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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第67話 一夏の周囲

<<   作成日時 : 2013/09/14 23:58   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

「現行のISの、宇宙空間の戦闘能力?」
「はい。つくばの事もありましたし、気になって…。」
 山田先生が気にするのも、無理ないか。
 亡国企業のやり方は、ますますエスカレートしてるしな。
 まさか、列車を狙うとは思わなかった。
 宇宙空間で片づけたからよかったが、普通に戦えない状況はやっぱりキツイ。
 宇宙での戦いも、選択肢の一つになる。

「正直に言って、少なからず落ちると言わざるをえません。」
 俺は、はっきりと答えた。
 そもそも、現行のISは重力下での運用を、想定している。
 抑止力として、貴重極まるISを宇宙での活動に回す気は、各国とも欠片もないしな。
 宇宙空間での戦闘も考慮した追加兵装パックの開発に、機体の一部改修を行えば、大丈夫だが、実行に移すかね?
 さらに言えば、機体の改修も楽じゃない。
 必要なハードの小型化が、技術的に困難だからだ。
 やれるとしたら、束さんか俺位だな。
 そもそも、束さんは、ISを兵器として開発していたわけじゃない。
 兵装は装備していたけど、一種の保険だ。
 宇宙じゃ隕石やデブリが向かってくるから、それを破壊しなきゃならない。
 しかもただ破壊するだけでは、場合によっては、リスクが大きくなるから、それを抑えながら破壊する必要がある。
 それだけだったら、PICだけで済んだだろう。
 けど、今のISは、高機動戦闘が当たり前。
 宇宙空間での稼働時間は、重力下より遥かに短くなる。
 スターウォーズ計画じみたのでもあれば、話は別だが、それがない以上、宇宙空間での戦闘も前提にした第三世代ISの開発は、今以上に開発費も人材も必要になる。
 実用段階にも達していない以上、まず無理だな。
 スラスターも、従来のターボファンエンジンじゃ無理。
 何しろ、宇宙には酸素が無い。
 別の種類が、必要になる。

 追加兵装パックなら、現在使用されている液体ロケットを使用した物で問題ないけど、はっきり言ってデカイので、ISの運動性に影響が出る。
 もう一つは、戦前にドイツの科学者、ヘルムート・ヴァルターが開発した、ヴァルターエンジン。
 今の技術なら小型化は十分可能だが、過酸化水素を使用するから、かなりデリケートなエンジンになるので、難しい。
最近の人工衛星で主流になりつつある、イオンエンジンは宇宙空間では使えるが、重力下では使えないので、ボツ。
要するに、今のままの運用思想でISを宇宙空間でも使うのは、無茶苦茶に難しいわけだ。

 ただ、第四世代は別。
 展開装甲のおかげもあるが、スラスターそのものが酸素に依存しないので、宇宙空間でも問題ない。
 代わりに、燃費が非常に悪い。
 そっちは、今までのノウハウでカバーできるけどな。
 ただ、今の段階で、第四世代の技術を各国に提供するのは、IS保有国の中でも、独自開発が可能な国とライセンス生産に頼る国との格差。
 さらに、ISを保有することが可能な国と、そうでない国との格差がさらに広がって、国際政治を考慮すると危ない。
 だから、この分だけは、各国に頑張ってもらうしかない。
 俺は理由の他に、個人的な政治的な懸念も、山田先生に話す。

「そうですね。確かに、織斑君の言う通りですね。」
「陽炎は、例外ですね。本来は、第四世代として開発する予定だったことが、各部を見ればわかります。」
 4割は、第四世代の技術で占められていたからな。
 故に、宇宙空間での運用も、大丈夫。
 プラス、第四世代の技術が導入されていても、堅実な設計なので、燃費が非常にいい。
 さすがは、束さんだな。
 舞桜に関しては、千冬姉なら、宇宙空間での著しい燃費の低下は、運用技術で十二分にカバーできるだろう。

