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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第26話 過去の痛み

<<   作成日時 : 2012/06/23 23:59   >>

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「もう、一本。もう、一本だ!」
 町の一角にある、篠ノ之神社。
 そこの神主は、剣道の道場を開いており、娘も父に教えを受けていた。
「悪い。俺、もう、晩飯作らなきゃなんないから、今日はこれまでな。大体、今日、これで十本目だぞ。もう、気が済んだろ。先生、ありがとうございました。」
「うむ。また明日にな。」
 急いで防具を片づける少年。織斑一夏は、道場を開いている神主篠ノ之柳韻に挨拶をして、急いで家路につく。
 女性にしか動かす事が出来ないマルチフォーム・スーツ。
 インフィニット・ストラトス。
 通称ISが登場し、世間では、女尊男碑の風潮が、広がり始めていた。
「箒。今のお前では、一夏には、及ばん。我武者羅に勝負を挑めば、勝てるわけではないぞ。心を落ち着けて、修練を積め。」
 涙目になっている自分の娘の箒に、柳韻は静かに言い聞かせる。
「はい…。」
 箒は肩を落として、防具を纏めて、道場を去る。
「さて、箒が一夏に追いつくまでに、何年かかるかな?二人とも天賦の才があるが、そちらの差も大きいようだからな。」
 まだ、小学校2年生とはいえ、一夏も箒も、同年代の子供たちでは相手にならない程の腕前である。
 しかし、二人の実力には大きな差があった。

「あっ、千冬姉お帰り。」
「ああ、ただいま。」
 中学に通いながら、アルバイトで生計を立てて、今や、一家の大黒柱になっている、一夏の姉の千冬が帰ってきた。
 既に、食事の準備は整っていたので、千冬が着替えを終えてから、夕食を食べ始める。

「どうだった。今日の稽古は?」
 男たる者、武術の一つもできないようでは駄目だと言って聞かせて、千冬は一夏を篠ノ之道場に通わせている。
 他の道場に比べても月謝が安く、知り合いから、竹刀や防具も安く買う事ができたので、千冬の稼ぎと、自分達を捨てた両親が残した貯蓄で、生活費を差し引いても、問題なかった。
「10本やって、全部、俺の勝ち。でも、箒も日ごとに強くなってるからなあ。そろそろ危ない。」
「そうか。時間が空いたら、私がみっちり稽古をつけてやろう。ところで、勉強の方はどうなっている。疎かにはしておらんだろうな?」
 外で働きながらも、千冬は学年主席であり、全国模試でも3位以内が常連である。
 働きながらも、勉強を疎かにしてはならないと考える千冬は、一夏が剣術に熱中し過ぎるあまり、勉強が疎かになっていないかを、常に気にしていた。
「今日、算数と理科のテストが、返ってきた。」
 一夏はテスト用紙を、千冬に差し出す。
 両方とも100点であった。
「ならばいい。剣術も勉強も、双方、きちんとやるのだぞ。いいな。」
「解ってる。じゃあ、俺、片づけがあるから、千冬姉、先にお風呂に入ってきなよ。」
 食器を下げ終わってから、一夏は洗い物を始める。

「はっ!はっ!はあっ!」
 夕食を済ませると、箒は道場で一心不乱に稽古をしていた。
 一夏との対戦成績は、白星なし。
 悔しいという感情は勿論あったが、それ以外に、箒も理解できない感情があった。
『嫌だ…。』
 負けた時の事が、思い出したくなくても思いだされる。
 力任せではない、冷静に相手の動きを見て、計算された剣さばき。
 今の箒の方が、力んで力任せになっている部分すらある。
『このままでは、離れたままだ…。追いつけない…。』

 初めて、一夏を普通の男子とは違って意識したのは、男勝りな部分を、クラスの男子からからかわれた時だった。
「やめろよ。よってたかって、恥ずかしくないのか?」
 睨みつけはしない。
 一夏は、静かにクラスメイトに訊ねた。
「な、何だよ。お前に、関係ないだろ。」
「あるぞ。同じ道場で、剣術を学んで、同じクラスだ。見過ごせない。」
 しばらくすると、クラスメイト達は、帰っていった。
「行こうぜ。篠ノ之。稽古の時間だ。」
 そう言って、一夏は道場に向って、歩きだす。
「あ、ああ。」
 道場に歩いて行く一夏の背中を見て、箒は胸が高鳴るのを感じた。
「ん?どうした。顔、真っ赤だぞ。」
『えっ?』
 箒は気づいていなかったが、一夏の背中を見ている内に、胸が高鳴るだけでなく、頬が赤く染まっていた。
「な、何でもない!気にするな。そ、それとな。私の事は、箒でいい。その代わり、私もお前の事を、一夏と呼ぶ。」
 そう言って、箒は、歩く速度を速めて、道場に向う。
『どうしたんだ?あいつ。何か、悪いもんでも食ったか?』
 遠ざかる箒の背中を見て、一夏は首を傾げたが、すぐに追いかけ始めた。

『ふむ。同年代どころか、小学生では、もう、相手にならんか…。』
 一夏の稽古の様子を見ながら、柳韻はそう考えていた。
 今、一夏の相手をしているのは、一夏と箒を除けば、道場に通う小学生では、間違いなくトップの実力を持っている。
 だが、それでは、もう、相手が務まらなくなっていた。
 一夏も小学4年生である。
 そうなっても不思議ではないが、差が、あまりにも開き過ぎている。
 まるで、大人と子供の喧嘩だ。
『少し早いが、中学生に混ぜた方が、良いかもしれんな。』

「一夏、勝負だ!」
 一息ついて、汗を拭いている一夏の所に、箒が来た。
『なんか、年中行事になってるな。』
 面を被って、籠手を着けた一夏が、竹刀を持って立つ。
「いくぞ、一夏!」
 箒が、竹刀を構える。
「おう。いつでもいいぜ。」
 しかし、これが最後の手合わせになるとは、この時、誰も思っていなかった。
 翌日、一夏が、何者かに、誘拐されたのである。
 警察は、手を尽くして一夏の捜索に当たったが、まるで手掛かりをつかめずに、時だけが過ぎていった。
『一夏、私は信じているぞ。お前の無事を。篠ノ之流武術を修めているお前が、そう簡単に死ぬものか…。』
 箒は祈るような気持ちで、どこにいるか解らない一夏に呼びかけた。
 2週間後、既に放棄された生物工学研究所で、一夏は発見された。

「一夏!!いちか…。」
 一夏が入院している病院に駆け付けた箒が見たのは、活力に満ちた瞳ではなく、硝子で作られたような瞳の一夏であった。
「一夏…、どうして…。」
 ベッドの横では、椅子に座ってうなだれた、普段からは想像もできない、千冬がいた。
「申し訳ありません。これから、御家族への説明をさせていただきますので、それ以外の方は、お引き取りを…。」
「解りました。箒、今日は、この辺で帰るとしよう。お見舞いは、明日からでもできる。」
「…はい。」
 箒は、渋々、柳韻の言う事をきく。
「千冬さん。我々にできる事があれば、遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとうございます…。」
 千冬は立って一礼するが、顔に生気はなく、酷く脆い感じがした。

『検査の結果、詳細までは解りませんでしたが、明らかに薬物を投与されています。それに各部に針の跡が見受けられます。刺された部位から推測すると、十中八九、神経系等の何らかの反応の、データを収拾しようとしていたのは、明白です。それに、造影剤を使用した形跡もあります。CT若しくはMRI等の、かなり高度な機器を使用しての検査もしていたのでしょう。それらの副作用が重なった結果が、今の弟さんの容態です。』
 自宅に戻った千冬は、台所のテーブルに座って、医師の説明を思いだしていた。
『誓ったのだ。一夏を守ると。何があっても守ると…。この世で、立った1人の家族を。大切な弟を。』
 握りしめた掌からは、血が流れ、瞳からは大粒の涙がこぼれていた。
『相当な苦痛だったのでしょう。それが原因で、弟さんの脳は、体が覚醒する事を拒んでいると考えられます。一種の自己防衛の本能と言っていいでしょう。大変、残酷なお話しをする事になりますが、このまま目覚めない可能性の方が、大きいかと…。』
 医師の説明の、最後の部分は千冬を絶望させるのに、充分過ぎるほどだった。
『どうすればいい…。私は、一夏の為に、何をすればいい…。』
 考えるが、何も思いつかなかった。
 千冬が外で働き生計を立て、一夏が家事全般を担う。
 それが、織斑家の役割分弾である。
 必然的に、千冬は家事。特に料理が大の苦手になる。
 せめて、手料理の一つも作ってやりたいが、全く自信が無い。
『それでも…。姉らしい事の一つは、してやりたい。』

「あ、千冬さん。」
「箒か。どうした?」
 個室である、一夏の病室で、箒が目にしたのは、焦げ気味の野菜炒めらしきものだった。
 よく見ると、千冬の手は絆創膏だらけである。
 慣れない料理をしたので、野菜を切っている時に、散々、切り傷を作ったのである。
 一夏は、千冬が作った料理を、口元に運ばれては、機械的に咀嚼している。
 今の一夏は、ただ、本能的に食べて、栄養を体に取りこんでいるだけである。
 味などどうでもいい。
要は、栄養を摂取出来ればいいのである。
「あの、これ…。」
 箒が持ってきた包みを開けると、タッパーに見てくれは決して良くない稲荷寿司が、入っていた。
「持ってきてくれたのか。稲荷寿司は一夏の好物だ。よければ、箒が食べさせてやってくれ。」
 そう言って、千冬は箒に席を譲る。
「一夏。見た目はよくないが、不味くは無いぞ。」
 箸で食べやすい大きさに切って、箒は稲荷寿司を一夏の口元に運ぶ。
 それを、一夏は黙って咀嚼する。
 美味いとも不味いとも言わずに、ただ、食べているだけだった。

「すまなかったな。手間をかけて、おじさんとおばさんによろしく言っておいてくれ。」
 面会の時間が終わり、病院から出たところで、千冬は箒に礼を言う。
「あの…。」
「うん?何だ。」
「一夏、よくなりますよね?」
 縋るような、祈るような表情で、箒は千冬を見上げる。

『どう答えればいい…。』
 箒が千冬に訊いた事は、千冬自身が誰かに訊きたい事でもある。
 回復してほしい。
 また、元の様な生活を送りたい。
 一夏と共に両親に捨てられた千冬にとって、今の暮らしは、ささやかではあるが、何にも換え難い幸福である。
 だから…。

「ああ。良くなる。良くなるさ。だから、その日あった事を、色々、聞かせてやってくれ。それに反応するかもしれない。」
『今はやれる事を、全てやるしかない…。』
 そう思いながら、箒に答えた。

 次の日から、二人は料理を作り、その日あった事を、一夏に話した。
 だが、一向に一夏は回復の兆しを見せなかった。
 やがて、要人警護プログラムに基づき、篠ノ之家は個別に、各地で暮らす事となり、箒は転校する事となった。

「一夏…。」
 ガラス玉のような目で、前を見る一夏に箒は話始める。
「IS関係で、私達はバラバラに、あちこちで暮らす事になった。もう、電話をする事も、手紙を出す事も許されないそうだ…。」
 ベッドのシーツに、大粒の涙が零れ落ちる。
「ずっと一緒にいてやりたかった。お前が目覚める迄…。でも、もう、そばにいてやれない。すまない…。でも、私は、信じてるからな…。必ず、お前が回復すると。篠ノ之流の門下生は、そんな…、惰弱な男では…、ないのだからな…。」
 話しかけている内に、時間が来て、箒は病院を後にして、転校先へ向った。

 箒が転校するのと入れ替わる形で、転校してきたのが鈴だった。
「おい、鳳。すまんが、このプリントを、織斑の家に届けてやってくれ。多分、誰もいないだろうが、その時は、ポストに入れてくれればいい。」
「あ、はい。」
 一夏の家は、鈴の家である中華料理店へ行く途中に遭ったので、担任の教師は、鈴にプリントを届けるように頼んだ。

「えっと。ここよね。」
 鈴は表札を見て、確認する。
 その時、病院に向う為に家から出てきた千冬と、鉢合わせになった。
「うん?誰だ。」
「あ、あの。織斑君へプリントを届けるようにって、先生が。」
 どことなく威圧感を感じ、鈴は気圧された。
「そうか。済まないな。ありがとう。私は、織斑千冬。一夏の姉だ。君は?」
「鈴です。凰鈴音。つい最近、転校してきました。」
 鈴は、自己紹介をする。
「そうか。では、一夏が学校に行けるようになったら、仲良くしてやってくれ。」
 千冬の笑顔は、どこか酷く儚げで、鈴は気になった。
「病気なんですか…?」
 聞くべきではないかもしれないと考えたが、どうしても気になって、おずおずと千冬に訊ねた。
「まあ…、そんなものだ…。」
『手、絆創膏だらけ。』
 以前に比べれば数は減ったが、千冬の手には、相変わらず、あちこちに絆創膏が、張られていた。
『何か、気になる…。』
 千冬の儚げな雰囲気といい、手の絆創膏といい、気になる事ばかりだった。
「あ、あの。お見舞い、行っていいですか…?」
 鈴は、おずおずと訊ねた。

「構わない。ただ、あまり一夏の事は、言いふらさないでくれ。いろいろあってな…。」
 不思議に思いながら、鈴は千冬に同行して、一夏のお見舞いに行った。

『これって…。』
 ガラス玉のような目で、千冬が作ってきたエビチリの出来そこないを、一夏は黙って咀嚼していた。
『な、なんなのよ…。これ…。』
 人形の様な一夏を見て、鈴は頭が混乱したが、言いふらさないでほしいという千冬の願いの意味は、理解できた。
 子供の社会は、大人が思うより非常に残酷な面がある。
 今の一夏の事が知れたら、学校に戻った途端に凄惨ないじめの対象になるのは、明らかである。
 一夏に料理を食べさせながら、千冬はその日あった事を、色々と話していた。
 学校の事。
 ISの、テストパイロットの事。
 料理を作っている時の、失敗談。
 どんな些細な事でも、話していた。
『聞いてない?違う、聞こえていないの…?』
 まるで、反応を見せない一夏を見て、鈴は子供なりに事の重大さをより認識した。

「織斑さん。今後の治療方針について、お話がしたいのですが。」
「はい。一夏、明日、また来る。」
 千冬が一夏の主治医と病室を出ると、鈴も病室を出た。

『何があったのかな…。』
 帰宅した鈴は、宿題をしながら、一夏の事を考えていた。
 端正な顔立ちだが、まるで人形のような少年。
 姉の千冬がどんなに話しかけても、反応せず、ただ、本能のままに口元に運ばれた食事を食べているだけ。
 生きていると言えるのか、鈴には解らなかった。

「お父さん。」
「鈴。ここにいたのか。」
 知人の見舞いに来ていた鈴の父が、一夏の病室の前にいた。
「うん。クラスメイトのお見舞い。千冬さん、お父さんも入っていいですか?」
「ああ。初めまして、織斑千冬と申します。」
「鈴の父です。失礼します。」
 そういうと、絆創膏だらけの手で、持ってきたタッパーを開けて、豆腐がかなり崩れた麻婆豆腐らしきものを、レンゲですくって一夏に食べさせ始めた。
「御病気ですか?」
「そのような物です…。」
 答えて、麻婆豆腐を食べさせながら、いつものように、今日の事を話し始める。
 だが、一夏は何も反応せずに、口元に運ばれる麻婆豆腐を食べていた。
 やがて、鈴も学校での出来事を話し始めるが、それにも一夏は反応しなかった。
 その様を、鈴の父は見ていたが、どう言葉をかければいいのか解らなかった。
 このような痛ましい光景を見た事など、只の一度もなかったのである。

「何とかしたいものだなあ…。お姉さんも辛いだろうが、見ているこっちも辛い。人に話せない事情があるのだろうが、何かしてやりたいよ…。」
 鈴の家では、何か、千冬の手助けをしてやれないかを話し合っていた。
「ねえ。お父さん。お母さん。一夏の身の回りの世話の手伝い、させてもらえるよう、千冬さんに頼んでみたいと思うんだけど、どうかな?」
「難しいな…。近所で聞いたんだが、千冬さん達は、御両親に捨てられたそうなんだ。それ以来、千冬さんは一家の大黒柱であり、何より、一夏君の親代わりだったんだ。そこに、我々が入るというのは、どうかという気がする。が、やれるのは、それ位か…。明日、話してみよう。」
「うん。」

「一夏の世話の、手伝いですか…?」
 翌日、海老シュウマイを作って、鈴の父は病院に来て、千冬に手伝いを申し出た。
「別に無理とは言わない。そちらが大変な時に、店に電話を入れてくれればいい。その時は、食事の世話とかは我々が、代わりにする。」
 千冬は少し考え込む。
「近所で聞いたよ。姉としてだけでなく、親代わりでもあったというじゃないか。けれども、何もかも背負う事は無い。誰かの助けを借りてもいいと思う。それは、恥でもなんでもないんだからね。まあ、頭の隅に置いておいてくれ。」
「ありがとうございます。御厚意に甘えさせていただきます。何かあった時は、お願いいたします。」
 千冬は、深々と頭を下げる。
「そんな、おおげさにせんでくれ。困った時は、お互い様だよ。」
 それから、時々、千冬は一夏の世話を頼むようになった。
 実際の所、千冬の心労はかなり溜まっていた。

「まだ、症例は極めて少ないのですが、この治療法は望みがあると考えられます。また、制度上、治療費も無料です。」
 主治医が、千冬に一夏の新しい治療法を説明していた。
 具体的に言えば、感覚情報の分析を司る頭頂葉。さらに、様々な神経が出入りする脳幹に、特殊な刺激を加えて、覚醒させる治療法である。
 手術が成功したのにも関わらずに、意識が覚醒せずに長い間、植物人間に近い状態の患者の意識を覚醒させる治療法として、以前から研究されており、去年から、ようやく効果が出始めていた。
 また、日本ではある種の先進医療は、全額保険が適用されるので、治療費も無料である。
 無論、これで、一夏の意識が戻る保証は無い。
 だが、千冬の目の前に、絶望から抜け出せる、細い蜘蛛の糸が見えたのは事実である。
「よろしくおねがいします。」
 千冬は、主治医に深々と頭を下げる。
「主治医として、全力を尽くす事をお約束します。ちょうど一週間後になります。」

「じゃあ、一夏、直るかも知れないんですか?」
「ああ。望みが少し見えてきた。」
 病院を出て、歩きながら、千冬は、一夏の治療について話していた。
「直れば、一夏とお話しできたり、遊びに行ったり出来るんですよね。」
「しばらく、リハビリが必要だがな。期間は、解らんが。」
『大丈夫だ。きっとうまくいく。私の弟なのだから…。』
「リハビリが終わったら、千冬さんがお仕事お休みの時に、どっかに遊びに行きませんか?あ、お弁当、私が作りますから。こう見えても、結構、お料理得意ですよ。」
「そうだな。その時は、よろしく頼む。」
 鈴の肩を叩きながら、千冬は微かに笑みを浮かべた。
「はい。じゃあ、ここで。」
「ああ。気をつけてな。」
 この頃、IS保有国では、IS搭乗者の、技量を競い合う大会。後のモンドグロッソについての話し合いがされていた。

 1週間後。
 一夏の病室には、様々な機器が運ばれていた。脳波やヴァイタルのモニタリングをする為のディスプレイ。
 刺激を加える、機器。
 神経の状態を感知する、機器。
 主治医の他に、万が一に備えての救命医のチーム。
 機器を扱う、臨床工学技士。
 1時間ほどで、準備は整う。

「最終チェック。脳波とヴァイタルは?」
「脳波パターンは、先週のパターンと変わらず。心拍60。血圧110−70。サチュレーション正常。」
 モニタリングの結果を聞いて、主治医は頷く。
「始めます。最初は、出力30。」
「了解、出力30でスタートします。」
 臨床工学技士が、治療機器のコンソールを操作して治療が開始される。
 ディスプレイには、脳の状態や各種数値が、表示される。
 しかし、これと言った変化は無い。
「出力40にアップ。」
「40にアップします。」
 コンソールが操作されて、刺激が強くなる。
 その模様は、待合室のモニターに映し出され、千冬と鈴一家が見守っていた。
 平常心を装っていながらも、千冬は気が気でならなかった。
 ようやく見えた、希望という蜘蛛の糸。
 切れないでほしい。
 切に、そう願っていた。
「千冬さん。信じてあげましょう。この世で唯一人のお姉さんが信じてあげないでいては、一夏君も治らないわ。大丈夫、きっとうまくいくわ。」
 鈴の母が、汗にまみれた千冬の掌を、ハンカチで拭う。

「出力90にアップ。容体に変化は?」
 主治医の声に、焦りが感じられるようになる。
 この治療法で駄目なら、現段階では、カードは無かった。
「ありません。…待って下さい。脳幹に集まる神経系の一部の反応が活発化し始めています。」
 それを聞いた主治医は、一夏の目にライトを当てる。
「瞳孔が、僅かだが反応している。いけるかもしれない。出力最大に。」
「出力最大にアップ。」
 ヴァイタルも正常だったので、主治医は刺激を一気に最大にする。

「頭頂葉、脳幹の反応。正常です。」
「各神経系の反応も、正常。」
「瞳孔正常。脳波とヴァイタルは!?」
 ライトを当てて、瞳孔の反応が正常である事を確認した主治医は、ヴァイタルと脳の他の部分の状態を確認する。
「全て、正常範囲内です。」

「う、うん。あれ、ここ…。」
『俺、誰かにさらわれそうになって、戦ったけど、どっかに連れてこられて、どうなったんだっけ…?』
 2カ月ぶりに、一夏は目を覚ました。

「一夏…。」
 千冬は、そっと胸を撫で下ろした。
「良かった…。」
 鈴は目に溜まった涙を、拭った。

「容態は、現在正常です。今後、精密検査をして、問題ない事が確認されてから、リハビリに入ります。」
 主治医は待合室で、千冬に治療が成功した事を伝え、今後のスケジュールを話す。
「よろしくお願いします。」
「はい。本当に良かった…。蜘蛛の糸は切れませんでしたね。僥倖とはこういう事をいうのでしょうね。きっと…。」
 主治医は、心から安堵した表情で言った。
「お会いになりますか?弟さんと。」
「はい。」

「千冬姉…。えっと、ごめん。心配掛けて…。」
 ばつが悪そうな顔をする一夏を、千冬は抱きしめる。
「何も言うな…。今は養生して、体を治すことだけ考えていればいい。」
 そう言って、千冬は、一夏の頭を優しく撫でる。
「うん。解った。」
 その時、一夏の視界に自分と同い年らしい女の子と、家族が入る。
「千冬姉。その人達は?」
「最近転校してきた、鳳さん達だ。私が忙しいときは、お前の世話もして貰った。」
 千冬が鈴と両親を紹介すると、鈴が一夏の傍に来る。
「鈴よ。凰鈴音。中国から、あなたのクラスに転校してきたの。よろしくね。」
 そう言って、鈴は手を差し出してくる。
「俺は、一夏。織斑一夏。よろしくな。」
 一夏は、差し出された手を握り締める。
 止まっていた一夏の時間が、再び動き出した瞬間だった。
 そして、中学3年生の時に引き受けた日払いのアルバイトで、世界でただ一人ISを動かせる男性であるだけでなく、委員会の最高機密になる、一夏の群を抜く、ISに対する適性が明らかになり、IS学園に入学し、今にいたっている。

「覚悟を決めろ。もはやお前に勝機は無い。」
「あの、ガラクタで私達を消耗させて、勝つつもりだったみたいだけど、私達も、今までの戦いで相応に経験を積んで、強くなっているのよ。観念する事ね。外には、ISを展開した教官達がいるから、逃げ道は無いし、お仲間もここには来れないわよ。」
 ゴーレムU3体を、只の粗大ごみにした箒と鈴は、オータムとの戦いに臨もうとする。
「いい気になってんじゃねえぞ!小娘共が!!ちょっと、ISの性能がいい位で、調子こきやがって、これからが本番だって事を教えてやるぜ!!」
 オータムは、アラクネの背部にあり、マニピュレータにもなる、八本の蜘蛛の足の様なPICシステムにアサルトライフル、ガルムを持たせ、ブラッドスライサーを両手に構える。
「そう。やっぱり、痛い目に遭わなきゃ気が済まないわけか…。ちょうどいいわ。あの時、一夏にした事の償い。さしあたっては、まず、あんたにして貰おうかしら。」
 鈴は、双天牙月を握り直す。
「そうだな。名を聞くのも煩わしいから、聞かないが、一応言っておく。たっぷりと後悔させてやる。自分達がやった事の罪深さを、噛みしめるがいい。」
 箒は、篠ノ之流の構えをとる。
『一夏…。あの時も、今も、お前の為にしてやれる事は、私には雀の涙ほどだ。だからせめて。』
 紅椿のワンオフアビリティ、絢爛舞踏が発動する。
『まず、こいつに幾ばくか、罪を償わせる。』

「いい気になるなよ!!ガキ共!!」
 オータムは、8丁のガルムを一斉に発射する。
「そんなの、今の甲龍にとって、さけるのは訳もないわね。」
 弾幕を巧みに回避しながら、鈴は火剣を投げつける。
「そんな、おもちゃが何の…。」
 左肩部装甲に命中したが、防ぎきったので、オータムが嘲笑した瞬間、内部のHEAT弾頭から生じた液体金属の超高速墳流が、アラクネの肩部物理装甲を粉砕した。
「てめえ…!」
 皮膜装甲と絶対防御が無ければ、肩から腕が落ちるだけでは済まなかっただろう。
 削られたシールドエネルギーが、それを物語っている。
「甲龍に、そんな武装は無いはずだぞ。どこで、手に入れやがった!?」
 肩を押さえたオータムが、憎らしげに鈴を睨みつける。
「今の甲龍は、前の甲龍とは違うの。一夏が各部をチューンして、新しい武装も搭載されているわ。あきらめるのね。たとえ絶対防御があっても、相当に堪えたはずよ。」
 悔しいが、オータムは認めざるを得なかった。
 強烈な衝撃で、肩には激痛が走り、酷い火傷を負ったようにひりつく。
 これでは、左腕を使うには無理があるが、それまで認めるのは、オータムのプライドが許さなかった。

「この程度で、私がやれるか!!」
 多連装ミサイルポッドを呼びだして、一斉に発射する。
「「甘い!」」
 鈴は龍咆の拡散モードで、箒は空裂と攻撃モードにした背部の展開装甲を使用して、ミサイルを全弾叩き落としていた。
「はああっ!」
 脚の展開装甲も使用し、箒はイグニッションブーストで、体当たりをするように斬りかかる。
「この!」
 態勢を崩した所に、箒は斬撃を加え、アラクネのシールドエネルギーを削る。
 展開装甲を併用したイグニッションブーストの衝撃は、オータムの体に少なからぬダメージを与えた。
 体がしびれてうまく動かせず、箒の攻撃を防ぐ事も避ける事もできない。
「この程度で償えるか!!あの時、一夏の回復を一日千秋の思いで待っていた私達の気持が。手を絆創膏だらけにして、見てくれは悪いが、一夏の為に心をこめて食事を作り、世話をしていた千冬さんの悲しみが、お前たちに理解できるものか!!傍にいたくても、許されなかった私の気持ちが、解るか!!この程度で、償いになるものか!!」
 今でも、失敗作としか言いようのない手料理を、絆創膏だらけの手で、一夏に食べさせていた千冬の姿が目に焼きついたまま離れない。それは、鈴も同じだった。
 何とか、体を動かせるようになり、オータムは距離を取って新しい兵装を呼びだそうとするが、今度は鈴が迫る。
「いい気になるな!」
 IS用の長剣、「ブラッド・ファング」を手に、鈴に斬りかかろうとするが、回避され、背中に蹴りが命中する。
 地面に激突し、なんとか立ち上がったオータムに、先端に短剣状のプラズマプレードがついたロープの様な物が巻きつく。
「こんな縄、いつでもぶち…。」
 オータムは、最後まで言う事は出来なかった。
 凄まじい高圧電流が、オータムを包み込む。
「ぐあああっ!!」
 奇襲用の武器として、一夏が開発した鉄蛇。
 非常に細い高電圧縛鎖で、縄を編むようにして作られ、先端にプラズマブレードがついている。
 こうしてできた鉄蛇は、通常の高電圧縛鎖の十数倍の高圧電流を発生させる。
 アラクネが高圧電流の許容限界を超え、あちこちで小さな爆発が起きる。
「この程度で済むなんて、思わないでね!!」
 ハンマー投げの予備動作の様に、オータムを振り回して、鈴は大地に叩きつける。
「終りよ!」
「終りだ!!」
 パワーアシスト機能を調整して、以前に比べて軽々と双天牙月を扱えるようになった鈴は、連結させ、全力で投げつける。
「があっ!」
 背中に直撃して、オータムの体に凄まじい苦痛が走り、一瞬息ができなくなる。
「これで、終りだ!!」
 雨月と、空裂のレーザーが一度に命中して、アラクネは強制解除され、白目を剥いて気を失ったオータムが残された。

「あの二人があそこまで怒るなんて。それだけ織斑君、辛い想いにあったんでしょうね…。」
 許容範囲を超える痛みやショックを体が感じた場合、脳はその時の記憶や感覚を除去し、永久に思い出させなくする。
 以前に読んだ本に、書かれていた事を真耶は思い出し、それ以上は言わなかった。

「鳳と篠ノ之が相手をしたのは、実動部隊の1人だろう。それなりに情報は引き出せるはずだ。身柄を確保させろ。」
 そう言うと、千冬はオペレーションルームを出る。
『そして、織斑先生も。』
 全てのアリーナで戦闘が終わり、偽装システムを解除した頃には、一夏は生徒会室に戻り、生徒会長の責務を果たしていた。
『私は候補どまりだったけど、織斑君。教師として、貴方を含めて全力で皆を守るわ。あなたは、不本意かもしれないけど、それが先生の仕事だから。』

「こりゃ、また凄い…。」
 自分で改修担当しといて何だけど、やりすぎたかな…。
 第1アリーナは、トネールをたっぷり喰らわせたんだろうな。
 各部の装甲に、被弾の跡がある。
 止めは、リオン・セールか。
 でかい、風穴だな。
 ラウラが仕留めた方は、ツヴィリングのチャージ時間を最大にしたな。
 上半身が、消し飛んでる。
 もう一体は、もはや、何だったのか解らない。
 第2アリーナは、先輩達の容赦のない攻撃で、ボロボロにされてる。
 容赦がないってのは、この事だな。
 第4アリーナが、一番原型を留めてるな。
 とは言っても、一体は、特殊兵装を使ったらしく、四散して、パーツがあちこちに散らばっているだけ。
 もはや、何だったのか、見当もつかなくなってる。
 第5アリーナも、強烈だな。
 これって、クリア・パッションを使った跡だよな。
 蒼流旋でゴーレムの胴をぶち抜いて、内部からボンか。
 吹き飛んだパーツや装甲があちこちに落ちているが、飴細工みたいに溶けてる。
 セシリアが相手したのは、穴だらけにした挙句に止めか…。
 射撃訓練の人形みたいだ。
 結論としては、戦力としては頼もしいんだが、何かこう複雑だな。やっぱり。
 やりすぎたかな?という疑問が、どうしても頭から離れない。
 あ、そうか。
 俺の死亡フラグが、立ちやすくなったって事か。
 これからは、慎重に行動しないとな。

「ある意味、当たりを引いたのは第3アリーナにいた、鈴と箒ですね。実動部隊の人間を捕まえて、アラクネを取り戻したんですから。」
 後になって聞いたが、アメリカの第2世代ISアラクネは、イギリスのサイレント・ゼフィルスが盗まれたと同じ日に、盗まれたそうだ。
「状況から、この2つの強奪作戦は、あらかじめ計画されていたと見ていいでしょうね。タイムラグを置かなかったことで、互いに警戒レベルを引き上げる暇を与えなかった。そういう事でしょう。」
 専用機持ちからの聞き取り調査後、生徒会室で、千冬姉たちや他のIS関連の授業を担当する先生達を交えて、会議を開いていた。
「そうですね。さすがに、亡国企業も、モドキは開発できても、ISをゼロから開発する能力は無いと見ていいでしょうね。」
「ですね。とすると、他国のIS。正確に言えば、コアが危ないですね。」
 山田先生の意見に頷きながら、俺は一番不安に思っている事を言う。
「それに関しては、私が委員会に提出する報告書を作成する際に、強調しておく。奴らにISを開発させる訳にはいかん。束にコアを新たに作ってもらったとしても、強奪されては、話にならん。さらに、コアの数が増えるのは、世界の軍事バランスにも影響を及ぼす。」
 千冬姉がそう言うと、全員が頷く。
 コアの数が増えた場合、配分が酷く難しくなる。
 ISの抑止力は、俺達が予想する以上に凄い。
 下手をすれば、国際問題どころか、戦争になりかねない。
 今の数を、出来る限り維持するのが、現段階では最も無難だ。
「では、会議はこれで終了する。生徒会のメンバーは、予定通りに、生徒会の出し物の準備をしてくれ。あくまで平穏を保つ必要がある。」
 だな。
 それにしても、何やるんだ?
 生徒会は。

「そう。現段階では、オータムの奪還は難しいのね。」
『出来ないわけではないが、かなり騒ぎになる。好ましくないだろう。私は別にかまわんが。』
「現段階では、駄目。警察病院に入院しているスノーが、そろそろ事情聴取可能な状態に回復するはずよ。今夜、スノーと一緒に奪還してちょうだい。私の方でも、手配りはしておくわ。」
『了解した。』

「ふう。」
 スコールは、疲れたように溜息をついた。
『ゴーレムVでも、織斑一夏にはまるで歯が立たない。他の専用機持ちでも、どこまで戦えるか…。』
 戦闘時の映像を見直して、一夏が改修した各自の専用機や、開発が難航していた部分に協力した打鉄弐式に、一夏が設計・開発した巴御前。
 どれも、非常に性能が高く、奪取するのも相当な労力を必要とするのは、明白だと、スコールは判断した。
『幹部会は、どう判断を下すのかしら?個人での戦闘訓練もみっちり受けている彼を暗殺する事にしても、何人、病院送りになるか解らないわ。』
 これからの事を考えると、暗澹とした気持になる。

 疲れた…。
 それ以前に、死ぬかと思った。
 生徒会の出し物は、演劇。
 狼と七匹の子山羊だった。
 そこまではよかった。
 だが、楯無さんは台本を変えまくって、子山羊が狼を獲物にする話にした。
 お陰で、子山羊になった女子たちに、散々追いかけられて、死にそうな思いをした。
「何で、こんな目に遭うんだ俺…。」
 溜息をついても始まらないな。
 とりあえず、風呂に入るか…。

「生徒会長は、予想以上に頑張ってくれていますね。襲撃があったにも関わらずに、想定して対応策を用意し、被害を出さなかった。他の専用機持ちの生徒の尽力も大きいですが、それを得られたのは、織斑君の人徳ですかな。」
「いえ。まだまだ、未熟者です。学ばなければならぬ事が、数多くあります。」
 千冬は理事長室で、轡木に今日の襲撃と事後処理に関しての報告をしていた。
「織斑君には厳しいですね。愛情の裏返しなのでしょうが、少しは褒めてあげて下さい。ISに関わって、ようやく1年になったばかりなのに、白式を使いこなせるように、日々、鍛錬に励み続ける真摯な姿勢は、称賛に値するのですから。生徒会からの報告書も、実に見事ですしね。」
「は、はあ。理事長がそうおっしゃられるなら。」
 千冬も一夏の事は、評価している。
 だが、亡国企業に狙われている以上、学園の専用機持ちの中でも抜きんでた実力の持ち主でないと、降りかかる火の粉を払えないと考え、あえて厳しく指導している。
 それを轡木は察していたが、偶には褒める事も必要だと考えている。
「いずれにしても、文化祭も無事に終了して何よりですよ。良い生徒会長がいるのは、本当に良い事ですね。」
 幾人も生徒会長を見ているが、一夏ほど優秀な生徒会長となると、楯無くらいなので、それも含めて轡木は一夏を高く評価していた。

 風呂から上がった後、俺は白式のチェックを行っていた。
 ある程度経験値を得たら、ISを進化させるワンオフアビリティか…。
 形態移行とは違うな。
 でも、形態移行も進化と言えば、進化なんだよなあ。
 にしても、ステップというか、規模が違いすぎる。
 天照は、緩やかだが、形態移行は爆発的と言ってもいい。
 第二形態移行後の白式が、いい例だろう。
 ちょっと、全容を把握するのは難しいんだよな。
 ISの形態移行に関する論文が、確かどっかにあったよな。
 ふと思い出した俺は、ライブラリにアクセスして、検索を掛ける。

「αチーム配置につきました。」
「βチーム準備よし。」
「γチーム、いつでも。」
 警察病院の敷地内で、エムはスコールが派遣してきた部隊と連絡を取り合っていた。
「よし。βとγは陽動を。αはスノーを回収。オータムは私が回収する。」
「「「了解。」」」
 漆黒の防弾スーツにマスク。
 ナイトビジョンを着けたメンバーは、行動を開始する。

「ん?」
 宿直室で、これからのカリキュラムについて考えていた千冬は、携帯がなっている事に気づく。
「私だ。…解った。」
 ある連絡。身柄を確保した、スノーとオータムの身柄が、警察病院より奪取されたという事を聞いて、千冬は大きな溜息をついた。
 一つ、幸いな点は、盗まれたIS、テュランノスとアラクネはこちらで押さえている事である。
『どこかの国のISを、奪取する可能性がある。面倒な事だ…。』
 沈んでいる暇はなかった。
 代表候補と専用機持ちを、全員、会議室に召集する為にメールを送る。
 本来ならば、専用機持ちになって日が浅い玲子は対象外だが、第四世代ISの技術である展開装甲を、第三世代向きに開発した戦衣を特殊兵装として持つ、巴御前の専任である玲子も狙われる可能性は高い。
 事態を把握しておくべきだと、千冬は考えた。

 やっぱ、難しいな。
 白式自体、形態移行を含めた進化のシステムが、他の機体とはまるで違う。
 まるで、別のカテゴリーの兵器みたいだ。
「ダーウィニズムじゃだめか…。」
 基本的に、ISの進化はダーウィニズムに則っている。
 機体が戦いを経験し、その状況に適応できるように、進化する。
 だが、白式には、それが当てはまらない。
 近距離戦に特化した白式ならば、火力自慢のISと互角以上に勝負するとしたら、高い防御力を得るか、攻撃を回避できるように機動性をさらに高め、中遠距離用の火器を構築。
 さらに、エネルギー消費が激しいので、これを最適化するだろう。
 だが、蓋を開ければ、加速性能と、機動性は格段に向上し、高出力荷電粒子砲を構築する迄はいい。
 しかし、消費エネルギーは激しくなり、雪片弐型を取りこんで、零落白夜を応用したシールドが追加され、格闘用のクローにも、零落白夜のモードが追加されている。
 今まで蓄積された経験を基にしてはいるが、進化のステップが異常に速い。
 それが、白式の白式たる所以なんだろうが、こう、全容が解らないとなあ…。

 考えている時、優先度が最高のメールが送られてくる。
 千冬姉からか、至急会議室に集合か。
 何か、よくない事があったな。

「今日の文化祭、滞りなく進行し、襲撃者も撃破できた。本当によくやってくれた。が、ここで、非常に残念な連絡が来た。臨海学校で襲撃してきたISパイロットと今回襲撃してきたISパイロットが、収容された警察病院から、奪取された。行方は現在捜索中だが、見つかる可能性は低いだろう。向こうも、見つからないように、準備をしての行動だろうからな。」
 やれやれ。
 テュランノスには手こずらされたし、今日は今日でばれないようにするのは大変だったのに、骨折り損のくたびれ儲けか…。
 向こうの情報が入手できないのも、痛い。
 末端でもいいから、アジトを発見できれば、状況は変わって来るからな。

「それにしても、こまりましたね。もうすぐ、キャノンボール・ファスト。大勢の一般市民が観客に来ます。襲撃されれば、ゴーレムを世間から隠すのはもう不可能です。」
 ISには及ばないが、強力な兵器で、しかも無人。
撃墜されても、人的損害が出ない。
さらに、中枢部分の解析ができれば、量産が可能となる。
世界の軍事的均衡に大きな影響を及ぼすのは、明白である。
 真耶は、それを案じていた。

「とは言え、中止するわけにはいかん。いずれにせよ、当日は例年通り武装教官が警備につく。幸い、ラファール・リヴァイブや打鉄弐式は、チューンされているからな。」
 昨今の、IS関連技術の進歩に生徒を慣れさせる為という口実で、訓練機は、製造メーカーの技術者によって、特別なチューンを施されている。
 ゴーレムに、遅れを取る事は無い。
「問題は、サイレント・ゼフィルスですね。」
 真耶がコンソールを操作して、ディスプレイにデータを表示する。
「ブルー・ティアーズの運用データが反映されている分、性能は上がってるわね。」
 鈴がデータをざっと見て、感想を言う。
「BT兵器の威力もだけど、操作性が改善されているのは戦闘にどう影響を及ぼすか。ブルー・ティアーズは改修されているけど、そこはやっぱり気になるね。防御も想定されているとなると、戦術に幅も出てくる。」
 シャルロットは、BT兵器の性能が向上している事に、目を向ける。
「だが、銃剣が装備されているとはいえ、格闘戦は、あまり想定されていないようだな。懐に飛び込めば、分はあるだろう。まあ、その時もBT兵器で切り抜ける腹づもりなんだろうがな。」
 ラウラは、サイレント・ゼフィルスがブルー・ティアーズと同じく格闘戦にウィークポイントを見いだす。
「基本的にはこの中で相手をするとしたら、俺か、セシリア、箒がいいんだろうけど、箒は経験値が足りないから、俺かセシリアだな。織斑先生。当日のプログラムはどうなっていますか?」
「今年は、1年に専用機持ちが8人いるからな。1年は専用機と訓練機で分ける事になっている。専用機組を早く済ませる。その後、教官と共に襲来に備えてもらう。いいな。」
 生徒にとっては、キャノンボール・ファストも、楽しみなイベントである。
 それをぶち壊すわけにはいかない。
 一夏は、そう思いながら、亡国企業の出方を考えていた。

「うんうん。さすがはいっくんに箒ちゃん。見事に切り抜けたね。亡国企業も、やるだけ無駄なのに、ご苦労さんだねえ。下手をすれば、ちーちゃんが出てくるのにねえ。」
 光学迷彩を装備した、蕪型の偵察衛星で録画した、文化祭での戦いを見直していた束は、満足そうに頷きキーボードを叩きながら、データに目を通す。
「7割方かな。さ、後は残りを組み立てて、最終調整。ガンバ、ガンバ。」
 傍らには、黄金に輝く装甲を持つ、組みたて途中のISがあった。

後書き
書くタイミングがやっと掴めた、一夏の過去の話です。
原作でも、一夏は誘拐されていますが、私の方はだいぶ悲惨な物になっていますね。
もっとも、一夏自体が当時の記憶が無いので、何を目的として亡国企業が一夏を誘拐したかは、解らないまま。
これから、様々なイベントがありますが、それに絡めて亡国企業とは何か?
何を狙っているかが、明らかになっていきます。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
再び影猫Sです。

文句ばかりで申し訳ないわけないんですが、場面が大幅に切り替わるときは段落の区切り方をもう少し工夫、例えば改行だけでなく区切るための記号を入れたりするなどした方がいい気がします。
今回の話だと昔の話が終わったところでそういったものを入れるべきですね。他と同じ改行では読み手が頭の切り替えがしづらいと思います。

とはいえ何度もいいますが、話自体は面白いです。
影猫S
2013/10/22 08:57
影猫Sさん。
コメントありがとうございます。

>場面が大幅に切り替わるときは段落の区切
>り方をもう少し工夫、例えば改行だけでな
>く区切るための記号を入れたりするなどし
>た方がいい気がします。 今回の話だと昔の
>話が終わったところでそういったものを入
>れるべきですね。
 書き手の未熟さが、露呈していますね。
 色々試行錯誤をしているのですが、まだ足
 りていないという事ですね。
CIC担当
2013/10/22 13:10

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