cogito,ergo sum

アクセスカウンタ

zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第79話 武器なき戦い<前篇>

<<   作成日時 : 2013/12/07 23:35   >>

面白い ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

 今日は、朝から俺を除く全員が沈んでいた。
 原因は、とある通達である。

「例年通り。学園内でバレンタインのチョコレートを学園生徒に渡すのは、禁止する。」

 これが、通達の内容である。
 まあ、これに関しては俺も賛成だな。
 学園にそういう物を持ち込むのは、賛成できない。
 あくまで、ここは勉強する場所だしな。
 そもそも、今年のバレンタインデーは土曜日。
 それをターゲットにした、スイーツ専門店のフェアもあるし別にいいと思うけどな。
 実を言うと、俺は毎年義理チョコを山の様に貰っていたのでほっとしている。
 お返しは手作りだったので、大変なんだよ。
 ほとんど手作りだったから、出来合いの物をお返しにするのは嫌だったっていうのもあったが。
 いずれにしても、今年はそういうのは無いっぽくてよかったよかった。
 それ以外には、頭痛の種があるけどな。

「一夏君も大変ね。高級スポーツカーのセールスが、ひっきりなしに来るんだもの。」
「ですね。」
「会長も、大変だね〜。」
 今日は、生徒会メンバーで昼食を食べている。
 うん。虚さん特製のタルタルソースと牡蠣フライ美味い。
 炊き込みご飯も、何とも言えない。
 以前、高級マンションを俺に売ろうと不動産のセールスがひっきりなしに来たが、先手を打って自分でマンションを買った。
 これで終わるかと思いきや、今度は高級スポーツカーのセールスが来た。
 俺は庶民であって、セレブじゃないんだがな。

「でも、会長も上流階級と見られていますよ。世界的な大企業芝崎インダストリーの、技術顧問兼外部取締役。それに、国連安保理特別理事。IS委員会特別顧問。ナノマシン工学会名誉会長。これだけ肩書がつくと、庶民とは…。」
 うっ…。
 考えもしなかった。
 最近、やたらと肩書が増えたからな。
 ナノマシンはISと関わりが大きいから、自然と詳しくなるから学会の名誉会長になるなんて思いもしなかったな。
「いずれにしても、1台くらい持っていたら?一夏君なら買えるでしょ。」
 迅速果断と書かれた扇子を広げながら、楯無さんは言う。
「買えますけど。買いませんよ。」
 結論は出てるんだよな。
「どうして?」
「乗らないのに買っても、意味がないじゃないですか。必要な物はお金を出しますけど、必要ない物にはお金は出しませんよ。」
 無駄遣いは、嫌いだからな。
 第一、俺が普段使っているレクサスにしても1500万したんだぞ。
 これで、十分だと思うんだけどな。
「いずれにしても、1台でいいから買った方がいいわね。しつこくなると、それはそれで問題だし。」
「前向きに、検討します…。」
 不幸だ…。
 何で、無駄遣いしなきゃならないんだよ…。

「成程。副会長の言う事も、理に適っていますわね。欧州でも、一夏さんは上流階級の人物と見られていますし。」
 ポッと出の成金の間違いじゃないのか?セシリア。
「何しろ。実績が凄すぎるでしょ。技術者としても、IS操縦者としても。少なくとも庶民とは見られないよ。」
 シャルロットもかよ…。
「中国なら、一夏位になれば高級車の2、3台持ってて当然よ。」
 ここは、日本だぞ。鈴。
「いずれにせよ。周囲がざわつき過ぎると、面倒なことになる。持っておくべきかもしれんな。」
 業界の人だけで、そんなに他の人は騒がないだろう。ラウラ。

