cogito,ergo sum

アクセスカウンタ

zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第84話 Et pas un bon voyage

<<   作成日時 : 2014/01/12 00:02   >>

面白い ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 0

 IS学園の朝。
 弓道場では、朝練の時間でないにも関わらず部員が集まっていた。
 その視線の先には、どこまでも静かな“気”を纏って矢を射る一夏の姿があった。
 手にする弓は上段者が使う竹製で、長さは2寸伸。
 だが、4人張りの特注品である。
 作る際には、3人で弓を曲げて残り1人が弦を掛けるほどの強弓である。
 当然、使う側にも相当な腕力が求められる。
 一夏はそれを平然と使用し、矢は中心を決して外すことはない。

 腕は、鈍っていないな。
 偶に弓道場を借りていたけど、最近は弓を引いていなかったから心配だったので久しぶりに腕を試してみたが大丈夫か。
 さて、これ位にするか。
 通常メニューに、復帰と。
「場所を貸して下さって、ありがとうございました。」
 弓道部の部長不動先輩に、礼を言う。
「気にしなくていいわ。馬術部の森さんも言っていたけど、自由に使ってくれて構わないのよ。」
「ご好意は嬉しいですが、使わせていただいている以上はきちんとお礼を言うのが筋です。」
 こういう所をおろそかにするのは、俺は嫌なのできちんとしたい。
「それにしても、4人張りの弓でこの腕。しかも、繊細な竹製。初段は惜しいわよ。父にあなたのことを話したら、「昇段の機会がある時は、いつでも連れてこい。」って何度も言うのよ。そもそも、織斑君の腕前って明らかに5段以上じゃない。」
「元々、昇段には興味はないんですよ。剣術、槍術、弓道。全部、己を鍛える為ですから。」
「でも。昇段もそのステップって言えるでしょ?一度でいいから、行ってみようよ。」
「時間の都合ができたら、考えてみます。それでは。」
「あ、そうだ。ちょっと後で話いい?少しの時間だから。」
「はあ。別に、構いませんけど。」
 何だろう?

「そう言えば、今日だっけ?横須賀を立つのは。」
 射撃訓練でアサルトライフルを撃ちながら、楯無さんが訊いてくる。
「ええ。横須賀のローレンス・ハイランドで、第7艦隊を主軸とする北南米艦隊に合流。警戒に加わりますよ。」
 マガジンを交換しながら、答える。
 ちょっとリスクもあるんだけど、得られるものもある。
 俺がのこのこ行けば、向こうは何らかのリアクションを起こすだろうからな。
 既に、下準備も整えている。
 後味の悪い結末になるのは既に決定事項だが、この際は仕方ないな。
 とにかく、受験生をきちんと迎えて受験を終わらせて国に帰す。
 1人たりとも、誘拐なんてさせない。
 もう、準備も整っているしな。

 朝のトレーニングを終えて、俺は再び弓道場に行った。
「御免なさいね。わざわざ来てもらって…。」
「いえ。それで、何でしょう…?」
 何か用はあるんだよな。多分。
「大丈夫?その…、イタリアの事…。」
 ああ…。その事か…。
 世界中に、知れ渡ったからな。
 イタリアとかじゃ好意的だったけど、日本のマスコミはとにかく叩いた。叩いた。
 ま。予想はしてたから、驚きも傷つきもしなかったけどな。
 俺の個人情報は委員会の機密事項だけど、今回の場合、表面上はISに何ら抵触しない。
 勿論、機密事項にすることは出来たが、あまりやり過ぎると各国から突き上げを喰らう。
 故に、機密にはならなかった。
 委員会にしても、いい広報活動になると思ったんだろう。
 俺が、悪名高きカモッラの壊滅に貢献したとなれば、ISパイロットや委員会の株が上がると。
 そんな委員会にとって、日本の反応は想定外だったようだ。

 いずれにしても、この手で、人を殺したのは事実だ
 それは、決して消えない。
 今回の事が罪ならば、俺の体に刻み込まれて永遠に消えはしない。
 罪の字の由来は、罪人が自らの体に証たる刺青を彫る様。
 だから、決して消えやしないだろう。
 ところが、それを見た読者が大激怒したそうだ。
 多くの軍事専門家や、傭兵として海外で戦った人たちが当時の状況を詳細に説明して今度はマスコミが世論に袋叩きにあった。
 ま。どうでもいい事だけどな。

