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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第56話 織斑家の年越し

<<   作成日時 : 2013/06/22 23:47   >>

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 今日は大晦日。
 1年の終わりだ。
 とにかく、いろいろありすぎた。

 男としては、初めてIS学園に入学した生徒であり、その事で、セシリアと決闘をして、一時は険悪な状態になったが、その後、和解。
 それから、しばらくして、中2の時に転校した鈴が中国代表候補として、転入してきた。
 そして、初めての亡国企業によるゴーレムでの襲撃。
 ロシアの現役国家代表で、生徒会長の楯無さんが俺に生徒会入りをかけて、決闘を申込んできて、苦戦の末、俺が勝利。
 けど、IS学園ビッグ3の頂点にいる、生徒会長の楯無さんに勝利するという事は、俺が生徒会長になるという事。
 忘れていたとはいえ、騙し討ち同然の生徒会入り。
 そして、その理由は俺に護衛を付ける事。
 対抗戦の時に、ゴーレムから皆を守れたことで、守られる立場から少しは抜け出せたと思っていたから、ショックだったな…。
 死ぬ寸前まで稽古をして、周囲を随分心配させたっけ。
 それから、実は女子だったシャルロットが、性別を偽って、男子として転入。
 結局は、すぐに解ったが。
 大人の都合に振り回されている理不尽さに腹が立った俺は、以前から設計していた第3世代IS ノブレス・イリュジオンを取引材料にして、フランス政府と交渉。
 シャルロットの件は、不問とした。
 同時に、ラウラがIS委員会から、俺の護衛として派遣されてきた。
 そして、学年別対抗戦で再びゴーレムが襲ってきたが、学園の専用機持ち全員で撃破。
 ラウラの、「お前は私の嫁にする。」宣言は、驚いた。
 あれって、何が言いたいんだ?
 今でも、よく解らない。

 そして、臨海学校では、最新鋭第4世代IS「紅椿」を、箒が専用機とし、俺は新型の兵装として、雪片参型を受け取った。
 そして、米軍との合同演習の後、改良型のゴーレムの集団と戦闘。
 白式が、第二形態「雪羅」になり、ギリシャから奪われた、第2世代IS「テュランノス」も奪回。
 そこで、初めて、俺を狙っている組織である亡国企業の事を、千冬姉から話された。
 それからも、いろいろあったな。
 束さんから、課題として、研究と白式用のキャノンボールファスト用の追加パックの開発に、第3世代ISの開発。
 マジで、疲れた。何しろ、2週間の突貫工事。
 イリュジオンとは違って、ゼロからの開発だったしな。
 国家の薄汚い思惑で、ISを改修して、ドイツで千冬姉の地獄のシゴキを体験して、その他、とにかくいろいろあった。
 おかげで、いろいろ経験を積めたけどな。
 そんな事を考えながら、俺は蕎麦を打っていた。
 
 最近は、自分で蕎麦を打つ人も増えたけど、うちみたいに、手打ち蕎麦で年越し蕎麦を食べるのは、近所ではまだ少数派。
 というか、うちくらいか?
 小学生のころに教わって以来、織斑家では俺が蕎麦を打つ。
 最初は大変だったけど、もうすっかりお手の物。
 大部分の蕎麦屋と同じで、うちも二八蕎麦。
 それに海老の天ぷらを3つ載せるのが、織斑家の年越し蕎麦。
 普段は無駄遣いしないように、いろいろ工夫してたけど、せめて大晦日ぐらいはと思ってそうしたら、千冬姉がすごく喜んでくれた。
 それ以来、千冬姉が楽しみにしてくれているから、作り甲斐がある。
 おっと、おせちも忘れないようにしないとな。
 よし。これで蕎麦は準備完了。
 さて、少ししたら海老を買ってくるか。
そばつゆは、前から仕込みをしている。

「蕎麦は打ち終わったか。」
「あ、千冬姉。お疲れさん。」
 来年の指導方針を考えていた千冬姉が、台所に来る。
 て、何、匂い嗅いでんだよ。
 あ。石臼で蕎麦をひいた時のか。
「お前も、凝り性だな。わざわざ、石臼で蕎麦を引いて蕎麦粉にするとはな。まあ、おかげで、私は、美味い年越し蕎麦に、ありつけるわけだが。」
 苦笑しながらも、千冬姉は嬉しそうな顔をする。
「いい海老が入ったって、魚屋さんに聞いたから。天ぷらも期待してくれていいぜ。」
「ああ。そうさせてもらう。今年の黒豆も美味そうだな。」
 鍋の中で煮ている黒豆を見ながら、千冬姉は満足そうな顔をする。
 おせち料理にはかかせない黒豆だが、綺麗に煮るにはコツも手間もいる。
 これを惜しむと、見た目も良くないし、味もイマイチ。
 一番手抜きが出来ないのは、俺的にはこれだな。
 静音さんが、初めて俺が作った黒豆を食べた時、びっくりしてたな。
「小学生でここまで作れるなんて、驚いたわ。お料理上手なのね。」
 優しい表情で、言ってくれたっけ。
 さて、今年もおせち料理づくり、頑張りますか。
 ま、あと少し煮込めば、冷ましながら、味を染み込ませるだけだけどな。
 これまできちんとやっておけば、自然と美味しくなる。
 その間、組み立て途中のISを見に行くかな。
 1時間でもいいから、自分の目で確かめたいし。

『ようやく、今年も終わりか…。』
 思えば、一夏のIS学園入学から、亡国企業の襲撃等いろいろありすぎた1年だった。
 総括すると、不愉快な事の方が多い。
 天才科学者である一夏を道具の様に利用し、国益を得ていった、溝鼠よりはるかに劣る各国の政治屋。
 卑劣な手段で一夏を生死の淵に立たせた、亡国企業。
 どちらも、許し難い存在である。
 許されるのであれば、政治屋は纏めて半殺しにしてやりたいし、亡国企業は全容が解明したら、自らの手であらゆる痕跡を残さず、この世から消し去ってやりたい。
 少しずつだが、亡国企業の全容解明も進み、ゴーレムの解析の結果、無効化する手段も実用化された。
 一夏の専用機白式は、束の最新作である黒鍵と並ぶ、只2機の第5世代IS。
 さらに、学園の国家代表とその候補計8人に、一夏、箒、玲子。
 世の暗部を処理してきた更識家に仕える、本音と虚。
 加えて、千冬を筆頭とする7人の教官。
 計20人の専用機持ち。
 白式、紅椿、舞桜は、束が自ら設計した、ハイスペックなワンオフ機で、白式は形態移行と一夏の改修により、当初とは比べものにならない高性能機。
 紅椿は、第4世代ISの特徴である、展開装甲を全身に実装した初めてのISで、第二形態になり性能は、格段に上がっている。
 舞桜は、千冬が現役時使用していたIS暮桜の後継機であり、基本スペックを極限まで高められている。
 さらに、ケイシーのケルベロス、フォルテのエインガナ、本音の不知火、虚の雪風、シャルロットのイリュジオンは、一夏が自ら設計・開発した、第3世代屈指のハイスペック機であり、IS先進国が第3世代ISの試験段階にも関わらず、すでに実用段階に達している。
 他の専用機持ちのISも、一夏が改修した結果、第3世代としては異常ともいえるハイスペック機になっている。
 武装教官用に5機が開発された、第3世代IS陽炎は、基本スペックは初期第4世代クラスのハイスペック機。
 そして、前モンド・グロッソのヘンリエッテの専用機ゲイルスクゲルと、千冬の舞桜は、一夏が改修しさらに性能が向上している。
 初代ブリュンヒルデと、前ブリュンヒルデ。
 さらに、元代表候補に国家代表、軍の特殊部隊員で武装教官の精鋭は構成されている。
 専用機持ちの生徒たちは、一夏を中心として厳しい訓練を積み、技術は格段に向上している。

 ゴーレムシリーズは、今やただの不燃ごみでしかない。
 だが、千冬は警戒を緩める気はなかった。
 一夏も同じだろう、古巣である習志野の特殊作戦群で再び訓練を受け、愛刀湯殿国親が打たれた湯殿山で、厳しい鍛錬を積んでいた。
 習志野の成田と連絡を取り合った千冬は、一夏の戦闘技術がさらに研ぎ澄まされたことを聞かされ、束が開発した黒鍵を駆る専任パイロットも、白式の性能を抑えたにも拘らず、一夏の敵ではなかったと聞いていた。
 予想以上に、一夏は成長している。
 が、嘗ての誘拐事件が、トラウマになっており、どうしても安心はできなかった。
 さらに、来年からは、入学予定の専用機持ち4人が、当初より3カ月早くIS学園に来て、一夏が訓練を指導することが、決まっている。
 新入生が狙われることは、自明の理。
 事実上、一夏は重りを付けられたまま戦う事を、余儀なくされる。
「心配のしすぎか。」
 国際社会でも微妙な立場であり、亡国企業の最重要ターゲットとして狙われているが、黙って囚われることを、周囲はよしとしないだろう。
 学園では、すっかり憧れの的になっているのが、一夏である。
 もっとも、それに気づかない唐変木なのが一夏なのだが、女子の恋心を刺激し、本音を除く、1年の専用機持ち全員と、楯無に強い恋心を抱かれている。
 かすり傷一つでもつけようものなら、ゴーレムシリーズは残骸が残るかどうかすら怪しいし、特殊訓練を受けた兵士でも、そろって病院送りだろう。
 一夏に恋心を抱いていない専用機持ち達も、一夏を黙って渡す気は毛頭ない。
 IS学園最強である生徒会長として、皆を守る為に、日々、厳しい鍛錬を積んでいる一夏の姿を知らない者は、学園にはいない。
 上級生にとっては、一夏は可愛い後輩であり、ISについて講義する教師たちにとっても、誇らしい教え子。
 知らず知らずのうちに、一夏は人望を得ている。
 後は、自分がしっかりするだけ。
 千冬は、そう言い聞かせた。
 一夏が成人するまで、4年。
 その頃には、間違いなく自分を超えるIS操縦者になり、自分の道を歩めるようになっているだろう。
 それまで、何としても、一夏と、何物にも代えがたい今の幸福な暮らしを守って見せる。
 千冬は誓いを新たにし、対応策の立案に入った。

 よしよし、順調だな。
 組み立ての経過をチェックしたが、問題はない。
 来年中には、十分に完成する。
 束さんから、ラボの拡張部分が送られてきて、開発はだいぶ楽になった。
 組み立てラインがかなり広くなったし、サーバーの性能も向上しているので、シミュレーションもさらに高度にできる。
 メインフレームは、6割方組みあがった。
 武装も、今日中には完成するな。
 組みあがった部分から個別にテストして、手を入れる部分は手を入れて、最終的な組み立てに入る。
 後は、調整をして終わりだ。
 設計自体は、前からしていたので、チェックを終えて、すぐに開発に入れたのがよかったな。
 来年で、一気にロールアウトできるな。
 これも、今まで色んな経験を積んできたからか。
 大事だよな。経験は。
 そして、これを、色々な分野で、世の中の役に立てられたらいいな。

 そんな事を思いながら作業をしてると、携帯が鳴る。
 ちなみに、俺はプライベート用と仕事用の2つを持っている。
 仕事用は、芝崎製だが、プライベート用な神無月グループの傘下企業の製品だ。
 冬菊か。何だろう?
「もしもし。」
「あ、一夏さん。今日、お時間おありでしょうか。」
 時間か。
 こっちは思ったより順調だし、年越し蕎麦はすぐに作れる。
 おせち料理を作る時間をうまくキープする必要があるが、何とかなるか。
「おせち料理を作るから、それなりに時間をキープしなくちゃならないけど、大丈夫だぞ。何だ?」
「あの。会っていただきたい人がいるんです。あ、私の友人の方です。駄目でしょうか?」
 冬菊の友達か。
 なら、大丈夫かな。
「ああ。いいぞ。その人って、女性か?」
「はい。それが何か?」
「いや。お茶菓子の一つも作っていければいいけど、時間ないから。せめて花束でもと思ってさ。」
「一夏さんらしいですね。メールで地図を送りますので。それでは。」
「ああ。すぐ行く。」
 誰だろう?
 考えてみれば、冬菊の友達に会った記憶ないんだよな。
 冬菊は、蘭が通っている聖マリアンヌ女学園と並ぶ超お嬢様学校、聖ウルスラ女学院高等部。
 俺みたいな庶民とは、別世界の学校だ。
 ただ、卒業生の人には、何人か知り合いがいる。
 財界の令嬢には、卒業生が少なからずいるからな。
 まあ。いい。
 とりあえず、仕度しよう。
 あ、そうだ。
 久しぶりに、あれやるか。
 ここんとこ、やってなかったけど。

途中の花屋で花束を買って、再び俺は車を走らせる。
 どういう人か解らないので、親愛の情や幸せになって欲しいという意味の花言葉を持つ花で花束を作ってもらった。
 勿論、見た目も重視しながらだ。
 これでも華人なので、花言葉は一通り頭に入っている。
 世の中、何が役に立つのか。本当に解らないな。
 それと、もう一つ。
 喜んでくれると、いいけどな。

 飛鳥。
 という事は、飛鳥商事の創立者のお嬢さんか。
 今日、会う人は。
 会長と、イギリスに留学している息子さんとは、仕事を通じて、面識がある。
 貿易や通信が主力の企業だが、他には航空機や船舶関係も手掛けている企業だ。
 車のエンジンを止めると、使用人の人が恭しく俺を出迎える。
「申し訳ありません。私の我儘を聞いてくださって。」
「いいって。それなりに時間はあったしな。じゃあ、俺に会いたいって人に会わせて貰おうかな。あ、そうだ。」
 俺は、使用人の人にある荷物を持ってもらって、耳打ちする。
 冬菊が、首を傾げている。
 さて、役に立つかな?