「どうも。新聞部です。」
 黛先輩か。
 また、モデルの依頼ですか?
「織斑君。ちょっとインタビューいいかな?」
「はい。何でしょうか?」
「最近。高級スポーツカー関係で、ディーラーが織斑君にセールスしてるけど何買う気なの?」
「買いませんよ。必要ないですし。」
 渚子さんが、情報を入手したな。
「それ、まずいわよ。かなり熾烈になってきてるから。海外のメーカーは重役まで来日するらしいし。」
 勘弁してくれよ…。
 何で、そこまでして売りつけようとするんだよ…。
 庶民には、庶民らしい生活をさせろよな…。
「とにかく、前向きに考えないと後が大変よ。じゃあね。」
 成程。渚子さんからのメッセンジャーか。
 あの人、あちこちに顔が広いから相当確度の高い情報なんだろうな。
「ったく。やれやれだぜ…。」
 考えてみれば、セシリア達のISの開発や改修に加えて打鉄弐式の開発の手伝い。
 委員会直属のISの開発等々。
 税金を差し引いても、数億単位の金が入った。
 そして、ほとんど手を付けていない。
 マンションを買ったぐらいだ。
 まあ。放っておけば、向こうも根負けするだろう。
 はっきり言って、そんな事に構っている暇は1秒もない。
 俺は俺で動いて、いろいろ解明しなきゃならないからな。
「皆さん。授業を始めます。」
 さ、授業だ。
 この後は、講義だ。
 そろそろ、簡単な連携訓練も入れるか。

「その前に、織斑君へお知らせがあります。」
 ん?俺ですか。
「何でしょうか?」
 山田先生。妙に嬉しそうにしてるな。
「織斑君が発表したナノコンポジット素材の論文に対して、MIT。マサチューセッツ工科大学より、物理学の博士号が授与されることが決定しました。授与式は来週火曜日。織斑君。おめでとうございます。」
 ああ、あの論文か。
 まあ、確かにあれは応用次第で色々な分野に恩恵をもたらすだろうけど、大げさすぎないか?
「おめでとうございます。一夏さん。」
「一夏。おめでとう。」
「さすがは、私の嫁だ。」
「一夏。凄いね。」
「やったな。一夏。」
「「「おめでとう!織斑君。」」」
 皆が拍手で、祝福してくれる。
「それに伴って、MITで開催される材質工学の学会に出席することが決定しました。今回の論文について、詳細な発表をする準備をお願いします。」
「あ。はい。」
 やれやれ。
 今週は土曜日に、東京でナノマシン学会に出席してからインターポールとの連携についての打ち合わせがあるから、大忙しなんだぜ。
 プラス来週に、アメリカでの学会かよ。
 ちょうどいいから、そっちの用件を済ませるか。
 考えてみれば、渡りに船だな。
 カモフラージュには、ちょうどいいか。

「それにしても、工学の博士号に続いて物理学の博士号?どんだけ、天才なのよ?一夏は。」
 麻婆豆腐定食を食べながら、鈴が話しかけてくる。
「俺は、以前からやっていた研究をずっと続けていただけだけどな。」
 俺は、牛カツ定食にレタスと豆類のサラダ。
「継続は力なりだね。一夏がIS開発においても、世界屈指の技術者になったのも努力の賜物だし。」
 ビーフシチューとクロワッサンを食べながら、シャルロットが言う。
「一夏さんは、とても真っ直ぐな方ですから。学び始めた事は、とことんやらなければ気が済まない。それが結果に結びついたのですわ。」
 チキンパイにピーサラダ。コーンポタージュスープを食べながら、セシリアが嬉しそうに話しかけてくる。
 やり始めた以上、中途半端にするのは嫌なんだよな。
「お前も、忙しくなる一方だな。だが、私が完璧に護衛してやる。安心しろ。」
 ラウラは黒パン。茹でたソーセージと豚のロース肉に、穀物とラードの腸詰。
 ジャガイモに、グリューンコールという野菜をペースト状になるまで煮たのをつけあわせにした物を食べながら銃のマガジンの残弾数を確かめる。
 大丈夫だと思うけどな。
 ラウラ以上の個人戦闘の達人は、探すの大変だし。
「で、一夏。真理亜とは会ってくるのか?」
 ヒレカツ定食を食べながら、箒がジト目で俺を見る。
「それは、無いと思うぞ。」
 完全に、偶然だったんだぜ。
 二度も三度も続かねえよ。
「その内、また増えたりして。」
 天ぷらうどんを食べながら、玲子が笑う。
 それも、ないだろう。
 心当たりないし。
 ていうか、目が笑ってねえ…。
「いずれにしても、やっぱり一夏は凄い。」
 ハヤシライスを食べながら、簪が微笑む。
 褒めてくれるのは嬉しいけど、束さんがいるからな。
 あの人に比べれば、まだまだだよ。俺は。
「はーい。ちょっと、ごめんなさいね。」
 ビーフカレーに海藻サラダ乗せたトレイを持って、楯無さんが来る。
「一夏君。聞いたわよ。おめでとう。」
 愚公移山と書かれた扇子を広げながら、楯無さんがお祝いの言葉を掛けてくれる。
 根気よく努力を続ければ、遂には成功する。
 中国の故事に由来する、言葉だ。
「ありがとうございます。」
 一生懸命努力したのは、事実だしな。
「そう言えば、何買うの?スポーツカー。」
「買いませんよ。」
 いらないですから。
 それに、出席する学会が増えたからそっちの準備もあるし他にもやる事があるので考えるゆとりはない。
「いいじゃない。1台位。一夏君の今までの頑張りを考えれば、それ位のご褒美があって当然よ。」
 食堂のおばちゃん達まで、頷く。
 そういえば、ビフカツいつもよりでかいな。お祝いだったのか。
「余裕が出来たら考えますよ。今、指揮しているプロジェクトがいろいろありますし。それに、HEGに関する各種ガイドラインも大詰めですから。じゃあ、これで。」
 俺は、トレイを下げて食堂を出る。
 必要のない物は、買わない。
 家計を預かる者は、こうでないといけないんだよ。
 うん。そうあるべきだ。

