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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第81話 Dr.織斑の日々

<<   作成日時 : 2013/12/22 00:12   >>

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「織斑先生!急患です!」
「解りました。」
 カルテの整理を終えた、長い髪を後ろで纏めた若い医師が医局を出る。
 名を、織斑一夏という。

「20代男性。オートバイに乗っていましたが、酔っぱらった挙句に信号を無視して猛スピードで走っていた車に、撥ねられました。全身打撲。四肢は強くはないようですが、胸部と腹部は激しく打っています。GCSは1−1−1。血圧は上が50で下が取れません。脈拍微弱。2リットル点滴しました。」
「解りました。処置室に急いで。それからオペ室に知らせてください。よし、移します。1、2、3。」
 ストレッチャーから救命室の処置台に移される。
「点滴をあと2本全開。モニターに繋いでください。ドーパミン点滴開始。250mlの5プロに70mg。ボスミン1mg静注。血液型とクロスマッチ6単位。血算、生化学、凝固機能。全身X線及びCT。」
 一夏は指示を出しながら、容態を見る。

 聴診器を当てると、通常の呼吸とは明らかに違う音がする。胸部は、血の海か。
 おまけに、気道もふさがっている。
 触診の感触から、腹部にも出血があるな。
 レントゲンを見たところ、頭蓋骨に頸椎から腰椎は無事か。
 
せめてもの奇跡だ。
 ヘルメットのお蔭か。
 只、右の肋骨があちこち折れてる。
 右の肺に損傷がある可能性を、含めるべきか。
 後は、CTか。
 処置室の処置台は、俺が設計した物で検査機器もかなり高度な物を搭載しており、他にも必要と思われる装置も搭載している。
 CTやMRI等も従来の物より性能が向上して、より正確で迅速な検査が可能になっている。
 まさか、自分が使うとは思わなかったけどな。
「気管切開をします。気管内チューブ。吸引の用意。メス。」
 早く処置しないと、呼吸不全で手の施しようがなくなる。
 すぐに、気管切開をして気道内の血を吸引して気道を確保する。
「胸部と腹部の血液を、自己血輸血装置に。CTの結果は?」
 胸部と腹部の血液を、自己血輸血装置を介して体に戻しながらCTの結果を聞く。
「肺動脈と右肺損傷。肝臓及び脾臓破裂も伴っています。」
 やっぱり、多臓器損傷か…。
「凝固機能正常です。」
 これで、凝固機能が正常じゃなかったら救いがなかったけどほっとしたぜ。
「自己血輸血!大至急!」
 胸部と腹部の血の海を何とかしないと、危険だ。
 出血性ショックで、運ばれてきたからな。
 救命では、大量出血は珍しくもない。
 それを踏まえて、新型の自己血輸血装置が搭載されている。
 これで、胸部と腹部の血液を吸引して輸血用の血液にできる。
「輸血用血液15単位用意。それとICUも確保しておいてください。止血鉗子!メス!」
 俺は指を胸部に入れて、肺動脈の出血点を探す。
 よし、見つけた。
 鉗子を使って、止血終了。
「オペ室は!?」
「準備できています。武井先生と村橋先生が助手につきます。」
「よし。急ぎましょう。ぶつけないでください。」
 大急ぎで、オペ室に向かう。

「すいません。オペが終わったばかりなのに。」
 手術着に着替えて手を洗いながら、武井先生と村橋先生と話す。
「軽い手術だったから、大丈夫だよ。」
「織斑先生こそ、大きな手術が重なって、大量のカルテの整理。手の足りない科の診察と、昨日の夜から働きづくめだろう。このオペが終わったら、少し休んだ方がいい。朝食もまだだろう?」
「休めればね。さあ。行きましょう。」

 医師資格を取ってから、俺は自衛隊横須賀病院で医師として仕事をしている。
 始まるのは、金曜の夜から。
 元々は自衛官を対象にしていたけど、今は民間の患者さんも受け入れている為にはっきり言って忙しさは半端じゃない。
 何しろ、近隣の病院で一番設備が整っているのがここだからだ。
 俺も到着早々、重症患者のオペを3つ連続やった。
 かなり難しい手術だったが、もう心配ない。
 というか、ここまでスキルアップしていた自分に驚いた。
 容態を把握すると、これからすべき事。
 起きうる緊急事態に、その時必要な処置。
 オペの術式。様々な物が次々に思い浮かんで、その通りに手術ができる。
 勉強は怠っていなかったけど、絶対にオペビデオだな。
 受け取ったら、俺がみっちりシミュレーションする事も計算してたな。絶対。
 まったく、狸だよなあ。あの人。