 ただ。厳さんの言った事には考えさせられたかな…。
 ある日、夕飯を食いに来いと言われて行ったら、太平洋戦争で徴兵された時の経験を話しながら俺に自分の思った事を話してくれた。
「一夏。俺も、徴兵されて戦地に行って人を殺した。あんな時代だ。珍しくもなかった。相手は、別に犯罪者じゃなかった。ただ、敵国の兵士だったからって理由で俺達は戦ったのさ。その事を完全にふっ切った訳じゃねえが、いつまでも引きずっちゃいねえよ。まして、マフィアなんざ正真正銘の屑の集まりよ。どれだけの人間の人生を台無しにしてきたか、解ったもんじゃねえ。一夏、お前はその連鎖を断ち切る為に戦ったんだ。ただ、殺すために戦ったんじゃねえだろ?とにかく、覚えておく事と引きずる事の区別はつけろよ。お前の事をけなす奴がいたら、俺の所に連れてきな。俺がきっちり理解させてやる。お前も、弾と蘭と同じように俺にとっちゃ可愛い孫だ。爺ちゃんをちっとは頼りな。お前はちょっと脛齧り位で、ちょうどいいんだ。」
 血の繋がっていない赤の他人の俺をそういう風に思ってくれている厳さんの気持ちが、本当に嬉しかったな…。
 同時に、覚えておく事と引きずる事の違いを考えさせられた。

「大丈夫ですよ。まあ、いろいろドタバタしましたけど予想していましたから。どうやら、御心配をおかけしてしまったようですね。すいません。でも、大丈夫ですから。じゃあ、これで出発の時間なので…。」
 弓道場を去ろうとすると、先輩が俺の頭を胸元に抱き寄せる。
「あまり立ち入るつもりはないわ。でもね…、織斑君が心を痛めていることはみんな知っているわ。あなたは人を殺すために、毎日頑張っているわけじゃない物。だから、苦しかったり辛かったりした時は言える範囲でいいから言って欲しいの。それは、恥じる事ではないと私は思うから…。」
 そう言って、先輩の唇が俺の唇に重なった。
「御免なさいね。時間取らせちゃって…。それから、私でよければあなたの痛みを少しは引き受けるわ。こうみえても、女の子なんだから…。」
 そして、教室に戻った。
 痛みを引き受ける…、か…。
 できない…。俺の事で、散々周囲が心を痛めているんだ。
 できっこないし、やってもいけないんだ…。

「では。行ってきます。」
「うん。頼んだぞ。」
 その日の講義を終えてから、俺は千冬姉たちに挨拶に行った。
 実技試験に臨む、米大陸の受験生の護衛。
 絶対に失敗は、許されない。
 欧州および、アジア方面は万事順調だそうだがそっちも気が抜けない。
 そちらには、IS委員会がきっちり保険を掛けているとしてもだ。
「それと…、話は外れるんですが、やっぱり駄目ですか…?」
「勘弁して下さいよ…。」
 ローマのホテルで歌った時の映像は、しっかり動画サイトに投稿されて再生数はうなぎ上り。
 あちこちのTV局から出演依頼が来て、アーティストデビューの話まで来た。
 勿論、全部断った。
 渚子さんが、また取材依頼をしてきそうだがもう応じる気はない。
「そこを何とか…。このままだと、生徒の不満が爆発しちゃうんですよ…。」
 そう。
 最大の問題は、「隠していたペナルティとして、皆の前で歌声を披露しろ。」という要求だった。
 冗談じゃない…。
 それだけは、絶対にできない。
 つうか。男のプライドってもんがですね。あるんですよ。
「とにかく。行ってきます。上に、迎えのヘリが来ていますので。」
 俺は屋上のヘリポートで待機している、ベル・エアクラフト UH−1N ツインヒューイで横須賀港に向かった。