「まあ。そうそう、宇宙空間での戦闘も起きんだろう。1体だけ持ち帰った残骸の調査結果からも、向こうもいろいろ苦労しているようだからな。」
 帰還後の一夏の調査で、宇宙空間での戦闘能力を付与するにも、莫大な労力と資金が必要であることが、判明している。
 今回襲撃に使用されたゴーレムは、既存のISとは異なる運用思想の概念実証機であると、一夏は結論づけた。
 ただ、これまでとは戦い方が違ってくるので、ニューヨークの安全保障理事会の準備と並行しつつ、武装教官と生徒会、1年から3年までの専用機持ち達の間で、戦術の議論が行われている。
 発展すれば、面倒なことになる可能性は高い。
 そして、同時並行して、一夏は白式の改修を行っていた。
 千冬、束、そして、IS委員会が、白式が奪われるリスクを危惧しての事である。
 帰還中に天照は白式に大気圏突入能力を付与したので、一夏は殊更心配していなかったが、周囲の危惧を無視はできない。
 以前から研究していたプランが実用化の域に達したので、それを基に改修計画を立案した。

 それにしても、事態は悪化してるよな。はっきり言って。
 亡国企業の解明は進んでるけど、事態まで悪化しては目も当てられない。
 さらに手段を選ばなくなったのも、頭痛の種だ。
 今回の件は、委員会も相当に重く受け止めている。
 何でも、俺の護衛をさらに増やすのも、計画されているらしい。
 有効ともいえるが、同時に諸刃の剣だ。
 相手を、追い詰めかねない。
 今週のニューヨーク行きはラウラが同行するらしいが、現状を考えると、IS学園の事が気になるので、残ってもらう方がいいと思っている。
 それに、これからは、公人としての業務で移動する際は、公共の交通機関を利用するのは、やめるつもりだ。
 無関係な人間を巻き込むのは、御免だからな。
 事と次第によっては、外出も必要最低限にした方がいいかもな。
 やれやれ…。
 さて、お仕事。お仕事っと。

「織斑君。どうするつもりなんでしょうね…。」
「公務での移動か…。」
 今回の事で公共交通機関を使用することを、一夏がリスクと感じているのではないかと、真耶は懸念していた。
 千冬も、ほぼ確信している。
 場合によっては、大惨事になっていた可能性も、否定できない。
 故に、一夏はリスクを承知で、宇宙空間での戦闘に活路を見出した。
 事なきを得たとはいえ、危険であったことは事実。
 だが、今回の戦闘で得たデータを基に、宇宙空間の長期活動用のオートクチュールを、一夏が開発する可能性は高い。
 場合によっては、白式を展開して移動する可能性がある。
 もしそうなれば、現状、随伴できるISはない。
 紅椿、舞桜、エクソルツィスト、陽炎。
 4機とも、宇宙空間の運用は可能だが、稼働時間で問題が生じる。
 亡国企業に誘拐されたことで、一夏の心の底には、他人を巻き込むことに対する、懸念が強く根付いている可能性を、千冬は以前から感じていたので、見過ごすことはできなかった。
「ミーティングの時に、問うとしよう。」
「そうですね。」

 OK。終わった。
 白式の改修は、終了。
 燃費の改善と同時に、総合性能も、底上げしている。
 全領域長距離移動用の、オートクチュールも設計は終了。
 ファクトリーにデータを送って、組み上げ開始っと。
 これで、今回みたいな事態は、防ぐことができる。
 とにかく、しばらくは、こいつのお世話になるな。
 さて、ミーティングだ。
 最近は、講義にもすっかり慣れたし、多少仕事が増えても、問題ないな。

「個人的には、可変機構が気になります。追加兵装パックとは違うアプローチで、戦況に適応できますし。」
 セシリアが、つくばで一夏が相手にしてゴーレムの可変機構を、問題視する。
 元々、一回り小ぶりだったが、可変機構でさらに小型になり、小回りが利く、狭い空間では厄介な相手だけに、これを盛り込んだゴーレムは、従来より面倒になる可能性が高いと、セシリアは感じていた。
「言えてるわ。水中用なんて出てこられたら、正直面倒ね。水中戦闘が出来ないわけじゃないけど、専用のパッケージが無いと、苦戦するもの。」
 鈴が、眉間に皺を寄せる。
 衝撃砲は、空間を圧縮して発射する原理から、水中では使用不能。
 レーザー等のエネルギー兵器は、水中では減衰率が高すぎて、決定的なダメージが与えられない。
 他のISも、似たようなものである。
「水中用パッケージは、そんなに難しくはないけど、問題は宇宙空間用のパッケージか…。燃費を考えると、技術的にハードルが高すぎる…。」
 イリュジオンは、実弾兵装もエネルギー兵装もバランスよく装備されている為に、シャルロットは水中での戦闘に、さして不安はない。
 が、宇宙空間での戦闘となると、やはり不安を覚える。
 IS関連産業では、ISを製造する以外にも、追加兵装パッケージを専門に開発するメーカーがあり、シャルロットはそちらの情報にも通じているが、宇宙空間用のパッケージ開発の噂は、まるで聞かない。
「だが、今後を考えると、必要になる。既に、私は、本国に具申しておいた。」
 特殊部隊隊長であるラウラは、既に軍への報告書を提出しており、今後必要と思われる装備や、追加兵装パッケージについて、意見を書いていた。
 今頃は、本国でも検討が、始まっているだろう。
「巴御前は、一夏にやってもらう事になるから、私は大丈夫ですけど、問題は訓練をどうするかですね。」
 一夏が開発を手掛けた巴御前は、最新技術が満載である事と、その特殊性から、他のメーカーでは解らない事だらけなので、必然的に、一夏がパッケージを開発することになる。
「打鉄弐式は、多分大丈夫だと思います。面子もありますし。」
 マルチロックオンシステムの開発が事実上頓挫して、なりふり構わず一夏に協力を要請した倉持技研だが、今回ばかりは総力を結集して、追加兵装パッケージを開発することになるだろう。
 最初の改修に続いて、パッケージまで一夏に頼りきりでは、企業の存続に関わる。
「不知火、雪風、エクソルツィスト、ケルベロス、エインガナに関しては、織斑君が、かなりの部分で携わるしかないですね…。」
 ダリル達の専用機は、全て一夏が開発している。
 ケルベロスとエインガナは、ヘルハウンドとコールドブラッドの発展型だが、使用されている技術が非常に高度なので、機体の改修は、極めて困難である。
 宇宙空間用のパッケージについても、機体との相性を考えると、一夏の力が必要になる。
 不知火と雪風も同様で、エクソルツィストに至っては、あまりにも特殊すぎるので、束と一夏以外は手の付けようがない。
 結局は、これからの事態に対応するとなると、一夏の負担が増えるのが現状だった。
 無論、千冬としては御免こうむりたいが、現実問題、一夏の力が不可欠だった。

 全員、渋い顔してるな。
 無理もないか。
 ただ、俺に言わせれば、そんなに悲観的になる必要はないんだよな。
 基本設計を流用すれば、水中用でも宇宙空間用でも、開発はそんなに問題ない。
 推進系と燃費の問題をクリアできればっていう、条件付きだけどな。
 事と次第によっては、その点に関しては、技術を提供するか。
 その後は、自分たちでやってもらわないとな。
 慣れたとはいえ、俺だって、暇じゃない。

「織斑。お前に一つ聞きたい。」
「はい?」
 何だ?改まって。
「ニューヨークの件だが、ひょっとして、お前は公共交通機関を一切使用しない。いや、今後、公務の際には、一切使用しないつもりではないか?加えて言えば、今後はボーデヴィッヒや楯無たちも、学園の守りに回ってもらう腹積もり。違うか?」
 セシリア達が驚いて、一夏を見る。
『バレてたか…。』
 一夏は、心の中で重い溜息をつく。

「現状を考えますと、ベターな選択と結論付けました。衛星軌道外でしたら、そうそう手は出してこないでしょう。民間人への被害も防げます。また、今後の事を考えますと、学園の守りを固めるのは、必須事項。であれば、自ずと答えは、明らかです。」
 想定できるケースに対する対処法を考えた結果、俺はそう結論付けた。
 無論、俺自身に対するリスクは、皆無じゃない。
 ただ、つくばの件を考えると、公共交通機関を利用するのは、やはり躊躇してしまう。
 スケジュールを機密にするという手もあるが、今回の事を考えると、無差別テロに発展する可能性も、否定できない。
 それに対しても、即応体制を敷くには、セシリア達には学園にいてもらった方が得策だ。
 フルパワーの白式で戦うのは、気が進まないが、仕方ない。
 俺はその事を、皆に説明した。

「確かに、理には適っている。だが、それでは委員会の面目が、立たんぞ?」
「承知しています。ですが、委員会の面目と民間人の安全。天秤に載せた時、どちらに傾くかは、言う必要はないと考えます。」
 楯無さん達にラウラは、俺の護衛を委員会から命じられている。
 ラウラ達にも、プライドがあるし、それを傷つけかねない事である事も、重々承知している。
 けれども、民間人への犠牲を出すわけにはいかないし、さらに護衛を増やす事は、コストがかかり過ぎる。
 千冬姉や委員会の危惧は理解しているが、俺に考え得る対策としては、今の所、これが限界だ。
 委員会には俺から説明する必要があるし、納得してもらうのは大変だけどな。
 それに、束さんが話をつけたとしても、これ以上、俺がワンオフのISを開発するのも、不味い。

「織斑。お前の危惧は、よく解る。民間人を、巻き込みたくないという事もな。だが、お前の周囲にいる、お前を守りたいという人間の気持ちを、もう少し、考えてやってくれ。お前の周辺の警備は、我々ができうる限り、最善を尽くす。それが、我々の仕事だ。お前は、お前の義務を全うしろ。」
 千冬は一夏にそう言って、今後の戦術の議論を済ませてミーティングは終わった。

 鍛錬の後、明日の講義の準備をして、会社の資料と論文に目を通し、研究をしている際、一夏はふと考え込む。
 千冬の言う事は、一夏も十分理解している。
 楯無やラウラ達は、一夏の護衛の為に、プライベートも少なからず犠牲にしている。
 他にも、IS委員会、更識家のSPが護衛についている。
 だが、それらには、少なからずコストがかかる。
 それに対して、一夏は引け目を感じていた。
 それだけの資金があれば、世界中で病気や飢えに苦しんでいる人々の為に、何かが出来るはず。
 それを、一夏は自分が吸い取っているように、感じていた。
 このままで、いい訳がない。
 IS委員会からの研究予算の支給にしても、ほとんど手を付けていない。
 束のただ一人の弟子である一夏の開発能力は、そこらの科学者を全く寄せ付けない。
 束からも、研究・開発費が振り込まれているので、そちらで十分である。
 故に、IS委員会から支給された予算に関しては、いずれ返却するつもりでいる。

「一夏。話がある。入っていいか?」
「ラウラか。いいぞ。」
 研究とイメージトレーニングを終えて、ハーブティーを飲もうとした時に、ラウラが部屋を訪ねてきた。
 ん?楯無さんに、虚さん、のほほんさんもか。
 何だ?
 とりあえず、お茶の用意と。

「で、どうしたんですか?改まって。」
 皆にハーブティーを出してから、楯無さんに用件を訊ねる。
「一夏君。私たちって、そんなに頼りにならない?」
 ラウラ達も同じことを言いたそうな、表情だ。
 その事か…。
「頼りにしてますよ。ただ、状況が状況だけに、守りを重視すべき。俺は、そう結論を出したんです。そうなると、俺が知る限り一番頼りになるのは、IS学園の皆です。そして、民間人に被害を出さないためには、公共の交通機関を使わない方がいい。そう考えました。代替の移動手段に関しては、既に手を打っています。どっちにしろ、ゴーレムは俺にとって、準備運動にもなりませんから、大丈夫ですよ。俺に向こうの目を引きつけておけば、他の部分のリスクは、減少します。ベストではないですが、ベターではあると思います。尤も、千冬姉の意見で、却下されましたがね。」
 いくら俺でも、千冬姉にはまだ頭が上がらないしな。
 本当は、今でもラウラ達には、常に即応できるようにしていてほしい。

