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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第44話 人知らざる、神の意思

<<   作成日時 : 2013/03/30 22:40   >>

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 やっぱりだ。
 何度シミュレートしても、結果は同じ。
 何てことだ…。
 よりにもよって、この大変な時期に。
 俺は、白式に関する、シミュレートをしていた。
 だが、結果は全て同じ。
 そう…、同じだった…。

「くそ、だめだ。全然、歯が立たねえ…。」
「反則だぞ。それ。」
「使わなくても、まるで駄目だけど…。」
 ケイシー、サファイア、楯無が、朝の訓練での一夏との模擬戦を終えて、仰向けになり、スポーツドリンクを喉に流し込んでいる。
 世界唯一の、第5世代ISとなった白式は、基本性能が異常に向上した為に、プラント装甲を使用しなくても、一夏ならば、楯無たちに勝つことは、造作もない事だった。
 運動性や機動性だけでなく、パワーも向上した白式は、恐ろしく操縦性の悪いISになっていたが、一夏は自分の手足のように使いこなす。
 以前でも、まるで適わなかったのだから、今では、勝つ可能性そのものが見えなくなっていた。
 尤も、一夏はあえて力を抑えている。
 以前ならば、ある程度スペックアップになれたら、PICとパワーアシストの機能を大幅に制限するが、今は厳禁されているので、力を抑えることで代わりにしている。
 ただ、それ以外にも理由はある。
 しかし、それを、生徒の中で知る者はいなかった。

「抑えてますね、相当に。」
「無理もない。今の織斑ではああでもしないと、どうにかなってしまうだろう。」
 鍛錬の後継を、オペレーティングルームのモニターで見ていた、真耶と千冬は、複雑な表情になる。
 二人は、アメリカから帰国した一夏と、特別区画で話した時に遡る。

「織斑君。アメリカでの事、ご苦労様でした。大変でしたね。」
「ああ。ゴーレムの事ですか。さほどでもありませんでしたよ。第四形態移行には、驚きましたけどね。改修もきちんとできましたし。」
 そう言って、大量に捕獲したゴーレムの解析に掛かろうとした時に、千冬が口を開いた。

「一夏。第四形態移行後の白式だがな。」
「うん?どうかしたか。千冬姉。」
 端末を立ち上げて、分析状況に目を通しながら、千冬が何を言うかを、一夏は黙っていた。
 だが、その姿に、千冬は違和感を感じた。
 両親に捨てられ、姉として親として一夏と2人で生きてきたからこそ、千冬はそれを感じることができた。
「全てのデータが、開示されていない。違うか?」
 その瞬間、端末を操作している一夏の手が止まった。
「真耶。例の物を表示させてくれ。」
「はい。織斑君。これを見て。」
 一夏の目に映ったのは、真耶たちが見た詩の様な物だった。
「詩、ですか?」
「調べてみた結果、19世紀のポーランドの詩人、チプリアン・カミユ・ノルヴィッドの詩だということが分かった。心当たりは、あるか?」
 一夏自身、これを見るのは初めてだった。
 白式が送ってきたではないかとも思ったが、ISが詩を送るとも考えられないので、違うという結論を出し、他の可能性を模索した。

「心当たりはありません。そもそも、いつ学園に送られたのですか?」
「織斑君が、アメリカでゴーレムを全て倒した後、送られてきました。」

「残るはただ灰と、嵐のごとく深淵におちゆく混迷のみなるを。永遠の勝利の暁に、灰の底深く燦然たるダイヤモンドの残らんことを。」か…。
 まるで、今の白式だな。
 もはや、恐怖の対象とも見る事すらできる、白式と俺を例えているのだろうか…?
 俺は、守りたいだけで…。
 灰と混迷なんて、残したくないのにな。
 燦然たるダイヤモンド…、本当に残るんだろうか…。
 ひょっとしたら、恐ろしい末路への道を、作ってしまったかもしれない俺に…。

「一夏。何があった…?」
 千冬は、静かに尋ねた。
 その時に見た一夏の表情は、何かに押しつぶされそうな、今までに見たことのない表情だった。
 そして、一夏は黙って端末を操作した。
「これは…。」
「………。」
 そこには、第四形態移行を遂げた白式の全てが、表示されていた。

「これが、第四形態移行後の白式の全て…。自己進化型超高機動兵装ウィング「星龍」。ウィングスラスターそれ自体が、自己進化型…。」
 さすがに、山田先生も顔が真っ青になってるな。
 ウィングスラスター自体が、自己進化型。
 流星や式神が進化しただけじゃなく、今までとは、桁外れの自動追尾機能を持つ、八竜も新たに装備された。
 星龍は、今後、どう進化するか全く見当がつかない。
 フラグメントマップをシミュレートしてみたが、今までとは、全く別物になっていた。
 しかも、別物というのは、今までとは全く意味が違う。
 それを、検証するためにシミュレートプログラムを組んで、様々な点で検証させたが、ある結果しか出なかった。

「単刀直入にいいます。今回の形態移行によって、白式は進化したわけではありません。」
「どういう意味だ。一夏?」
 俺の言った事が、千冬姉は相当に気になったらしい。
「そのままだよ。この話は、この3人以外には、他言無用にしてほしい。白式は突然変異を遂げたんだ。今まで、何度も検証した。これからも検証を重ねる。けど、確実だと、思う。ダーウィニズムの理論じゃ、これを説明するのは、もう無理だよ…。」
 山田先生は呆然とし、千冬姉は表情が厳しくなる。
「フレッド・ホイル。チャンドラ・ウィクラマ・シン。この名前に聞き覚え覚えはありますか?山田先生。」
「いえ…。」
「イギリス、ケンブリッジ大学とカーディフ大学で研究していた人たちです。この2人は、生物の進化に関して非常に興味深い、説を唱えていたんですよ。」
 端末を操作しながら、俺はあるデータを出す。
「何の、データだ?一夏。」
 千冬姉に聞かれて、俺は再び端末を操作する。
「インフルエンザの大流行に、太陽の黒点の大爆発の周期を、重ね合わせたものだよ。俺自身、頭から信じてるわけじゃないが、見事に一致している。とどのつまり、ホイル博士とウィクラマ・シン博士は、インフルエンザウィルスは、宇宙から来たと考えたんだ。一般的な説だと、ウィルスは鳥や家畜の体の中で変化したと、考えられている。これも突然変異と言えなくもないが、俺は、宇宙飛来説の方が、突然変異と見ている。」
「続けろ。一夏。」
 俺の話に紗季があると考えた千冬姉は、先を促す。
「その前だけど、スウェーデンの物理学者スヴェンテ・アレニウス博士は、パンスペルミア説という説を提唱したんだ。生命の起源は、宇宙にあるというのが内容。最初は否定されたけど、ウィクラマ・シン博士が中心になって、地球周辺の宇宙空間に、細胞クラスの生命体が確認された。もし、それらが地球に落ちてきたら、地球の生態系にどんな影響を与えると思う?」
 千冬姉が、考え込む顔になる。
 山田先生は、解ったみたいだな。
「突然変異が、高い確率で起きると思っていい。前置きが長くなったけど、今の白式が、それなんだ。多分、知っているだろうけど、白式には自己進化機能として、天照というワンオフアビリティがある。俺が、白式を第5世代のISにするための改修をした結果、天照が、突然変異を起こした可能性がある。ある程度のシミュレートの結果、その可能性が高いと出た。これからは、それをさらに細かく検証して、確認するけど。結果は、同じ可能性が高い。もし、そうなら、これから白式がどうなるか、見当もつかない。戦闘データの蓄積や、適応に応じての進化じゃなくて、予想もつかない突然変異をする可能性が、高いと思う。白式は俺の大切な相棒で、剣であり、鎧。何より、俺の誓いと願いが具現化したものだと、俺は思っている。白式はISで、とどのつまりはマシーンだけど、俺にとっては、マシーン以上の、とても尊い存在だ。その白式を、こういう風には言いたくない。けど、千冬姉と山田先生には、知っていてもらう必要がある。」
 口にするのは、本当に怖い。
 大切な白式をこういう風にいうのは、物凄く辛い。
 でも…、それでも…、言わないといけない…。