 2月14日。
 一夏は、ナノマシン学会に出席していた。
 日本では、一夏の研究に刺激されて急速に発達しており、様々な発表が為されている。
 それでも、一夏の研究成果はさらにその上を行く。
 全国から集まった研究者から、矢のように質問が来る。
 それに対して、一夏は一つ一つ丁寧に答える。

『さすがにこういう場所では、襲撃は無いか。以前に、散々痛めつけられたからな。』
 IS学園の筆記試験の際、一夏と特殊作戦群によって亡国企業の襲撃部隊は壊滅されたので滞りなく学会は進んでいた。
『こちら、シルバー1。会場外に異常ありません。』
『シュヴァルツ1、了解。引き続き警戒。』
『シルバー1、了解。』
 横須賀の在日米軍基地に派遣されたナタルは、外の警備を担当していた。
 シルバー1は、ナタルのコールサイン。
 シュヴァルツ1は、ラウラのコールサインである。
『どこの連中かは知らないけど、しつこいわね。逆立ちしたって一夏には、勝てないわよ。技術者としても、IS操縦者としても、一兵士としても。』
 夏休みの合同演習で手合わせをしたナタルは、一夏のIS操縦者としての技量の高さを嫌と言うほど知っている。
 技術者としての水準も、自分の専用機である福音とイーリの専用機であるファングクェイクの改修の結果から容易に察することができる。
 さらに、以前一夏が訓練を受けていた特殊作戦群と合同の訓練をしていた、陸軍第75レンジャー連隊のレポートを特例で読んで当時から高い技量を有していたことが解った。
 そして、一夏は日々成長している。
 IS戦闘も個人戦闘も、SEALSやデルタ。グリーンベレーでも耐えられないような厳しい鍛錬を積んでいる。
 前ブリュンヒルデのヘンリエッテですら、本気にならないと訓練相手にならないと聞いてから勝てる相手は千冬ぐらいだろうと考えていた。
『いずれにしても、どこの馬の骨ともしれない下衆を片付けるのに一夏の手を煩わせる必要はないわ。私達で十分…。』
 アメリカ製大口径自動拳銃で長い間米軍制式拳銃であり続けた、コルト ガバメントのカスタムモデルの一つでアメリカ海兵隊遠征ユニット(MEU)に配備されたM45CQBの感触を確認して、ナタルは警戒を続ける。

 ふう。終わった。終わった。
 あの質問攻めは、結構強烈だったな。
 まあ、あの技術は大規模にしやすいから、上手くやれば原発の割合はだいぶ減るだろうな。
 なんだかんだで、原発はやっぱりリスクが無視できない。
 他にも太陽光発電とか、いろいろ研究を進めるか。
 太陽風は微弱だけど、天候に左右されずに吹いてくるから利用できる。
 よし、この線で行くか。
「一夏。お疲れ様。」
「ああ。ナタル。悪いな。警備までしてもらって。」
 ナタルだって、任務で横須賀に来ている。
 俺の事に、時間を割いている暇はない筈だ。
 申し訳ないな…。
「いいのよ。アメリカは、あなたに借りがあり過ぎる物。マクドネル大佐は、「やっと借りが返せる。」って、喜んでいたわ。それから、メイヤー中佐からもくれぐれもよろしくって言伝を預かっているわ。」
 ま、確かにいろいろあったからな。
 けど、大佐や中佐が気にする必要はないんだけどな。
 ちなみに、マクドネル大佐は既に5隻中4隻が退役したタラワ級強襲揚陸艦の4番艦ナッソーを改修したデータ収集艦ローレンス・ハイランドの艦長として、メイヤー中佐を副長にナタルと一緒に横須賀に配属されている。
 本来なら、最高軍事機密の福音のテストを日本でやるなんて言語道断だけど、それでもIS学園との交流の口実を見つけてデータを収集したいんだろう。
 やれやれだぜ。

「さて。私は行くわ。ここからは、さすがに私がついていくわけにはいかないし。その前にこれ。」
 ナタルが差し出したのは包装されたお菓子らしき物と、カードだった。
「ハッピーバレンタイン。マイ・ホワイト・ナイト。」
 そう言った後、ナタルの唇が重なる。
 って、何するんだいきなり!!
 舌を入れるな!舌を!!
 そして、さっさと去っていく。
 な、何なんだよ…!今のは…!?
 て言うか、周囲が呆然としている。
 同年代の女の子で、泣き崩れている子がいるのは何故だ?
 そして、ラウラはとてつもなくどす黒い気を発していた…。
 今日は、厄日かよ…。

「お待ちしておりましたよ。織斑特別理事。」
「いえ。アポを取ったとはいえ突然の来訪、お赦しください。」
 一夏は警察庁を訪れ、インターポールとの連携を担っている警察庁国際部の五嶋孝和部長と会っていた。
「では、お話を伺いましょう。火急の要件と伺いましたが。」
「はい。その前に、深呼吸をしてください。刺激が強すぎますので。」
 一夏の言った事に疑問を持ったが、五嶋は深呼吸をする。
「では、こちらをご覧ください。」
 茶封筒から、旧ナチス残党、MKウルトラ、ヒトラーへの資金援助に関する書類を出して手渡した。
 しばらく目を通すと五嶋の目が細くなり、温和な表情も鋭さを増す。

「成程…。これは確かに火急の要件ですな。しかし、亡国企業がこれほど歴史の闇に深く食い込んでいたとは…。参りましたね…。国内企業から大分スパイを摘発したので一安心してましたけど、これはこれはまた…。」
 亡国企業について知っている人間は、日本では極僅かである。
 五嶋は、その1人だった。
「私も、事実を知った時は気分が悪くなりましたよ。」
「まあ。当然ですな。さて、どうしますかね…。」
 やれやれといった表情で、五嶋は執務室の天井を見上げる。
「国内の方は、私のつてで監視網をさらに張り巡らしますか。インターポールにも、よく話しておきますよ。」
 国際部は海外留学経験と語学力が必須の条件であり、当然、五嶋も海外での研修を受けている。その間インターポール内に、太いパイプを構築している。
 それを買われて、国際部長に就任した。
 また、刑事部や公安部にも独自のパイプを持っており、前職は公安部長である。
 警察の裏も表も知り尽くし、様々な情報が集まってくる。
 一見すると温和なお巡りさんという感じだが、カミソリとも評されるほど明晰な頭脳を持ち上層部は自分たちの地位がいつ脅かされるか戦々恐々としている。