 横須賀港を出港してから、用意してもらった個室で状況をチェックした後甲板に出て外の空気を吸う。
 潮風が、気持ちいい。
 速力は、20ktってとこか。
 大改装を施されたローレンス・ハイランドは、最低限以外の兵装を撤去すると共に各種データ収集機器を搭載。
 さらに、機関部は蒸気タービンからMT30ガスタービン発電機にLM500ガスタービン発電機に換装。機関と発電機を統合したIEP(Integrated electric propulsion:統合電気推進)方式を採用し出力も大幅に向上しているので、この種の艦としてはかなりの高速艦だ。
 さすがに、最低限の兵装しか搭載していないローレンス・ハイランドを単艦で合流させるわけにはいかないので、他国への売買に伴いESSM対空ミサイルが格納されたMk.41 VLS(垂直発射システム)8基とハープーン8基が搭載されたミサイルフリゲート ルーベン・ジェームスに、新造ミサイル駆逐艦 マイケル・マーフィーが試験航海を兼ねて派遣され護衛についている。

「一夏。そろそろ中に入ったら?風邪をひくわよ。」
 米海軍の制服を着てコートを羽織ったナタルが、呼びに来る。
「冬季遊撃レンジャー課程に比べれば、ハワイのバカンスみたいなもんだよ。」
 冬季遊撃レンジャー課程は雪中戦のスペシャリストを育成する、レンジャー課程だ。
 時には気温が−40度以下になるニセコ山中で、訓練が実施される。
 通常は10週間だが、俺の場合は4週間。
 しかも、他の隊員より遥かに厳しい訓練だった。
 それに比べたら、これくらい何てことない。
 本当は、今頃普通の高校生だったはずなのに、どんどん人間離れしているような感じがするのは…。気のせいだな…。千冬姉みたいなさらなる怪物がいるし。
 俺は、普通の人間だ。うん。
 人間、その気になれば−40度の中でも訓練してから雪合戦だってできるさ。
 フィンランドやノルウェーみたいな国も、あるんだし。
「とにかく。中に入って。もうすぐ夕食の時間よ。」
「解った。」
 俺は、ナタルに連れられて食堂に向かう。
 外では、シコルスキー・エアクラフト MH−60R統合多用途艦載ヘリコプターが警戒に当たっている。
 水陸両用のゴーレムや、潜水艦からの攻撃もあり得るからな。
 各艦のソナーマンは、神経を尖らせているだろうな。
 俺も、備えはしてある。

「−43度での雪中戦訓練!?」
 一夏の過去の体験を聞いて、ナタルは唖然としていた。
 雪中戦の専門部隊でも、おそらく尻込みするであろう体験を一夏は何でもないように話している。
「で、訓練が終わった後は、すぐに帰ったのよね?」
「ああ。雪合戦した後でな。」
「雪合戦?」
「内容が良かったから、少しぐらい羽目を外してもいいだろうってな。」
 切り分けたステーキを口に運びながら、一夏は話す。
 話を近く聞いていたローレンス・ハイランドのクルーは、顔を見合わせる。
 アメリカは寒さが厳しい州もありその州の出身者も当然いるが、それを差し引いても過酷な冬季訓練の事を通常の訓練の様に話す一夏を普通の人間の様には見えなかった。

 うん?何か、周囲が引いてるけど気のせいか?
 絶対に、スイスとかノルウェー、フィンランドの冬季訓練の方が過酷だぞ。
 ユングフラウなんて、年がら年中寒い。
 ノルウェーとフィンランドは北極圏に近いから、当然寒さは半端じゃない。
 そっちでの冬季訓練の予定とか、ないのかな?
 あったら、参加してみたいね。
 っと、定時チェックのお時間だ。
「一夏。何をしているの?」
「ん?個人的に、周辺をチェックしてるんだよ。ちょっかい掛けられる前に、先手を打ちたいしな。」
 既に、ステルス性の高い索敵衛星は打ち上げているが、他にも海中の索敵を行う光学迷彩及び磁気遮断性や静粛性にすぐれた小型艇も、艦に密かに同行させている。
 米軍の警戒を信じていないわけじゃないけど、俺は俺できちんとやっておきたかったからな。
 今の所は、大丈夫そうだな。
「相変わらず、抜かりがないわね。にしても、その制服とても素敵よ。よく似合ってる。」
「そうか?」
 つい最近になって、プルシャンブルーを基調としたIS委員会直属のISパイロット用の制服が作られて、俺はそれを着ている。
 階級証は世界初のISである白騎士と盾を紋章風にアレンジして、太陽と勝利を意味するソウイルのルーンを組み合わせたデザインになっている。
 ちなみに、今の俺は各国の軍隊から大佐として遇される事を示す階級証をつけている。
 つまり。この艦の中では階級だけでいえば、マクドネル大佐と同等になる。
 向こうが先任だし、俺は口をどうこう出す気ははっきり言ってないしな。

「失礼します。大佐。艦長がお呼びです。CICまでお越しください。」
「了解しました。」
 少尉の階級証をつけた士官が、俺を呼びに来る。
「じゃあ。ちょっと行ってくる。」

「オリムラ大佐。お見えであります。」
「ご苦労。済まんな。わざわざ来てもらって。」
「いえ。お気遣いなく。何か、ありましたか?」
 互いに敬礼する。
「いや。明後日には、艦隊と合流するのでその前のちょっとした打ち合わせだ。」
「エスコート役が最大戦速にしても、この艦は十分について行けますからね。合流も早いですか。それで。その際のこの艦のポジションは、どこに?」
「ここだ。ジェラルド・R・フォードの後方。輪形陣の中心になる。ルーベン・ジェームスとマイケル・マーフィーはズムウォルトと共に、直衛を務める。」
 艦隊のフォーメーションに、一夏は視線を移す。
 中心には、臨時旗艦を務めるジェラルド・R・フォード。
 そして、ローレンス・ハイランドが配置される
 その前方をズムウォルトとマイケル・マーフィーが守り、後方をルーベン・ジェームスが固める。
 その集団を中心に、輪形陣が組まれる。
 ヴェラ・ガルフ、チャンセラーズビルは、輪形陣前方の左右に分かれ前衛を組む。
 その間と後方を固めるように、スプルーアンス、スタレット、サンプソン、 グリッドレイ、ステザム、ラッセン、マッキャンベル、マスティンが展開。
 そして、対潜任務を重視する改装をしたカウフマンとエルロッドが対潜警戒を務める。
 この2隻と共に警戒に当たるのが、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、チリの艦艇である。
 カナダ海軍からはハリファックス級フリゲート。トロント、オタワ。
 ブラジル海軍からは、イギリスの退役艦で対潜能力を重視した22型フリゲートの初期艦を購入して編入したグリーニャウイにボジージオ。
 アルゼンチン海軍からは、アルミランテ・ブラウン級駆逐艦の3番艦エロイナ。
 ペルー海軍からは、イタリア軍の退役艦で小型重武装フリゲートルポ級を購入し編入したボログネシ、クイニョネス。
 チリ海軍からは、イギリスの退役艦で対空戦能力を重視したカウンティ級を改修したカピタン・プラット、アルミランテ・コクレーン。
 そして、高速戦闘支援艦アークティックと共に補給を担う艦として、アルゼンチン海軍から補給艦パタゴニアが派遣されている。
 海中は、最新鋭原子力潜水艦ミネソタ、ノースダコタ、ジョン・ウォーナーが耳を澄ませ牙を研いでいる。
 それらの母艦として潜水艦母艦フランク・ケーブルが随伴している

 米海軍とカナダ海軍は問題ないとして、南米の海軍の艦艇は言っちゃなんだがあまり当てにはならないな。
 ブラジル海軍のグリーニャウイにボジージオは、ステルス型砲塔の76mmスーパーラピッド砲及びゴールキーパーCIWSを装備。戦術情報システムをSSCS+リンク11/リンク16に換装。レーダーを997型「アルチザン」3次元レーダーに換装。射撃指揮システムを911型 PDMS射撃指揮×2基に換装。ソナーを2050型 船体装備ソナーに換装し、2087型戦術曳航ソナーを追加装備。電子戦対抗装備をシー・ナット 6連装チャフ・フレア発射機及び675(2)型ECM装置に換装というかなりの大改装をしているし、チリ海軍のカピタン・プラット、アルミランテ・コクレーンも近代化改修が行われているけど他国のも含めて基本的には老朽艦だ。
 自衛隊が軍隊と認識されるのが、理解できるよ。
 海自では、対空戦を重視したあきづき型護衛艦に続いて対潜戦闘を重視した護衛艦が計画されてあきづき型のFCS−3を発展させた日本版イージスシステムとも十分に言えるFCS−4システムを搭載した最新鋭護衛艦はるな型が3隻実戦配備されているし、さらにもう1隻が間もなく竣工する。いせ型を凌ぐ大型ヘリコプター搭載型護衛艦いずも型の2番艦いわても間もなく竣工する。
 いせ型といずも型のネームシップのいずもは、V/STOL機が運用可能な改修が施され、いわては当初から艦載機が運用可能な多目的護衛艦として設計されている。
 既に退役した護衛艦も、海外ではまだ一線級の戦力として通用する物ばかり。
 差を嫌というほど感じる。
 練度の事もあるから、いざ戦闘になった時に艦隊行動がきちんと統率された物になるか不安だな。
 やっぱり、あれを用意してきてよかったぜ。
 若干の不安を覚えながら警戒を厳重にしつつ、ローレンス・ハイランドは第7艦隊と合流した。
 米海軍は問題ないが、南米の海軍はちぐはぐだな。
 カナダ海軍は大丈夫か。