「これは、会長。今月初めの会食以来ですね。お元気そうで何よりです。」
「織斑顧問も、ご壮健そうで何よりです。こちらへ。」
 それにしても、やっぱり豪華だよな。
 セレブは違うわ。
 やっぱり。
 別に貧乏という気はないけど、何か差を認識する。
 もう慣れたけどな。

 そこには、小柄な女の子がいた。
 この人か。
「ご紹介させていただきます。私の大切なお友達の、飛鳥菫さんです。」
「初めまして。織斑一夏です。」
 冬菊が菫さんを紹介したので、俺も自己紹介をする。
 今日は、やや薄めの紺のジャケット。
 相変わらず、フォーマルよりだが、カジュアルとしても十分に使えるデザインなので、買った。
 それに、リボンタイを組み合わせている。
 シャツの袖には、千冬姉のクリスマスプレゼント、タンザナイトのカフスボタンを付けている。

「あの…、お傍に行って、もっとよくお顔を見せていただいても、よろしいですか…?」
 おずおずとした口調で、菫さんが俺に聞いてくる。
 自由だと思うが、どうしたんだ?
「ええ。構いませんよ。」
「で、では…。」
 ゆっくりと歩いて、俺の傍に来る。
「し、失礼いたします…。」
 小さな手が、そっと、俺の顔に触れようとする。
 なんか、ますます解らん。
 あ、俺の方が、背が高いから届かないか。
 届くようにかがむ。
 おまけに、菫さんのおふくろさん。
 つまり、飛鳥会長夫人が、涙ぐんでいる。
「やっと、お会いできた…。私の目に光をくださって、自由に歩ける足をくださった織斑さんに、やっと…。」
 大きくて、綺麗な瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「菫さんは生まれつき、目が見えなくて、歩くこともできなかったんです。」
 そういう事か…。
 俺が開発した、人工神経で目が見えるようになって、歩けるようになったのか…。
 俺がやった事が、誰かの役に立っていたのか。
 嬉しいな。こういうの…。
 でも…。

「俺は、同じ笑顔でも、涙の無い笑顔の方が好きなんです。その方が、綺麗ですから。」
 ハンカチで、そっと菫さんの涙を拭う。
「はい…。」
 うん。やっぱり涙の無い笑顔の方が、綺麗だな。
 で、頬が赤く染まっている。
 ううん、風邪が流行ってるなあ。
 俺も気をつけよう。
「それから。これを…。」
 俺は、持ってきた花束を渡す。
「綺麗…。」
 気に入ってもらえたか。良かったよ。
「本当にありがとうございます。母親として、何度お礼を申し上げればいいのか、解りません。」
 菫さんのおふくろさんが、深々と頭を下げる。

「どうか、お顔をお上げください。お礼を言いたいのは、むしろ、私の方です。私が手掛けた物が、誰かの役に立っている。それが、どれほど嬉しいか…。努力した甲斐が、あったという物です。」
 機械だと体が拒絶反応を起こす可能性がある、生体組織に近くても、大丈夫だという保証はない。
 心臓手術の時に使う人工弁を例にすると、牛の心膜で作った人工弁は拒絶反応が少ない代わりに、機械のより耐久性の面で劣る
 そうならないように、特殊な組織を開発して周囲をコーティングしたけど、とにかく苦労した。
 けど、本当に嬉しい…。
 努力した甲斐が、あったんだから…。

「頑張ったんだな。リハビリ。」
「はい。会って、ちゃんとお礼を言いたかったんです…。それで、歩けるようになって。今日、冬菊さんに、お願いして来ていただいたんです。」
 昔の俺を思い出すな。
 亡国企業に誘拐されて、2か月後。
 意識が戻ってから、俺は必死にリハビリをした。
 一日でも早く、鍛錬を始められる体になる為に。
 目的は違うけど、必死にリハビリをしたという点では、共通している。
 とにかく、大変だったな。体が、うまくいう事を、きいてくれなかった。

「華道の師範なんですか?」
 花束の話題になって、俺が華道の師範の免状を授かったことを話したら、菫は凄くびっくりしていた。
「それだけじゃないんですよ。茶道の師範でもあるんですから。一夏さんは。」
「あの他には、何か…。」
「書道、舞、日本舞踊に、能楽。それから、楽器をそれなりに。」
 楽器を弾く機会、最近なかったよな。
 箒と鈴は誰にも言ってないみたいだから、学園じゃ、誰も知らないわけか。
「楽器を、弾かれるんですか?」
「ちょっと、待っててな。」
 役に立つかな?
 俺は使用人の人に預かって貰っていた物を、持ってきていた。

「お前ら、もう帰っていたのか?」
 玄関のチャイムが鳴ったので、千冬が出てみると、そこにはセシリア達がいた。
「一夏さんは、どこかにお出かけですか?」
「ああ。神無月家のお嬢さんに頼まれて、人に会いに行っている。もうしばらくしたら、帰ってくるだろう。どこかの喫茶店で、時間を潰してくるか?」
「一夏め…。せっかく、来たというのに。」
 箒の肩が、小刻みに震える。
「篠ノ之と鳳は、おおかた、一夏の年越し蕎麦目当てか?」
 セシリア達の中で、一夏の料理の腕前を良く知っているのは、箒と鈴である。
「一夏君。お蕎麦打つんですか?」
 まさか、蕎麦まで打つとは思わなかった楯無が、確認する。
「ああ。年越し蕎麦とおせちは、あいつのお手製だ。そこらの店より、遥かに美味い。残念だが、今年は私と一夏の分だけだ。」
「「「「「「「「そんなあ…。」」」」」」」」
 箒と鈴にとっては、久方ぶりの一夏お手製の年越し蕎麦。
 他の面々にとっては、初めての一夏の年越し蕎麦。
 全員が、落胆の表情を見せる。
「ところで、誰に会いに行ったか、知りませんか?」
「そこまではな。ただ、バイオリンを持っていったな。」

「「「「「「バイオリン!?」」」」」」
 箒と鈴を除いて、一夏がバイオリンを弾けることを知っている人間は、千冬だけである。
「何しろ、私以外の人間の前で、弾く時間も機会も無かったからな。知らんのも無理はない。作った曲のストックも、結構多いぞ。あいつのバイオリンは、中々でな。聞くと寝つきが良くなるし、良く眠れる。ああ。他にも鍵盤系は、ほとんど弾くし、ギターの類も弾くな。我が弟ながら、多才な奴だよ。」
 千冬の話を聞くたびに、箒と鈴以外の感じが異様な物になっていく。

「とても素敵な曲でしたわ。」
「それは、良かった。」
 千冬姉以外の人の前で弾くのは、相当に久しぶりだな。
 家では、偶に千冬姉が寝る前に聞きたがるので、弾いている。
 睡眠薬か?
「それと、もしよければ。」
 俺の作った曲は結構ストックがあるが、譜面にするのは初めてだな。
 人前で弾いたりする気は、あまりないからな。
「私に…、くださるんですか…?」
 凄く驚いたような表情で、菫が訊いてくる。
「その為に、持ってきた。」
 Gaudium est venirem ad vos.
 ラテン語で、貴方に幸せが訪れますように。という意味の曲だ。
 誰かの幸せを願う感じの曲はどんなのだろうと、ふと考えた時に浮かんだフレーズを基に作った曲。
 意図したつもりはないが、目が見えるようになって、歩けるようになった菫に、ぴったりだと思う。
「ありがとうございます…。大切にします…。」
 譜面を大切に抱きしめて、菫がお礼を言ってくる。
「そう言ってくれると、嬉しいよ。それと、できれば涙なしの笑顔でいてくれると、俺はもっと嬉しいよ。」
 人間は、嬉しくても涙が出る。
 それは、理解している
 でも、女性は涙の無い笑顔の方が、綺麗だと思う。
 少なくとも、俺は。

「本当に、何とお礼を言えばいいのか…。贈り物まで用意して下さって。ありがとうございます。」
 あれから、お茶会になり、いろいろ話しているうちに、帰る時間になったので、俺は帰る事にした。
 ご両親は、すごく嬉しかったみたいだ。
 これだけ喜んでくれると嬉しいけど、何か、照れくさいな。
「いえ。喜んでいただけて、私も幸いです。菫さんには、よろしくお伝えください。では、これで。」
 俺は、一礼して、車に乗って家に帰った。

「ビジネスの場では、解らない事は本当に多いな。噂には聞いていたが。」
「16歳とは思えませんわね。とても素敵な方でしたわ。一度、ゆっくりお話がしたいですね。泊まっていただいて。」
「そうだな。そうするか。」
 一夏が技術者としてもビジネスマンとしても優れているのは、理解していた。
そして、非常に好感のもてる、謙虚で優しい人間だと知り、夫婦はすっかり、
一夏を気に入っていた。

「ただいま。千冬姉。おせち作り、再開するな。それと、蕎麦は何時がいい…?」
 何だ?この、物凄く冷たくて、恐ろしくて、どす黒い“気”は…?
 奥の方から、漂ってくる。
 あれ、何で蕎麦の実がまた来てるんだ?
 こんなに、頼んだ記憶ないぞ?
 あれ、冷蔵庫に大量の海老が?
 うちは1人につき3尾だから、俺と千冬姉で、6尾で足りる。
 でも、30尾に増えてる。
 つまり、10人分だ。
 8人増えたのか。
 ひょっとして、その8人が、この“気”の発生源?
 と、とにかく行ってみよう…。

「ただいま。千冬姉。」
「お帰り。お前に客だ。この“気”をとっとと鎮めろ。こんな空気では、美味い年越し蕎麦は食えん。役に立ちそうだから、海老と蕎麦の実を注文しておいた。小麦粉と卵もな。」
 千冬姉だったか。

「「「「「「お帰り…、一夏…。」」」」」」
「お帰りなさいませ…。大急ぎでイギリスから、戻ってきましたのよ…。」
「待ってたわよ…。一夏君…。」
 セシリア…、シャルロット…、ラウラ…、箒…、鈴…、玲子…、簪…。
 それに楯無さんか…。
 この気の、発生源は…。
 てか、どうして…?
「一夏さん…。バイオリンを、お弾きになるんですね…。知りませんでしたわ…。」
 落ち着け。セシリア。
 弾く機会も、時間も、無かっただろうが…。
 とにかく、H&K HK21Eから手を離せ。
 怖い!
「一夏…。一夏のバイオリンて、素敵なんだってね…。良く眠れるほどに…。どうして、今まで教えてくれなかったの…?」
 だから、言う機会なかっただろう…。
 ミニミを置け。落ち着いて話し合おう…。
 話し合いは、大事だぞ…。
「一夏…。お前は、どうしていつもそうなのだ…?もう今年も終わるのに、まだ自覚がないのか…?そうか…。」
 げ!グロスフス MG42!
 ヒトラーの電気鋸!!
 何故だ!?
 お前だって…、人間じゃねえか!!
ラウラ!!
「ねえ…、一夏…。どうして、千冬さんと2人分しか、年越し蕎麦がないのかしら…。私が、一夏の年越し蕎麦を、毎年楽しみにしてたのは、覚えてるはずよね…?そこを、教えてほしいんだけど…。」
 80式7.62mm汎用機関銃…。
 あの弾倉の大きさから、200発入り…。
 頼む。やめろ。
 家が壊れる!!
「一夏…。他の、女の匂いがするぞ…。お前は、どうして、いつも他の女の元に、いつもふらふらと…。」
 箒!緋宵を矢鱈に抜刀するな。
 目茶目茶怖い!!
 明動陽が泣くぞ!
 こういう事をするための刀じゃ、ないだろうが!
「どうして、一夏は、そうなのかしらね〜?どうせ、また女の子落としてきたんでしょ〜?どうしようかしらね〜?」
 んな事してねえっつーの!!
 どうして、思考がそういくんだよ!?
 FN MAGなんか、人に向けるな。
 しかも、何だ!?
 そのとんでもなく長い、ベルトリンクは!?
 専用機持ちになってから、完全におかしくなったぞ!!
 巴御前に、そんなワンオフも特殊兵装も無い。
 何が、どうなってるんだ!?
「一夏…。結局、そうなっちゃうんだね…。もうこの世では、私に望みはないんだね…。やっぱり、あの世で…。」
 いつの間に、白装束に着替えたんだ?簪。
 じゃなくて、あの世って、どういうことだよ!?
 俺は、まだ死ぬ気はないぞ!
 ていうか、どうしてそうやって、ヤンデレになるんだ?
 ス○ールデ○ズの、見すぎか!?
 とにかく、やめろ!!
「いちかく〜ん。お姉さんはね〜。今の一夏君は、どうかな〜って思うんだ?でね。いろいろ考えてるのよ〜。さし当たっては、殺さない程度にして、その後。うふふふふ。」
 TsKIB RG−6。
 6連装40mmグレネードランチャー…。
 って、何つう物、持ってきてるんですか!?
 冗談抜きで、家が全壊しますよ!!
 どうせ、スペアのグレネードも持ってきてるんでしょ!!
 つうか、誰か何とかしてくれ!!

「その辺にしておけ。さすがに、家を壊されるわけにはいかん。」
 千冬姉の鶴の一声で、皆はさすがに、破壊行為をする気にはなれなかったようだ。
 命拾いしたぜ…。
「さて。これを鎮めるには、一夏。お前の手打ち蕎麦が、必要だ。8人分打ってこい。無論、天ぷらも忘れるなよ。」
 俺はいつから、立ち食い蕎麦屋のオッサンになったんだよ…。
 けど、俺に拒否権はない。
 拒否したら、何が起きるか、手に取るように解る。
 口にしたくもないので、口にしない。
 さて、蕎麦の準備をするか…。
 天ぷら30個は、キツイけど…。

「ふむ。お前の年越し蕎麦は絶品だな。」
 千冬姉が、満足そうに蕎麦をすする。
「本当。いい香りですわ。」
 そりゃ、よかったな。
 セシリアがご機嫌で、蕎麦を堪能する。
「学園のお蕎麦も美味しいけど、一夏のには勝てないね。」
 ありがとう。シャルロット。
 これで、ああいうことしなければ、もっと嬉しかったがな。
「さすがは、私の嫁だ。」
 だから違うって。
 それと、MG42は廃棄しておけ。
 怖いから。
「誰が、お前の嫁だ。だが、本当に美味い。」
 そう言えば、箒はかれこれ7年ぶりか。
 昔も、美味そうに食べたっけな。
 あの時は、日本刀を振り回したりしなかったなあ…。
「うんうん。これよこれよ。やっぱり、1年の締めくくりはこうじゃないと。」
 中国人なんだから、中国風の年越しをしろよ鈴。
 何かあるたびに機関銃を向けられちゃ、堪らん。
「天ぷらおいしい。上手に揚げるの、凄く難しいのに。」
 玲子が、天ぷらを幸せそうな表情で食べる。
 それは嬉しい。
 が、俺は、FN MAGを向けられなければ、もっと嬉しいよ。
「実家でも、こんなに美味しい天ぷらは、食べたことがない。」
 ヤンデレから、普通に戻ったか簪。
 頼むから、あれは勘弁してくれ。
 無茶苦茶、怖い。
「本当に美味しいわ。一夏君、将来はいろいろ店を開けるわね。パティシエやってもいいし、蕎麦屋も天ぷらのお店もいけるし。」
 舌鼓を打ちながら、楯無さんが、蕎麦と天ぷらを満足そうに食べる。
 俺は、普通の人生でいいです。
 機関銃やらグレネードランチャーが向けられる人生は、嫌です。
 やっぱ、ごく普通のサラリーマンがいいかな。
 でも、ISと無縁の人生は無理だもんなあ…。

 食べ終わったころに、除夜の鐘が鳴り始めた。
 後で、初日の出を見に行ってから、近くの神社に初詣。
 来年は、平穏に年が過ごせますように。

 何か、無理っぽい気がするけど…。

後書き
大変だった、一夏の1年がようやく終わります。
鍛錬を終えた一夏は、主夫になって、年越し蕎麦とおせちづくりに大忙し。
やっぱり、年越し蕎麦がないと、日本人は年は越せません!
海老の天ぷらがあると、尚、よろしい。
そして、一夏の努力の結果、目に光が灯り、歩けるようになった菫とのエピソード。
一夏の努力が、誰かを幸せにしたという事が形になってわかる事を織り込んだ話は、前から書く予定でした。
有史以来、多くの発明が為されました。
結果、生活は便利になりましたが、そればかりではありません。
役に立つ物を作りたいと願う一夏の根底には、ISが恐ろしい破壊兵器だという一夏の自覚があるのでしょう。
だからこそ、世の為、人の為になる物を作りたいと、思っているのでしょうね。
しかし、どういうわけだか、嫉妬で7.62mm口径の軽機関銃やらグレネードランチャーを突きつけられ、8人分の蕎麦と天ぷらを作る事に。
身から出た錆ではありますが。
年が明けても、こうなのでしょうなあ。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
楽しく読ませていただきました。
今回は、少し安心する話でしたね。
国や企業の汚い手口に翻弄されたきた一夏も、年末には、自分の開発したもので希望を持てた人と会えて、心に安らぎを得た様子。
しかし、その後・・・、マジで怖いです(恐)。
いい加減気付かないと、一夏、死ぬんじゃないかと思います。
専用機持ち達も、心に余裕の一つも持てば、アピールしやすくなるし、好感度も上げやすいと思うんですけどねぇ・・・。
話が進む度に、全員、ヤンデレが激しくなっているような・・・。
一夏って、気になる女子とかいないんですかね?
普通、あれだけの美少女に囲まれていれば、特別な感情を持つ人が現れてもおかしくないと思いますが、唐変木とは関係ないところで、一夏は恋愛関係に疎いみたいです(呆)。
余談ですが、自分の作品、最近更新が途絶えてすみません。
中々アイデアが浮かばず、かと言って中途半端な作品を出すわけにもいかずという、ジレンマに陥っています。
七月までには仕上げて出したいと考えておりますので、暫しのお待ちいただければ幸いです。
探偵
2013/06/23 00:05
更新お疲れ様です。いつも楽しく読ませていただいております。
ただ、気になる点が一つ。

政治家をあまりにも汚く描きすぎていませんか?
自国の利益を優先するのが政治家というものです。
それに、一夏がISの開発や亡国企業との戦いに専念できるのも有名無名の政治家たち、そして公安関係者が自らの手を汚しているからこそではないでしょうか。「お前一人で動かせるほど世界は甘くはないし単純ではない!」と一夏に釘をさす人物がいればよいのですが…

少し辛口のコメントになってしまってすみませんでした。
お気に召さなければスルーしてくださって構いません。
名無しのコメンター
2013/06/23 14:08
探偵さん。
コメントありがとうございます。

>国や企業の汚い手口に翻弄されたきた一夏
>も、年末には、自分の開発したもので希望
>を持てた人と会えて、心に安らぎを得た様
>子。
 自分の努力の成果が形になると、やはり嬉
 しいですからね。
 一夏にとっての最大の報酬は、自分の手掛
 けた物が誰かを幸せにしたり、希望を与え
 たりすることですから。

>しかし、その後・・・、マジで怖いです
>(恐)。
>いい加減気付かないと、一夏、死ぬんじゃ
>ないかと思います。
 どうしても、一夏が恋愛面で人並みになる
 というのが、考えづらいんですよね。
 一夏は、IS関連や技術面で、才能がある
 分。恋愛面で凄まじい鈍感になっている可
 能性もありそうです。
 でも、今のままじゃあ、昼メロみたいな展
 開が待っていそうですね。
 一夏、いい加減に気づけ。

 小説のアイデアは、出ないときって、本当
 に出ないですよね。
 自分も経験があります。
 焦らず、リラックスして書かれるのがよろ
 しいかと思います。
CIC担当
2013/06/23 19:24
名無しのコメンターさん。
コメントありがとうございます。

>政治家をあまりにも汚く描きすぎていませ
>んか?自国の利益を優先するのが政治家と
>いうものです。
 そうですね。
 政治家の最大の義務は、国益を確保する事
 と言っても、私は過言ではないと思います。
 しかしながら、何をやってもいいというわ
 けではないと考えます。
 歴史を紐解けば、自分たちの中で超えては
 いけないラインを設けないで、国益を追求
 し、戦争が起きた例は枚挙に暇がありませ
 ん。
 欧州は、外交面を中心に見てみると、呆れ
 てものが言えなくなりますからね。
 それ故に、私個人は政治家にいい印象を抱
 けないんですよ。
 現在ですら、各国は超えてはいけないライ
 ンを設けているとは到底言えないと思いま
 すし、その役割を追う国連ですら、大国の
 エゴに、振り回されっぱなしですから。

>「お前一人で動かせるほど世界は甘くはな
>いし単純ではない!」と一夏に釘をさす人
>物がいればよいのですが…
 一夏は、生徒会長の責務を果たして学園を
 守りつつも、自らを高めることを第一に考
 えていて、世界云々というのは、考えてい
 ないですよ。
 さらに、亡国企業対策で奔走する一夏です
 が、本来なら大人の役目です。
 現在の状況自体、本末転倒の極みと考えま
 す。
 まるで、少年兵に見えますので。
 それに、国際社会が一夏たちに便宜を図っ
 ているのも、あくまで大人たちの都合です
 しね。

 以上の理由で、政治家達を意図的に悪役に
 しているわけです。
 学生の本分は、やはり勉強。
 テロ組織や犯罪組織への対策では、ないと
 いうのが、私の考えです。
CIC担当
2013/06/23 20:04

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