「白式は、手が付けられない、怪物になり始めた可能性が高い…。星龍以外、加速性、機動性、運動性、パワー、火力、防御力。それに関係するデバイス全てが、自己進化を始めている。その結果、白式は突然変異する…。文字通り、怪物に…。」
 そう言った一夏は、今にも壊れてしまいそうなほど、脆く見えた。
 そんな一夏を、千冬は抱きしめる事しか、できなかった。

「辛そうでしたしね。織斑君。それを少しでも紛らわそうと、黛さんのお願いと聞いたんでしょうけど、結局、何も…。」
「ああ…。」
 千冬の顔を、真耶はまともに見ることができなかった。
『中学生のころに、織斑君と共に両親に捨てられて、たった一人で、織斑君を守ってきた。織斑先生にとって、織斑君は、一夏君は全て。だからこそ辛い筈。
一夏君の苦しみも悲しみも、織斑先生にとっては、自分のそれと同様。いえ、それ以上の物。なのに、何の手も、差し伸べてあげることができない…。』
 亡国企業に、誘拐された時。
 卑劣な手段で、戦わされて、一夏が死を覚悟した時。
 どちらも、千冬は、何もすることができなかった。
 そして、今回も千冬が一夏にしてやれることは、何一つない。
 自分と白式という存在。誓いを守ることができないかもしれない。願いは叶わないかもしれない。今までの苦しい鍛錬は、結果として恐ろしい事態を引き起こしてしまうのではないかという、苦悩を抱えている一夏に対して、今の千冬は、何一つしてやれない。
『私とは、環境が違いすぎる。両親や友達に囲まれ、普通の家庭で育った私と、両親に捨てられて、働きながら、大切な弟さんの一夏君を、懸命に守ってきた織斑先生。あまりにも、違いすぎる…。』
 普通の家庭。
 千冬と一夏には、望んでも得られなかった物。
 その中で育った真耶は、千冬が感じている物や辛さを、完全に理解できていないことを痛感していた。
 だからこそ、今の千冬の顔を見ることができなかった…。
 そして、真耶はまだ知らなかった。
 アメリカでの一夏の活躍に、喜びまじりの複雑な表情をしていたが、それは仮面に過ぎず、今も仮面をかぶっている。
 境遇の違い故に、何故、仮面が必要なのかを、実感することができない。
 今は、本当の顔が極僅かに見えてはいるが…。

「授業が始まる。行こう。」
 感情がほとんど籠っていない声で、千冬は真耶に言って、オペレーティングルームを後にする。
『一夏君。何かできることがないか、私も探すから。少しでも、あなたの苦しみを、和らげることができないかどうか。』
 副担任として、自慢の教え子であり誇りでもある一夏の為に、何かできる事はないかを探す。
 真耶はそう誓っていた。

「はあぁぁっ!!」
 授業が終わってから、俺は鍛錬をしていた。
 今日は、ISより武術の鍛錬に重きを置いている。
 今は、剣を終わらせて、槍での鍛錬をしている。
 ISでの戦い方が、剣では二刀流。
 槍を使用している時でも、阿頼耶識と阿摩羅識を使っているので、短槍も使っている。
 今、使っている短槍は、阿摩羅識と同様の、一般的な素槍と形状は同じだ。
長さも、5尺3寸(約1.61m)と長い方じゃない。
しかし、柄は長槍と同じ作りで、穂先も重い。
結果、重量は、5斤10両(約3.38kg)。
 通常の同サイズの短槍と比べれば、はっきり言って重い。
 それでも、鍛錬を重ねれば、片手で使うのは訳もない。
 まあ、俺みたいな槍の使い方をしているのは、槍術の使い手でもほとんどいないだろうな。
 ひたすらに、基礎技術の鍛錬をし、それを発展させた技の鍛錬に移り、そして、剣の時より多く集めた藁束を、両方の槍で両断する。
 これくらいでいいか。

 槍の技量は、前より伸びている。
 白兵戦ようの兵装として、白式は刀と槍を持たせているからな。
 どちらの稽古も、欠かすわけにはいかない。
 休養日は作っているが、軽い鍛錬の日でも、これは絶対に欠かすことができない。
 生身での鍛錬の結果は、IS戦闘にも大きく影響する。
 それに、俺自身の精神を、徹底的に鍛えぬかいないとだめだ。
 今までは、鉄程度だったが、俺が目指すのは、鋼をも大きく凌ぐ強靭な精神。
 そうでないと、今の白式を使えない。
 俺自身が、白式の力に負ける。
 それじゃあ、何の意味もない。
 大切な人たちを守ることも、できない。
 誓いを守ることも、できない。
 だから、俺は千冬姉のメニューの範囲内で、自分を徹底的に鍛えぬく。
 さて、次はIS戦での訓練か。

「はあっ!」
「くっ。」
 ツヴァイシルトで阿頼耶識の一撃を防いだ、ブッフバルト先生は、いったん距離を置いて、小人ビット改め、戦闘デバイス「シグルーン」を展開する。
 どう来る…?
 互いに、シールドの残量はほぼ互角。
 一気に来るか。奇策で出るか。
 どっちだ?
 全身の感覚を研ぎ澄ませて、備える。

「動かないですわね。お互いに。」
「シールド残量は、ほぼ互角。下手な動きが、致命傷になるからだろうね。」
 セシリアとシャルロットが、一夏とヘンリエッテの鍛錬を見ながら、意見交換をする。
「違うな。」
「織斑先生。」
 鈴のすぐそばで、千冬は一夏とヘンリエッテの様子を見る。
「織斑先生。2人とも…。」
「楯無は、理解したか。全員、よく見ておけ。あれは、互いに動かないのではない。互いに動けないのだ。ブッフバルト先生は、私がギリギリのレベルで作成したトレーニングの中でも、日々、技量を増す織斑にどう仕掛けていいのかが、そう簡単に思いつかない。一夏は、ブッフバルト先生の技量の高さを、知っているから、全身の感覚を研ぎ澄ませて、一挙一動に至るまで、掴もうとしている。武術の達人同士の戦いとなると、こういった状況が起きることは、珍しくない。これからどうなるかは、私にもわからん。よく見て、目に焼き付けろ。顛末をな。」

 くそ、互いに動けない。
 ブッフバルト先生も、どうしていいかが解らないか。
 こっちから動くか…。
 リスクは高いけどな…。
 呼吸を整えて、気づかれないように準備を整える。

『一夏。仕掛けるつもりか。それしかないと踏んだのだろうが、それだけではないな…。』
 ここの所の一夏の鍛錬を見て、一夏が何を鍛えようとしているのか、千冬は知っていた。
『整ったようだな…。』
 次の瞬間、一夏は動いた。
 それに、ブッフバルトは素早く反応して、シグルーンを二手に分け、エネルギーカッターでの前衛と、ビームでの後衛に分け、それぞれに攻撃を仕掛けながら、イグニッションブーストで、一夏を仕留めようとする。
 しかし、一夏の動きは予想を上回るスピードであった為に、阿頼耶識と阿摩羅識の連撃で、一気にシールドエネルギーを削られる。

「そこまで。訓練を終了しろ。汗を流したら、夕食を済ませろ。」
 千冬姉の声で訓練が終わったので、俺は白式を待機状態に戻す。
 まだまだだな…。

 夕食を済ませて、俺はある作業をしていた。
 尤も、許可が下りるか、解らないけどな。
 よし、終わりと。
 前からやっていたので、これで完了だ。
 就寝時間まで、2時間半てとこか。
 俺は、イメージトレーニング用のバンドを嵌めて、結跏趺坐の姿勢を取る。
 次の瞬間、俺の意識はイメージトレーニングの世界にいた。

「恐ろしいスピードで、成長していますね。織斑先生の声がなければ、私は負けていたでしょう。正直、今の私でも、かなりきついですね。楯無さんたちでは、もう無理だと思います。」
「いや。今のままで行く。相手のレベルアップは慎重にいかないと、以前と変わらない。医務室の話では、今は、運動性慢性疲労、横紋筋融解症、双方の兆しはさほど心配しなくていいそうだが、それでも、トレーニングは慎重の上にも、慎重を期して欲しいと言われている。それに、一夏が今鍛えようとしているのは、精神面だ。」
「白式の事に、関わりがあるのでは?」
「気づいていたか…。」
「はい。今の白式の性能を考えれば、それに恐れや、それとわずかでも関わりのある感情を抱かない方が、不思議です。自分の心がそれに負けない様に、自分の心を強くしようと、織斑君は必死にもがいているのでしょうね。白式という大きな力を持つが故の、大きな試練。1人で乗り越えようと、しているのでしょう。」
 以前に千冬の許可を得て、共に入浴した時に、何かあったら、自分のところに相談に来るように、言っておいたが、一夏の性格から言って、誰かに相談するという事は、難しいのだろう。
 だが、今の一夏をそのままにしておくのは、あまりに危険が大きいと、ヘンリエッテは見ていた。
 このままでは、一夏は自分自身で自分の心を、粉微塵にしてしまうかもしれない。
 そうなっては、遅い。
「ここの所、夜は就寝時間ギリギリまで、イメージトレーニングをしているみたいです。」
 真耶が心配そうに、ヘンリエッテに話す。
「その件だがな。楯無が、自分に任せてほしいと言ってきた。しばらく様子を見てみるつもりだ。それで駄目なら、我々で、総合的に対応を検討するとしよう。」
 千冬の言葉に、2人は頷いた。

 今日は、ここまでだな。
 イメージトレーニングを終えて、俺はバンドを外した。
 そろそろ、寝る準備をしておくか。
 技術顧問で人付き合いの範囲が広がった関係で、ハーブティーを貰ったんだが、中には精神の緊張を和らげて、眠りやすくする物もある。
 注文先を教えてもらったので、部屋に常備している。
 今の俺には、ありがたい限りだ。

「一夏君。いるかな?」
「あ。はい。」
 楯無さんか。何だろう?
 って、何してるんですか?あなたは。
 ドアを開けると、パジャマ姿の楯無さんがいた。
 まあ、就寝時間前だから、俺もパジャマだが、今の時間帯に来てどうするんだ?

「おいしい。気分が落ち着くわね。」
 俺が淹れたハーブティーを、楯無さんは美味しそうに飲む。
 さて、本題に入るか。
「で、要件は何ですか?もう、就寝時間前ですよ。」
 茶飲み話に、来たわけがない。
 けど、今の俺には、聞いてる余裕ないな…。
 自分の事を支えられるかどうかも、解らない。
 他人の力を借りるというのも、一つの正解だし、その方がいいとも思う。
 けど、これは、俺が自分の力で、乗り越えないといけないんだ。
 白式の、専任操縦者として…。
「私の用事は、就寝時間後なの…。ベッドの中でお話があるから。」
 は…。
 どういう事だ…?
「というより、お説教。もう就寝時間ね。」
 そういうと、いきなりベッドの中に入った。
 いや、意味わかんねえし…。
 とりあえず、寝よう。
 考えるのは、白式とこれからの俺の事だけでいい。

「怖いの?白式と、自分が…。」
 楯無さんの質問に、俺はすぐには答えられなかった。
 結論から言うと、完全にイエスだけど、もし知ったら俺以外の人に、重荷を背負わせかねない。
 それだけは、絶対にさせられない。
 ブッフバルト先生や、ケイシー先輩たちは、何かあったら相談に来いと言ってくれた。
 その気持ちは、すごく嬉しい。
 それでも、こればかりは、駄目だ…。
 今の白式の真の姿を、知るようなことはあっては駄目だ。
 これに関しては、政治面で手を回すことはできる。
 そうする事にしよう。
 そこそこ、対価は必要だけどな。

『やっぱり、答える気はないか…。予想はしていたけど…。』
 白式が第5世代ISになったことは知っているが、その全貌は解っていない。
 改修した一夏自身、口にしようとしないし、千冬も真耶も何も言おうとしない。
 それでも、一夏たちを見ていれば、何かがある事ぐらいは、理解できる。
 まがりなりにも、世の暗部を処理してきた更識家の長である、楯無の名を継承しているのだから、そういった方面の感覚は鋭い。
 そして、一夏の状態も、ある程度は理解できた。
「じゃあ、待つわ。あなたが話す気になるまで。幸い、私はまだ卒業まで時間がある。でもね。これだけは、言っておくわ。」
 楯無の表情が、真剣なものになる。
「ケイシー先輩や、フォルテは怒ってるわよ。「自分たちはそんなに頼りにならないのか。」ってね。」
『そういうのじゃない。背負わせたくないだけだ…。こんな重い物は、背負わせるわけにはいかないんだ。』
 一夏が、シーツを握りしめる。
 それだけで、今の一夏の心情を、楯無は理解した。
『ちょっとというか、かなり強引な手段を、取るしかないわね…。織斑先生の許可がいるけど…。』
 ヘンリエッテ同様、このままでは、一夏は自分を潰してしまう。と考え、楯無は、ある事を考えた。
「今日は、これくらいにしておく。ただ、一つだけ言わせてもらうわ。あなたは、もう少し、誰かを頼りなさい。人は一人では生きていけないし、生きていちゃいけないの。支えあうのが、人のあるべき姿だというのが、私の持論。ケイシー先輩も、サファイアにも、そう伝えてくれって言われたわ。その事を、よく考えて。じゃあ、おやすみなさい。それと、ペナルティね。」
 楯無は、一夏を豊かな胸元に、愛おしげに抱きしめる。

 ちょ、ちょっと、何考えてるんですか?
 こんなとこ見られたら、俺、セシリア達に殺されますよ。
 しばらくすると、布団越しに俺の肩を優しくたたきながら、楯無さんは歌を歌い始めた。
「Спи, младенец мой прекрасный,Баюшки−баю.Тихо смотрит месяц ясныйВ колыбель твою.Стану сказывать я сказки,Песенку спою;Ты ж дремли, закрывши глазки,Баюшки−баю.(おやすみ、私のかわいい赤ちゃん。ねんねん、おころりよ。輝くお月様が、静かに、あなたの揺りかごを覗いているわ。お話をしましょう。お歌を歌いましょう。目を閉じてお眠り。ねんねん、おころりよ。)」
 聞き覚えがあるな。
 確か、コサックの子守唄だっけ?
 中学の時、音楽の授業で聞いた記憶がある。
 あれ、何か、眠気が…。
 後の事は、後の事でという事で、俺は素直に眠ることにした。

『眠ったか。ふふ。可愛い寝顔。皆があなたに、恋をするわけが解るわ。私も、あなたに恋をしているのだから。簪は大事な妹だけど、この点では譲れないわね…。』
 一夏の唇に優しくキスをして、楯無は歌い続けた。
「По камням струится Терек,Плещет мутный вал;Злой чечен ползёт на берег,Точит свой кинжал;Но отец твой старый воин,Закалён в бою:Спи, малютка, будь спокоен,Баюшки−баю.(石に沿ってテレク川が流れて濁った大波が立っているわ。獰悪なチェチェンが岸に這い登り短刀を研いでいるわ。だけどあなたの父さんは古強者。戦いで鍛えているの。おやすみ、ぼうや、ゆったり落ち着いてねんねん、おころりよ。)」

 見回りをしていた千冬は、一夏の部屋の近くで楯無が手招きをするのを見て、部屋に近づく。
「今、一夏君。寝付きました。」
「そうか。すまんな。面倒を掛ける。」
「いえ。後輩の面倒を見るのは、先輩の仕事ですから。それと、一つやってみたいことがあるので、許可を得たいのですが。」
 千冬は楯無の提案を聞いて、少し考える。

「いいだろう。但し、冬期休暇が始まるまでだ。あまり一夏にばかり手をかけていると、依怙贔屓と取られかねん。」
 姉としては、できうる限りのことをしてやりたい。
 だが、千冬には教師としての立場がある。
 どの生徒に対しても、公平でなければならない。
 故に、楯無の提案にも、期限付きにする必要があった。
「ありがとうございます。それと、一夏君の為にできる限りのことを、織斑先生がしたいと思って実行しても、誰も依怙贔屓だなんて、見ませんよ。皆を守ろうと、日々、鍛練を積み、そして、立派にIS学園や、ノーフォークの人達を、守り抜いています。教師としての立場というのは、私なりに理解できますが、取り越し苦労ですよ。では、私は部屋に戻りますので。」
「ああ。頼む。」
「それと、一つ、言い忘れていました。私、一夏君を、先生から奪います。両親も、一夏君に逢いたがっていますから。近日中に、気分転換を兼ねて、連れて行きますので、あしからず。」
 そう言って、楯無は自分の部屋に戻った。

『まったく。お前は、寝顔だけで女を物にするのか?困った奴だ。』
 苦笑しながら、一夏の穏やかな寝顔を見る。
 ほんの僅かだが、心が軽くなった思いがする。
 仮面のない穏やかな表情で、千冬は一夏をしばらく見て、見回りに戻った。
 まだ完全に、仮面は外すことはできなかった。
『天照。日本神話の太陽神…。もし、本当にいるのなら、一体、何を目的としている…?何故、一夏に、このような試練を背負わせる…!!』
 白式のワンオフアビリティの一つ。
 自己進化機能、天照。
 千冬は、見回りをつづけながら、天照を心から呪った…。

後書き
遂に一夏の口から、今の白式について語られます。
兵装や、各種デバイスが自己進化し、その結果、予測不能な突然変異をするISとなった白式。
確かに、怪物と言っても、過言ではないでしょう。
あまりにも、得体が知れなさすぎて、恐怖を抱きながらも乗り越えようとする一夏。
でも、一夏が抱いている恐怖は、己が誓いを守れず、願いもかなわないのではないかという恐怖。
自分が、破壊の化身となるのではないかという恐怖。
何とかしようと、楯無が提案しますが、何でしょうか?
ヒントは、今回の話に混ぜています。
コサックの子守唄を、楯無に歌わせたのは、ガールズ&パンツァーで、ノンナ役の上坂すみれさんの歌を聴いていいなと思ったのもありますが、楯無がロシアの国家代表だという事が、一番の理由です。
ちなみに、パンスペルミア説や、フレッド・ホイル博士の本は実際にありますので、手に入りにくいですが、読んでみるのも面白いかと。

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一度白式の第4形態移行前の装備を詳しく知りたいです(威力はどれくらいかとか)。また今の白式を展開するとどのような姿になるのか気になります。更新頑張って下さい、毎回楽しみに待ってます
ドム
2013/04/02 18:37
ドムさん。
コメントありがとうございます。

>一度白式の第4形態移行前の装備を詳しく知
>りたいです(威力はどれくらいかとか)。
 現在、見にくくなった設定を整理しています。
 できる限り早く、公開するつもりです。

>今の白式を展開するとどのような姿になる
>のか気になります。
 絵心がないので、書きたくても書けません。
 誰か、書いてくれる人、居ませんかね?
CIC担当
2013/04/05 15:56

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