「ようこそ。ジェラルド・R・フォードへ。現在第7艦隊を指揮しているヘンリー・ウィルコックス中将だ。彼は参謀長のアルヴィン・D・スウィーニー大佐だ。」
「ご挨拶恐縮です。ウィルコックス閣下。イチカ・オリムラ大佐です。」
 艦橋で。司令官のウィルコックス中将と参謀長のスウィーニー大佐の出迎えを受ける。
 ちょっと、おおげさじゃないのか?
「私こそ、臨時とはいえ旗艦に迎える事が出来て光栄だよ。見学がしたければ、遠慮なくいってくれたまえ。マクドネル大佐も道中ご苦労だったな。」
「いえ。オリムラ大佐がいたので、何の不安も感じませんでした。彼の方こそ、事前に色々と手を打って我々を守っていてくれましたよ。」
「そうか。海軍を代表して礼を言うよ。」
「自らの責務を全うしたいですし、何より受験生たちをきちんと日本に送り届けたいというのが今の私の心からの本音です。労力を惜しむ気はありません。10分前の定時チェックのデータです。目をお通しください。間もなく、艦隊周辺の索敵データもお届けできます。」
 合流してからが、本番だからな。
 一層気が抜けないし、俺の情報も頭に入れておいて欲しい。
「解った。目を通しておこう。」
「よろしくお願いいたします。」
 よし。これで警戒体制の強化は完了。
 後は、向こうの出方次第か。
 俺の考えだけど、あの有人型の機動兵器を開発した派閥は今回出てこない気がするな。
 この時期に手を出せば、亡国企業の解明にますます力が入る。
 と言うより、入らざるを得ない。
 各国首脳は、鼻薬を嗅がされた連中を一斉拘束でもしないと世論からの凄まじい批判にさらされるだろう。
 亡国企業の事はごく一握りの人間しか知らなくても、今までの襲撃で各国の国民は大規模なテロ組織があるぐらいは考えているだろうし、今回受験生が襲撃に晒されれば国民の生命と安全を守る義務を全うする事を要求する筈だ。
 それから目を背けて耳を塞げば、政権が崩壊する。
 それこそ、血眼になるだろう。
 理性的に考えれば、それ位は解る。
 だからこそ、出てこない。
 より正確に言えば、出られない。
 IS学園の運営や学生の保護の義務を、日本が基本的に負っているからこそできるようなものだ。
 けど、今回は事情が大きく異なる。
 だからこそ、出られない。
 さて、ジェームズ・グレイはどう出るかな?

「さすがに、今回は出るわけにはいかないわ。」
「滅亡への時間を、短くするだけだからな。そんな愚行を犯すことはできん。」
「同感ね。」
 スコールとエム。
 そして、臨海学校の件で逮捕され警察病院に収容されたが文化祭の折に奪還されたスノーが、同じ結論に達する。
 スノーのエムに対する感情のベクトルは変わっていないが、それが判断力を鈍らせるほどスノーの学習能力は低くはない。
 一度懲りたら、それを教訓にする度量は持ち合わせている。
「が、あの男は動くぞ。何やら、とてつもない物を準備しているらしい。」
「スペードのエースというわけね。」
「の。様だな。」
 スコールの問いに、エムはそっけなく答える。
「今頃、狂喜しているだろうよ。当たりを引いたとな。愚か者め。」
「どういう事だ?」
 嘲笑するエムに、スノーが問う。
「簡単だ。奴はジョーカーを引いた。織斑一夏という最悪のジョーカーをな。勝負は目に見えている。イタリアの資金ルートを周到な根回しをして壊滅させて、他にも色々と暴いた。こちらの完敗だ。技術競争に加え、知恵比べでも負かすのは相当に骨だ。まして、あの狂人は知恵比べには向かんさ。」
 スコールとスノーは、エムの言葉に納得した。
 そして、確信した。
 既に、一夏は独自に備えをしていると。

