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zoom RSS コードギアス 反逆のルルーシュR2 OTHER TURN06 新しい 色

<<   作成日時 : 2012/04/29 22:38   >>

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 神聖ブリタニア帝国、EUと並ぶ、超大国中華連邦。
 首都洛陽にある、紫禁城の書庫で、天子の配偶者である太宰子にして、中華連邦随一の名将と謳われる黎星刻は、古い書物に目を通していた。

「やはり、こちらにおいででしたのね。」
 中華連邦を治める天子にして、星刻の妻である蒋麗華が、今年3歳になる、双子の姉弟。
 姉の麗花。
 弟の星鳳。
 そして、産まれたばかりの星翼の3人の子供達を連れて、書庫の入口にいた。

「ああ、麗華か。どうした?今、少々、立て込んでいてな。」
 そう言いながら、書物から目を話す気配のない夫の姿を見て、麗華は大きな溜息をつく。
「湯浴みの時間です。それに、今日の公務は終わっています。公務の時間以外は、よほどの事が無い限り、一人の父親でいる。約束をお破りになる気ですか?子供達との触れ合いも、育児には大切ですわよ。」
 病が癒えてからも、麗華は星刻の体の事を危惧して、公務の時間以外は、プライベートの時間とするという約束を、星刻としている。

「いや。これは公務とは関係ない。私事だ。昔読んだ本を、少し読みなおしているだけだ。時間がかかるから、今日は4人で湯浴みを済ませてくれ。その代わり、明日は必ず、一緒に湯浴みに行く。必ずだ。」
 そう言って、書物を読み進めようとしたが、両方の袖が引っ張られるのを感じて顔を上げると、自分に非があるのではないかと考える、表情になる。
 麗花と星鳳が星刻の傍に来ていた。

「ちちうえ。わたしたちとおふろにはいるより、ごほんをよむほうがだいじなのですか?」
 麗花の瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
 星鳳は、泣くのを堪えている表情になり、星翼は父親が恋しくなったのか、手を伸ばす。
 それを見た麗華は、星翼をあやす。

「いや、無論、父は本よりお前たちが大事だ。当然な。ただ、偶にはこういう事もあるという事だ。ただ、それだけなのだ。だから、今日は母上と一緒に湯浴みを済ませろ。明日は、必ず私も一緒だ。誓ってな。」
 だが、まだ3歳の子供達には、書物より自分達がないがしろにされていると感じられて、大泣きしそうになっている。

「貴方…。」
 麗華の微笑みを見た星刻は、蛇に睨まれた蛙のように、微動だに出来なくなった。
 決して恐ろしいわけではないのだが、結婚する時の事やら、色々重なって、星刻は麗華に、まるで頭が上がらない。
 麗華が天子であるという事を差し引いても、中華連邦のロイヤルファミリーは、完全に「亭主が女房の尻に敷かれた」状態になっているのが、現状である。

「解った。先に行ってくれ。私も直ぐに行く。」
「そうですか。さあ、行きましょうか。父上も、すぐに来ますよ。」
「「はい。ははうえ。」」
 麗華の腕の中の、星翼も機嫌がよくなる。
「では、なるべく、お急ぎを。」
 そう言って、麗華達は侍女たちを伴って、浴場に行く。

『やれやれ、何故、こうなったのやら…。』
 溜息をつきながらも、次の瞬間には、星刻は苦笑していた。
『惚れた弱みというやつかな。にしても、私は自分の武勇と知略には自信があったが、色恋沙汰となるとからきし駄目だとは思わなかったな。まるで妻には勝てん。どうにも、こう、脆いというか…。』
 4年前、シュナイゼルとの最終決戦に勝利し、思いの他、手間取りそうな戦後処理をしている時の事を思い出していた。

「申し上げます。我が軍勝利との知らせが届きました。」
 歴代の天子が祭られている霊廟で、星刻の勝利を祈っている麗華に、侍女が連合軍の勝利を伝える。
「あの人は…?」
「息災でございます。しばらくは、戦後処理をせねばなりませぬ故、帰還は遅くなりますが、お体には異常無しとの事です。」
『良かった…。』
 麗華は、この世で最も愛しい男の無事を聞いて、心から安堵し、霊廟を出た。

「これは、思ったより手間を喰いそうですな。EUに関しては、政治態勢が大分整ってはいますが、盤石と言えるようになるには、時間がかかりましょう。植民エリアの方は、統治能力が無いに等しい地域もあります。ここを何とかしなければ…。」
 その頃、スザクと星刻は、予想以上の戦後処理の多さに驚いていた。
 既に、ナナリーを始めとするブリタニア軍は、本土への帰路についている。
 いつまでも、皇帝と皇配が共に不在というわけには、いかなかったからである。
 国内を統治する体制を整えて、全ての植民エリアを、段階的に独立させ、国交を結ぶというスザクが考案した、ブリタニアの政策が実現するには、まだ、時間が必要だった。
 フレイヤという、前代未聞の破壊力を持つハードに、シュナイゼルという稀代の政治家というソフトを取り除いても、その影響力を完全に除去するのは、決して楽ではない。
 本当に、これから平和になるのか?
 世界には、少なからず、疑心暗鬼が渦巻いていた。
 それを考えると、スザクは気が重くなる。

「我が国は、天子様を中心とした政治体制を、私なりに作り上げ、私が不在の時には、驃騎将軍や衛将軍達が軍事行政を支えて、非常時には機能するようにしておりますが、あまり非常時が続くのは、いささかまずい。何しろ、我が国の領土は広いので、各地をきちんと統治するのは、骨が折れますからな。早く済ませたいものです。」
 星刻の言葉にスザクは、頷く。
「とにかく、明日、戦後処理について会議を開きましょう。方針をきちんと定めねば、時間を無駄に消費するだけです。」
「同感ですな。」

「そうですか。戦後処理は手間がかかりそうですか。」
 エセックスの私室で、コーネリアから戦後処理が予想以上に手間がかかる事を、ナナリーは聞いていた。
「はっ。明日、効率的に進める為にはどうするかの会議が、開かれるとの事にございます。」
「なるべく、早く済んで欲しいですね。皇帝がこのような事を言ってはならないのは解っていますが、誰よりも私を支えてくれる夫がいないと、さすがに不安になってしまいますから…。」
 独立前から、日本の総督を務めるにあたり、政治には素人であるナナリーを、常に傍らで支えていたのはスザクだった。
 気が付けば、ナナリーが思う以上に、様々な面でスザクに依存していた。
 夜になって、ベッドの中でも、肌を重ねていると感じる、スザクの暖かさと優しさ。
 妻として、最愛の夫に愛されている事は、何者にも換え難い幸福であった。
『あなた。どうか、無理をして、体調を崩さないでくださいね。』
 戦後処理に取りかかっているスザクに、ナナリーは心の中で言葉を掛けた。

「やはり、地方行政、財政、法律。さらにその地域の文化や風習に関する専門家を出来る限り呼び寄せ、担当地域ごとに作業グループを編成し、作業に当たらせるべきかと、太宰子様と皇配殿下が中心になされるとはいえ、今のままでは、お二方のお体が心配です。」
 行政学の世界的権威である、ウェーバーが今後の戦後処理態勢について、自分の意見を述べる。
「確かに、お二方に何かあられては、それこそ一大事。いかがでしょうか?私は、ウェーバー博士の提案は、非常に合理的だと思うのですが。」
 ウェーバーと共に会議に参加している、行政学の専門家ウィルソンが、ウェーバーの意見に賛成の意を示し、スザクと星刻の意見を待つ。

「当てがあるのなら、私としては別に反対はしない。チームが出来たら、報告に来て、その後、処理の進み具合について報告を受ける。星刻殿これでいかがですかな?」
「依存はありません。それでよいでしょう。」
 スザクと星刻の了解を取りつけたウェーバーとウィルソンは、手を尽くして有能な人材を集めグループを編成。
 承認を得た後に、直ちに作業に入った。
 これによって、スザクと星刻の負担は大分軽くなり、星刻は治療と休養の時間を取れる事が出来るようになった。
 そして、1ヶ月半後に作業は終了した。

「では、しばしの別れですね。」
「お互いに、本国にやる事が山積みですからな。手早く片づけるとしましょう。では。」
 握手をして、互いの旗艦で、スザクと星刻はそれぞれの国へ帰って行った。

「戦後処理、御苦労でした。これで、世界も大分穏やかになりますね。」
「お褒めのお言葉、恐悦至極に存じます。」
 恭しく、星刻は膝をつく。
「疲れたでしょう。しばらくは、英気を養って、それから公務に復帰してください。貴方のいない穴を埋めようと、他の者達が、頑張っていますから、4、5日程度は、問題ありませんよ。」
「はっ。」
 戦後処理の様子は、麗華も聞いてはいたが、治療を続けながら病を押して戦い、公務をこなす星刻を麗華は常に案じていた。
 本来ならば、ゆっくり休んでもらいたいが、中華連邦には星刻の存在が必要不可欠なので、休む暇はあまりない。
 最近は、治療の効果で、大分回復してきたとはいえ、麗華は妻として、どうしても夫の事が、心配で仕方がなかった。

「侍女から聞いた。霊廟で、我々の勝利を、祈ってくれていたそうだな。心配をかけて、済まぬ。」
「私は確かに、中華連邦の頂点に立つ天子ですけれど、その前に貴方の妻です。妻が夫の事を心配するのは、当然ですわ。」
 夜、寝所で、久方ぶりに愛し合いながら、謝る星刻に、麗華は妻として夫の無事を祈るのは、当たり前だと言った。
 優しい笑みを浮かべる麗華が、たまらなく愛おしくなり、星刻は唇を重ね、二次性徴の只中の様な、麗華の胸の桜色の頂を吸ってから、心臓の部分に耳を当てる。
「暖かいな…。こうしていると、心の底から安らげる。どんな疲れも消えていく…。」
 頂を吸われている間、シーツを握りしめ喘いでいた麗華は、さらりとして、夜空で染め上げたような星刻の艶やかな黒髪を、指の間で滑らせながら、優しく頭を撫でる。
 中華連邦随一の、知将にして勇将。
 そして、優れた政治家としての手腕も持ち、その名を世界にとどろかせる男のどこか子供っぽい一面を知っているのは、妻である麗華だけだった。
 下級役人である父は、幼いころ亡くなり、女の細腕で星刻を育て上げた母も、星刻が下級役人の職を得る頃に、病で死去。
 親戚もいない天涯孤独の身の上だからか、家族の温もりに飢えているのではないか。
 麗華はそう思う事が多かった。
「今日は、このままお寝すみなさいませ。私が抱きしめていてさしあげますわ。」
「い、いや、それでは、起こしに来た侍女たちに見られてしまうのだが…。」
 恥ずかしそうな顔で慌てる星刻を見て、麗華はくすりと笑う。
「いつも、その前に起きていらっしゃるのですから、問題ありませんわ。ゆっくりお休みなさいませ。」
 そう言って、麗華は星刻の額に、優しく唇を重ねる。
 しばらくすると、観念したのか、今のままが良くなったのか、星刻は静かに寝息を立てる。
「お休みなさい。あなた。」
 麗華も、眠り始める。
 翌日の朝、麗華の言った通り、侍女が来る前に星刻は目を覚まし、麗華の寝顔を見ていた。
『幸せなのだろうな。私は…。』
 そう思いながら、星刻は微笑んだ。

 5日後、医師の診察と治療を受けて、星刻は出仕し、太宰子としての公務を果たしていた。
「静かな物だな。少し前までは、想像もしていなかった…。」
 シュナイゼルを破ってからは、多少問題が無いわけではないが、中華連邦はいたって平穏だった。
 香凛も星刻も、以前のように地図を睨みながら戦略を立ててはおらず、書類の決裁が業務の大部分を占めていた。
「ふむ。来週あたりかな。国境の巡視は。」
 EUとの資源問題も、解決する目処が立ったために、国境の巡視を仕様と考えていた星刻は、出発を来週と定めた。
「私の他に、同伴者をつけますか?」
「いや、あまり、ぞろぞろと集団で行く必要もなかろう。枢密院の執務に差し支えるかもしれないからな。さしあたっては、お前だけで十分だ。」
 書類にサインをして、星刻は軍管区からの報告書に目を通しながら、香凛に答える。

「太宰子様。お食事の時間でございます。」
「ああ。もう、そんな時間か。」
報告書にサインをしながら、星刻は机に置いてある時計を見た。
病気の治療中という事もあって、星刻の食事は薬膳で、その後は診察と点滴での薬剤投与を済ませ、午後の執務に入る。
それが、星刻の日常だった。

「最近は、顔色もよろしいですわね。良かった。」
 食事は、必ず、麗華と共に食べるのが、二人の間の約束事である。
 その時に、麗華は星刻の顔色を見る。
「最近は国内外が穏やかで、書類の決裁が殆どだからな。負担も軽い。悪くなる事はあるまいよ。」
 もち米等を詰めた雛鳥を煮込んだ、田七人参のスープを口にして、星刻は麗華を、安心させるように言う。
「良かった…。どうか、くれぐれも、ご無理をしないでくださいね。」
「ああ。解っている。」
 結婚してから、麗華がどれほど自分の身を案じているか、骨身にしみている星刻は優しく答える。

「さて、私は丞相と、話し合う事があるので、先に行くぞ。」
 デザートの、蜂蜜をかけた黒胡麻のプリンを食べ終わって、星刻は席を立つ。
「では、そこまで、一緒に。」
 ちょうど、麗華も食べ終えていた。
「それでは、あなた。ご無理をなさらず。」
 麗華は天子としての責務を果たすべく、侍女を連れて執務用の間へ向かう。
 星刻は、太宰子の為の執務の間に、行く。

「門戸を広げたので、志願者数が増えたな。良き人材が育ってほしいものだ。」
 中華連邦では、士官学校や官吏になる為の学校に入学するには、厳しい入学試験に合格せねばならない。
 しかし、官吏候補を育成する為の学校では、汚職が横行し、身内に地位の高い物がいたり、大量の賄賂を渡す事で、合格点に達していなくても、入学できる、裏口入学が横行していた。
 士官学校では、さすがに裏入学は無かったが、最終面接試験では、名のある部門の家柄の出身者がどうしても有利になってしまう傾向があった。
 星刻はこれを改めて、広く門戸を開き、身分にとらわれずに、優秀な人材を集めるべく、宰相の范質らと改革をしていた。
 最初の試験では、合格者は、今までの様に裏口で入学する者は皆無となり、士官学校でも、才能のある物は、部門の家柄で無くとも入学している。
 特に、士官学校の希望者は、才能のある物が多く集まり、誰を合格させるかが難しく、最終的には星刻が面接官となるほどだった。

「後は、本人達の努力次第でしょう。それから、宦官達ですな。今は、大人しくしておりますが、油断はなりません。いつ、牙を剥こうとするやら。念のため、密かに監視をさせておりますが…。」
 吏部尚書の粛啓が、厳しい表情をして腕を組む。
 本音を言えば、宦官という制度を永久に無くし、憂いを残したくないが、皇族の世話係等、様々な仕事をこなす宦官は必要で、無くすのは不可能な話である。
「太宰子様の目が黒いうちは、大人しくしておりましょうが…。大宦官の様な死様をさらすのは、奴らとて御免でしょうからな。」
 残酷な事を承知で、宦官達が朱禁城に入る門に、見るも無残な大宦官の死体をあえて晒した。
 それを見た、宦官達は腰を抜かし、しばらくは動けなかった。
 死体には、木の札がぶら下げられており、「今後、国と民を食い物にし、天子様をないがしろにする者は、身分に関係なく、辿る末路がこれであると、しかと心に刻むべし。」と、書かれていた。
 それ以降、宦官達はなりを潜めている。
「それに関しては、時間をかけて、宦官が政治に介入する力を削いでいくしかない。急いてはならぬ。時間をかけて、確実にしていくのが肝要だ。」
 粛啓に焦るなと、言い聞かせる。
「そうですな。」
 自分に言い聞かせるように言って、粛啓は頷く。
「さて、次だが…。」
 太宰子となるまでは、軍事の最高責任者たる枢密使だったが、政治家としての高い資質を持っている星刻は、いつの間にか、中華連邦の政治中枢の重要な人材となっていた。

「予定通り、来週には戻る。それまで朱禁城の守りは頼むぞ。文遠。」
「はっ!お任せ下さい。」
「うん。ではな。」
 専用機に乗った星刻は、予定通り、1週間の国境警備の巡視に出発した。

「午前の執務は、これで終わりですね?」
 最後の書類に玉璽を捺印して、麗華は、秘書官である中書監の才礼花に確認する。
「はい。本日の午前の執務は、これにて終了でございます。お食事の用意が整っております。」
「解りました。」
 食堂に向いながら、麗華はどこか上の空だった。
「太宰子様の事が、ご心配でございますか?」
 星刻と麗華が、夫婦になって間もなく中書監に任ぜられた礼花は、二人がどれ程深く愛し合っているか、知っていた。
「良くなっているとはいえ、未だ病を患っている身。本当は、完治するまで休んでほしいというのが、私の本音です。仮にそうした所で、誰も文句は言えないのですから。」
『そして、誰も文句を言わない…。』
 朱禁城に出仕する武人や文官は、星刻がどれほどこの国の為に働いてきたかを、良く知っている。
 もし、星刻がいなければ、大宦官が国を思うがままにし、民を苦しめ、挙句、貴族の地位と引き換えに、ブリタニアにこの国を売り渡していただろう。
 それを食い止め、大宦官を討ち、麗華を救って、国を立て直し、戦場では戦い続けてきた星刻以上に、功名を立てた者はいない。
 まして、重い病を押してである。
 治療法が確立されているので、本来ならば、療養しているのが普通であるが、
太宰子として、やる事が山のようにあるので、治療と両立しながら公務をこなし、戦後の国づくりをしている。
 貴族とはいえ、低い身分の家に生まれた礼花の能力を見込んで、中書監に推したのが、星刻である。
 それ故に、星刻に療養の時間を作れない事が、礼花には歯がゆかった。

 その時、麗華が口を押さえて、膝をついた。
「天子様。いかがなさいました?天子様!?」
 麗華の顔色は、明らかに良くなった。
「誰か、誰かいませんか!?すぐに医師を!」
 その間、嘔吐しそうなのを堪えている麗華の背中を、礼花はさすっていた。

 麗華の侍医である、尚薬奉御の文淑が麗華の寝室から出てくる。
「して、天子さまの容態は?」
 范質が、自分を落ち着かせて、文淑に訊ねる。
「御心配には、及びません。大事を取って今日は休んでいただきますが、命に別条があるというわけでは、ありません。別の意味で、命に関係はございますが。」
 他の文官達が、首を傾げる中、礼花だけが、文淑の言った事を理解した。
「それでは。」
「礼花殿は、お分かりになられたようですな。膳孝殿。後で時間を作っていただきますかな?」
 その日、朱禁城での食事に関する一切の責務を担当する尚食崩御の膳孝と、文淑は、色々な相談をしていた。

「常在戦場だったかな?」
「はっ?」
「スザク殿に聞いたことがある。日本の言葉だ。常に戦場にいるが如く、心構えをしておくべし。そういう意味だ。演習を見て、思い出した。」
 視察の最終日に、北方国境を視察していた星刻は北方国境を警備する鎮北将軍張緋剣に、そう話した。
 さほど長くない期間とはいえ、広大な領土を持つ中華連邦の国境を視察して回るだけに、香凛は常に傍らで星刻の顔色をそれとなく見ていた。
『お顔の色もいい。これならば、確実に完治も望める。』
 実際、星刻の容態は、完治まではまだ時間がかかるが、確実に快方に向かっていた。

「国境も穏やかだな。このまま続いてほしいものだ。」
 専用機の中で、今までの視察状況を報告書にした物を見直し終えてから、薬湯を口にした。
「戦争の種もございません。ですが、軍も弛んではいません。良い事だと考えます。」
 軍が弛めば、汚職の温床となり、治安も乱れる。
 そこを、香凛は心配していたが、今のところはその兆候もないので、安心していた。
「洛陽はどうなっているかな?」
 理由はよく解らないが、星刻は洛陽。
 より正確に言えば、朱禁城の事が、気になっていた。

「お帰りなさい。貴方。視察の状況はどうでしたか?」
『妙だな?何があった。』
 星刻は天子の配偶者にして、中華連邦の重鎮である太宰子であるが、あくまで麗華が、中華連邦の頂点に立つ天子である。
 故に、公務の場では、そこははっきりさせていた。
『それに、これだけの文官や武官。侍女たちまで…。』
 何故、このような事になったのか、星刻にはさっぱり理解できなかった。

「待っていたのですよ。私は。あなたがお帰りになるのを。いえ、私達も、と、言うべきですね。もう、私達夫婦、二人だけの家族ではないのですから…。」
 そう言って、麗華は下腹部に、愛おしげに手を置く。
 それを見て、少ししてから、星刻は麗華が何を言っているのか、理解した。
『そうか…。そうなのか…。私が…。』

「あなた…。」
 星刻の傍に来た麗華は、星刻の手をそっと下腹部に乗せる。
 まだ、命が宿ってからさほどは立っていない。
 だが、自分の中に命が宿っている。
 最愛の夫と、自分の血を引いた命が。
 顔を上げた麗華は、目が潤み、頬が染まっていた。
「私が、父親になるのか…。」
「はい。」
 麗華は、星刻の問いかけに静かに、だがしっかりと答える。
「この国を救い、守り、その果てに死んでいく。嘗て、そう決意し。そのままならば、今頃は墓の中にいた私が、父親に…。」
 嬉しさ。
 喜び。
 戸惑い。
 心に生じ、星刻は何をどう言っていいのか、解らなかった。

「あなたが、あの時、私を妻にしてくださったから、私の体に命が宿りました。正直、あの時、私を選んでくれるか、不安で不安で仕方がなかったのです。約束を守り、大宦官から、私と国を救ってくれたあなたは、誠実で、そして、あまりにも真っ直ぐすぎる。心に遭った、命を賭して国を守る覚悟に、私は勝てるかどうか、自信が無かった。でも、あなたは選んでくれた。私と共に生きていく事を、病と闘う事を。そして、私を支えてくれる事を…。」
「いや。礼を言うのは、私の方だ。ただ、死を見つめ、その時まで、この命を燃やし、この国を守る為に生きると決めていた。あの時の私は、無知で、そして、目を背けていた。だが、妻にして欲しいと言ってくれて、私は生きる事を知り、生きる事に目を向ける事が出来た。それだけではない。優しい温もりが、安らぎが、この世には確かにあるのだと、私に教えてくれて、与えてくれた。そして、父親にもなれる幸福も…。」
 かがんだ星刻は、麗華の下腹部にそっと耳を当てる。
 聞こえるはずのない、いずれ生まれる自分達の子供の心臓の音が聞こえるような気がして、星刻は視界が濡れ、頬に熱いものを感じた。
『泣いているのか。私は、辛いのではなく、苦しいのではなく、悔しいのでもない。嬉しいのだな。人の親になる事が、こんなにも、嬉しい事だったのか…。こんなにも、心が暖かくなるのか…。』
 これほどうれしく思い、涙を流した事は、今まで星刻には無かった。
「嬉しいのだな。私は…。」
 そう言った星刻の頭を、麗華はしばらく撫でてから、優しく抱きよせる。
「私も嬉しいです。そして、幸せです…。ううん、これから、もっと幸せになるのです。私たち家族は。」
「ああ…そうだな。その為にも、私は病に負けている暇などないな…。産まれ来る、子の為にも…。」
「はい。」
 顔を上げた星刻の瞳に映ったのは、優しく微笑んでいる最愛の妻の顔だった。

 その時、洪古が咳ばらいをした。
 慌てて涙を拭いた星刻が見たのは、「見ている方が恥ずかしい。」と言いたげな、武官と文官達。
 そして、微笑ましく自分達を見ている侍女や女官たちだった。

「こちらが、報告書になります。」
「御苦労でした。」
「それでは、私はこれで。」
 一礼して、星刻は枢密院に足早に向かう。
「皆も、各々の執務に戻ってください。」

「なんという、居づらさだ…。」
 中華連邦の武官たちは、独身の者達が多いのでこういう事には慣れていない。
 故に、自分に子が出来た事を心から喜ぶ星刻と、星刻をそっと包み込むような麗華を見ていると、居づらいやら恥ずかしいやら、とにかく、あの場を離れたかった。
「俺も結婚すれば、ああなるのだろうか…。どう思う?守国。」
「俺に聞かれても困る。後で張宰相の所にでも行って来い。孫もおられるしな。」
 そう答える守国だが、あの時の星刻を何故だか羨ましく思えなかったわけではなかった。

「来年には、御子がお産まれになりますわね。」
「どちらかしら?」
 一方、侍女や女官たちは、産まれる子が、男か女かを話していた。
「お世継ぎの事を考えると、男の御子がよろしいのでしょうね。きっと太宰子様の様な、凛々しいお方にご成長あそばすわ。」
「女の御子がお産まれになれば、天子様によく似た可憐なお方なのでしょうね。」
「どちらも、お産まれになれば、おめでたい事、この上ないでしょうね。」
「ええ。服を作る方としても、やりがいがありますもの。」
「お食事もよね。」
 彼女達は、今後の事を楽しみにしていた。

 そして、翌年。
 天子の一族、専門の病院で、星刻は不安を必死に抑えながら、出産の時を待っていた。
 今回は麗華の年齢と年齢相応の体力を考慮して、無痛分娩にし、その道のスペシャリストが呼ばれている。
『どうか、無事に産まれてくれ。私は、それ以外、何も望まないのだ。』
 星刻には、祈る事しかできず、歯がゆさと悔しさを覚えていた。
 その時、赤子の泣く声が聞こえてきた。
『産まれたのか。麗華は無事か。2人も産まれたのだから…。2人?』
 分娩室から、産婦人科医が出てきた。
「おめでとうございます。太宰子様。男の御子と女の御子の双子でございます。御子様方も天子様も、ご健康そのものです。」
 医師もこれほど若い妊婦の出産は、経験が殆ど無いので細心の注意を払っていたが、薄氷を踏む思いだったので、安堵と喜びもひとしおだった。
「会えるか?」
「もちろんですとも。さあ、こちらへ。」

「麗華、大事ないか。」
「はい。ですが、疲れました…。でも、二人も授かった事に比べれば、何と言う事もありません。」
 産湯につかり、新生児用のベッドに寝かされている赤子は、麗華の面影を受け継いだ、女の赤子に、星刻の面影を受け継いだ、男の赤子だった。
「今は、ゆっくり休め。その後、二人で名前を考えよう。」
「はい。」

『そして、今年、もう1人か。大家族になったものだ。』
 書物をしまって、星刻は浴場に急ぐ。
「幸せなのだな。私は。」
 微笑んだ星刻の呟きを、風が運んで行った。

後書き
色々、連載を始めたので、遅れに遅れましたが、書こうと決めていた、星刻と天子の子供が生まれる時の話です。
ただ、それだけを書いたのでは面白みに欠けるかなと思ったので、私生活も織り交ぜてみました。
私の直感みたいなものなんですが、はっきり言って、星刻は色恋沙汰には慣れていないと思いますね。
本人も、体の事もあり、一途に武人として生きてきている人だと思っていますから。
そんな星刻が、人の親になったらどうなるだろうかと思って、書いてみました。
それにしても、この手の話は書いてる方が、恥ずかしいです。
女性に任せるのが、一番ですね。
男は、こういうの書くのはキツいです(笑)

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
星刻がなんでもない日常を過ごしている様子を見ると安心しました。
天子の為に滅私を続けてきた彼が妻に言い負かされている様には憐憫よりも歓喜が先に浮かんできます。
おめでとう星刻。
火消し
2012/10/09 12:08
火消しさん。
コメントありがとうございます。
お元気でしたか?

>天子の為に滅私を続けてきた彼が妻に言い
>負かされている様には憐憫よりも歓喜が先
>に浮かんできます。
 命を削りながら、国家と天子の為に戦い続
 けてきた、忠臣の鏡。
 これくらいの幸せがないとね。
 頑張った人には、相応に良い事がないと、
 希望も何もないですからね。
 国家の重鎮であることに変わりなくとも、
 父として、家族と幸せに過ごしてほしいな
 あと思い、この話を書きました。
 しかし、この手の色恋沙汰じみたものが絡
 む話は、書いてて背中が痒い(笑)。
CIC担当
2012/10/14 00:11

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