第二次世界大戦異史 第18話 戦いの後
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作成日時 : 2011/12/26 00:03
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「ドイツの義勇兵たちが、消えた?」
バルセロナのホテルを借りて設けた司令部で、岡村は思いもよらぬ報告を受けた。
「はっ!イタリアの義勇軍は散り散りに逃げて、フランスを経由して母国に帰還し、捕虜についても、返還に関して、スペイン、イタリア両国で会談が行われるとの事です。」
本間から渡された資料に目を通しながら、岡村は考え込んだ。
あまりにも、周到すぎるように思えた。
航空機や戦車は、戦闘にまぎれて、全て爆破されていた。
しかも、その破壊のされ方が徹底されている。
航空機にしろ、戦車にしろ、重要な部分は念入りに破壊されている。
『はじめから、こうすることが段取りに入っていたな。そうでないと、説明がつかん。しかし、何の為に。』
戦車にしろ、航空機にしろ、目撃証言から最新型であることは間違いない。
戦車は、日本の方が性能は上だが、新型のBf109の性能は侮れないと、山口から話を聞いていた。
十一試艦戦は、新型を4機撃墜したが、十一試艦戦も4機撃墜されている。
性能はほぼ互角。
この事実は、重大である。
この事は、すでに本国に連絡されており、山口としても、広瀬猛陸軍総参謀長と意見交換をしたかったが、記念式典や勲章の授与式等に参加しなければならず、日本に到着するのは早くても9月下旬だ。
岡村としては、勲章など別にどうでもいいが、外交上のこともあるので、勝手に帰途につくわけにも行かない。
『やれやれ…。』
岡村は重い溜息をついた。
関東軍司令部で、石原も内戦終結と、忽然と消えたドイツからの義勇軍については聞いていた。
「閣下は、この事について、どう思われますか?」
矢野が石原に問う。
「君はどう思う。私の傍にいて、何も学んでいないとは、言わせんぞ。」
そう言って、矢野の方を見る。
「始めから、既定の行動だった。自分はそう考えます。」
「ほう?その根拠は。」
石原が、矢野の答えにさらに突っ込む。
「始めからフランコ達に勝たせるつもりなら、最初から、全力で我が軍を叩きつぶすはずです。ですが、結果的に兵力の逐次投入という愚策になってしまいました。セビーリャで粘られた時点で作戦を修正して、他の都市を一時奪われても、我が軍を潰すべきでした。その点から、自分はドイツ側の真の狙いを、見抜いた気がします。」
「聞かせてもらおうか。」
石原に促されて、矢野は浅く深呼吸して、自分の考えを言う。
「現在、ドイツ軍が配備している兵器及び運用法が、どこまで通用するか。それを確かめるのが、真の狙いかと。フランコ達のクーデターが成功する、しないは、どうでもよかったと自分は考えます。でなければ、戦場から消える際の周到ぶりの説明ができません。」
矢野の答えを聞いて、石原は満足そうに頷く。
「そうだな。私も同意見だよ。そういえば、例の11試戦の論争はどうなっているか、本国から知らせは来ていないかね?」
「いえ、何も。」
11試戦とは、中島飛行機が昭和11年から、独自に開発してきた戦闘機だが、2種類開発されている。
しかし、これが、激しい論争を、巻き起こす事になった。
戦闘機の設計思想には、軽戦と重戦の、2種類がある。
前者は格闘戦に優れ、後者は一撃離脱戦に優れる。
欧州機の設計思想は、後者に傾きつつある。
日本もその波に乗るべきだという意見もあれば、戦闘機に必要なのは優れた格闘性能だという意見もある。
この二つが、激しくぶつかり合い。
収拾がつかなく、なっているのである。
「君は、どう思うね?」
「小学校の同期で、航空隊にいる者がおりまして、それぞれの長所を聞くと、軽戦は、低高度での戦闘力に優れ、重戦は高高度での戦闘力に優れると言っていました。」
「ふむ。つまり、重戦は低高度での戦いに引きずり込まれると、不利になり、軽戦は高高度では、重戦には及ばんか。とすると。」
「はっ。どちらの長所を取るかの問題になるかと。」
矢野と話をしながら、石原は考え込んだ。
「だが、戦闘機は上を取った方が有利だ。その点を考えると、おそらく重戦が時代の主流になるだろう。だが、軽戦の長所をすべて捨て去るというのも、どうかという気がするな。」
石原が顎に手をやる。
「まあ、それはひとまず置いておこう。これから、ドイツがどう動くか、それに我が関東軍が最も警戒すべきは、ソビエトだ。いまだに粛清が続き、軍の高官や政府の高官が、次々と処刑場の露となっている。スターリンは自分の周囲をイエスマンだけで固めるだろうが、それについても調べる必要があるからな。」
特務機関が引き続き、調べ上げており、既に10万人が処刑されていると見られているが、スターリンはこれを徹底的に秘匿しているので、情報を収拾するのは、まさに命がけだった。
さらに、粛清は民衆にも及び、これが社会の混乱を招いているので、尚、困難になっている。
「現在は、混乱の真っただ中。だが、スペインに送られた援軍は900両以上の戦車が含まれていたというではないか。我が国は20個機甲師団を有し、戦車は総数5520両。我が関東軍には第16、17、18機甲師団が配備されており、戦車は828両を有する。だが、これではソビエトが、本格的に侵攻してきた場合、苦戦は必至。油断できぬ相手だ。引き続き、警戒を続ける必要がある。」
「はっ!自分もそう思います。中華民国とソビエトとの国境に、諜報員を再度派遣なさいますか?」
「いや、あまり続くと、却って刺激しかねん。今の所は、現状維持でよかろう。ソビエト国内の情報をまめに送ってくれれば、送ってくれればそれでいい。」
『それで、ソビエト軍の手並みも、解るというもの。』
スターリンの粛清の目的は、あくまで自分の権力基盤を、絶対にする事である。
有能な将校は、特に、粛清リストに名を連ねるだろう。
その結果は、いうまでもない。
だが、石原としては自分の目で確かめたかった。
「君の報告書は、じっくりと読ませてもらった。」
ベルリンの総統官邸に、ヒトラーはコンドル軍団の指揮官シュペルレと参謀のリヒトホーフェンを呼んだ。
「つまり、今の我が軍の戦車では、日本の機甲部隊の戦車には、到底勝ち目がない。そういうことだな?」
凄まじい視線を、シュペルレを受ける。
「主砲の威力、装甲の厚さ、速度。どれをとっても劣ります。軽戦車相手なら、
V号戦車で、勝てる確率も出ますが、このまま正面決戦となれば、敗北は必定です。それにオカムラという男。指揮官として優秀な男です。彼以上の指揮官に、日本軍以上に戦車が必要になります。」
「航空機も侮れません。敵の新鋭機に、Bf109E型の先行量産型が4機落とされました。こちらも4機落としましたが、油断はなりません。海軍の空母の充実振りは予想以上です。陸軍も自前の飛行隊を持っております。性能を向上させた戦車と航空機を増産し、強力な組織を編成する。幸い、メルダース注意が考案した、2機でペアを組んで戦う、ロッテ戦法が有効だとわかりましたので、これを取り入れてはいかがかと思います。」
シュペルレに続いて、リヒトホーフェンが自分の見解を述べる。
「では、シュペルレ。我が軍の将校の中で、オカムラを凌ぐ指揮官として、まず、誰が思い浮かぶかね?」
ヒトラーは、苛立ちをどうにか抑えながら、訊ねる。
「私はグデーリアン大佐を、推薦します。彼に我が軍を鍛えさせて、戦車、航空機、機動力を得た歩兵、砲兵の連携を全軍に覚えさせます。後は、各社に命じて、世界トップレベルの戦車に航空機を開発させる。これを実現してこそ、我がドイツは各国に侵略されることのない、強国となりましょう。」
シュペルレの意見を聞きながら、ヒトラーは考えていた。
「なるほど。君の考えが正しかろう。で、航空機部隊は陸軍にも設けるのか?
それとも、今まで通りでいくのか?私が言うのも何だが、海軍に続いて、陸軍にも飛行隊を設けると、さすがにゲーリングが黙ってはおらんぞ。私は、自国の軍が終始いがみ合うなどという事は、避けたいのだがね。」
いつの時代でも、組織同士のいがみ合いは無くならない。
現在、海軍の使用する軍用機の開発が、佳境に入っているが、空軍大臣であるゲーリングが様々な横槍を入れて、海軍総司令官であるレーダーが頭を抱えている事を知った時、さしものヒトラーも呆れかえり、官邸にゲーリングを呼び出し、今後、海軍の軍用機開発の邪魔をしないように釘を刺している。
二度も同じような思いをするのは、御免こうむりたかった。
「総統閣下。私が、陸軍と空軍の間で、各種の調整役をするというのは、如何でしょうか?戦車と航空機の効率的な運用の為には、重砲による砲撃とスツーカによる爆撃の連携が、非常に効果があると、日本軍の攻撃を見ながら、私は感じました。陸軍は戦車の直衛部隊や司令部直属の偵察機に限れば、さほど問題は起きぬかと…。」
リヒトホーフェンが、自ら調整役をかってでる。
「ふむ。なるほど、それなら、ゲーリングも、さほど文句は、言いはすまい。リヒトホーフェン、君は直ちに空軍省に行って、ゲーリングと面会をするように。私から連絡を入れておこう。シュペルレ、君はグデーリアンと共に今後の新型戦車の開発について、メーカーと共に新型戦車の構想について議論せよ。」
「「はっ!」」
シュペルレ、リヒトホーフェンの2人は、官邸の執務室を出て、陸軍省、空軍省に向かった。
ヒトラーはゲーリングに、仔細を話し、リヒトホーフェンとよく話し合うように命じた。
「し、しかし、総統。海軍はともかく、陸軍が航空隊を持つ必要は…。我がルフトヴァッフェにお任せくだされば…。」
これ以上、自分の領分を侵されてはたまらないゲーリングは、ヒトラーに空軍の実力をアピールする。
「ゲーリング…。」
「は、はっ…。」
不意にヒトラーの声が低くなる、それは不可視の手となって、ゲーリングの喉を締め上げる。
「お前が話している相手は、誰だ…?」
「アドルフ・ヒトラー総統閣下であります…。」
ゲーリングは、どうにか声を絞り出す。
「ふむ。総統とは、どのような地位だ?」
「わ、我が第三帝国の頂点に、おられる方にございます…。」
「ならば、私の命令を素直に聞かぬか!!今度、海軍の時のようなことをしたら、貴様をロープで吊るしてやる!!しかと、心に刻んでおけ!!よいな!?」
「は、はっ。申し訳ございません、総統閣下。リヒトホーフェンが到着しだい、持ってきた案件について、協議します。」
「よし。言ったことを、忘れるなよ。」
ヒトラーは叩きつけるように、受話器を置く。
「ふむ。Bf109は、やはり手ごわいですか。」
海軍航空本部を訪れた山口から、スペイン内戦の際の、空戦の事を聞いた井上は眉間に皺を刻んで腕を組んだ。
「全てではなく、新型と思われる12機ですがね。4機を撃墜しましたが、こちらも4機落とさました。それ以外のメッサーシュミットは、相手にもなりませんでしたが。ああ、そうだ。国内では、これからの戦闘機は、格闘性能を重視するか、スピードを重視するか、結論は出ましたか?」
陸軍では、中島の97式で格闘戦重視のタイプか、スピード重視のタイプか、どちらを採用するか、未だに激論が続いている。
「こちらも、陸軍と同じようなものでしてね。格闘戦を重視する方の言う事にも一理はあるから、尚更、厄介ですよ。スピードを重視過ぎると、離着艦が難しくなりますからな。まあ、そちらは解決策がありますから、スピード重視でも大丈夫なのですが。」
少し、疲れたような表情で、コーヒーを飲む。
連日、激論を交わしては、殆ど喧嘩別れ。
井上は、心労がたまっていた。
「井上さん。貴方自身はどちらでいくべきだと、お考えですか?もし、心の中で決められておいでなら、いっそ、会議で意見を仰られた方が、よいかもしれませんぞ。」
「私の意見ですか…。あるにはありますが…。」
言いにくそうな井上の態度に、山口は疑問を持つ。
「どうかなさいましたか?」
深刻な表情をして、井上が口を開く。
「私の意見は、軽戦と重戦の折衷版のいわば中戦なのですよ。」
『なるほどな。さらに論争が、激しくなるかもしれん。』
井上がスピード重視の重戦で気になったのは、爆撃機の護衛がきちんと勤まるかどうかである。
一撃離脱の戦い方では、隙ができて爆撃隊に予想外の被害が出るのではないか?
かと、言って、格闘戦を得意とする軽戦は、翼面荷重を抑えるために、主翼が大きくなり、高高度に到達するのが、重戦より遅くなってしまい、爆撃隊についていけなくなる可能性がある。
高度を低くすれば問題はないが、そんなことをすれば、敵の対空陣地の脅威が増すばかりである。
それらを踏まえて、井上はスピード重視の重戦派ではあるものの、ある程度の運動性をもたせるべきである。と、いう、結論を出した。
「井上さん。立派な根拠があるではありませんか。軽戦にしろ、重戦にしろ、良い点もあれば、弱点もある。中戦はそれを互いに補い合う設計思想だと考えます。ぜひ、皆の前で意見を言うべきです。」
瞑目して、しばし、考え込んだ井上は、決意したように目を開く。
「ありがとう、山口さん。決心がつきましたよ。お礼を申し上げます。」
井上が、山口の手を握る。
「なに、最前線で戦う操縦者諸君に、良い機体に乗ってもらいたいですからな。つい、でしゃばっただけです。」
山口は照れたように、笑う。
それから、1週間後、次期主力戦闘機である十一試艦上戦闘機の性能項目を決定する会議が行われたが、今回は、三菱からオブサーバーとして、堀越二郎、曽根嘉年両技師が出席していた。
「戦闘機に必要なのは、これからも格闘戦能力である。格闘戦に優れた戦闘機があればこそ、制空権を確保できる。」
「欧州では、大出力発動機と強力な武装を搭載した戦闘機が、主流となりつつある。今回のスペインでの、新型メッサーシュミットとの戦いが、よい例ではないか。スピードと上昇力、高高度性能が必要なのだ。」
「十一試戦闘機は、全てを備えている。十一試戦の改良では駄目なのか?」
いつものように、格闘戦能力を重視する一派と、スピードと上昇力を重視する一派の激しい論戦で、始まった。
「論戦も結構だが、今日は技術者側の意見も、聞いてみようと思う。堀越技師、曽根技師、いかがかな。遠慮はいりませんぞ。」
井上は堀越と曽根に、意見を求める。
「それでは、申し上げますが、格闘戦能力を追求した戦闘機は九五式艦上戦闘機で限界に達しています。これ以上は不可能です。それでも、作れと言われれば、私どもは作りますが、敵の新型機に一方的に叩きのめされる事を、覚悟していただきます。」
堀越が、歯に衣着せぬ物腰で、意見を求める。
実際、十一試艦戦の格闘戦能力は、九五式に比べて、だいぶ劣る。
スピードを活かした戦いも併用して、勝利できるのである。
「零戦の性能向上では、対処できんのかね?」
「できても、軽戦から重戦になるのは関の山です。曽根さん。例の資料をお配りしてくれ。」
「はい。」
堀越と並ぶ、戦闘機関係の技術者である曽根が資料を配り始める。
そこには、馬力が向上した発動機を搭載した零戦の、将来の各性能値の予想が書かれていた。
最終的には、今の零戦の性能。
特に上昇力を維持しようとすると、重戦になり、軽戦思想を貫こうとすると、上昇力は著しく低下することが記されていた。
「皆さんには、皆さんの考えがおありでしょうが、これが現実なのです。」
厳格な教師の様に、堀越が出席者全員に告げる。
「そこで、私の考えだ。軽戦と重戦の中間、言わば中戦。十一試艦戦はこの設計思想で開発に当たる。これが、私の結論だ。」
井上が、自らの考えを述べる。
「つまり、格闘戦能力、スピード、双方を出来うる限り併せ持つ戦闘機。それが、井上部長が頭に描く、十一試艦戦の姿なのですね?」
今年、海軍大学を卒業し、海軍航空本部に配属された、源田実少佐が井上に問う。
「そうだ。」
源田の問いに、井上は頷く。
「無理ですぞ。二兎を追えば、一兎をも得ず。と、いう事になりかねません。」
「やはり、ここは格闘戦に優れた…。」
流れが中戦に傾きかけたのを感じかけたのか、軽戦派は、何とか自分達に、流れを引き戻そうとする。
「それで、軽戦にこだわり続け、世界の趨勢から目を背け続け、航空機を作るのに貴重な資材とそれ以上に貴重な搭乗員諸君を、浪費し続けるつもりですかな?」
海軍航空本部の中で、資材調達や生産計画を担当する第一部の部長を務める、沢本頼雄大佐が、静かに軽戦派に訊ねる。
その問いに、誰も答える事が出来なかった。
一口でも、異論をはさめば、資材や貴重な搭乗員の浪費を肯定すると、考えていると解釈される。
そんな風に、思えたからだ。
無論、誰も、そんな事は微塵も考えてはいなかった。
それぞれ、空戦において勝利するには、格闘性能が最も重要だと考えていたにすぎなかった。
結局、十一試艦戦の設計思想は、中戦で行く事が決定され、会議は続けられた。
「助かりました。井上閣下。これで、十一試艦戦に、防御を施せます。」
会議終了後、出席者たちが去った後、堀越は井上に礼を言う。
軽戦派の要求通りだと、防御をろくに施せない戦闘機になる所だったのである。
「いや。こちらこそ、お礼申し上げる。この資料は心強い助っ人だったよ。それにしても、軽戦を貫くと、ここまで上昇力が低くなるとはな。」
小さな溜息をつきながら、井上は改めて資料を読む。
「翼面荷重を小さくしようとすると、どうしても主翼を大きくする必要がありますので、抗力も比例して大きくなります。そればかりか、最大速度も比例して…。」
「弱り目に祟り目か。遠からず、いや、もう、軽戦思想は通用しないようだな。皮肉にも、大出力発動機が登場した事によってな…。」
軽戦思想の戦闘機は、発動機を含めて機体が軽量であってこそ、通用する空戦思想である事を、井上は改めて確認していた。
「それでは、私どもは、十一試艦戦の、設計の見直しが、ありますので。」
「そうか。他の技師たちにも、井上がよろしく言っていたと、伝えておいてくれ。」
「はい。では、失礼します。」
堀越と曽根は、自社に戻った。
その後、この会議の結果は、陸軍航空隊にも伝わり。
次の新型戦闘機は、欧州の設計思想で開発する事が、決定した
「何とか、纏まったか。」
執務室に戻った井上は、コーヒーを飲みながら安堵していた。
『ようやく、艦も竣工し始め、艦隊編成の作業に入る事が出来る。まあ、本格的な編成は、39年にだがな。』
今年、赤城、加賀、扶桑の空母への改装作業が終了。
さらに、中型正規空母蒼龍と飛龍が竣工した。
その他にも、アフリカ方面派遣用として、安価で量産しやすい千倉級が6隻全て竣工。
既に、マダガスカルとジブチに配備されている。
金剛級も、榛名と霧島の改装作業が終了している。
空母と共に、機動部隊を編成する艦も続々と竣工している。
今年、竣工したのは、対空戦能力も向上させた、隅田級軽巡洋艦5隻。
様々な制約から抜け出し、理想の駆逐艦として設計された夕雲級駆逐艦4隻。
予算を考慮し、夕雲級をスケールダウンした、陽炎級8隻。
対空戦専用艦として、空母を護る最後の砦となる、秋月級駆逐艦4隻が竣工している。
この他にも、軍縮条約の対象外となる、小型空母や補助艦艇も多く竣工し、日本連合艦隊は、空母を中心とする機動部隊へと、陣容を整えつつあった。
『後は、艦載機か。各メーカーの技術者諸君には、頑張ってもらいたいものだ。こればかりは、私にはどうにもならないからな。』
コーヒーを飲みながら、井上はそう考えていた。
10月中旬。
葉が色づいた木々を見ながら、井上はようやく安らいだ気分になった
「装甲が薄いですね。これでは、軽戦車にも撃破されます。昨日の試験の結果では、戦車砲の、装甲を貫通する威力も弱い。我が国の九七式を明らかに下回りますね。破損していますから、正確な事は解りませんが、重量は20t前後。この重量でこの性能という事は、明らかに戦車戦を、考慮していないという事です。」
陸軍造兵廠大阪砲兵工廠では、偶然にも完全破壊されていない戦利品として持ちかえってきたドイツ製戦車の調査が、行われていた。
「まあ、その点は我が国の方が異端ですからな。何しろ、海軍の考えから、戦車と戦う事を前提とし、搭載する戦車砲に対しての防御力も、出来る限り持たせておりますからね。他の国から見れば、愚かしい思想に、見えるでしょうね。」
工廠の工兵と、三菱から派遣されてきた技術者が調査を行いながら、意見交換をする。
戦車は対戦車砲が撃破して、戦車は歩兵の援護に徹する。
これが、世界の戦車運用の常識である。
「ですが、さすがに自動車大国ドイツ製。あちこちに優れた面がありますね。こういった面は吸収できますが…。」
「むこうも、今回の戦いで我が国の戦車の性能を、かなり正確に推定するでしょうね。その点は、報告書で強調しておきましょう。現在開発中の戦車で、対応できるかどうか、装甲板の作成段階から、もう一度見直しませんか?」
「賛成ですね。おそらく同じ7.5センチ砲にしても今度は50いや60口径以上の戦車砲を搭載して、80ミリ以上の装甲で車体を覆った強力な戦車が出てくる可能性は決して低くないのですから。」
九七式中戦車が完成してから、すぐに、陸軍は新型戦車の開発に、入っていた。
兵器の進歩は速い。
昨日まで圧勝していた兵器が、明日には惨敗していることなど、珍しくもない。
「どうかな?ドイツの戦車は。」
現在、新型戦車の開発担当である、牧野修一陸軍中佐が、羊羹と緑茶を持ってきて、二人に問う。
「中佐殿。ご苦労様であります。」
「かまわん。楽にしなさい。で、どうかね。」
二人から、ドイツ製戦車の調査結果、並びに自分たちなりの、今後、出現するだろうドイツの新型戦車に現在開発中の戦車に関しての意見を述べる。
その間、牧野は一言も漏らさずに、手帳に書き留める。
「成程。冶金技術は欧米には劣らんが、念の為に、浸炭処理をした方がいいかもしれんな。」
茶をすすりながら、牧野は考え込む。
浸炭処理とは、表面のみ炭素量を増加させ硬化させる処理である。
冶金技術で劣る場合は、同じ厚さでも装甲板の防御力は劣る。
軍事面では、そういった場合の防御力の強化に行われ、民間では、機械部品の強度を増す為に行われる。
「これで終わりかな。ご苦労だった。」
手帳をしまうと、牧野は報告書を作成した。
日本とドイツ、正式に国家同士の戦争が起きたわけではなかったが、戦いは起きた。
そして、その結果から、互いに教訓を得て、それぞれの準備を始める。
ただ違うのは、片方は流血を望まなかった事である。
それが、証明されるのは翌年1938年を、待たなければならなかった。
後書き
戦後処理のお話です。
内乱をあおったからといって、必ずしも成功させる必要はありません。
要は、内乱を起こす事自体を、戦略の一部にすればいいだけですからね。
無論、成功してほしいのは、当たり前ですが、しなければしないでメリットが得られるように考えるのが、こういった事態における優れた戦略だと、考えます。
さて、日本とドイツ、双方の戦車や軍用機は、如何なる進化を遂げますかな?
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