「さらに腕を上げたって、聞いてるぜ。あたしも、訓練は厳しくしたけどまだまだ敵わねえか。」
 ジェラルド・R・フォードの士官食堂で、久方ぶりにあったイーリにナタルと俺で昔話に花を咲かせていた。
「イーリだって、曲がりなりにもアメリカの国家代表じゃないか。会って、さらに強くなったのはすぐに解ったよ。」
「サンキュー。お前にそう言ってもらえると、嬉しいぜ。日本に着いたら手合わせしようぜ。学園の方に掛け合ってからだけどな。」
 さすがに、臨海学校の時みたいなことはしないか。
 あの後、マクドネル大佐たちにこってり絞られて減俸食らってさすがに懲りたみたいだな。
 人に迷惑かけるのは、やめろよ。
 特に、今はストッパーのナタルが横須賀にいる。
 暴走したら、クビだぜ?
「一夏、また髪伸びたのね。一層綺麗になったわ。それに、あんな愛らしい表情もあったなんて知らなかった。歌声も、本当に綺麗だったし。」
 ナタルが頬を染めて、うっとりとした表情になる。
 げ…。やっぱり見てたのか。
「あたしの周囲でも、繰り返し再生してるのが沢山いるぞ。中には、ジュリアード学院とかの名門音楽学校の教師陣も相当にいるって聞いたぞ。」
 何で、そうなる…。
 俺、素人だぞ…。
 話、大きくなり過ぎだろ…。
 今度からは、人前で歌うのはやめよう。
 これ以上、騒がしくなるのはマジで勘弁だ。
 話題を変えよう。何か、ヤバい雰囲気がする。

「そうだ。ファングクェイクは、追加兵装パッケージとか新規に開発されてないのか?」
 去年の改装で、ファングクェイクは高機動追加兵装パッケージ「タイガーファング」が必要ないほどのスペックになってる。
 でも、何が起きるか解らないから、一応確認はしておきたかった。
「ああ。つい最近、調整が終わったやつをな。国内のメーカーも面子があるから、必死だったよ。」
 アメリカの軍需産業は、民間向けの開発もしているけど基本的には軍需が収益の大部分を占めている。
 いつも俺が改修をしていたら、下手をしたら会社がやっていけなくなる。
 無理もないか。
「福音も調整が終わっているわ。DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)と、ロッキード・マーティンは苦労してたわよ。何しろ、一夏が改修した後の福音は、物凄い性能だもの。近くのモーテルを丸ごと貸切にして、宿舎にしていたわ。」
 そこまで、やってたのかよ。
 でも、依頼された以上手を抜くのは嫌だったからな。
 尤も、この先やる事はないけど。
「白式はどうなの?」
「今年開発したのを、宇宙でも地球でも問題なく運用できるように再調整した。後は、お楽しみかな。使う機会があればだけどな。」
 こればっかりは、俺にも解らない。
 あれを使う機会が、あるかどうかは。
「そうか。衛星軌道外での戦闘をやったのよね。大丈夫?被爆とかしていない?宇宙空間だと、シールドエネルギーの消耗は相当に激しいでしょう?何より、前例もなかったし。」
 ナタルが心配そうに、訊ねてくる。
「学園の医務室で、きちんと検査してもらった。大丈夫だよ。それに、俺だって医者だぞ。検査データを見れば、体の状態は解るよ。だから、大丈夫さ。」
 改めて、検査データを精査したけどまず問題なかった。
 場合によっては、宇宙空間での戦闘に特化したパッケージも考えている。
 実を言うと、エネルギー兵器に関しては宇宙空間の方が制約は少なかったりする。
 大気圏内だと、荷電粒子砲やレーザーの減衰率がどうしても無視できない。
 エネルギー兵器で統一する気はないが、ゴーレムシリーズのエネルギー兵器の出力は高いからそれを考慮すると、できれば宇宙空間の方が戦いやすい。
 何しろ、向こうは周囲への被害なんてガン無視だからな。
 けど、こっちはそうもいかない。
 実体弾兵器なら、負けないけどな。
 まあ。当たらなければいいから、その点は無視できると言えば言えなくもないけど。
 やっぱり、対等以上の威力にしておきたい。
 学園の専用機持ちのISは技量でカバーできるけど、力押しで来られたら準専用機持ちのISだと不利は免れない。
 そこは、腕でカバーするしかないので頑張ってもらうしかない。
 本当に、傍迷惑な連中だ。
 横須賀まで、あと3日。
 何事もない航海である事を祈っているけど、そうも行かないだろうな。多分。
 というか、絶対。

「やはりな。あの男、ちょっかいを掛ける気らしい。」
「例のスペードのエースで?」
「他にも、ジャックやクィーンくらいは用意しているようだ。いまさら無駄なのだがな。」
 スコールに答えながら、エムは嘲笑する。
「ちょうどいいわ。利用させてもらいましょう。いい隠れ蓑だわ。」
「そうだな。」
 スコール達は、既に今のアジトを引き払う用意をほとんど終えていた。

 スコール達がアジトを放棄しようといている頃、輪形陣前方右翼に位置するヴェラ・ガルフのソナーマンは不思議な音響を観測していた。
『何だ?この音。魚か?いや、それとは違うな…。』
「どうした?」
 ソナーマンの様子から何かあったと考えた、ヴェラ・ガルフ艦長デイヴ・ギラスピー大佐は声を掛ける。
「はっ。奇妙な音紋を探知しました。」
「奇妙な?該当する音紋は、ライブラリにはないのか?」
「はっ。ありません。」
『やれやれ。順風満帆な航海とはいかないか…。』
 深い溜息をつきたかったが、ギラスピーは堪えた。
 艦長の態度は、艦の乗組員の士気に大きく影響を与える。
 務めて、冷静に振る舞う必要があった。
「旗艦に連絡。」

「ローレンス・ハイランドからも来ていたのか。」
「はっ。しかもより詳細なデータです。潜水艦の類ではないとの事。」
 一夏の索敵システムは、ヴェラ・ガルフが捕捉した音源のより詳細なデータを収集していた。
「とは言え、十全に活かせるのはわが軍程度でしょう。」
「そうだな…。海自は出払っている…。」
 スウィーニーの言葉に、ウィルコックスは考え込む。
 第二次大戦の教訓から対潜水艦戦能力に力を入れてきた海自がいればより効率的な対潜戦闘が可能だったが、ハリファクス級は対潜能力では劣り南米各国の海軍はさらに劣る。
「ある程度、データを加工して送るしかあるまい。第一戦闘配置。」
「はっ。全艦第一戦闘配置。繰り返す。全艦、第一戦闘配置。艦載機及び対潜ヘリコプター部隊。IS部隊発艦。警戒に当たれ。アスロックデータ入力。魚雷の燃料が尽きるまで追いかけさせろ。」
 第7艦隊を主軸とする南米連合海軍は、急速に戦闘準備を整える。

 やっぱり、来たか。
 ローレンス・ハイランドは、ファランクスが2基にテロリストの小型艇用に12.7mm機銃が2丁。
 この兵装じゃ、攻撃されたら一溜まりもない。
 それは、補給艦や潜水母艦も同じだけどな。
 とは言っても、艦隊から離脱させれば別働隊がいた場合、餌食になるしかない。
 近づかせないように、するしかないか。
「ウィルコックス閣下。水中は私が引き受けます。各艦は対水上及び対空警戒を厳重に。」
「しかし、水中で戦うと不利になりはしないかね?」
 ISでの宇宙戦闘が想定されていないのと同時に、水中戦闘も想定されていないからそう思うのも無理はないか。
「備えはしております。洋上及び対空戦の支援も、行う事が可能です。今は適材適所でいくが上策かと。」
「了解した。よろしく頼む。マクドネル大佐。各部隊の管制を一部担ってもらいたい。こちらの戦力をいかに効率よく活用するかで、全てが決まる。」
「了解しました。」
 多数の戦力を揃えるのは用兵の基本だけど、さらに重要な基本事項として戦力を如何に効率的に運用するかだ。
 ローレンス・ハイランドの各種データ収集機器は、それに転用が可能だからこれで戦力を更に活かせる。
「では。私は、水中の小魚どもを追っ払ってきます。」
 後は、水中の連中を追っ払えば有利になるな。
「頼む。」
「了解しました。」
 俺が敬礼すると、マクドネル大佐を始めCICにいるクルーが答礼してくる。
 信頼には、きちんと答えないとな。

「来い!白式!」
 飛行甲板で白式を展開し、カタパルトに接続する。
「こちらホワイト1。カタパルト接続確認。」
「テイク・オフ。レディ!」
「テイク・オフ!」
 管制官の指示で、カタパルトで射出されハイパーセンサーで周囲をサーチする。
 さて。行くか。
 この時に備えて用意していた、追加兵装パックを展開する。
 各部に追加された推進システムは、白式の磁気推進スラスターを応用した水海洋用の磁気推進機構である。
 これにより、水中でも高い機動性及び運動性を発揮することができる。
 しかし、水中での磁気推進には大きなデメリットがある。
 対潜哨戒機には、MADと呼ばれる磁気探知装置が搭載されており強い磁場を発すると容易に探知される。
 対策として、水中の水素から発生させたプラズマで磁気を遮断する特殊なシステムが搭載されている。
 さらに、高速推進の際に発生する音に関してはソナーの感度を著しく低下させるシステムも搭載した。
 主兵装は、大出力フォノンメーザー砲「管絃」2門。水陸両用極高速徹甲弾ライフル「蛟」、多目的多連装ロケット「金刀比羅」、磁気推進魚雷「水虎」。
 海洋戦闘に最適化した兵装を、搭載している。
 白式海洋戦闘用兵装パッケージ「玄帝」。
 それが、この追加兵装パッケージの名だ。

ワンオフ・アビリティー:自己進化機能、天照発動。
ワンオフ・アビリティー:追加兵装パック最適化機能「天下春命」構築終了。
追加兵装パックに合わせて、機体を最適化します。
最適化終了。

 おい…。
 何だ、こりゃ!?
 ワンオフが、ワンオフを作ったのか!?
 どこまで好き勝手やるんだ、天照!
 銀蘭の荷電粒子砲がフォノンメーザー砲になり、レールガンが水陸両用極高速徹甲弾ライフルに変わっている。
 銀蘭のビットが、なんか面白いな。
 支援に使える。
 というか、これって幻影輪舞の影響か?
 実証が終了して、派生したワンオフを構築したと見るべきか。
 とにかく、考えるのは後でもできる。
 そんじゃま。いきますか。

後書き
いよいよ入試の本番、実技試験を受ける受験生の護衛任務。
各国海軍や海自も、可能な限りの戦力を投入。可能な限り守りを固めます。
しかし、南米各国の海軍は基本的に古い。
何しろ、イギリスやオランダ。イタリアといった欧州諸国やアメリカの退役艦の払い下げを改修して再就役させたり、そのまま使っているのすら珍しくありません。
ブラジルの改修は、私のオリジナルです。
当然。米大陸連合艦隊の主力は、アメリカ海軍になります。
ジェラルド・R・フォードにズムウォルトに、バージニア級の一部は現実では未就役ですが、アメリカの戦力が如何に突出しているかを表現するためにあえて登場させました。
さて、一夏達は受験生達を無事に守れるでしょうか。


世界の艦船増刊 世界の海軍2013-2014 2013年 04月号 [雑誌]
海人社
2013-03-14

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 世界の艦船増刊 世界の海軍2013-2014 2013年 04月号 [雑誌] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル






ブログ村のランキングに参加しております。
来てくださった方は、よろしければクリックをお願いいたします。
励みになりますので。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

相互リンクはいつでも大歓迎です。
リンクをしてくださる方は、コメント欄にお書き下さい。
リンクの設定をした後に、お知らせします。

目次へ戻る。



艦これ 舞鶴海軍工廠 刺繍ポロシャツ 半袖 サイズ:XL
あみあみ

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 艦これ 舞鶴海軍工廠 刺繍ポロシャツ 半袖 サイズ:XL の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

旧海軍艦内帽 夏冬 2点セット (サイズ:L)
旧海軍帽

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 旧海軍艦内帽 夏冬 2点セット (サイズ:L) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

自分でつくるうまい!海軍めし?簡単!早い!おいしい!
経済界
海軍めし愛好会

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 自分でつくるうまい!海軍めし?簡単!早い!おいしい! の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 3
面白い 面白い
驚いた

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ブログランキング・にほんブログ村へ
IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第84話 Et pas un bon voyage cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる