cogito,ergo sum

アクセスカウンタ

zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第79話 武器なき戦い<後篇>

<<   作成日時 : 2013/12/07 23:59   >>

面白い ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

「突然来訪して、申し訳ありません。非礼をお許しください。事務総長。」
「いや。事は相当に重大と聞いています。気になさらないで結構ですよ。」
 深々と頭を下げる一夏に、事務総長のニルセンは気にしないでいいと言う。
 国連事務総長ともなれば、日々多忙である。
 が、亡国企業の件は世界的な問題であり、出来る限り素早く様々な手を打つ必要がある。
 故に、ニルセンは一夏といつでも会えるように時間をキープしていた。
「お心遣い。感謝に堪えません。それでは、こちらの資料をご覧ください。」
 一夏は、礼を言い資料を渡す。
「では、拝見させていただきます。」
 ニルセンは読み始めるが、数分もしない内に顔色が変わる。

 顔色悪いな。
 当然と言えば、当然か。
 まともな人間がやる様な事じゃない事が、たんまり書かれているからな。
 金の流れにしても、相当に複雑だ。
 これを完全に解明するのは、ちょっとやそっとじゃ無理だ。
 頭痛薬にH2ブロッカー。
 睡眠導入剤も、必要になるかな…。

「これほどとは、思いませんでした…。事態を楽観視していたことを実感しましたよ。」
 額を拭くハンカチはぐっしょり濡れて、ニルセンは水を持ってこさせて飲む。
「私も驚きました。ナチスの残党。ペーパークリップ作戦。それは世間一般でも知られていますが、よりにもよってMKウルトラまで絡んでいるとは思ってもいませんでしたから…。」
 一夏自身、暴いた歴史の闇に恐怖すら覚えた。
 それでも、立ち止まるわけにはいかない。
 ここで立ち止まれば、さらに非人道的な事が行われ悲劇が生まれる。
 それだけは、許すわけにはいかなかった。

「本来ならば、CIAやFinCENの助力も得られれば助かるのですが、今回はやめるべきでしょう。」
「ケネディ兄弟の件ですな。」
 ニルセンは、すぐさま一夏の言いたいことを理解した。
 ケネディ大統領の死は不審な点が多く、現在でも真相を究明しようとしているジャーナリストもいる。
 その点を考慮すると、アメリカの助力を得るどころか密かに妨害工作をしてくる可能性すらある。
 ケネディだけでなく、アメリカの歴代大統領には暗殺や不審な死を遂げている者がいる。
 ホワイトハウスの主人が、必ずしも頂点にいるわけではない。
 それが、合衆国という国である。

「日本で五嶋警察庁国際部長にお会いして、インターポールとの連携強化についての協力をしていただけることになりました。ここならば、アメリカといえども手を出すわけにはいかないでしょう。アメリカからも警察官が派遣されてはいても、好きにできる機関ではありません。」
「そうですな。国連にしても、国連大使を除くアメリカ人職員の軸足はあくまで国連に置かれている。一国家に依存し過ぎる事のない方法が、適切でしょう。」
 一夏の今後の方針に、ニルセンも賛成した。

「それで。他にも手を打たれるおつもりですか?」
「私がここにいる事から、アメリカに食い込んだ亡国企業の一党が、気にかかります。リヨンに飛んだ後、イギリスに行こうかと考えております。」
「NCISにSOCAですな。」
「はい。NCISのアーサー・ブルームフィールド部長。SOCAのランバート・ゴドウィン局長。そして、NCISは首相直属の機関とはいえ、監督は内務省。SOCAは内務省の機関です。この2つの組織を管轄するサー・リュシアン・グレッグソン=ウィリアムズ内務大臣。全て、信頼できる方である事は確認しております。」
 頼る相手の事を知らないで頼る程、一夏は無謀ではない。
 相手の事は、可能な限り調査していた。
 そして、幸いなことに、一夏が知る限りのごく一握りのまともな政治家や官僚であった。
「グレッグソン=ウィリアムズ内務大臣は、私がロンドン大学に留学していた時の同期で友人でもあります。私的に連絡を入れておきましょう。後は、適切に対処してくれます。リヨンの方にも、さりげなく伝えておきます。」
「お手を煩わせて、申し訳ありません。」
「なに。茶飲み話でさりげなく言うだけです。お気になさらず。」
 本来ならばこういった事はまずいのだが、事の重大さと国際的に微妙な立場に置かれながらも様々な問題を解決し、今も奔走している一夏を見ると何もしないでいるわけにはいかないと、ニルセンは考えた。
「ああ。そうだ。学園の守りは大丈夫ですか。例の亡国企業の新型機動兵器は、かなりの性能と資料にありましたが…。」
 今までの亡国企業の襲撃を考えれば、一夏の存在がどれ程重要かはすぐに理解できる。
 全容を解明し壊滅させなければならないとはいえ、奔走する一夏が日本を離れることにニルセンは危惧を覚えた。
「私の姉を始めとした教官達。それに、同級生や先輩達なら襲撃を跳ね除けてくれますよ。」
 ディースと一対一で互角以上に戦えるのは、千冬達教官にラウラ、楯無たち上級生に本音だが、連携すればセシリア達でも対抗できると一夏は考えている。
 故に、断言できた。
「貴方を含めて、1年の専用機持ちは11人。2年と3年生は2人ずつ。イスラエルのイェリダー以外は、全て貴方が関わったIS。中でも貴方が設計したISが7機。改修したISも非常に高性能でしたね。そして、初代ブリュンヒルデにして、未だ世界最強のミスオリムラ。前ブリュンヒルデのミスブッフバルト。他の教官も元代表候補に国家代表。軍の特殊部隊出身者。教官たちの専用機はゲイルスクゲルを除けば、篠ノ之博士自ら設計したIS。量産機は初期第四世代に匹敵する、第三世代。ミスオリムラの専用機は第四世代。成程、この戦力なら。大丈夫ですか。」
 一夏は微笑みながら頷く。
 総数22機の、専用機。
 一夏と束が関わったISは、各国が喉から手が出るほど欲しがっているハイスペックなISである。
 もはや、軍事国家ともいえるほどの戦力である。
 常識的に考えれば、襲撃を掛ける事は自殺とイコール。
 いつも一夏に負担を掛けていることに申し訳なさを感じている千冬達は、その穴を確実に埋めるだろう。
 無論、IS学園の守りで一夏は自分に負担が掛かっているなどと考えた事はないが。

「では、私はこれで。お時間を設けていただけた事、厚くお礼申し上げます。」
 一夏は深々と頭を下げる。
『どこまでも、礼節を重んじる方だ。それも表面的ではない。』
 千冬や一夏の剣術の師であり箒の父である柳韻、誘拐後に師事した竜芳らの影響で一夏は礼儀を非常に重んじる性格になっている。
 そこにニルセンは、好意を持っている。
 上っ面だけの礼節をうんざりするほど見てきたニルセンにすれば、清々しく見えた。
「お気になさらず。こちらこそ、色々と奔走していただいて申し訳ない限りです。くれぐれも、お体を労わっていただきたい。」
「定期的に検査を受けていますので、大丈夫です。ご要望なら、お手元に届く様に手配しましょうか?」
「おや。心配し過ぎましたかな。この歳になると、色々と心配してしまう物でしてな。」
 笑顔で2人は握手をして、一夏は国連本部を後にした。

 うっしゃ。これで、後が楽になる。
 とにかく、詳細な情報を提供してそれを基に動いてもらえれば真実にかなり近づける。
 俺も、調査は継続するけどな。
「一夏。どこかで食事をしましょう。疲れたでしょう。」
 今回は、岩村一尉だけが俺の護衛についている。
 俺の存在を目立たせなくするのはもう無理だけど、護衛の人が多いのは好ましくない。
 それに、俺も一尉もそこらの連中にやられる程ヤワじゃないしな。
「とりあえず、ホテルに戻りましょう。」
「そうですね。うん?」
「どうしたの?」
 なんだか騒がしい。
 えっと、あれは冷凍車か。
 誰かが倒れている。
 子供か?
「すいません。気になりますので。」
 俺は、走り寄る。

「どうしました?」
「ジョーイが。ジョーイがかくれんぼをしていたら。この中に。」
 友達らしい男の子が、泣きながら説明する。
「それ、冷凍車ですか?」
 近くにいた運転手らしい人に、俺は確認する。
「はい。冷凍の魚介類を配達に来たんですが、ドアの鍵を閉め忘れて。でも、どうせ空だったから大丈夫だと思ったんです。まさか、こんな事になるなんて。」
 そりゃ、冷凍車やトラックの中に隠れようなんてふつう思わないからな。
「中の温度は?どれ位、いましたか?」
「中は、マイナス20度です。届けた後、昼食と昼休みを兼ねていたので1時間ぐらい。こいつは、中からは開けられないようになっているので。」
 だから、こうなったわけか。
 とにかく、まずい!
 重度の低体温症なら、もう手遅れになっているかもしれない。
 俺は急いで、どの程度の低体温症かを調べる。
 刺激を与えてみても、目は開かない。
 声も出ない。
 四肢は、少し動いたか。
 グラスゴー・スケールは、1−1−2か。
 後は白式の生体保護機能を利用して、体温を測る。
 30度か。
 心拍が、だいぶ低くなっている。
 限りなく重度に近い、中度か。
 いずれにしても、かなりまずい…。

「救急車は!?」
「この先で、事故があってそっちに行ってます。それに他で渋滞が重なって。そろそろ、ヘリが来るはずです。」
 早く来てくれ…。
 下手に動かせば、確実に不整脈が出る。
 呼吸も弱い。
 いつも持ち歩いている、フェースガードを使って人工呼吸を始める。
「君。この子のフルネームは?」
「ジョーイ・マッケイ。」
「解った。ありがとう。」
「お兄ちゃん。お医者さん?」
「高度救急救命士。アドバンスド・パラメディックだよ。」

 高度救急救命士。
 救急救命士の中でも、医師が行う医療行為を通常の救命士より行えることができる救命士だ。
 以前から、国際的に協議されていたが今年になって主要国で資格ができた。
 俺は、習志野の訓練の中で応急手当から始まって、様々な医療の訓練や講義も受けている。
 自衛隊病院での、実務経験もある。
 本当なら、資格試験をうける条件には達していなかったが政府が厚労省に指示して特例として許可させた。
 滅茶苦茶やったもんだぜ。
 おかげで、束さんの講義と並んで無茶苦茶ハードな講義になったしな。
 そして、救命士と看護師の資格を取得した。
 入学してからも、講義と訓練に実務は続けていて高度救急救命士。
 英語ではアドバンスド・パラメディックというが、資格試験に合格。
 筆記試験は現役の医者から見ても「医師資格試験並みの難しさ」と言われ、実技試験も難易度はかなり高かったので、今年の合格率は10%にどうにか達したという程度だ。
 ま。お蔭で医療機器の開発に役立てる事が出来たから、いい事かな。
 ヘリのローター音。
 やっと来たか。
 それに、車が走ってくる音?
 何で、テレビの中継車が来たんだ?

「通報を受けてきました。って、あんた、イチカ・オリムラか?」
「そうです。こう見えても、アドバンスド・パラメディックです。」
 白式の待機状態のデータから、証明書のデータをロードして見せる。
「ジョーイ・マッケイ。11歳。かくれんぼをしていて、冷凍庫の中で約1時間閉じ込められました。深部体温30度。脈拍微弱。GCSは1−1−2。喉頭鏡と聴診器。5番の気管内チューブを。」
「どうぞ。」
 俺はすぐに挿管する。

「冬のマンハッタンで。救出劇です。冷凍車に閉じ込められた少年を助けたのは、あのイチカ・オリムラです。」
 こんな時に、中継なんかするな!
「急いで中に。人工呼吸器を用意して下さい。」
 まさか、俺が開発したドクターヘリが来るとはな。
 世の中、何が起こるか解らない。
 て、勝手に入ってくるなよ!
 マスコミってのは、これだから苦手なんだよ…。
「君はジョーイの家に連絡して、病院に来てもらうよう言ってくれ。ここから一番近くて、1級の救急設備とICUがある病院はどこですか?」
「コロンビア大学付属病院。13分あれば着きます。」
 その間にどれだけ、処置できるかが勝負か…。

「出してください!」
「了解!」
 ヘリが、病院に向かう。
 その間にも、一夏は処置を続ける。

 くそ!
 重度の低体温症にはどうにかなってないけど、体温も血圧も低すぎる…。
 低体温症だとカリウム値が高いから、とにかく下げないと。
 1本じゃ足りないな…。
「暖めた輸液を、もう1本追加。2本とも、バンピングお願いします。」
「解りました。」
 その間に、心電図の電極をジョーイの胸につなげる。
 心室に、刺激が伝わっていない。
「アトロピン。0.4mg静注して下さい。」
「ただ今、ミスターオリムラの指示で薬剤が投与されました。それは、何の為です?」
「心拍が低いうえに、肺に血液を流す心室にその為に刺激が伝わっていません。それを、回復させるんです。」
 すぐに、投与される。
 にしても、何でテレビ局のアナウンサーまでいたんだよ?
 渋滞か、事故の取材か?
 まあ。いい。
 とにかく、処置を続けないと。
 頼む。収まってくれ。
 ニューヨークは、冬が寒い。
けど、冷凍車の中はその倍以上温度が低い。
心拍が只でさえ低いのに、ここで徐脈性不整脈が出られるのは堪ったもんじゃない。
何としても、元に戻さないと。
心室細動だけは、出るなよ。
深部体温は、変わらず30度。
暖めた輸液じゃ、限界か…。
心拍もサチュレーションも血圧も、低い。
「7番の気管内チューブを。酸素は加熱して下さい。ドーパミン点滴開始。250mlの5プロに36mg。」
 俺が気管内チューブを交換して呼吸器につなげると、暖められた酸素が送られる。
 血圧と心拍を上げるために、ドーパミンを点滴する。
 上がってくれよ…。
「何故。チューブを交換したんですか?それとさっきの点滴は?」
 こういう時に、質問するなよ!TPOを弁えろ!
 こっちは、頭をクールにして処置しなきゃならないのに!
「不整脈は収まりましたが、血圧が上がりません。点滴は血圧を上げる為です。血液の酸素濃度も低いので、チューブを太い物に取り換えたんです。暖めた酸素を送り込んで、体温を上げる手をもう一つ打ちました。」
「容態は?」
「まだ、危険な状態には変わりありません。重度の低体温症なら、出来る処置はもっと限られていましたがぎりぎりで中度だったので、こうして処置が出来ているんです。」
 頼むから出るなよ。心室細動…。
「病院は?」
「あと、4分。」
「ERのドクターに、除細動器とエピネフリンを念の為持ってきてもらって、心臓外科医にバイパス装置と加熱装置を用意して待機してもらうよう要請して下さい。血液を直接暖める必要がある。」
「只今、コロンビア大学付属病院に各種医療機器に薬剤。ドクターの待機を要請しました。」
 その時、心電図の波形に乱れが生じる。
 くそ!出やがったか。心室細動。
 心筋が痙攣を起こしたように震えて生じる、心室細動。
 不整脈の中でも、危険度はトップクラスだ。
「小児用除細動器。100で、チャージ。」
「チャージしました。」
「下がって。」
 俺は除細動器でショックを与えるが、心室細動は収まらない。
「150で、チャージ。」
「チャージしました。」
「下がって。」
 くそ!収まらない。
「エピネフリンを、0.4mg。200でチャージ。」
「チャージしました。」
「下がって。」
 駄目か…。
「300でチャージ。」
「チャージしました。」
「下がって。」
 四度目の正直が、1回くらいあってもいいはずだ。
 収まれ!ジョーイ、頑張ってくれ…。
 祈るような思いでショックを与えると、心室細動が収まった。
「リドカインを点滴して下さい。500mlの5プロに50mg。」
「その点滴は、何ですか?」
「さっきの症状を、予防するための処置です。深部体温は、何度ですか?」
「31度です。」
 少し上がったけど、まだ低すぎる。
「到着しました。着陸します。」
「解りました。」
 屋上には、ERのドクターたちがいた。

「ジョーイ・マッケイ。11歳。冷凍車に閉じ込められました。徐脈性不整脈を起こしましたが、アトロピン0.4mgで回復。昇圧剤として、ドーパミンを250の5プロに36mg。その後、心室細動。2回目の除細動の後、エピネフリンを0.4mg投与。4回目で回復。回復後は予防措置として、500mlの5プロでリドカイン50mgの点滴を開始。加熱した輸液2本と酸素を与えましたが、深部体温は31度と低いままです。サチュレーションは93。グラスゴー・スケール1−1−2。脈拍微弱。血圧は70の50。」
「ERのジョエル・マクレランです。彼はケビン・ミラー。それに婦長のジェニファー・ネルソンです。よくここまで立て直してくれましたね。済みませんが、手が足りない。高度救急救命士の資格の他に、看護師の資格も持っていませんか?」
「持っています。」
「手伝ってくれると、非常に助かります。」
「解りました。それと、一夏でいいです。連携が取りやすいでしょうから。」
「解った。頼むぞ。一夏。アンビューバッグで、ハイパーベンチレーション。」
「解りました。」
 アンビューバッグで、一夏は酸素を送り続ける。
『死ぬなよ!ここなら、もっと適切な処置ができるんだからな。』

「よし。僕の合図で移せ。1、2、3。」
 ストレッチャーから、処置台に移す。
「一夏は、大至急手術着に着替えて。血算、血液ガス、凝固機能、電解質。」
「解りました。」
 一夏はロッカーの場所を聞いて、手術着に着替え始める。

 こういう時に、長い髪は面倒なんだよな…。
 束ねた後に、後ろで留める。
 よし。これでOK。
 処置室に向かう途中、ジョーイの友達と両親と弟らしい子供が駆け寄ってくる。
「このお兄ちゃんが、ジョーイの手当てをしてくれたんです。」
「ご両親ですか?」
「はい。ジョーイの容態は?心臓が2回異常な状態になったと、聞きましたが…。」
 テレビで生放送されてたからな。
 知ってて当然か。
「今は、収まっています。ですが、油断を許さない容態です。今、先生たちが、全力で処置にあたっています。」
「ご家族は引き受ける。処置室に急いでくれ。」
「解りました!」
 俺が処置室に戻ると、バイパスを繋げる準備の最中だった。
「一夏。自衛隊で医療を学んだんなら、野外手術の訓練は?」
「受けています。」
 とにかく、可能な限り教え込もうというのが上の方針だったのか、機械出しから色々仕込まれた。
「バイパスアクセスの、助手の経験は?」
 マクレラン先生が、俺に質問する。
「あります。訓練もオペも。」
 明らかに、看護師の域を超えていたんだがとにかくやたらに経験させられた。
 1日中、手術室にいた事もあったな。
 10時間を超える、長時間オペにも関わった事がある。
「助かる。手伝ってくれ。」
「はい。」
 手袋を嵌めERガウンを着て、感染防止ゴーグルを掛けたら助手のポジションにつく。
 頑張れ。ジョーイ。
 ここなら、もっと体を暖められるからな。
「それから、薬剤投与の指示を他の看護師に出してくれ。処置に集中したい。君なら、十分できる。」
 そこまでいくか?
 でも、この状態なら理解できる。
 一刻を争うからな。
「心室頻脈です。」
「プロカインアミドを、100mg。」
 話し合いだけだったのにこうなるとは、世の中解らないな。
 それに、叩き込まれた医学の知識と技術が役に立つとも思わなかった。
 一度学び始めた事は、続けたほうがやっぱりいいか。

『凄いな。応急処置は、適切極まりないし。助手としても極めて優秀だ。薬剤投与についての知識や判断力も、既にスタッフドクターのレベルだ。』
 一夏を助手にしてバイパスアクセスを行っていたマクレランは、一夏の技量に驚きを隠せなかった。
 数多くの医学生やレジデント(研修医)を指導してきたが、一夏ほど優秀な人間はいなかったからである。
『指導した医師は、相当に叩き込んだな。お蔭で予想以上にスムーズにいった。』
 既にバイパスにつなぐ準備は、出来ていた
「血液検査の結果はいつ出る?連中、錬金術でもやってるのか?」
 ミラーが、他の看護師に聞く。
「アクセスがいつもより速いんですよ。もうすぐ来ます。」
「40秒で来させろ。ヴァイタルは?」
「血圧80の60。サチュレーション97。心拍数40。」
「ドーパミン追加。250mlの5プロに、50mg。」
 心拍数が予想より低い事を考慮して、一夏は投与量を計算して指示を出す。
 その時、血液検査の結果が来た。
「血液の検査だけにして、錬金術はやめろ。」
 ミラーが処置をしながら、看護師に言う。
「アクセスは、もう終わったんですか?」
 看護師が驚く。
「いいから。早く言え。」
「凝固機能及び電解質正常。ペーハー値は7.6。」
「カルチコール10mlを、3分で静注。」
 通常血液のペーハー値は7.4の弱アルカリ性を基準とするが、徐脈性不整脈が出た事を考慮して、一夏はカルシウム剤の投与を指示する。
 バイパスが作動し、血液を暖め始める。

 ふう。後は、体温が上がって意識の回復を待つだけか…。
 戻ってくれよ…。
 家族が、待ってるんだからな。
 そう考えながら待っていると、ホットドッグと熱いコーヒーを手渡された。
 そういえば、昼飯まだだったな。
「見事だな。応急処置はテレビで見ていたけど、ここまでとは思わなかった。」
「私の指導を担当した、医務官。ようするに軍医なんですけど、とにかく色々指導してくれましたよ。「どんなことがあるか解らない。だから、可能な限り様々な事態に対処できるようになって欲しい。」そう言って。」
「そうか。その担当の医務官の理想通りに、育ったな。君が適切な処置をしてくれなければ、事態はもっと悪化していたよ。こちらで必要な事を、かなりやってくれたからな。」
 しみじみと言い、マクレランはコーヒーを飲む。
「何時間、経ちました?」
「2時間だ。そろそろ、意識も回復すると思う。素早く的確な処置が出来たからね。」
「マクレラン先生。ジョーイ君の意識が、戻りました。」
「そうか。行こう。」
「はい。」
 良かった…。本当に良かった…。

「体温36度。ヴァイタル安定しています。」
 良かった…。
 助かってくれた…。
 かなり危険な状態だったからな。喜びも増すってもんだ。
 すると、マクレラン先生が目配せをする。
 俺に、看ろって事ですか?
 ジョーイの傍までいって、聴診器を当てて心音と呼吸音を確かめる。
 よし。大丈夫だ。
「ジョーイ。何日かしたら、家に帰れる。それまで、先生たちの言う事をよく聞くんだ。いいか?」
 ジョーイが、頷く。

「お兄ちゃん。助けてくれたね。」
 友達にご家族か。
「もう。大丈夫です。気管内チューブも、あと少ししたら取れます。2、3日入院すれば、全快しますよ。」
「ありがとうございます。」
 お父さんと握手をする。
「お礼を言いたいのは、私です。ジョーイ君、頑張ってくれましたよ。本当に。けれど、今後かくれんぼでトラックの類に隠れないようによく言っておいてください。」
 それさえ二度としなければ、それでいい。
 患者さんが、助かってくれる…。
 俺は、それだけで十分だ…。

「理事。そろそろ。」
 あ、そうだった。
 リヨンとロンドンの事を、考えておかないと。
「それでは。私はこれで。」
「ありがとう。本当によくやってくれたよ。君の開発した医療器具も、大いに役立っているしね。これからも、頑張ってくれ。」
「携わった事には、ベストを尽くしますよ。」
 マクレラン先生、ミラー先生、ジョーイとその家族皆と握手をする。

「一夏じゃないか?何してんだ。」
「イーリ。そっちこそどうしたんだよ?ノーフォークじゃなかったのか?」
 基本的に、イーリは本国にいる時には国家代表と言う事もあってノーフォークにいる。
「SWATから、訓練の依頼が来たんだよ。」
 あ。そういう事か。
 海外ではよくあるんだが、各地の警察で近接格闘戦の訓練を受け持つ。
 イーリの専用機ファングクェイクは、俺が改修を担当して中遠距離戦闘もこなせるようになったが、基本的にはCQCを得意とするISには違いない。
「そうか。俺は、低体温の患者の応急処置と、こっちでの処置での手伝いだよ。これでも、アドバンスド・パラメディックだからな。イーリだって応急処置の訓練は受けてるだろ?」
「ファストエイドキットを使った、簡単なのだけどな。お前の場合は、相当に高度だろ。まだ、数少ないからな。」
「まあな。でも、役に立ったし。患者さんは助かったし良かったよ。ちょっと急用でこっちに来たんだけど、何が役に立つか解らないな。世の中は。じゃあ、これで。明日には、リヨンに飛ばなきゃならないから。」
「忙しい奴だな。体壊すなよ。」
 イーリが苦笑しながら、言う。

「20歳、ひき逃げです!頭部に裂傷。右上腕部、右脚部骨折。腹部と胸部に激痛!」
 ひき逃げにあった、急患が運ばれてきた。
「済まない。また手を貸してくれ。左の手前の部屋に運んでくれ!」
「すいません。ちょっと行ってきます。」
 再び処置室に向かった一夏を見て、春香は苦笑した。
『いつも忙しい子ね。才能があるのも、考え物だわ。』
 結局。救命処置や縫合等で手伝いをして、一夏がホテルに戻ったのは夕方だった。

 やれやれ。大変な一日だったな。
 事務総長との今後の協議に、医学の勉強の成果を活かす機会が来て大忙しか。
 ま。こういう事もあるか。
 後は、リヨンとロンドンでうまく協力を得るだけ。
 そろそろ、亡霊を引きずり出さないとな。
 首を洗って、待っていろよ。

後書き
アメリカでの国連事務総長との協議です。
さすがに閣僚を務めただけあり、事務総長も一夏の言いたいことをすぐに理解してくれます。
そして、これからの困難さも。
それでも、可能な限りのバックアップを約束。
一夏はそれに感謝し、さらに動きます。
インターポールの本部があるリヨンに、欧州の金融センターともいえるイギリスの首都ロンドン。
金融犯罪の専門組織の力を借りるのが、目的です。
アメリカにもそう言う組織はあるのですが、今回は却下です。
ちなみに、私は医療系のドラマが好きです。
一番のお気に入りは、「ER 救急救命室」です。
今回の一夏の設定は、どうみても無茶苦茶ですが、これの元ネタは名前は忘れましたが、短期間で一流の医師や救命士の技術。その他諸々様々な技術を身につけさせられたある組織の脱走者が主人公のドラマが元ネタです。








インターポール―国際刑事警察機構の歴史と活動 (文庫クセジュ)
白水社
マルク ルブラン

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by インターポール―国際刑事警察機構の歴史と活動 (文庫クセジュ) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



ER 緊急救命室 II 〈セカンド・シーズン〉 セット1 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ
2008-06-05

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ER 緊急救命室 II 〈セカンド・シーズン〉 セット1 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



ブログ村のランキングに参加しております。
来てくださった方は、よろしければクリックをお願いいたします。
励みになりますので。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

相互リンクはいつでも大歓迎です。
リンクをしてくださる方は、コメント欄にお書き下さい。
リンクの設定をした後に、お知らせします。

前篇に戻る。
目次に戻る。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
面白い 面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ブログランキング・にほんブログ村へ
IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第79話 武器なき戦い<後篇> cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる