引き続き警備に当たってくれ。抜かりのないようにな。」
「はっ。」
『とりあえずは、一安心したいものだ…。』
 SISも諜報網を最大限に活用して、亡国企業の調査に当たっている。
 追い詰めつつあるのは事実だが、それだけに捨て身の反撃に出た場合の懸念が大きくなってゆく。
『ミスターオリムラ。あなたは、どうなさるのか?』
 まだ解答の分からない問題について、モルダー=ブラウンは一夏の意見を是非とも聞きたかった。
『帰国は、明後日だったな。我が家の晩餐に、招待するとしようか…。』
 モルダー=ブラウンは自宅に電話をして、明日の夕食に一夏とセシリアを招待する用意をするように言った。

「モルダー=ブラウン長官が?」
 夕食を済ませて、紅茶を飲んでいた俺とセシリアは顔を見合わせた。
「一体どういう事でしょうか?」
「さあな。正直、俺にも見当がつかない。只、こうして正式に招待状まで出してきたんだ。断るのもな。人物は、そう悪くはない。俺は、受けてもいいかなとは思う。妙な考えを起こさなければという、条件付きだけどな。」
 セシリアをだしにして何かさせようものなら、お断りだ。
 そんな事をしようものなら効率は悪くなるが、国家機関との協力関係は解消する方向で考える。
 まあ。とりあえず。招待状を読むか。
 ふうん。成程ね。
「私はお受けしても構いませんが、一夏さんはいかがですか?」
「構わないぜ。今回は、妙な事は考えていないと見て間違いないみたいだからな。」
 個人と組織人とはまた違った立ち位置になるから、その辺りを見極める必要はある。
 絶好の機会だ。ちょうどいい。
「チェルシー。後程、お返事を届けてください。」
「かしこまりました。お嬢様。」
 チェルシーさんが、食堂を出る。
 さて、どうなるやら…。

「そうか。SIS長官がな。」
 食後の紅茶を飲み終わってから、一夏は千冬に連絡を入れた。
「妙な真似はしないようだけど、一応知らせておいた方がいいと思ってな。それと、内務省関係の組織との連携は問題ない。けど、明日以降は、解らないな。」
 一夏の言葉を聞いて、千冬は何を言いたいかを悟った。
 SISは、イギリス最大の諜報機関。
 そして、属するのは外務省である。
 外務省の長であるヘミングスは一夏が最も嫌う政治家で、事と次第によっては事態がどうなるか不確定な部分がある。
 それを、一夏は言ったのである。
「お前の心配は尤もだが、内務省との協力関係は首相の働きが強い。そして、イギリスでは外務大臣より首相の方が上だ。既に釘は刺しているだろう。心配する必要は、無かろう。」
「そう願っているよ。じゃあ。」
「ああ。」
 千冬は、電話を切る。

「厄介事ですか…?」
 真耶が、心配そうに訊ねる。
 只でさえ、多くの物を背負っている一夏にさらにストレスがかかるなど考えたくもない。
 表情は、そう物語っていた。
「いや。その心配はおそらくないだろう。今度一夏を怒らせたら、向こうの損害も小さくはない。そうなれば、外務大臣のクビが飛ぶ。その程度の事は、理解している。それより、卒業式まで日も浅い。既に準備万端だが、警備状況の確認等やることはある。生徒会に頼りきりでは、教師の面目が無いという物だ。」
 千冬は、卒業式関連の書類に目を通し始めた。

「成程。御懸念は私も理解できました。」
 翌日。モルダー=ブラウン邸での晩餐の後、一夏はモルダー=ブラウンと話していた。
 傍には、コニャックが入ったグラスが置かれている。
「我がSISも、最大限の努力をして奴らを追い込もうとしている。だが、諜報機関であって特殊部隊ではない。それを考慮すると、どうしても考えざるを得ない。」
「狙われるとしたら、本部でしょう。組織を潰すには、まずは頭というのが常道。向こうも、それは承知している筈。その点に十分に注意し、入国に関しても監視を強化すればよいと考えます。今の状況を差し引いても、亡国企業の事は常に注意し過ぎるくらいがちょうどよいかと。」
「成程。確かに。」
「対テロという口実であれば、即応体制を敷くのにさほど時間はかからないと考えます。外務大臣に進言されて、内閣でよく相談なさるべきかと。」
 欧州各国は、頭の痛い問題を抱えている。
 移民問題である。
 職を求めての、旧植民地からの移民が原因で職を奪われ不満を持つ国民や文化や風習の違いによる対立。
 これらが生み出す、社会不安。
 それらに対処する必要に、各国は迫られている。
「問題を先送りすることは、もはや不可能かと。これは、内閣においても一致した見解であると私は考えます。不法移民を退去させる事は合法としても、不満は火種になります。移民を制限しても同様。国防省直属の警察は既にH&K MP7の導入を開始しておりますが、スコットランドヤードでも考えるべきでしょう。同時に、SISでも警備を厳重にすることが必要でしょう。諜報機関は、とかく目の敵にされる物です。存在意義を抜きにしても…。」
「議論は出ておりました。事実、イタリアのカラビニエリはサブマシンガンを装備しての観光地の警備を実施しておりますし、パリにおいても治安の悪い地区ではアサルトライフルを携帯しておりますからな。ですが、慎重な対応を求める声も少なくなかった。ですが、仰る通り今は強権的に見られても必要ですな。」
 モルダー=ブラウンは、腹を括った。

 提案した俺が言うのも何だけど、驚きだな。
 でも、治安の悪化は何としても抑えないと暴動に発展する。
 そして、強権的に見られても、国家の秩序を守るという断固たる意志を見せるのは必要だ。
 移民にしても、背景には複雑な問題がある。
 が、不法移民は許されていい事じゃない。
 なにより、その国の事情があるんだから場合によっては制限もやむなしだろう。
 無制限に移民を受け入れれば、それ自体が社会不安や外交上の火種になるのは過去の日系移民を見てもよく解るからな。
「いや。貴方をお招きしてよかった。感謝いたします。我々に対し、貴方がいろいろと思う事があるのは存じていますがよい関係を築き上げたいものです。無論、信頼を得てから。」
「互いの信頼関係を構築できれば、自然とよき関係が築けましょう。」
 コニャックのグラスを傾けて、俺と長官はグラスを空ける。

『関係構築の足掛かりは、出来たな…。』
 オルコット家のリムジンを見送りながら、モルダー=ブラウンは胸を撫で下ろしていた。
『後は、外務省が妙な事をしでかさない事を祈るのみだ…。』
 一夏のウィリアムズへの心象を考えると、どうしても不安が胸をよぎる。
『個人的な縁を、深めておくべきだな。彼がこの先、どのような道を歩くにしても…。』

 やれやれ、参ったね…。
 アメリカのごたつきだけじゃなく、欧州も相当にきな臭い。
 元々、血をインクにして歴史を綴っている地域だから不思議はないが、怪しい部分があり過ぎる。
 向こうとの情報交換を密にして、さらに分析を進めるか…。
 ようやく、イタリアが片付いたのに一難去ってまた一難。
 嵐の後にまた嵐。
 いつになったら、青空が見えるんだか…。
 とりあえず、寝よう。
 明日には帰国だし、卒業式もある。

「かなり頑張っているじゃない。千冬の自慢の弟君は。」
「別に、自慢などしとらん。」
 行きつけのバーで、千冬は黒ビールを喉に流し込む。
「そうかしら?今回の護衛計画だって、決まるまで色々あったけど最終的に纏め上げたのは彼の手腕でしょう?桃始華の性能は、第三世代とは到底思えないし。少しは褒めてあげないと、伸びる物も伸びないわよ。千冬。恥ずかしいのは、私なりに解るけど。」
「ふん。知った事を。」
 憮然と恥ずかしさが混ざった表情で、千冬はナッツを口の中に放り込む。
「そういうお前こそ、こんな所で油を売っている場合か?アンジェリカ。」
「これも仕事よ。千冬。卒業式に、来賓として招かれているの。尤も、口実だけどね。」
「警備か。」
「正解。」
 カクテルを一口飲んだ女性の名は、アンジェリカ・マルヴェッツィ。
 第1回モンドグロッソで千冬とブリュンヒルデの座を争い、第2回では千冬に続いてブリュンヒルデの称号を得たISパイロットである。
 イタリア海兵部隊サン・マルコ連隊に所属していたが、今は退役してIS委員会直属となっている。

「私としても巣立ちの日に無粋な真似を仕掛けてくる輩を放っておくのは、いい気がしないし、弟君とは直接会いたかったから。」
「なら。後で存分に会え。但し、手は出すなよ。あの唐変木。2桁になっても、まるで気づく気配がない。これでは、いわゆるできちゃった婚にでもならんと嫁ももらえん。」
 一言釘を刺しながら溜息をついて、千冬は黒ビールのお代わりを頼む。
『なんだかんだ言って、弟君が大事な訳か…。俄然、興味がわくわね。』
 仏頂面で黒ビールを飲む千冬を横目で見ながら、アンジェリカは一夏と会う日を楽しみにしていた。

後書き
今回は、オークションを隠れ蓑にするので少し勉強してみましたが…。
世界が、違いすぎます…。
アンティークは、とにかく高い!
プレートアーマーにしても、ピンからキリとは言え100万単位なんて、当然。
日本の甲冑にしても、見積もりを出すと本当に千万単位が普通。
昔ながらの方法で作ると、それだけ手間がかかるという事でしょう。
そして極めつけは、ヴァイオリン。
名器と呼ばれる物は、競られた値段が値段になるという眩暈がする現実…。
庶民と金持ちは、住む世界は違いますね。
本題の内務大臣の協議に、SIS長官との会談では協力範囲を拡大することがほぼ決定。
移民問題という、あまり日本とはなじみのない問題もセットになっているので大変ですから欧州の亡国企業の調査はある意味日本以上に大変です。
それでもうやらなくてはならないので、一夏も知恵を貸す事になります。
それにしても、箒だけでなくセシリアも恋の女神にはあまり愛されていないようで。


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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
作者さん、小説を作りたいんで作者さんの小説を少々参考にしてもよろしいでしょうか?
ライクスピア
2014/01/31 22:17
ライクスピアさん。
コメントありがとうございます。

どこまで参考になるかは解りませんが、私は
構いません。
頑張ってください。
CIC担当
2014/02/02 23:08
作者さん、申し訳ございません。
あなた様の小説を少々参考にし過ぎてしまい、盗作と間違われしまいました。誠に申し訳ございません!!
ライクスピア
2014/02/04 01:00
ライクスピアさん。
コメントありがとうございます。

>盗作と間違われしまいました。誠に申し訳
>ございません!!
 そういう時もありますよ。
 確か去年でしたか、Fateの有名な二次
 創作サイトが盗作の指摘を受けて閉鎖され
 たとネットで情報を目にしたことがありま
 す。
 他の方の作品を参考にしている時に、気を
 付けていてもそうなってしまうのは稀では
 ないようですね。
 そこは、私も似た様なものです。
 参考にしている作品はいろいろありますけ
 ど、私なりにアレンジはするように常に心
 がけています。
 とにかく、注意を忘れない事だと思います
 よ。
CIC担当
2014/02/06 21:53
作者さん、アドバイス有り難うございます。
二度とこんな事が起きないように、自分も説明欄にちゃんと書こうとします。
ライクスピア
2014/02/08 01:54
重ね重ね、連続で書いて、申し訳ございません。
自分は作者さんの小説を見ていると所々に誤字が有るんですが
修正はしないんですか?
ライクスピア
2014/02/08 02:00

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