「まずは、予防措置として横槍を防いでおきましょう。これに関して、深入りされると困る人たちもいますからね。」
「お手数を、おかけします。」
 一夏が頭を下げる。
「それは、こちらの台詞ですよ。面倒掛けて、申し訳ないと思ってます。とにかく、うちの連中を総動員して事に当たりますので。」
「私は、来週マサチューセッツの学会に行った後、国連事務総長と協議します。事と次第によっては、直接リヨンに行くことも考えています。それに、ロンドンに飛んでNCIS(National Criminal Intelligence Service:国家犯罪情報部)やSOCA(Financial Intelligence Unit of the Serious Organised Crime Agency:国家犯罪情報局経済犯罪部)とも、対策を協議する必要があるかもしれません。金の流れを追うのに、イギリスの助力があるとやり易い。本音を言えば、FinCEN(Financial Crimes Enforcement Network:アメリカ財務省金融犯罪取締ネットワーク)の力を借りる事が出来ればもっとやり易いのですが事が事だけにまずいでしょう。」
「LSDを大量投与したあの計画は、日本のメディアでも相当騒がれましたからね。それに、ジョン・F・ケネディ大統領や弟で司法長官を務めたロバート・F・ケネディ上院議員の暗殺にも浅からぬ関わりがあるという疑惑が晴れていません。当然ですな。」
 ケネディ大統領を暗殺したのは元海兵隊員のリー・ハーヴェイ・オズワルドとされているが、犯行には不可解な点が多く事情聴取に際しても調書が残されていない事からCIAや政府が裏で糸を引いている説があり、痕跡を残さない為にも単独でやったと思い込ませるためにMKウルトラを使用したと考える者がいるという事を一夏も聞いていた。
 ケネディ上院議員はエルサレム出身のパレスチナ系アメリカ人サーハン・ベシャラ・サーハンに暗殺されているが、犯行や逮捕後の言動に不審な点が多くMKウルトラの影がちらついていた。
 いずれにしても、アメリカとしては探られたくない所を探られる事になる。
 故に、アメリカの機関の助力を得ることはやめるべきだと、一夏も五嶋も考えていた。

「それでは、失礼します。インターポールの件は、くれぐれもお願いいたします。」
「引き受けた以上は、きちんとやりますのでご心配なく。それから、くれぐれも身辺にはお気を付け下さい。場合によっては、こちらでも護衛を手配させていただきます。」
「お気遣い感謝します。では。」
 一夏は、警察庁を後にした。

「はあ…。」
 一夏が警察庁を去った後、五嶋は重い溜息をついた。
「学生さんに、あんなに苦労させるなんて心が痛むよなあ…。」
 その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
「ちょっといいかしら?どうしたの?そんなに沈んだ顔して。」
 小沢恵。
 女性初の公安部部長である。
 五嶋とは、長年の友人同士の間柄でもある。

「成程ね。事態は、思ったより大変なことになっていたのね。」
 五嶋の話を聞いた小沢も、厳しい表情になる。
「インターポールの方は、俺の方で大丈夫だけど。深い部分になると、彼の力がどうしても必要になるからね。正直、いい気分しないよ。」
「私だってそうよ。本来なら、学生生活を楽しんでいる年頃だもの。でも、国際社会でも彼は欠く事の出来ない人材になってしまった。いろいろ動いて捜査を活発化させるには、彼が最適なのは否定できないわ。」
 小沢は溜息をついて、コーヒーを飲む。
「各部署に命じて、調査をより厳密にさせるわ。国内は任せて。」
「ああ。頼むよ。後は、刑事部にも動いてもらうか。井上さんには俺から頼んどく。少しでも、バックアップしないとね。」
「ロンドンには、私から連絡しておくわ。研修先だし、それなりに人脈はある物。偉い人たちも、今回の事なら許可をくれるだろうし。」
「ああ。お願い。」
「任せて。じゃあ。」
 小沢が去った後。
 五嶋は、受話器を取る。
「ああ。井上さん。ちょっと、今日呑みに行かない?そう。あそこ。お話があるから。うん。よろしく。」