「ご家族は?」
 オペ終了後。
 受付にいって、患者さんの家族が来ているかを訊ねる。
「あちらに。」
 御両親らしい人達に、それに、警察の人だな。
「ご両親ですね?」
「はい。」
「執刀を担当した織斑です。結論を申しますと、手術は成功です。肺の動脈が損傷し、地面に激突したショックで肋骨が骨折した結果右肺に損傷。肝臓と脾臓も破裂していましたが、無事修復できました。しばらくはICUですが、2週間程で一般病棟に移れると思います。退院までは1カ月〜1カ月半といったところです。」
「「ありがとうございます。」」
「いえ。息子さん。頑張られましたよ。それでは、お大事に。」
 泣きながら俺の手を握る患者さんのご両親に言葉を掛けて、俺は警察官の方に行く。
「ぶつけた相手は?」
「かすり傷一つありませんよ。何回か、免停を喰らった酔っ払い運転の常習犯なのに全く懲りていないですな。」
「先生。血中アルコール検査の結果です。」
 看護師から渡された検査結果を見た俺は、込み上げる怒りを抑えていた。
 血中アルコール463!
 こんなに呑んで、車になんか乗るな!!
 あの患者さん。胸と腹が血の海になっていて、もう少し処置が遅れていたら死んでたんだぞ!!
「ま。10年は刑務所ですね。法律が改正されましたから。」
「個人的には、一生出てきてほしくありませんね。同じことやられたら、堪りません。」
 一生、檻の中で反省していやがれ!
 おっと。クールダウンさせないとな。
 患者さんを見ないと。
 夜間は、小児科が多い。

「急に熱が出て風邪かと思ったんですけれど、喉が酷く痛いようなんです。」
「熱は、8度1分です。」
 看護師が、熱を測る。
「インフルエンザ検査は?」
「陰性です。」
 症状は風邪と言っていいけど、喉は気になるな。
「ちょっと喉を押すね。痛かったら、痛いって言ってね。」
 俺はある所を押す。
「痛い!」
 ほぼ決まりか。
「喉頭鏡を用意して下さい。」
「はい。」
 用意された喉頭鏡で、喉の奥を見てみる。
 当たりだ。
「急性喉頭蓋炎ですね。風邪が原因とみて間違いないと思います。」
 喉頭蓋は、食べ物が気管に入らないようにするための蓋みたいな組織だ。
 ここに細菌が感染すると発症するのが、急性喉頭蓋炎。
 きちんとした治療をしないと、最短で12時間。平均でも14時間で死亡する怖い病気だ。
 しかも、症状が風邪に似ているから内科や小児科じゃ見つけにくい。
 耳鼻咽喉科の範囲になる。
 さっき押した場所は、喉仏の上5mm位の場所。
 ここを押して痛みがあるようだったら、耳鼻咽喉科に行った方がいい。
 幸い、そんなに腫れていないな。
「お薬は、飲めるかな?」
「痛くて、飲めないと思う。」
「じゃあ。お薬を体に入れようね。アンピシリン点滴開始。それと、生食を1本追加してください。ちょっと脱水気味だ。」
「はい。」
 看護師がすぐに用意を始める。
「抗生物質を点滴して、症状を緩和します。それに、水分補給も。点滴が終わったら再度診察して、処方箋を書きます。加湿器はお持ちですか?」
「あります。」
「定期的に掃除をしながら、使ってください。水蒸気が菌を取り込んで感染率を低くしますので。それでは、また来ます。何かあったらすぐに知らせてください。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
 お母さんがお礼を言う。
「では、点滴が終わる頃に来ますので。」
 さっきの患者さんの所に行かないとな。