「本当の…、本当のことを言うと…、申し訳ないんです…。」
「一夏…。」
 思いもよらない言葉に、ラウラは一夏を見る。
「俺の護衛だって、タダじゃない。莫大なコストがかかる…。」
 4人は、黙って一夏の話を聞く。
「俺の護衛にかかるコストを、他の分野に振り分ければ、他にもっと有効な使い方があるんじゃないか。そう思うんです…。」
 4人は、全てを悟った。
 ISの登場による、女尊男卑の風潮という社会変化。
 しかし、それとは無関係に改善されない、富の偏在。
 世界規模に比べれば、些細な額だが、それでも、自分の護衛に掛かるコストを振り分ければ、伝染病のワクチン、栄養剤を今より多く提供する事も出来る。
 そして、一夏が委員会から支給されている、多額の研究費。
 これにしても、有益な使い道が、他にもあるのではないか。
 一夏の心には、そういう思いがある事を。

 一夏君らしいといえば、一夏君らしいわね。
 誰かが困っていれば、それを見過ごすことができない。
 そういう、優しい性格だもの。
 そんな一夏君から見れば、自分が特別視されて、護衛やら研究に少なからぬコストが掛かっていることを引け目と感じるようになるのは、遅かれ早かれ十分あり得た。
 篠ノ之博士は、一夏君にとってもう一人のお姉さんで、いろいろと仕事を頼んでいるから、成功報酬兼依頼に備えての、研究資金の提供。
 正当な、取引と言える。
 でも、それ以外は、一夏君にとって受け入れるのは、楽な事じゃない。
 もっと、早く気付くべきだったわ。
 同時に、一夏君は自分より他人の事を、考える事にも気付くべきだった。
 自分の身を自分で守れるように鍛錬しつつ、誰かを守る事も出来るように鍛錬する。
 それが、一夏君が歩いてきた道。
 最近は、周囲を頼れるようになれたけど、天秤の傾きは自分より他人。
 本当なら、自分に傾いているのが、普通の人間の在り方。
 自分が存在しなければ、他人の為に何かすることは、できないのだから。

「一夏君。」
「はい?」
 私は、一夏君をそっと抱き寄せて、髪を撫でる。
「言いたいことは、解ったわ。確かに、そう考えてしまうかもね。でも、こうも考えられない?今の一夏君が置かれている状況に、責任や罪悪感を感じている人がいる。一夏君は、立場が複雑すぎる物ね。そのせいで、嫌な思いもたくさんしている。せめて、守るくらいはしたい。大人として。何より、1人の人間として。」
 私だって、罪悪感はある。
 先輩なのに、後輩にいろいろな負担を背負わせていることに…。
 サポートするにしても、私と一夏君の差を考えれば、限界があるもの…。
 もっと、色々な事をして上げたい。
 けど、大したことができない自分がいる…。
 もどかしいし、悔しい…。

「研究の方も、無駄遣いじゃないわ。一夏君が今まで頑張って作ってきた物の事を、考えてみて。それで、救われた人も大勢いる。これからも増えていく。一夏君の手は、武器を手に取って人を守るだけじゃないわ。その手で色々な物を作って、苦しんでいる人に、救いを差し伸べる事が出来るの。今は、その為の準備期間。先行投資なのよ。事実、IS関係以外でも、いろんな物を作って欲しいって依頼が、殺到して、会社は大忙しなんでしょ?」
 まあ…。そうですね…。
 俺が呼び水になったのかは解らないが、とにかく、自国で開発が出来ない物を開発して欲しいという依頼が殺到して、現場は完全に人手不足でパンク状態。
 一段落しても、人手が足りないという結論が出て、大学や専門学校等に、人事部が求人に駆け込んでいる。
 俺自身も、複数の仕事を抱えて、猫の手どころか耳かきでもいいから欲しい。
 いくつかは、取引をしている企業と合同で進めているが、中核の部分はどうしても俺が関わる必要がある。
 それでも、やっぱり…。

「一夏君は、社会に利益をもたらしている。それは事実。支給された研究費は、成果となって、社会に還元されているのよ。例え、ISの世界から離れても、一夏君は世界にとって必要だわ。だから、守らないといけない。私はそう思うの。未来の為に…。」
「一夏。以前から言おうと思っていたが、お前はもっと図々しくなっていい。世間では、お前の百分の一の価値もない分際で、ゾロゾロとSPを連れている奴が、嫌になるほどいる。私も、委員会からの命令でお前の護衛にあたっているが、それだけではないぞ。お前が、それに値する人間だからだ。」
「会長。会長は、自身で考える以上に、色々な人に必要な方です。その事を、覚えておいてください。」
「そうだよ〜。会長は、いつも一生懸命だもん。」
 4人がそれぞれの表現で、今の状況に引け目を感じないでほしいと、一夏に言う。
 一夏は、黙って頭を下げた。

「そうか…。面倒を掛けたな。」
 事の子細を聞かされた千冬は、そう言う事しかできなかった。
「ボーデヴィッヒ。ニューヨークの護衛は、任せたぞ。委員会からも、護衛が付く。」
「了解しました。」
 ラウラが背筋を正す。
「楯無。一夏が不在の間は、お前が専用機持ちの指揮を執ってくれ。頼むぞ。」
「お任せください。それから、更識からも一夏君の護衛を出します。父が直々に選んだ人間ですから、腕は保証します。」
「そうか。父上によろしく言っておいてくれ。」
「解りました。では、失礼します。」
 ラウラと楯無は、職員室を出た。

「気づかなかったよ…。一夏が今の自分に、引け目を感じていたなんて…。」
「それは、私も同じです。」
 肩を落とした千冬を見て、真耶が慰めようとするが、出た言葉は到底慰めになどならなかった。
 世界でただ一人の、ISを動かせる男性。
 しかも、世界で5本の指に入る強者にして、天才科学者。
 女尊男卑の世にあって、女性が同等と考える存在。
 それ故に、国際社会は、一夏を特別扱いしている。
 不本意である事は察していたが、一夏が引け目を感じていることに、千冬は気づく事が出来なかった。
 考えれば簡単な事を見落としていた自分に、千冬は怒りを感じていた。
 そんな千冬を、真耶は悲しそうに見ていたが、すぐに千冬は精神のスイッチを切り替えた。
 いつまでも、それに囚われていることはできない。
 その事を一番理解しているのは、千冬だった。

 ニューヨークへ向かう日。
 羽田発、ジョン.F.ケネディ国際空港行きのIS委員会の専用機で、一夏は窓から外を見ながら、考えていた。
「さて。鬼が出るか。蛇が出るか…。」
「学園の事は心配いらんだろう。教官たちもいる。お前は、お前の役目を全うすればいい。」
「そうだな。そうするよ。ありがとうな。ラウラ。」
「礼を言われることは、していない。」
 礼を言われたラウラは、頬を赤くしてそう言った。
「ワインでも飲んで、肩の力を抜け。ドイツのワインも美味いぞ。」
「ああ。そうするよ。」
 渡されたグラスの中の、モーゼルワインを飲んで、一夏はニューヨークの会議の事を、考え始めた。

『予想以上に、大変な立場ね。一夏は…。』
 IS委員会から派遣されてきた、護衛。
 一夏のIS操縦技術の師である、春香は複雑な面持ちで一夏を見ていた。
 他にも、更識から派遣された精鋭が、警護に当たっている。
『とにかく、私とボーデヴィッヒ少佐で、しっかり一夏をサポートしないとね。あの子の事だから、絶対に戦うだろうし。』
 師として、一夏の性格を理解していた春香は、煌びやかな細工が施された、鞘に納められた剣をデザインしたペンダントを手に取り、見つめた。

後書き
無差別テロになりかねない手段で、襲撃してきた亡国企業の行動を受けて、一夏たちも対策を考えざるを得ません。
そもそも、ISは宇宙での運用を想定して開発されていましたが、軍事力に取り込まれてからはそれは忘れられていますので、どの国も宇宙での運用は考えていないでしょう。
もう一度、同じような事があれば、再び宇宙での戦いを余儀なくされます。
一夏はそれを防ぐ為に、公共交通機関を使用しない術を模索し、それを形にしようとしますが、一夏を守りたい千冬達にとっては、嬉しくない行動です。
むしろ、心配になります。
と同時に、一夏の本音。
「自分の為に費やされる金銭を、もっと他の事に有効活用できる筈。」
これが、後ろめたさを覚えさせます。
特別扱いは、いつも嬉しいわけではありませんしね。
優しい人間なら、こう考えるのもやむなしでしょう。
そして、いよいよ世界で最も原始的で混沌とした世界、国際社会で一夏は各国との折衝を担当します。






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