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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第36話 初雪の清みし心に宿る誓い儚くあれど強くありけり

<<   作成日時 : 2013/02/09 20:22   >>

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「機能を6分の1にまで、カットしています。それでも、オルコットさん達は、勝てません。織斑君が成長している証拠でもあるんでしょうが、心配ですね。一度、しっかり、検査を受けた方が、いいのではないでしょうか?」
「そうだな。考えておこう。」
 真耶が懸念しているのは、一夏が自らに課している、厳しい鍛錬により、ある病を発病している可能性だった。
 病名は、運動性慢性疲労。
 過度のトレーニングにより、様々な内臓がダメージを受け、機能不全に陥る病である。
 現在、日本には潜在的な患者が200万人いると、考えられている。
 高みをめざし、厳しい鍛錬を積んでいる一夏が、この病を発病している可能性は、否定できない。
 できうるならば、3日に1日でいいから、軽めのトレーニングにして体を休めてほしいと、思っている。

 ふう。もう、ここまでカットしても大丈夫か。
 今度は7分の1だな。
 千冬姉は、生身でISの武器を扱う事ができる。
 俺もできるが、千冬姉には、及ばない。
 もっと、鍛えないとな。
 そうしないと、俺が守りたいものは、守れないしな。

「織斑一夏。相当に、訓練をしているみたいね。強くなるたびに必死なのね。可愛いったら、ありはしないわ…。」
 亡国企業の実働部隊に所属する、長い赤毛の女は、今まで収集された一夏のデータに目を通しながら、どこか、サディスティックな笑みを浮かべる。
「いいわ。本当に素敵…。プレゼントを上げるわ。あなたにとって、最高のトレーニングの環境を。舞台を整えるための役者は、どうしようかしら…?やっぱり、ヒロインがいいわよねぇ…。さぁ、騎士様は助けられるかしら…?」
 笑みを浮かべながら、ウォッカをベースにしたカクテル。
 16世紀に清教徒を虐殺し、「ブラッディメアリー」と呼ばれた、イングランドの女王、メアリー一世にちなんだ「ブラッディマリー」を呑みながら、別のファイルを開く。

「検査ですか?」
 俺、どっか悪いっけ?
 夜はぐっすり眠れているし。
 目覚めはすっきりだし、飯も、栄養のバランスを考えながら、食ってる。
 問題ないと、思うんだけどなあ。
「あまり自覚がないようですけど、織斑君は普通の人より、遥かに厳しい鍛錬を積んでいます。特に、現在は、ISのパワーアシスト機能とPICの能力を6分の1にまでカットしていますよね?どれだけ、体に、負担がかかると、思っているんですか?自分を鍛えるのはいいですが、限度という物がありますから、一度、きちんと検査を受けてもらいます。いいですね?」
 山田先生が、凄く真面目な表情で、俺に話す。
 これだけ、真面目な表情は初めてだな。
 何か、悪い病気にでもかかっているのかな?
 可能性があるのなら、一度検査を受けた方がいいのかなあ。
「解りました。それで、いつですか?」
「明日、学園の医務室の検査施設を、確保しておきました。」
 IS学園の医務室の検査設備は、非常に高度で、最新鋭のマルチスライスCT、MRI、PETCT等、スタッフを含めて、大学病院を凌ぐ。
 確かに、あそこなら、きちんとした検査が受けられるな。
「結果如何によっては、トレーニングの内容を考え直してもらいます。織斑先生に、医務室と保健室の先生も加わって、体に過剰な負担を掛けないトレーニングメニューを作ってもらい、それに従ってもらいますので、それに従う事。不本意でしょうけど、体を壊してしまっては、強くなることもできないんですから、それをよく考えてくださいね。」
 釘どころか、杭を刺された気分だな。
 そんなに、無茶はしてないと思うんだけどなあ。
 これで無茶なら、千冬姉はどんな訓練してたんだよ。
 それを、教えてほしくなる。

「明日、検査ですの?」
 クリームシチューとホットサンドを食べながら、セシリアが聞いてくる。
「ああ。何でも、俺の訓練が無茶過ぎるらしい。」
 ちなみに俺は、ブリの照り焼き定食。
 寒ブリは、やっぱうまいぜ。
 塩焼きにしても、旨いんだよな。
 今度、千冬姉に作るか。
「でも、真面目な話。一夏は一度、きちんと見てもらった方が良いよ。パワーアシストと、PICを、6分の1にまで能力を落として訓練するのは、如何かと思うよ。」
 ロールキャベツとクロワッサンを食べながら、シャルロットが真面目な表情になる。
「そうか?でも、千冬姉に追いつくには、今でも全然足りないぜ。本当は明日からは、7分の1にまで落とすつもりだったのに。」
「だから、それが駄目なの!3年間、学園にいるんだから、そう焦る必要ないでしょ。今のままでも、一夏は間違いなく、モンド・グロッソでヴァルキリー狙えるんだから。焦らずゆっくり行きなさいって。」
 麻婆豆腐定食を頼んだ鈴も、真剣な表情で俺に自重を求める。
 とは言ってもなあ…。
 どっか、効率的に訓練できるとこないかなあ…。
 習志野にでも、行くかな。
 近くに、ウィークリーマンションあるし。
 うん。そうしよう。

「よくない…。」
 え?
「よくないんですか…?」
 俺は、検査を担当してくれた先生に、恐る恐る質問する。
「というより、悪いに近いわね。まず、リパーゼの値が、あなたの年齢としては明らかに高いわ。それにCPKもよ。過度のトレーニングが、膵臓に少なからぬダメージを与えているのが、一目瞭然よ。CPKの高さに、心臓に関する検査結果を、照らし合わせると、心臓にも、負担が係っている可能性が、否定できない。それに、各部の筋肉も、大分壊れているでしょうね。それに、この血糖値と、糖化ヘモグロビンa1cから見て、明らかに低血糖。食事はきちんと食べているようだけど、トレーニングで失われたエネルギーの補給に追いついていない。結論から言えば、食事もトレーニングも、見直す必要があります。このままだと、まず、膵臓が機能不全を起こして、心臓も何らかの異常が出る。今なら、まだ対処は、十分にできるわ。ひたむきに頑張る性格はいいけど、度が過ぎれば欠点でしかないわ。そのあたりを、先生たちとよく話し合ってください。」
 予想以上に、最悪だ…。
 ようやく、先に進める糸口が見つかったのに…。
「織斑君。気持ちは解ります。でも、自分を大事にしないと元も子もありません。織斑先生ともよく話し合って、練習メニューを決めましょう。ね?」
「はい…。」
 どうにか返事をするのが、俺には、精一杯だった。

「ある程度予想はしていたが、やはりな…。」
 診断書を見て、千冬は確認するように言う。
「織斑。明日は、トレーニングを休め。その間に、私がメニューを考えておく。それに従ってトレーニングをしろ。明後日には、新しい教師も到着する。お前のことをよく話しているから、たっぷり相手をしてもらえ。心配するな。必ず、お前は伸びる。それだけの素質がお前にはあるし、それを伸ばすのが我々の仕事だ。」

 寮に帰ってから、俺はベッドに寝転がる。
 今は、ただ、ぼおっとしていたい…。
 俺のやり方が、間違っていた…。
 なら、どうすればいい…?
 どうすれば、千冬姉に追いつける…?
 立ち止まったままなのか…?
 俺は、ここまでなのか…?
 ぼおっとしたくても、いろんなことが頭の中をよぎる。
 俺は、どうすればいいんだろうか…。
 その時、通信が入る。
 蘭の学園祭の時と同じ、コード249。
 それだけじゃない。
 テキストファイルが、添付されている。
 俺は、それを見て驚いたが、そんな余裕はない。
 コートを着て、すぐに学園を出る。

「私を攫って、どうするつもりですか?お金が目当てですか?」
 艶やかな黒髪を長くした、如何にもお嬢様という感じの少女が、長い赤毛の女を睨みつけるようにして問う。
「あなたは、囮とヒロインの2つの役を演じて貰えればいい。心配しなくても、傷つけるつもりはないわ。それは保証する。私の目的は、あなたを助けに来る、ナイトだけ。」
「どなたが来るかは解りませんが、来ないという事もあり得ますよ。」
「それは無いわね。ナイトは絶対に来る。そう言う性格なの。」

「約束通り来てやったぜ。」
「ほうら。あなたを助けに、ナイトが来たわよ。初めまして、織斑一夏。私はブラッド。よろしくね。そして…。」
 ブラッドが指を鳴らすと、以前に蘭の学園を襲撃したゴーレムが6体降りてくる。
「役者たちよ。というよりは、対戦者かしら。ルールは頭に入れたわね。加勢は禁止。そして、あなたが使えるのは、白兵戦用のブレードのみ。妙なモードらしいのはだめよ。それのみで、ゴーレムを全滅させれば、あなたの勝ち。こちらのお嬢さん。神無月グループのお嬢さん。神無月冬菊さんはお返しするわ。いいわね。
「それしかないんだろ?だったら、受けてやるよ。」
 一夏は雪片のみを展開して、構える。
「ふふ。いい子ね。では、開演よ。」

 学年別対抗戦より、ずっとパワーアップしたゴーレム6体と、生身で戦うのかよ。
 俺は、メロウリンクじゃないんだぜ。
 救いがあるとすれば、今までの鍛錬で、生身でも雪片は使える。
 何とか間合いを詰めれば、勝機もある。
 んじゃ、行くとするか。

「うおおおっ!!」
 一夏が、目の前のゴーレムに斬りかかる。
 ゴーレムは鋭いクローで受け止めようとするが、一夏の太刀筋が変化して、下からゴーレムを斬り上げる。
「へえ。やるわね。」

 明王流昇龍牙。
 唐竹を繰り出し、頃合いを見て太刀筋を変化させて、下から逆風。
唐竹と逆風それぞれを繰り出す際に込めた力を合わせる、技だ。
 雪片は、通常状態でも強力な近接兵装だから、ゴーレムでも只じゃすまない。
 そして、今の俺なら、奴が回避する前に、一撃を与えられる。
 昇龍牙を食らったゴーレムは、一時後退して、今度は左右からゴーレムがレーザーを撃ちまくりながら、突っ込んでくる。
 ISを展開してないから、これを食らったら、ジ・エンドだ。
 軌道を読みながら、回避して、突っ込む。
 待ちの状態で行くと、囲まれて手詰まりになる。
 絶えず動いて、その隙を与えないようにしないと。
 だが、それも織り込み済みだったのか、後方から3体が襲い掛かってくる。
 こうなれば、強行突破して、まず、1体仕留めるしかないな。
 さっきダメージを与えたゴーレムを庇うように、2体のゴーレムが立ちはだかり、俺をクローで切り裂こうとするが、どうにか躱す。
 それでも、左右の二の腕が、少し切り裂かれたが、そんな事に構ってる余裕はない。
 回避するより速く、俺は、平突きでゴーレムに雪片を突き立てる。
 そして、右手で掌底を柄頭に放って、さらに突き立て、右腕だけで右に薙ぐ。
 コアを破壊できたようで、ゴーレムは稼働を停止する。
 平突きの破壊力を更に高めた技。
 明王流剛突刃。
 パワーがいるが、使いこなせれば頼もしい武器になる。
 切り裂かれた二の腕が、痛むが、今はそんなこと気にしてられない。
 後、5体残ってるんだからな。

「凄い…。生身で、ゴーレムを…。」
 一夏からコード249の内容を聞いた、真耶と千冬はオペレーションルームで、一夏の戦いぶりを見ていたが、雪片があるとはいえ、生身でゴーレムを倒したことに、真耶は驚くしかなかった。
「だが、ノーダメージとはいかなかった。ゴーレムもそれなりに思考能力がある。どれだけ、ダメージを減らせるかが、勝敗を分ける。」
 一切の手出しができないので、セシリア達を加勢させることもできない。
 どう考えても、勝機の無い戦いだが、今は一夏だけに任せるしかなかった。
 いつも通りの表情だが、千冬は自分を抑えることに必死だった。
 一夏を誘拐された日が、どうしても重なり、いても立ってもいられなかったのである。

「ぐっ!!」
 ゴーレムに一太刀浴びせたが、こっちもクローで、右肩から胸までを切り裂かれた。
 血が流れ落ち、制服が血に染まる。
 戦いが始まって、どれだけ経ったかは解らないが、一応全部にそれなりにダメージを与えた。
 よし、これで勝機が多少見えてきたな。
 とは言え、二の腕に右肩、胸まで切り裂かれると結構堪えるな。
 呼吸を整えていると、雪が降ってきた。
 初雪か…。
 寒くなってきたが、今は正直ありがたい。
 火照る傷口が冷えて、少し楽になる。
 それじゃあ、行くか。

『あんなに、怪我をして…。』
 囮にされた冬菊は、一夏の戦いを見ていた。
 既に、二の腕と右肩から胸は切り裂かれ、制服の下から素肌が見えて、そこから決して少なくない量の血が流れ続けている。
『私の為に、私が攫われたばかりに…。』
 罪悪感が心を占め、冬菊の瞳から、涙が零れた。

「はあっ!!」
 三叉撃で、2体目を仕留める。
 だが、それが隙になり、1体が俺の背後に回り、クローで背中を斬り裂く。
 さらに、右に回り込まれて、強烈な蹴りを食らって吹き飛ぶ
 やべえな、右の肋骨が2、3本いってる。
 肝臓も、裂けてるかもな。
 無茶苦茶痛え…。
 それに、体が重いし、目も霞んできた。
 背中の傷、思ったより深いな。
 けどな、まだ戦えるぜ。

「右第7〜第10肋骨骨折の可能性、濃厚。肝臓にもダメージが及んでいる可能性があります。このままでは…。」
「解っている…。」
 一夏の状況が解っても、今の千冬たちは無力だった。
 肝臓は、多くの血管があり、手術も難しい臓器である。
 事と次第によっては、既に腹部で出血が始まっている可能性がある。
 人間は、血液の3分の1が失われれば、出血性ショックで死に至る。
 既に、一夏の動きが鈍くなっている。
 これからは、捨て身でいかなければ、ゴーレムは倒せないだろう。
 だが、その時に一夏は生きているだろうか?
 真耶は、不安で押しつぶされそうになり。
 千冬は、自分の無力さを噛みしめていた。

「ぐっ!!」
 残り4体の内の1体を相手にしている時、左右のゴーレムが、俺の太腿を斬り裂く。
 咄嗟に離れたおかげで、大腿動脈まではいかなかったが、これじゃ、嫌でも動きが鈍くなる。
 マズいなこりゃ。
 呼吸も大分乱れ始めてる、何とか整えないと。
 だが、その余裕もなく、4体のゴーレムが、サンドバックを叩くボクサーみたいに、蹴り、殴り、クローで切り裂いて、俺を吹き飛ばす。
「がはっ!がはっ!!」
 息が…、できねえ…。
 折れた肋骨が、肺を圧迫してるのか。
 俺は全身の力を振り絞って、呼吸をして骨をつなげる。
 だが、その時、胸部に物凄い痛みが走る。
 何本か刺さってたか。肺も少し裂けたっぽいな。
 抜け切れないで、2、3本刺さってるな。
 でも、寝てる暇ねえな。
 あの人、助けないと…。

「大したものね。それだけボロボロになっても、あきらめないなんて。」
「ガキの頃から、剣術や武術やってる人間の精神を、舐めんなよ…。己の信念を貫く…。それが強さだって、師匠から散々教え込まれてるんだ…。俺の信念曲げたいんなら、俺を殺すしかねえんだよ…。残り4体。倒してやるから、そこで見物してろ…。」
「ふふ。素敵よ。あなた、本当に素敵。見せて頂戴。やせ我慢を。」
 言ってくれるな…。
 やせ我慢があってるのが、悲しいけどな…。
 立ち上がった俺に、ゴーレムが迫ってくる。
 目の前にいるのは、袈裟斬りをあびせたゴーレムか。
 ヤバイ賭けになるが、これしかねえな。
 もう、万全とは言えないから、1体倒すだけでも、完全にギャンブルだ。
 やるしかねえ。
 さあ、もっと来い…。
 呼吸を整えつつ、俺はタイミングを計る。
 今だ!
 攻撃を避けつつ、上を取り、左手を峰に添えて、斬りつけたと同時に、一気に体重を乗せる。
 そのまま、ゴーレムは真っ二つになった。
 明王流岩崩し。
 落下する勢いに、体重を重ね合わせて、一気に押し切る力任せの剣。
 明王流じゃ珍しい、力任せの技だが、こういう時は都合がいい。
 ダメージを受けたからって、体重が減るわけじゃないからな。
 そこに、ゴーレムのクローが迫るが、目の前のゴーレムの下半身を足場にして、後ろにジャンプして裂ける。
 顔は少し切り裂かれたが、それで済めば恩の字だな。
 だが、残り2体はさすがに無理だった。
 左肩から、胸まで切り裂かれ、さらに強烈な蹴りを喰らい、再び吹っ飛ばされる。

「ふふ。もう、無理でしょうね。でも、よく頑張ったわよ。まさか、半分も倒されるとは、夢にも思わなかったわ。本当に素敵…。心配しないでいいわ。あなたは丁重に扱ってあげる。ベッドの上でも楽しい思いをさせてあげるわ。あなたみたいに、芯の強い子。私の一番の好みだもの…。」
 楽しそうに笑うブラッドだが、やがて、その笑いが止まった。
 深手を負い、立ち上がれないと思った一夏が、再び立ち上がってきたからである。

「馬鹿な…。あなた、不死身だとでも言うの…?」
 ブラッドは驚愕のあまり、頭の中が真っ白になる。

「んなわけねえだろうが…。もう、体中、ズタボロだよ…。」
 俺は、雪片で、必死に体を支える。
 零落白夜を発動しなくても、こいつは近接戦用兵装として、十分に強い。
 だからこそ、ここまで戦えた…。
「でもな…。負けられねえんだよ…。こんな、汚ねえ真似する屑に負けて死んだら…、あの世にいる、俺の師匠に、なんて言い訳すりゃいいんだ…。何よりな…。」
 こみ上げてくる物に耐えきれず、俺は、それを吐き出す。
 咳き込みながら吐いたのは、大量の血だった。
 やっぱ内臓も、ボロボロか…。
 肺に刺さった肋骨が、抜ききれなかったのは辛いな。
 呼吸をするのも、凄え辛い。
 あと、ゴーレムは3体。
 なんとか、仕留めないとな。
 そうすりゃ、こっちの勝ちだ。

「何よりな…。悲しむんだよ…。神無月さんの、両親や、友達や、親しい人が…。お前にとっちゃ、どうでもいいだろうがな…。だが、これだけは言っておくぞ…。」
 咳き込み、再び大量に血を吐き、体中傷だらけになりながらも、戦う一夏を見て、冬菊は涙が止まらなかった。
『もういいです…。もう、あなたは、十分に私の為に戦ってくださいました…。このままでは…。』
 このままでは、あなたが死んでしまいます。
 そう叫びたいが、決して諦めようとしない一夏の視線が、それを止めていた。
『あの人は、たとえ、自分がどんなになっても、私を助けて下さろうとしている…。信じなければ…。私にできるのは、それだけだけど、せめて、それくらいは…。』

「一度死んだ人間は、生き返らないんだよ…!どんなに金積もうが、どんなに神様に祈ろうが…、死ぬ前に戻って、助けるなんて事も出来ないんだ…!そして、残された人たちはな…、その悲しみと共に生きていくんだぞ…!支え合って、生きていくしかないんだ…!それが、どんなことか、お前に解るか!!」
 両親に捨てられた、俺と千冬姉。
 何があっても、俺を守ると約束してくれた千冬姉。
 でも、俺は亡国企業に誘拐されて、モルモットにされて、もう、戻らないと言われた。千冬姉や、箒や、鈴が、どんな気持ちだったのか、今なら、少しだけ解る気がする。
 回復を待つ事しかできない人たちの、気持ち。
 亡国企業を。何より、自分を憎んだ千冬姉。
 少なくとも、神無月さんの周囲の人達には、そんな思いは、味あわせたくない。
「だから、俺は負けない!何があっても、おまえにだけは負けられない!!今まで、鍛錬を続けて、身につけた全部を出して、その人だけは、絶対に助けてみせる!!」
 体に残る全ての力を振り絞って、俺は雪片を構える。
 降り積もる雪は、俺の血で赤く染まっていく。
 遠山の金さんの桜吹雪は散らなかったけど、俺はここで散るかな…。
 ごめんな、千冬姉…。
 ごめんな、皆…。
 でも、俺がどうなっても、こいつにだけは、何があっても、負けられないんだ…。

 ならば、私があなたを守りましょう…。
 この初雪の様に、清んだ心に宿る誓いを力にして、戦うあなたを。
 その為に、私は…。
 
 えっ?何だ?今の声。
 
 声が聞こえた途端、ボロボロだった体が回復していき、服がISス−ツに変わる。
 だが、それだけじゃ、なかった。
 シルバーゴールドの鎧の様な物が、俺の体を包む。

「織斑君がいるポイントに、高エネルギー変性を確認。」
 IS学園で、祈るように一夏の戦いを見守っていた真耶が、千冬に報告する。
「ISの形態移行か?」
「いえ、それとは全く違います。」
『何が起こっているというのだ?』
 今すぐにでも、一夏を助けに行きたい自分を必死に抑えながら、戦いの行方を千冬は見守る。
 すると、ディスプレイに、何かが表示される
 BYAKUSHIKI EMERGENSY GURD SYSTEM
 “HAKURYUU”
 CONSTRUCTION COMPLETION.
 75% RATE SYSTEM CONSTRUCTION.
「白式緊急防衛システム駁竜。それに、システム構築率75%?どういう意味なんですか?」
「解らん。だが、織斑に勝機が見えたようだということは、確かだ。」
 胸をなでおろした表情で、ディスプレイに視線を移す

「何なの…?それは…。」
 もはや、生きているのが不思議なほどの、ダメージを負っていた一夏は、完全に回復し、その瞳には、強い決意と力が漲っている。
 それだけでなく、髪は、腰に届くほど伸び、その面影には確かに千冬のそれがあった。
『この鎧、前に夢の中で俺と会った、あの人のみたいなのか…?』
 第二形態になる前に、夢の中で剣を交えた、鎧をまとった女性騎士。
 一夏は、彼女を思い出していた。
『俺に、力を貸してくれるのか…。感謝しとくぜ。』
「さあな。俺にも解らない。ただ一つだけ、言える。こいつは、ISじゃあない。つまり、ルール違反はしてないぜ。残り3機。それくらいなら、相手にできる。」
 一夏の右手には、刃渡り3尺4寸(約103cm)、柄の長さは1尺4寸(約42cm)、全長4尺8寸(約145cm)の大太刀がある。
「何を言っているのかしら。そんな馬鹿デカい刀を、どうやって使うの!?」
 動揺するブラッドは、それを見せるのを嫌い、虚勢を張る。

「湯殿国親…。」
「誰かしら?」
「俺の愛刀を鍛った、刀匠だよ。刃の重ねが厚くて、身幅も広い。そして切れ味も鋭い。究極の切れ味と頑丈さを、追求した刀なんだがな。普通の刀より、長いし、重いから、当時の武士でも、使いにくかった刀さ。」
 今でも、鮮明に思い出せる。
 その手に持った時に感じた、ずっしりとした重さを。
 目に映った刀の長さに、驚いたことを。
「初めは抜刀して、構えることもできなかったけどな。今じゃ、俺の体の一部のように振るっているぜ。」
 苦労しながらも、鍛錬に鍛錬を重ねて、今に至ってるよ。
「大太刀も、去年亡くなった師匠の初盆に、頂いた。当たり前だけど、太刀以上に、長くて、重かった。けど、鍛錬に鍛錬を重ねて、もう、片手で扱える。」
 重さが半端なかったから、前以上に苦労したな。

「何が言いたいの?残念だけれど、私は、あなたの昔話に興味はないわ。」
 解らないのか?やれやれだな。
「できなかったことでも、努力すれば、できるようになる。それが人間なんだ!一歩一歩、長い階段を踏みしめるように、努力を続けていればな!」
 ガキの頃、俺は弱かった。
 亡国企業に誘拐されそうになって戦ったけど、敵わなくて、捕まって、千冬姉達を悲しませた。
 俺は、それが悔しくて、必死に鍛錬を重ねていった。
 剣道や柔道と言った武術の段位は、初段だが俺は八段が相手でも勝てるっていう、確信がある。
 それだって、今まで、鍛錬を重ねてきたからだ。
 悔しさと、もう、あの時の様に、周囲の人を悲しませたくないという願い。
 そして、守られるばかりじゃなく、誰かを守りたいという願い。
 そうなるという、誓い。
 俺に強さの何たるかを教えてくれた、師匠。
 今の俺の目標であり道しるべである、千冬姉。
 習志野で、俺にいろんな事を仕込んでくれた、成田一佐。
 いろんな人に支えられ、自分が立てた、誓いがある。
それがあるから、俺は、ここまで来れた。
「今まで、俺が鍛錬を続けて得た物が何か、お前に見せてやる。残り3機全部を、一気に俺にぶつけろ。でなれば、お前は、地獄を見るぜ。」

 一夏は、大太刀状の多目的ブレード「昇龍」を、居合の様に構える。
 但し、峰の部分を、人差し指と中指で挟み込むようにしていた。
 刃の部分が、白い光に包まれる。
『まさか、零落白夜?』
 
 それはもう、あなた自身の力。
 誓いを守るために、大切な人たちを傷つける物を滅する力。
 振いなさい。
 あなたの誓いと共に。

 そうなのか…。
 ありがとうな…。
 礼は、俺が誓いを守ることで、返させてもらう。
 さしあたっては、この連中を叩きのめす!
 会得はしたけど、初めて使う、明王流の奥義でな。

「そんなこけおどしが、通用すると思って?殺しはしないけれど、痛い目にあいたいなら、合わせてあげるわ!!」
 ブラッドの声を合図に、ゴーレムが向かってくる。
 狙うは一瞬。
 俺の間合いに入った、刹那の瞬間。
「いくぞ!明王流奥義双竜飛翔斬!!」
 俺が、大太刀を振りぬく際に、人差し指と中指で峰を掴むことにより、抜刀時に抵抗がかかる。それにより、スピードと威力を増す。
 だが、普通の居合以上のスピードが出せなければ、意味がない。
 故に、この技は非常に困難で、奥義とされている。
 けど、今の俺は使える。
 今まで積み重ねてきたものがあるから、会得した時以上のスピードと威力をもって。
 零落白夜が宿った大太刀は、ゴーレム3体を見事に真っ二つにする。

「馬鹿な…。ありえないわ…。あって、いいはずがない!!」
 半狂乱になっているブラッドに、柄頭で当て身を当てて気絶させる。
 終わった、終わった。
 散々だったけどな。

「大丈夫ですか?」
 制服に戻ったので、俺は神無月さんの所に行って、声をかける。
 けど、もう、すっかりボロボロ、幸い、脱ぎ捨てたコートは無事だったから、幾分かは見れる。
「申し訳ありません…。」
 ぽろぽろと、雪の上に、涙が零れ落ちる。
 ん?何だ?
「申し訳…、ありません…。私のせいで…、あんなに傷ついて…、何と、お詫びをすればいいのか…。」
 そう言いながら、雪の上に、泣き崩れる。
 ああ。そういう事か。
 自分のせいだと、思い込んじゃったのか…。
「神無月さんのせいじゃないですよ。責任はあいつらにあるんですから。とりあえず、学園に連絡して、迎えを寄越してもらえるよう頼みますから…。」
 その時、ヘリのローター音が聞こえてきた。
 4機か。
 ユーロコプター EC−135T2+。
 ドクターヘリにも、使われる機種だ。
 赤十字がペイントされているから、間違いない。
 それに川崎 BK−117−C2。
 IS学園の、アグスタウェストランド EH−101か。
 学園のは、千冬姉たちだな、多分。
 BK−117−C2は、神無月さんの家のか?
 EC−135T2+は何だ?
 おまけに、アグスタウェストランド AW101。
 警視庁か。
 ブラッドの逮捕だな。

 4機が着陸するとAW101から、完全武装のSAT(特殊急襲部隊)の隊員がシグアームズ SG556SWATをブラッドに突きつけて、手錠を二重にはめ、舌を噛んで自殺しないように粘着テープで口を塞いで、ヘリに連れて行く。
 少しは、何か情報が引き出せるといいがな。
 受け身ばっかは、やっぱり色々キツイ。

「冬菊!」
「冬菊、怪我はありませんか?」
 いかにも金持ちそうな夫婦が、BK−117−C2から出てくる。
 神無月さんの両親か。
 助けられてよかった…。
 こういう時に、しみじみそう思う…。
 このために、俺は、鍛錬を、積み重ねてきたんだからな。

「織斑君!」
 山田先生が、いかにも泣き出しそうな顔で、EH−101から出てきて、俺に駆け寄ってくる。
「最初はボロボロでしたけど、何とか。」
「織斑。」
 千冬姉が、いつもの表情で俺の所に来る。
「山田先生、織斑先生。ご心配をおかけして、申し訳ありません。」
 結果はどうあれ、心配をかけさせたんだから、誤らないとな。
「よくやったな…。」
 そう言って、千冬姉は俺の肩を叩く。

「織斑千冬さんですか?」
「はい。一夏の姉の織斑千冬と申します。」
 神無月さんのご両親に、千冬姉があいさつをする。
 すると、ご両親は、土下座をして地面に額をこすり付ける。
 え?どういう事だ?
「この度は、私どもの娘、冬菊をお助け下さり、心から感謝いたします。しかしながら、その為に、大切な弟君が深手を負った事に対しては、謝罪の言葉もございません。真に申し訳ありません。」
「申し訳ございません。」
 うわ。俺の戦い、見てたのか。
 て、このボロボロの服と、あちこちの血塗れの雪じゃ、解っちまうか。やれやれ
 土下座して謝る、神無月さんのご両親を見た後、千冬姉が俺を見る。
 俺が言わないとな。

「どうか、お立ち下さい。俺は、俺の誓いに従って、御嬢さんを助ける為に戦いました。ご両親にも、御嬢さんにも、何の罪もありません。ですから、どうかお立ち下さい。」
 そもそも、ご両親も冬菊さんも被害者だ。
 謝る筋合いなんて、ない。

「寛大なお言葉、真にありがたく存じます。ですが、今後の事も御座います。我がグループの系列病院で、検査の準備と、個室の病室を確保しております。きちんと検査をさせていただけませんでしょうか。」
「ご厚意に甘えさせていただきます。行って来い。一夏。」
 今日、受けたんだがな。
 まあ、ここで受けませんというのも、言いづらいよな。
 行くか。
 こうして、今までの俺にとって一番苦しかった戦いは、終わった。

後書き
一夏を、生身でゴーレムを戦わせたらどうなるだろうか?
そんな事が頭をよぎりましたので、それを元ネタに、今回の話を書きました。
剣術や武術の達人である一夏と言えども、生身で戦えば、只では済まないのは、当たり前。
話を書いている内に、精々、半分かなと、結論が出ましたので。
3体目を倒したところで、もう、精神力だけで、どうにか経っている状態にしました。
さて、この後の展開はどうしようと考えていたら、セシリアとの決闘後に、一夏が知らぬことが、白式に起こっていたと書いていた事の元ネタを、少し出すことにしました。
これが明らかになるのは、まだ先になります。
今回は、結構、熱血な話になりました。
こういう話を、もっと書きたいですね。
何しろ、第1話の頃に、一夏は相当な強さを身に着けていましたので、書きにくいので。
タイトルを短歌にしてみました。これで二回目です。
初雪のように清らかな心に宿った誓いは、儚い。だが、強くもある物だ。
こんな感じの意味です。





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コメント(4件)

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もはやここまで来ると思うことは一つ・・
一夏も大概人間やめてますね┐('〜`;)┌
ウニ
2013/02/10 09:25
ウニさん。
コメントありがとうございます。

>もはやここまで来ると思うことは一つ・・
>一夏も大概人間やめてますね┐('〜`;)┌
 常識外に厳しい鍛錬の結果ですね。
 ですが、ISの世界には、ヴァルキリーや
 ブリュンヒルデの称号を持つ、さらに人間
 やめてる人たちも、たくさんいますから、
 一夏は可愛いもんですよ(笑)。
CIC担当
2013/02/11 01:03
初めましての米です
いつも楽しんでます。

≫それだけでなく、髪は、腰に届くほど伸び、
WildArms 2ndのラストバトル思い出しましたww
らめ
2013/08/12 22:50
らめさん。
大変遅くなりましたが、コメントありがとう
ございます。

>WildArms 2ndのラストバトル思い出しまし
>たww
 ゲームでも、そういうのあるんですね。
 個人的に、長髪が似合う男性キャラを出し
 たかったので、こういうふうにしたんです
 よ。
CIC担当
2013/08/27 21:33

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