「どうですか?」
「順調です。」
「そうですか。」
 ICUに来た俺は担当の看護師から、カルテを渡されて目を通す。
 うん。これなら大丈夫。
「さすがだな。織斑先生。」
 来たよ。狸が。
 副院長の箱崎先生。
 訓練時代の、医学関係の俺の指導役だった人だ。
「カルテを見たが、かなり酷かったな。もう少し判断が遅ければ、亡くなっていた。見事なオペだった。さっき小耳にはさんだが、急性喉頭蓋炎の子供を早期に診断したそうだな。耳鼻咽喉科でも初期判断は、楽じゃない。みっちり仕込んだ甲斐があった。」
 よく言うよ。この人。
 訓練プラス、入学してからオペDVDをガンガン送りつけて来た事から、俺を医者にする気満々だったんでしょう?
 無論。顔には出さない。
「勉強を惜しまなかった甲斐は、ありましたよ。」
「そうか。これからも勉強を続けてくれよ。今でも腕利きだが、もっと腕を上げてくれ。」
 俺は、IS関連が専門なの知ってて言ってるよな。絶対。
 他の患者さんの経過を確認して、俺はICUを出た。

「はい。あ〜んしてごらん。」
 急性喉頭蓋炎の子の点滴が終わる頃に戻って、再度診察する。
 OK。これなら薬も飲めるな。
 熱も下がってきたし。
「総合感冒薬と抗生物質を、1週間処方します。きちんと飲みきってください。喉頭蓋の菌を根こそぎ駆除する必要がありますので。」
「はい。」
「では、お大事に。」
「お兄ちゃん。ありがとう。」
 顔色良くなってきたな。よかった。
「どういたしまして。」
「駄目でしょ。先生って呼ばないと。どうもすいません。」
「お気になさらず。では、お大事に。」

 じゃ。小休止するか。
 と、思いきや。急患が来る。
「40代男性。胸部、背部、腰部に突然の激痛。血圧は190の140。サチュレーション80。脈拍は120。GCSは2−3−4。点滴を500ml投与しました。」
 血圧高いな。それに、低酸素症。各部の痛み方。
 まさか…。
「血算、生化学。CTを大至急。オペ室に緊急連絡。麻酔科医に人工心肺と臨床工学技士を確保。心臓血管外科に応援を頼んでください。輸血用血液を20単位お願いします。」
 CTの結果が出たので、すぐに見る。
 やっぱり、胸腹部解離性大動脈瘤か。
 大動脈の血管の壁は3層構造になっているが、その壁が破れて血液が大量に流れ込む疾患。
 しかも、胸部から腹部のほぼ全体に渡っているT型。
 加えて、今の大動脈の直径は11cm近い。
 破裂まで、そんなに時間が無い。
 腎機能は正常か。
 これなら、降圧剤の選択肢も増える。
「点滴をもう1本増やして、アルフォナード2mgを静注。」
 とにかく血圧を下げないと、一気に破裂する。
 少しすると、下がってきた。
「オペ室。準備整いました。」
「解りました。急いで。」
 急がないと、命に係わる。
 しかも、かなりの大手術だ。
 オペ室に着くと、応援が来ていてすぐに着替えと手洗いを済ませてオペを始める。

 一夏がオペ室にいる頃、セシリア達は一夏の事を考えていた。
「一夏さん。今頃、手術でしょうか?」
 セシリアが冷めたミルクティを飲みながら、ポツリと呟く。
「本業になるのは外科だそうだから、多分そうでしょ。病院は勤務医の不足が頭痛の種だって聞いてるし。」
 鈴が溜息をつく。
「告訴があるからね。それを回避するために、個人開業を選ぶ医師も少なくないよ。」
 アメリカでの医療告訴の報道の影響か、日本でも医療関係の告訴が後を絶たない。
 病院勤務の医師は、経験を積みつつ資金を貯めて個人開業するケースが多い。
「一夏は、特殊作戦群での訓練と日々の鍛錬の積み重ねで、気力と体力はそこらの医師には劣らんだろうが気にはなるな…。」
 特殊部隊隊長の視点から、一夏の事を考えながらもラウラは不安になる。
「そもそも。何で一夏が医師になる必要がある。今でさえ、多忙の極みなんだぞ!」
 箒は、日米が法律を捻じ曲げて一夏を医師にしたことに憤慨する。
「今、それを言っても仕方がないわ。もう既成事実になっているし。」
 玲子が箒を宥める。
「そうね。今は落ち着きましょう。箒ちゃん。それに、この件にはきちんとした理由がある様に思えるのよ。今後の事に備えてね。その上での結果だというのが、私の結論。」
 熟慮断行と書かれた扇子を広げながら、楯無も箒を宥める。
 一夏の医師資格の件については楯無も密かに調査を進め、これからの亡国企業との戦いを考慮した何らかの思惑があると結論付けた。
「問題は、その理由…。」
 簪も楯無の意見に賛成だったが、その理由が気になっていた。
「そうですね。一夏様は、政治、IS関連の開発で休む暇もほとんどないのを承知の上で医師資格を与えた事には、何か理由が無いと不自然すぎます。」
 クリスも、裏に何かあると考える。
「一つ言える事は、入学時点で救命士と看護師の資格を持っていることから、いずれはこうするつもりだったのは確かね。」
 アンナが、入学時点の事を理由に今の事態は必然だと判断する。
「つまりは、シナリオ通り?」
「ええ。」
 シルヴィアの質問に、アンナは頷く
 最初こそ、一夏が医師資格を取得したことを喜んでいたら、少しすると何故こうなったかを疑問に思って話し合っていた。
「う〜ん。これからは、会長の仕事の負担を軽くするように頑張らないと〜。」
「本音。まずは、仕事をサボらないようにしなさい。あなたの場合、話はそれからよ。」
 深刻そうな表情をする本音に、虚は説教を始める。

「博子。お前は、一夏の件をどう思う?」
 千冬は、医務室で博子と一夏の事を話していた。
「これ以上激務が重なるのは、正直望ましくないわ。けど、これで今まで以上に体調管理に気を付けてもらえるかもしれない。楯無さんとの勝負の後に、瀕死の状態で運ばれてきたけど、救命士に看護師の資格を持って勉強も続けていたのなら、あんな無茶をすれば先は見えていた筈。他人の事に敏感だけど、自分に関しては相当に鈍感なのだと思うわ。考えていないという可能性も、否定できないけど。でも、今回の件で織斑君の中には、医師としての自分が生まれた。それが、リミッターになるんじゃないか。私は、その可能性に期待しているのよ。」
「成程…。そう言う考え方もあるか。」
「いずれにせよ。体調管理はきちんとやって見せるわ。私も医師。そして、この学園の生徒皆が患者。私は、生徒たちの健康をきちんと管理する義務がある。同時に、それを為すことに誇りを持っている。それに懸けて、織斑君の健康管理はきっちりやってみせるわ。」
「頼む。」
 千冬は医務室を出たが、一夏の事が心配でたまらなかった。

 ふう。オペ終了。
 さすがに、約6時間は楽じゃないな。
 ちょっとのミスで障害が残ったり、最悪患者さんが亡くなる可能性もある手術だった。
 緊張感も相当な物だった。
「今の内に、昼食を済ませて来た方がいい。朝食も無しだったからな。」
 心臓血管外科の小林先生が、俺に昼食を食べるように言う。
「俺も賛成だ。さすがに、5つも大きな手術をこなしたんだから体はガス欠寸前だろうからな。」
 高村先生も、小林先生に賛成する。
「じゃあ。お言葉に甘えて。昼食に行ってきます。すぐに戻りますから。」
 さて、昼食に行くか。
「織斑先生。耳鼻咽喉科から来てほしいと。」
「どうしたんですか?」
 看護師に訊ねる。
「ちょっと、妙な患者さんなんです。その…、精神的に何かありそうだからって。でも、精神科も手一杯で。」
「解りました。すぐ行きます。」
 やれやれ、忙しいね。

「初めまして。織斑です。どうかなさいましたか?」
 20代後半くらいの女性か。
 OLってとこかな。
「最近。耳が聞こえたり聞こえなくなったり、とにかく奇妙な事が多くて。」
 聴力異常か?
「聴力検査は?」
「これが結果です。」
 どれどれ。
 若干、低音が聞き辛い傾向があるけど、異常とは言えないな。
「内視鏡をお願いします。」
 ちょっと、中を詳しく見てみるか。
 耳の穴から内視鏡を入れて、中を見る。
 傷もないし、炎症もない。
 悪性腫瘍の類も、見当たらない。
 他の疾患の所見も、見られない。
 ん?
 何か、話してる?
 独り言?
 いや、誰かに話しかけられている感じだ。
 俺は検査を続けながら、患者さんの状態をそれとなく観察する。
 少なくとも、正常とは言い難いな。
 成程。俺に回ってきたのはこれが原因か。
「すいません。何か、お薬を飲んでいらっしゃいませんか。」
「はい。これを。」
 成程。
「何時頃からですか?」
「2カ月くらい前からです。職場での人間関係で色々と…。症状が出たのも、時期はほとんど同じです。」
 決まりだな。
 うん?手は空いたか。

「セレネース、PZC、ワイパックス。就寝前に、マイスリーとフェノバールを処方されているそうです。」
 処方されていたのは、向精神薬に睡眠導入剤だった。
「やはり、統合失調症か?」
「かなり進行していますね。ICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)−10の各項目で2つずつ。幻聴に持続的妄想。幻覚も1カ月以上続いていますし、会話は支離滅裂。DSM−IV(精神障害の診断と統計の手引き)−TRも半数が該当します。入院が必要ですね。手続きをお願いします。それから、血液検査。頭部CTとSPECT(単一光子放射断層撮影)も必要でしょう。念の為に、セレネース5mgの注射を用意して下さい。暴れる事を想定した方が、いいと考えられます。」
「はい。」
 看護師に今後の検査と、いざという時の準備を頼む。
「手間を掛けさせたね。空きっ腹なのに、こっちの手伝いまでしてもらって。」
 精神科科長の、大久保先生が回診を終えて来ていた。
「どういたしまして。それより、素直に入院してくれるかですね。それが大問題だ。」
 診察室からは、支離滅裂な会話、怒鳴り声、笑い声が聞こえてくる。
 治療も、大変そうだな。
 何回か、統合失調症の患者さんは見て来たけど症状の酷さはトップクラスだな。

 で、やっと昼飯の時間だ。
 にしても、あの暴れっぷりは凄かったな。
 原因は、十中八九人間関係。
 それによってストレスが蓄積されて、一気に爆発。
 結局、セレネースで落ち着かせてから抑制して、入院の手続き。
 さ。食べておくとするか。
 ちなみに食事は、レーション。
 カロリーも栄養も、きちんと摂れるからな。
 というか、1日約4000kcalは無いだろうが…。
 プロレスラーじゃないんだぞ。俺は。
 そんなわけで、ノルウェーを始めとする寒い国のレーションを食べている。
 今日は、朝飯食ってる暇なかったから纏め食い。
 やれやれだ。

 ん?
 電話?
 セシリアか。
 スマホのカバーは電磁波を遮断するタイプなので、安心して使える。
「一夏さん。今、ひょっとしてお昼御飯ですか?」
「まあな。緊急オペに診察が入って、朝も食ってなくてさ。纏め食いだ。」
 あんまり、いい事じゃないけどな。
「あんたねえ!いくら忙しくても、食事はきちんと食べなさいよ!!今、何時だと思ってるのよ!?」
 鈴か…。
 つうか。声が大きすぎる。鼓膜が破れるだろうが。
「仕方ないだろう。朝飯食おうとしたら、緊急オペが入って6時間近くオペ室にいたし、その後、ちょっと厄介な患者さんの診察が入っていたんだから。」
 あの患者さんには、参ったぜ。
 てか、大丈夫かな?
 暇が出来たら、精神科の病棟見に行ってくるか…。
「一夏。今は、食事してるんだよね?」
 今度は、シャルロットか。
「ああ。素早く効率的に栄養を摂取するために、レーションだけど。きちんと食ってるぞ。」
 勿論、食堂はあるが何があるか解らないのが救命医療。
 特に土曜は、午後は休診だから。
 担当の患者さんが順調なら、回診とカルテの整理をしてほとんどの先生は帰る。
 俺は、救命も掛け持ちだけどな。
「私だ。レーションだけでなく、サプリメントも併用しろ。ビタミンやミネラル。必須アミノ酸もきちんと摂取しろ。いいな。」
「解ったよ。」
 ラウラらしいな。
「一夏。疲れていない?」
「玲子か。大丈夫。これ位とっくに慣れてるよ。訓練時代でな。」
 昔は、きつかったけどな。
「一夏。平気?休める時は、休んでね。」
「ありがとうな。簪。解ってるよ。」
「一夏君。今日、車?」
「ええ。そうですけど。」
 学園からも家からも、距離あるからな。
 必然的にそうなる。
「そっちに運転手を寄越すわ。事故でも起こしたら大変だし。」
 いや。そんなにヤワじゃないですよ。楯無さん。
 これでへばるようなら、特殊作戦群の訓練はこなせませんしね。
「一夏。本当に大丈夫なんだな?体は、おかしくないな?」
 落ち着けって、箒。
 大丈夫だよ。
「一夏様。どうか、ご無理をなさらないでください。」
 クリスか。
 大丈夫だって、医者は体力があってナンボだぜ。
 全然、平気だよ。
「アルコールとカフェインがない栄養ドリンクがあったら、飲んでおきなさい。少しは違うから。」
 アンナか。
 そうだな。あったら飲んでおくよ。
「一夏。くれぐれも、無茶はしないでね。」
 マールバラさんか。
 解ってるよ。
「かいちょ〜う。お仕事頑張るのはいいけど、体大事にしなきゃ駄目だよ〜。」
 そうだな。
 なら、まずは仕事を溜めないでくれよ。のほほんさん。
「会長。本音は、私がきちんと見ますし、今後二度と書類を溜めないようによく言っておきますので。」
 虚さんらしいな。
「あ。すいません。回診の時間なので。失礼します。」
 さて。行きますか。

「副院長。織斑先生。よくやってくれていますね。」
「私が、手塩に掛けて育てた弟子だからな。」
 事務仕事をしながら、箱崎は誇らしげに言った。
 当初は応急処置程度にとどめるつもりだったが、直向きさと患者に真摯に向き合う一夏の心根に医師としての才覚を見出して、箱崎は可能な限りの事を伝えた。
 少しでも、レベルアップできるようにオペDVDを選んでレアな症例があればつてを頼って手に入れた。
 そして、マンハッタンでの一夏の救命処置の録画と現地医師からの評価を聞いて、医師としての資格を持たせる時が来たと確信した。
 ちょうど、アメリカ側から話を持ちかけて来たので渡りに船でもあった。
 そして、晴れて医師になった一夏は、いくつもの困難なオペを成功させ、診察でも早期発見が難しい病気を正確に診断し素早く治療を行い早期に回復できる医者になった。
 患者に対する接し方も、暖かく評判もいい。
 もっと、病院にいる日を増やしてもらえないかと患者からも希望が来ている。
『アメリカも狙っているようだが、あれは渡さんよ。こっちでさらにレベルアップさせる。』
 箱崎は、さらに一夏に経験を積ませて優秀な医師にする気でいた。

「経過は順調ですね。退屈でしょうけど、我慢して下さいね。」
「もう。退院しても、大丈夫じゃないか?織斑先生のオペだし。」
「駄目ですよ。まだ、入院は必要ですから。」
 よし。回診終わり。
 精神科の病棟と、ICUに行ってくるか。
「先生!胸部痛を訴える、女性の急患が来ます!」
「ICUに連絡して、私がオペした患者さんの経過を纏めておいてもらってください。それから、統合失調症の患者さんの現状を精神科に問い合わせておいてください。」
「解りました。」
 さあ。行くとしますか。

「20代前半の女性。駅のホームで、突然激しい胸部痛に襲われ倒れました。呼吸困難と嘔吐があります。血圧160−100。脈拍180。」
「どこが痛みますか?」
 救命士の言葉を聞きながら、患者さんに痛みの箇所を訊ねる。
「モニターに繋いで、心電図をチェック。血算、生化学、血液ガス、凝固機能、心筋酵素。ニトログリセリンを舌下投与。カテーテル室に連絡。」
 心電図を見る限りでは、狭心症の可能性が高い。
 胸部痛の箇所、呼吸困難に嘔吐も裏付けになる。
 後は、血液検査にカテーテル検査の結果か。
「血液検査の結果出ました。」
 ほぼ決まりか。
「カテーテル室、用意できました。」
「急いで。」
 もう、検査目的じゃなくて、すぐに治療になるけどな。
 今までの経過プラス血液検査の結果が、かなり決定打になった。

 狭いな。
 20代前半でこれか?
 楽になった患者さんに聞き取りをしたら、煙草は吸わないしお酒も付き合い程度。脂っこい物をことさら食べもしない。
 家系が高血圧だそうだから、多分それが原因だな。
 ガイドワイヤーを、静脈を通して冠動脈に到達させる。
 狭窄部が思ったより、広い。
 これなら、血液ガスの結果にも頷ける。
 念の為、狭窄部よりだいぶ余裕を見た長さのステントを使うか。
 素材は、医療用に開発された特殊なポリマー素材。
 狭窄を防ぐ薬剤も副作用が少なくて、効果も高いのが使用されている。
 ステントを展開して、狭窄部を広げると冠動脈に正常に血液が流れ込む。
 よし。OK。

「もう、大丈夫ですよ。気分はどうです?」
「随分楽になりました。ありがとうございます。」
 うん。患者さんの顔色もいい。
 ほっとしたようだな。
「今回は、ステントという器具を使用して、血管が狭くなっていた部分を拡張しました。予想より狭くなった部分が広範囲だった為に、今後の事を考えて長さは余裕を持ったのを使用しています。ステントには、血管が狭くなるのを予防する薬が塗られていますので、100%とは言い切れませんが同じ症状が出る可能性はほとんどないと思います。検査の結果を見て、入院期間を決めてしばらくは通院していただきますが、もう大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
「いえ。回復なさって、私もほっとしていますよ。お大事に。」

「じゃあ。お先に失礼します。」
「おう。お疲れさん。」
 その後、いくつかの手術と診察。
 俺がオペした患者さんの容態をチェックして、カルテの整理。
 その他、仕事を終えて俺は駐車場にある自分の車に向かう。
 ん?ラウラに、誰だあの人?
「よう。ラウラ。あと、その人は?」
「私はお前の護衛。いるのが当たり前だ。それに更識家から、運転手が来ている。」
 ああ。楯無さんが言っていたな。
 本当に来たのかよ。
 別に、体力的には問題ないぞ。
「教官と医務室の判断で、お前がここに来る時は専属の運転手がつく事になっている。受け入れろ。」
 この程度でへばるようなら、自衛隊の医務官やら看護師は務まらねえよ。
 野外訓練は、半端なく厳しいしな。
「とにかく。帰るぞ。」
「途中、スーパーによってくれ。晩飯の買い物をしていくから。」
「解った。」
 俺は、車の中で亡国企業の捜査状況に目を通す。
 国際レベルとなると、色んな情報が入ってくるな。
 後は、ダミーを除いて流れを読み解けばいい。
 もうひと頑張りしますか。

「ただいま。」
 買い物袋を抱えて帰ると、もう一つ靴がある。
「お帰りなさい。織斑君。」
 山田先生。
 千冬姉の相手を、してたのか。
「ただいま。千冬姉。」
「ああ。すまんが晩飯にしてくれ。腹がすいた。」
「解ってるって。よろしければ、山田先生もどうぞ。」
「じゃあ。御馳走になっていきますね。」
 んじゃ。始めますか。

「美味し〜い。噂には聞いていましたけど、本当にお料理上手なんですね。」
「あまりしゃべるなよ。後が面倒だ。」
 幸せそうな顔をする山田先生に、千冬姉が釘を刺す。
 面倒って、何がだ?
 今日は、メインがザワークラフトを掛けたロールキャベツ。
 それに、ジャガイモを中心とした根菜類のコンソメスープ。
 後は、ライ麦のパンにサラダ。
「ワイン。美味しいですね。食事に凄くよく合います。」
 知り合いが増えてから、互いに美味いワインの情報交換をするようになり家には常にワインクーラーに各国のワインが常備されている。
 って、2人とも飲み過ぎだぞ。
 ああ…。4本目に突入かよ…。
 俺は、ハーフボトルで済ませてるけど。

「さあ、一夏君。お風呂の時間ですよ〜。先生が、背中を流してあげますからね〜。」
「馬鹿者。何を考えている。私の目が届く範囲で、そんな事を許すわけなかろう。」
 ふう。危ねえ。
 千冬姉は、理性が残っていたか。
「一夏と風呂に入るのは、私だ。お前はシャワーを浴びてとっとと帰れ。」
「そんな〜。今日は泊まって行っていいっていったじゃないですか〜。一夏君は、織斑先生の所有物じゃないですよ〜。」
 何か、テンションおかしいぞ。
 とか思っていると、山田先生が俺を抱きしめる。
 相変わらず、その、大きいよな。それに柔らかいし。
「不埒者め。そうやって、いやらしく私の一夏を誑し込むつもりか?この淫乱め。」
 千冬姉が、俺を引き離す。
 それと、千冬姉。落ち着いてくれ。
「何ですか〜?織斑先生こそ、一夏君にべったりし過ぎです〜。程々にしておかないと、ブラコンと思われますよ〜。それとも、少女マンガみたいに禁断の関係になるつもりですか〜?それこそ、問題ですよ〜。そろそろ、心構えをしておくべきです〜。さあ。一夏君。先生と一緒にお風呂に入りましょうね〜。」
 ああ!とうとう脱ぎだした。
 つうか、泥酔していないけど、ちょっと酔いすぎている時のお風呂は危険だ。
 事実、温泉旅行に行ってお酒を飲んでほろ酔い気分で温泉や風呂に入って、脳梗塞を発症する例は、毎年ある。
 お風呂とお酒は、結構危険な組み合わせなんだよ。
 とりあえず、水を飲ませないと。
 肝臓でアルコールを分解する時は、水が大量に消費されるので酒だけ飲んで水を飲まないままだと、血液の濃縮化が進んでさらにリスクが高くなる。
 とにかく、水を飲んでもらう。
「山田先生。今日は、軽くシャワーを浴びて酔いが醒めてからの方がいいですよ。」
 医師の立場から、今日の入浴はお勧めできない。
「そうだな。一夏。風呂に行くぞ。」
 以前に注意したことがあるので、千冬姉はしっかり水を飲んでいた。
 すっかり、お風呂スタンバイOK。
 つまり、裸だ…。
 弟の前だからって、みだりに脱ぐなよ…。
 恥じらいって物をだな。って、聞いてないし…。
「ああ!!織斑先生、ずるいです〜!」
 いつの間にか水をさらに飲んでいた山田先生は、さらに水を飲んで俺にキスをする。
 え?これって、口移しで水を飲まされているのか…。
 喉を通る水の感触を感じながら、俺はしばらくしてそれを理解した。

「何がだ?この淫乱教師め。人の弟に手を出すとは、いい度胸だな。しかも、自分の生徒に。おまけに、黒のレース。そうか、そういう腹積もりだったのか…。」
 げ!千冬姉の目が据わっている。
 つうか、強く抱きしめるな!
 背中越しに、胸の感触が…。
「織斑先生こそ。弟離れしないと、一夏君の将来に問題ありです。そこを考えたらいかがですか?一夏君だって、そろそろそこういう事があってもいい年頃ですよ。」
 山田先生まで。
 しかも言いながら、服と下着をあっという間に脱ぐ。
 つうか何ですか?そのきわどい下着は!?
 揃いも揃って、酒に呑まれてる…。
 というか、正気に戻ってくれ!
「黙れ。一夏は私の弟であり、私の物だ。成人するまで守る義務がある。それに私の足元にも及ばぬお前に、一夏は渡さん。つまり、今は私だけの物だ。誰にも渡さん。第一、胸は大きいが人間の度量が小さいではないか?真耶、それをもう少し自覚しろ。馬鹿者。」
「何ですか〜?織斑先生は、胸の大きさも人間の度量の大きさも私以下じゃないですか〜?それに、男性を優しく包み込むのは女性の義務ですよ〜。少なくとも、私の方が織斑先生よりは一夏君を優しく包み込めますよ〜。」
 山田先生が、自分の胸の大きさを殊更アピールする。
 つうか、この事態、めっちゃヤバくね?
「解った。解りましたから。皆で入りましょう。ね。」
「お前がそこまで言うなら。今日は、休戦だ。」
「そうですね。今の所は。」
 ふう。どうにか、最悪の機会は回避できたな。
 つうか、山田先生こんなに酒癖悪いのか?
 千冬姉も、元旦から酒呑んでると妙な事言うし…。
 尤も、風呂でもエライ目に遭ったし、寝る時も3人で寝ることになり、風呂上がりの千冬姉と山田先生のいい匂いに胸の感触で、俺はとっても大変だった。
 今度からは、酒量は控えさせよう。
 ヤバいから。
 つうか。病院から帰ってくるたびにこれなのか?
 マジに勘弁してくれ。

後書き
晴れて(?)医師になった一夏の奮闘記。
外伝の様な物です。
とにかく忙しい、医師の一日。
以前、私が入院していた病院では帰宅した後緊急手術で呼び出され、朝に帰宅する先生が大勢いましたし、深夜に子供の診察をしてもらうために来る親御さんが大勢いました。
色々な面で課題が多いのが、日本の医療ですね。
他国にも、課題はありますけど。
ちなみに、私も小児喘息もちで常連だった過去があったりします。
一夏が異例のケースで医師になった理由。
あるのでしょうか?






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