「捜査機関や諜報機関の動きが、かなり活発になってきているわ。過去の資金の流れとか、知られてほしくない事が次々と知られてきている。」
「織斑一夏か…。相変わらず、可愛げがない。子供は子供らしくしていろ…。」
 スコールから話を聞いて、エムはうんざりした表情になる。
「ここを引き払う準備をした方が、いいかもしれないわね。例の物はいつでも使えるそうだし。」
「住み心地は悪くなるが、仕方あるまい…。」

 俺は今、神無月グループが経営しているホテルの前にいる。
 食事に、誘われたからだ。
 本当は行く気はなかったが、千冬姉が「骨休みをしてこい。」と言ったのでいく事にした。
 服装は、ネイビーのフォーマルスーツに白のイタリアンシャツ。
 セシリアにプレゼントされた、宝石をちりばめたブローチとスカーフで襟元を飾りフォーマル用のインバネスコートを着ている。
 と、その前に状況を見ておくか。

 五嶋部長は、もう手を打ってくれているか。
 あちこちに太いパイプを持っているとはいえ、さすがだな。
 だからこそ、お偉いさんは戦々恐々としているわけだ。
 この調子なら、想定より速く事が進むな。
 後は、俺次第か。
 骨休みを済ませたら、一気に終わらせよう。

「すいません。一夏さん。突然。」
「いや。いいよ。菫もいたのか。2人ともドレス似合ってるな。凄く綺麗だ。」
 冬菊は薄いクリーム色の。
 菫は菫色のドレスを着て、同色のロンググローブを嵌めている。
 にしても、人がいないな。
 どういう事だ?

「あの。今日は、貸切りなんです。私達だけの。お父様にお願いして…。」
 何でまた、そんな真似を…?
 理由が、よく解らん。
「さあ。お食事にしましょう。それと、一夏さんにお渡ししたいものがあるんです。」
 スタッフの人が、何かを持ってくる。
「バレンタインですから、チョコレートをどうしても差し上げたくて。私と菫さんで作ったんです。」
 それぞれ、俺にチョコを渡してくれる。
「目が見えなくても、周囲の人に手伝ってもらってお料理は教わっていました。お口に合えば幸いです。」
 冬菊は納得だが、菫まで手作りとは思わなかった。
 周囲の助けがあっても、目が見えない状態で料理を覚えるのは並大抵の苦労じゃない筈だ。
 貰ったという事実より、真心が嬉しいな…。
「それから。これを。」
 冬菊が持ってきた物は、新品の燕尾服に比翼仕立てのドレス・チェスターフィールドコート。
 上襟はベルベット仕立てで、下襟は拝絹の昔ながらの正当なタイプだ。
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ。」
「喜んでいただけて、嬉しいです。」
 冬菊が嬉しそうに笑う。

「私はこちらになります。既にご実家に届いています。」
 上質な革張りのメニューのような物を、俺に手渡す。
 何だ?
 って、車に関する証明書?
 しかも、これって高級スポーツカーじゃないか?
「限定で、5台発売することになっているんです。今日、発表された物です。父が、一夏さんにプレゼントしたいと言って。どうかお受け取りください。」
 受け取らないわけにはいかないから受け取るけど、これ凄いスペックだぞ。
 デザインや内装にも相当こだわってるし。
 凄い額になるんじゃないか?
 一応後で調べるけど、今は知らないでおこう。
「2人ともありがとうな。気持ちと一緒に受け取るよ。」
 プレゼントは、金額で決まるもんじゃない。
 確かに2人のプレゼントは高級品だけど、そこにはきちんと気持ちが入っている。
 だから、これは正真正銘のプレゼントだ。
「じゃあ。お食事にしましょう。」
 ノンアルコールのシャンパンで乾杯して、バレンタインのディナーが始まる。

「今日はありがとうな。2人とも、ご両親によろしく。気を付けて帰ってくれよ。」
 迎えのリムジンの前で、一夏は冬菊と菫に礼を言っていた。
「いえ。今日はとても楽しかったです。」
 冬菊は、嬉しそうに笑う。
「私もです。それと、両親から伝言です。「今度、お姉様と一夏さんを家に招待したい。」と、一晩でいいですから泊まっていただいてゆっくり話をしたいそうです。」
「解った。伝えと…。」
 一夏の唇に、菫の唇が重なった。
「キスって…、とても暖かいんですね…。」
 頬を染め、瞳を潤ませながら菫は言った。
「では、その…、お寝すみなさい…。」
 一夏は呆然としたまま立ちすくんだが、ラウラの視線で我に返った。

「成程。そういう事か…。」
 家にいきなり高級スポーツカーが届いたので、一夏絡みだと確信した千冬は事情を聴いていた。
「あの2人は、学園の生徒ではないのでお前を責めるわけにもいかん。が、その隙だらけの性格は、何とかしろ馬鹿者!!」
 千冬の拳骨が、炸裂する。
 その時、家のチャイムが鳴る。
「ラウラか。どうしたんだ?」
 一夏がドアを開けると、そこにはラウラがいた。
 手には包装された、ケーキが入るくらいの箱とカードを持っている。
「バ、バウムクーヘンだ…。こ、これなら、チョコじゃないから…。」
 押し付けるように渡すと、背を伸ばして一夏の唇に自分の唇を重ねる。

 な、何なんだ…?
 ナタルといい、菫といい、ラウラといい。
 何で、こんなにキスされるんだ…?
 バレンタインでは、キスされるようになったのか世間一般では…?

「あの馬鹿者…。どうしてこんなに鈍いのだ…。」
 ナタルからチョコレートを貰った時、キスをされたことを知らされた千冬は手を回してメディアに取り上げられないようにしたが。
 それが、1日に3回も続けば頭痛の一つもして当然である。
 真理亜からも、チョコレートにバレンタインカード。一夏の為だけの、サイン入りのニューアルバルが送られてきた。
 カードには、キスマークがついている。
『さて…。誰になびくのやら…。まだまだ苦労が絶えそうにないな…。』
 あまりの一夏の唐変木に、千冬は天井を見て溜息をついた。

 疲れた〜。
 博士号の授与式に学会はともかくとして、やっぱりマスコミは苦手だな。
 渚子さんの取材といい、パリ第六大学の時といいとにかく疲れる。
 今回は、MITだからな。
 あちこちから、マスコミが取材に来た。
 日本に帰っても、これか?
 考えるだけで、胃が痛くなるぜ…。
 さて、本命の要件だ。
 ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港で飛行機に乗って、ジョン・F・ケネディ空港に到着。
 そのまま、国連本部に向かう。

後書き
バレンタインデー。
本命だったり義理だったり、チョコレートを貰う機会が度々ありました。
私は、一回義理とはいえ、ベルギー王室御用達のゴディバのチョコを貰って冷や汗をかいたことがあります。
あれは、洒落になりません。高いんですよ。
それにしても、今は学校にチョコ持ってくるのはやっぱりNGですかね?
私の時は、意外に大丈夫でしたが。
さて、その一夏は学会に警察庁と協議してインターポールとの連携を強化したりと大忙しです。
さらに、ジョン・F・ケネディ大統領の件には、CIA等の政府機関の影がちらついているのは有名な話。
ケネディ上院議員の件は、記憶の欠落や言動からMKウルトラの匂いがプンプンなんですよね。
そういった状況でも、一夏は亡国企業の殲滅すべく動きます。
今度は、国連事務総長との協議になります。
ちなみに、国際部長と公安部長のモデルは、解る人は解るかもしれませんが、機動警察パトレイバーの後藤隊長と南雲さんです。
ちなみに、後藤隊長はレイバー隊の隊長になる前は公安部にいたりもします。
今度、この2人と一夏をからめた話を書きますかね?






ケネディ暗殺 (暗殺の検証と最後の2日間) CCP-908 [DVD]
株式会社コスミック出版
2012-02-13

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ケネディ暗殺 (暗殺の検証と最後の2日間) CCP-908 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



ブログ村のランキングに参加しております。
来てくださった方は、よろしければクリックをお願いいたします。
励みになりますので。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

相互リンクはいつでも大歓迎です。
リンクをしてくださる方は、コメント欄にお書き下さい。
リンクの設定をした後に、お知らせします。

後篇に続く。
目次に戻る。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
面白い 面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ブログランキング・にほんブログ村へ
IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第79話 武器なき戦い<前篇> cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる