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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第19話 フロム ザット デイ(今自分に出来る事)

<<   作成日時 : 2011/12/03 20:11   >>

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 キツイ…。
 マジでキツイ…。
 おかしいな。
 ここは、ハルフォードじゃないのに、何で、こんなにきついんだ?

「一夏、何をしている?今日の訓練は、まだ半分も終っていないぞ。」
 スポーツウェアを着た、千冬姉が腕組みをしながら、俺を見下ろす。
 俺は、今、ドイツにいる。
 イギリスから日本に帰る際、ドイツ経由になっていて、しかも、それが、千冬姉の地獄の猛訓練だった…。

「Dauer des Aufenthalts?(滞在期間は?)。」
 パスポートを見ながら、入国管理官は滞在期間を訊ねてくる。
「Die vier-tagigen Aufenthalt.(4日間です。)」
 俺が答えて、事務手続きを終えて、入国手続きは完了だ。

 そして、空港では、千冬姉が迎えに来ていた。
「千冬姉。」
「一夏、オルコットは元気にしていたか?」
 俺がイギリスにいるセシリアに行った経緯は、かなり複雑で他人には話せないので、当たり障りのない会話になる。
「ああ。前よりレベルも上がっていたな。それにしても、いるんだなあ。金持って。」
「ほお?では、婿養子にでもなってみたらどうだ?毎日、豪華な暮らしができるぞ。」
 千冬姉がにやにやしながら言う
 地雷だったか…。
「う〜ん。俺は庶民だから、庶民らしく暮らすよ。」
「ふむ、お前は家庭的なのが趣味か。」
 相変わらず、千冬姉はにやにやしている。
 なんでだ?
「ま、来たるべき時には、父親のようにふるまわせてもらうぞ。」
 何、言ってんだ?千冬姉。
 悪いもんでも食ったか?

「で、どうして、ドイツ経由なんだよ?しかも、4日間。観光でもするのか?」
 別にドイツを経由したって、旅費は安くならない。むしろ高くなる。
「来れば解る。行くぞ。」
 そう言って、千冬姉は歩きはじめる。
 何なんだ?一体。
 訳が解らないまま、俺も着いてゆく。

「は?」
 我ながら、間抜けな声を出す。
 目の前にあるのは、ユーロコプター社製EC135の軍用版EC635だった。
「乗るぞ。」
 一言そう言って、さっさと乗る。
「よし、やってくれ。」
 パイロットに言うと、ヘリが飛び立つ。
「千冬姉、これ、どういう事だよ?どこに行くんだよ?」
「ザクセン=アンハルト州の、レッツリンゲンだ。シュヴァルツェ・ハーゼの基地に、国内最大のIS用の訓練場がある、アルトマルク部隊演習場だ。」
 はあ?
 何で、そんなとこに行くんだよ?
「IS委員会から、シュヴァルツェア・レーゲンの改修でもしろって言われたのか?」
 もし、そうなら、うんざりだ。
 ラウラは、大事な仲間だ。
 そのラウラのISシュヴァルツェア・レーゲンは、近距離戦等に偏り過ぎな所があるから、どうかと思っていたから、改修した方がいいとは思っていた。だが、それは、あくまでドイツが決める事だし、これ以上、IS委員会に道具扱いされるのは御免だ。
「4日間、お前に、IS戦の訓練を受けてもらう。ここの所、運動不足だから、みっちりとな…。」
 千冬姉が笑みを浮かべるが、その笑みは、間違いなく獲物を見つけた肉食獣のそれだ。
 そう言えば、極光のデータを取った事以外に、IS動かしてないからな。
 ブランクを埋めておく事も、大切か。
 話している間に、演習場に着いた。

「「「お久しぶりです。教官!」」」
 黒の軍服を着て、右目に眼帯をした軍人らしい女の子達が、千冬に向かって敬礼する。
 部隊証には、ウサギと銃。
 成程、シュヴェルツェ・ハーゼ。
 ラウラが隊長を務める、ISを運用する、ドイツ最強の特殊部隊の隊員か。
 しばらくすると、ラウラが歩いてくる。
「もう少し、遅くお着きになられると思いましたが。」
「私も、そう思っていたが、思ったより早く着いた。で、いつまで、私の弟を珍しげに見ているんだ?」
 隊員全員が、俺を物珍しげに見ている。
「紹介する。私の弟で、白式の専任操縦者の織斑一夏だ。一夏、挨拶しろ。」
「解った。」
 日本語喋れるかどうか解らないから、ドイツ語で自己紹介するか。
「Zunachst allein zu lassen.Mein Name ist Itika Orimura. Ab heute, vier Tage nun geschult, um uns hier zu helfen. Bitte, danke.(初めまして、織斑一夏です。今日から、4日間、こちらで訓練させていただく事になりました。どうぞ、よろしくお願いします。)」
 なんか、俺がドイツ語話せる事に、驚いているな。
「織斑君。皆、日本語は話せる。特殊部隊に語学能力は必須だからな。初めまして、この部隊の副隊長を務めている、クラリッサ・ハルフォーフ大尉。シュヴァルツェア・ツヴァイクの専任操縦者だ。隊長から、君の話はよく聞いている。君の腕前もな。」
 強いな。この人。
 ラウラ程じゃないけど、間違いなく強い。
 それでも、国家代表にはなれるかどうかは、解らない。
 それ位、国家代表への道は、茨の道だという事は、楯無さんやイーリやナタルと戦ったことで、よく解る。

「ハルフォーフ。男子用の更衣室や、シャワールームの手配は、済ませてくれたか。」
 まさか、女性の隊員と同じ部屋で、着替えをさせるわけにも行かないので、千冬はクラリッサに、男子用の更衣室等の準備を頼んでおいた。
「はい。全て。」
「よし、一夏。すぐに着替えて来い。体を慣らしたら、すぐに訓練開始だ。」
「解った。」

「あれが、隊長の嫁か。」
「なんか、カッコよかったよね。」
「ビャクシキって名前よね。強いんでしょう。」
 若い隊員達が、面白そうに話しているが、クラリッサだけは違った。
「一目で解りましたよ。彼は強い…。教官の弟だという点を差し引いてもです。国家代表クラスというのも、頷ける。」
 真剣な目で、一夏の為に用意した、更衣室の方を見ていた。
「努力を惜しまず、毎日、厳しい訓練を課しているからな。どの程度まで成長しているのか、見る必要があると思ってな。」
 千冬の言葉を聞いて、クラリッサが納得したような表情になる。
「能力査定ですか。」

 軍の施設となると、実用性重視。
 まして、質実剛健のお国柄のドイツだと尚更だ。
 ま、俺はそっちの方が好きだから、いいけどな。
 着替えが終わった俺は、外に出た。

「よし、さっそく、ISを展開しろ。」
「解った。」
 その瞬間、光に包まれた一夏は、白式を展開していた。
 2対のウィングスラスター
 小型レールガンを内蔵した、右腕。
 空力的に洗練された、物理装甲。
 そして、何より目を引くのが、掌に大出力荷電粒子砲を備え、物理、エネルギー、そして零落白夜のクローとシールドを展開する、多機能武装腕「雪羅」だ。
 そして、背部のスラスターと脚部には、第四世代技術である、展開装甲を実装している。
 スラスターには多機能ビット「式神」。
 肩部アーマーの下には、特殊散弾砲「鳳仙花」が装備されて、防御兵装として、物理、エネルギー両方に有効な防御フィールド「沖都鏡」がある。
 わずか2機しか存在しない、第四世代ISの1機、白式。
 隊員たちの目はくぎ付けになっていた。
 何せ、各国は、多くの時間と、大量の技術者、莫大な開発費を費やしても、第三世代ISが、ようやく試験段階にこぎつけたばかりだ。
 だが、それと同時に、一夏にも注目が集まる。
 フランスの第三世代ISノブレス・イリュジオン。
 既に、実用段階に達したと言ってもいい。
 これを開発したのが、一夏である。
 IS操縦者、そして開発者としても、一夏は興味の対象である。
 その上、ハンサムなのだから、隊員は見惚れてしまう。

「何をしている!まだ、訓練中だという事を忘れたか!?戻れ!!」
 クラリッサが一喝すると、隊員達はしぶしぶ戻る。
「済まなかったな。ヘルオリムラ。まだ十代。どうしても興味をひかれてしまうんだ。勘弁してやってくれ。」
 クラリッサが謝罪して、軽く頭を下げる。
「別に、気にしてないですよ。俺の事は、オリムラでもイチカでも、どっちでもいいですから。」
 思っていた以上に、気さくで好感の持てる性格である事に、クラリッサは親しみを覚える。
「では、名前で呼ばせてもらおう。私の事もクラリッサでいい。」
「一夏、訓練を始める。まずは、軽く基礎訓練だ。」

「はあっ!」
 横一列に並んだ、ターゲットを纏めて、雪片で斬る。
 まだ、最初だから通常モードだ。
 ここでは、エネルギー消費をなるべく抑えたい。
 次は緩やかな曲線を描きながら、数機のターゲットが編隊を組みミサイルを発射する。
 急降下して、超低空で地面を這うように飛ぶと、ミサイルは地面に激突する。
 背後に回った俺は、空裂で全て仕留める。
 制御コンピューターは少数では、逐次投入になると考えたのか、一気に戦力を投入する。
 う〜ん。さすがにこれはヤバイか。
 残り纏めて、俺を追って来る。
 よし、あれで行くか。
 一機に急上昇した俺は、ループの頂点でPICとスラスターをコントロールして、失速したように見せて横滑りして、斜め旋回をして背後を取る。
「行け!!」
 肩部装甲がスライドして、鳳仙花が発射され、式神が射出され、完全に死角から攻撃されたターゲットは、瞬く間に全滅する。

「す、凄い…。」
 クラリッサは、ダメージを全く受けずに、平均よりずっと短いタイムでターゲットを殲滅させた一夏の実力に、冷や汗をかく。
「ふむ。白式の、エネルギー消費の最適化も、進んでいるな。動きもだいぶ滑らかになっている。まあまあといったところか。」
 驚くクラリッサに比べて、千冬はそれなりに認めていると言ったところだ。
『教官に取っては、あれでも、やれて、当然なのか?』

「よし、一夏。数とスペックを4割増しにする。準備まで10分あるから、エネルギーをチャージしながら、お前も休んでいろ。」
「了解。」
 千冬姉に応えて、俺は休憩用のピットの椅子に座って、各種ミネラルを添加した、プロテインドリンクを飲む。
 数とスペック4割増しは、鬼だぜ。
 あと、一人いれば、大丈夫だけどな。
 今は、ドイツにいるから、ラウラか。
 シュヴァルツェア・レーゲンは、中・長距離をレールカノンで。短距離をワイヤーのコンビネーションで、近接戦闘をプラズマ手刀で戦い、ここぞという時にAICを使用する。
 だが、基本的には接近戦仕様だから、中距離には弱い。
 優秀なパイロットが駆る、イリュジオンみたいなISだったら、苦戦するのは明白だ。
 懐に飛び込まれたら、まず、アウトだろう。
 69口径パイルバンカー「灰色の鱗殻(グレースケール)」
 通称「シールド・ピアース」
 第三世代ISにとっても、脅威であるこいつを連続して使われたら、シールドエネルギーはすぐにゼロになる。
 シュヴァルツェア・レーゲンは確かに強力だが、その反面、意外にもろさも兼ね備えているISなんだが、開発陣は気づいているんだろうか?
 そんな事を考えている内に、10分が過ぎて、エネルギーチャージも終了した。

『こいつは、ちょっときついな。せめて、甲龍並みに燃費のいい機体なら、助かるんだけどな。通常モードの雪片と雪羅のクロー。それに小口径レールガンで出来る限り、何とかするか。捻り込み、通用するといいんだけどな…。』
 飛び交うミサイルとマシンガンを回避しながら、雪片とクローでターゲットを切り裂き、レールガンで撃ち抜く。』
 常に意識を周囲に張り巡らせ、敵の気配を掴む。
 例え、相手が機械であっても、一夏はそれを掴む事が出来る。
 後方からの攻撃であっても、一夏は回避し返り討ちにする。
 今まで積み重ねてきた修練が、それを可能にしていた。
 それは、織斑一夏という人間の歩いてきた跡でも、ある。

「性能と数を、4割増しにしてもこれですか。」
 クラリッサはそれきり、無口になった。
 無口になったというより、言葉が無かった。
「イギリスでは、何かと忙しかったはずだが、腕はなまっていないな。」
 千冬の口調に、クラリッサは何故だか、千冬が安心したように感じた。

「あ、まだ、終ってなかった。」
「急いできたかいがあった〜。」
 訓練を終えた、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が、制御室に入って来る。
「ちょうどいい、見ておくといい。」

 よっしゃ、残り3分の1ってとこか。
 これなら、今の白式なら、普通に戦える。
 空裂で、一気に突破口を作ると、右から迫って来るターゲットを、荷電粒子砲でなぎ払い、式神で、俺が感じた気配を元にターゲットを攻撃しつつ、雪片を、エネルギーブレードにして、次々と叩き斬る。
 ずいぶん減ったな。
 それじゃ、止めと。
 鳳仙花を発射して、残りのターゲットを全て破壊した。

「凄い…。」
「ビット兵器を使いながら、あれだけの兵装を使用するなんて…。」
「機体のパワーもかなりのものなのに、思うように扱ってる。」
「さすが、教官の弟。」
 隊員達も驚く。

「上には上がいるという事が、よく解ったろう?今日見た事を忘れずに、訓練に励め。いいな。」
「「「「はっ!」」」」
 クラリッサの言葉に、全員背筋を伸ばして敬礼する。

 ふう、さすがに疲れたぜ。
 でも、エネルギーの節約と、使いどころの判断は大分慣れてきたな。
 普通のISなら、問題ないが、白式みたいに、エネルギーをドカ食いするISだと、これが相当に難しい。そういえば、箒はそこの所はどうしてるんだろうな。今度、聞いてみるか。
 ドリンクを飲むと、体に染みわたるみたいで心地いい。
 そういえば、あと一回訓練したら昼飯になる位の時刻だよな。
 とすると、もう一戦あるな。
 俺は、エネルギーのチャージを通常から、緊急に切り替えて、レールガンの弾丸の装填を急がせた。

「そう言えば、僅かな時間だが、展開装甲を使用した上での、燃費無視の戦い方が、可能だったな。」
 千冬が思い出したように、ぽつりと呟いた。
「は?それは、一体…。」
 意味が解らず、クラリッサは首を捻る。
「言葉通りだ。白式は、背部のウィングスラスターと脚部に、展開装甲を実装している。それを展開した上で、イグニッションブーストを併用し、スピードと運動性能を飛躍的に高める事が出来る。もっとも、その後はエネルギーは空同然。帰還するのが、精一杯だがな。よし、こちらもターゲットを先程と同じ数で、最高速度と運動性能をマックスにして、やらせて、昼食にするか。」
『な、何だと!?』
 クラリッサは、もはや言葉も出なかった。
 千冬の言葉通りなら、搭乗者の身の安全を無視して、性能向上しか目指していない無茶苦茶なISに、短時間とはいえ、搭乗させるようなものだ。
『本当に、使いこなせるのか?』
 そう思わざるを、得なかった。
『だが、もし、使えるとしたら…。』
 見て見たい。
 ドイツの最新鋭第三世代IS シュヴァルツェア・ツヴァイクの専任として、どうしても、クラリッサはそう欲してしまう。

「一夏。今度は、以前に使った、展開装甲とイグニッションブーストを併用した、白式のフルパワーで訓練を行ってもらう。」
 げっ、白光モードでかよ。
 あの後、白式の、燃費を含む各部の最適化をした際に、俺はそう名付けた上で、制御システムを構築。燃費を出来る限り改善した。
 もっとも、それでも、使えるのは2分45秒が精々だ。
「千冬姉。使えて、2分45秒が限界だぜ?」
「よし、その間に、全てのターゲットを撃破しろ。ターゲットはスペックを最大にセットしてあるからな。気合いを入れろよ。」
 は?
 今、何て言ったよ?
 最大スペックのターゲットを、白光モードで全機破壊しろ!?
 ちょっと、待てって。
 あれって、かなりきついんだぞ。
 少彦名神がなきゃ、よくて、ICU。下手すれば、あの世行き決定だぜ。
 どこまで、スパルタなんだよ。
「早くしろ。それとも、私が相手をするか?偶にISを動かすのも、悪くないしな。」
「了解…。」
 千冬姉となんて、やりあえるかよ。
 自分から、棺桶に入るのと一緒だぜ。
 んじゃ、行くか。
 白光モード起動。

「あれが、展開装甲…。」
 白式の2対あるウィングスラスターと、脚部の展開装甲が展開される。
 映像も公開されていないので、千冬を除けば、全員、見るのは初めてだった。

「行くぜ!!」
 イグニッションブーストを使用して、一気に片付けに掛かる。
 ここまで来ると、燃費も何もない。
 フルパワーで、迅速に撃破する。
 それしかない事を、一夏は理解していた。
 式神を射出し、道を開きながら、レールガンと荷電粒子砲を撃ちまくって、次々とターゲットを撃破していく。
 スペックを最大にセットされたターゲットを撃破するのは、少々面倒なはずだが、白光モードの白式の方が、スペックは上であった。
 問題があるとすれば、搭乗者が耐えうるか否かだ。
 ISは絶対防御やPICといったシステムが、搭乗者の安全を確保するが、無理な機動を行えば、搭乗者は、骨折や内臓損傷といった重傷を、負う事もある。
 それを防いでいるのが、世界で最初のワンオフアビリティ。白騎士の、生体再生機能「少彦名神」である。
 それでも、千冬の課題はハードだった。
 相手は、銃剣付きのマシンガンと多連装ミサイルポッドを、装備している。
 数機が、ミサイルを一斉に発射する。
「くっ!」
 空裂でミサイルを迎撃すると、式神で撃破する。

『ここが使いどころか。』
 肩の装甲がスライドして、鳳仙花を発射する。
 途中で、炸裂して無数のエネルギー弾となり、ターゲットに命中すると一斉に爆発する。
 その間にも、式神にターゲットを迎撃させる。
『きりがない!』
 一夏は、式神の使い方を変える。
 高出力フィールドを纏ったそれは、まるで鏃のようだった。
 それが、縦横無尽に暴れ回り、ターゲットを破壊する。
 式神が多機能ビットと呼ばれる、由縁である。

「何よ!?あの、ISは?」
「信じられない。今配備されている第二世代じゃ、歯が立たない。ううん。第三世代でも、勝てっこないわ。」
「多分、専用のパイロット保護機能があるんだろうけど、それでも、あんな、滅茶苦茶な機動をして、大丈夫なわけないじゃない!」

「教官…。一体、あれは…?」
 クラリッサも、唖然とするしかなかった。
 既存のISを遥かに凌駕する性能に、碌に言葉が出ない。
「いざという時の奥の手だろう。あまり、長続きせんそうだが、もって、あと、20秒か…。」
 白光モードを使用し始めてから、腕時計のタイマーで時間を図ってきた。

 くそ、目が霞む。
 最適化の際に、スペックアップもしているから、俺の体に掛かる負担も半端じゃない。
 後は、そんなにいないな。
 この数だと、接近戦の方が有利だ。すれ違いざまに仕留める。
 俺は、雪片と雪羅のクローを零落白夜にして、一気に突っ込む。
 向こうもそれに釣られるように、突っ込んでくる。ミサイルとマシンガンの弾幕をかわして、すれ違いざまに、残りのターゲットを、全て斬り裂く。
 ミッション・コンプリートだ。
 バテバテだ…。
 俺はISを解除して、ピットに戻る。

「残り8秒か。とりあえず及第点だな。」
 千冬は栄養剤アンプルの入ったケースを持って、制御室を出る。

「あれで、及第点?」
「あれだけやれれば、問題ないでしょ?」
「やっぱりあれかしら?身内だから、採点基準を物凄く辛くしてるとか?」

「それは、どうだろうな。」
 隊員達の会話に、クラリッサが加わる。
「教官が見ていたのは、タイムもそうだが、明らかに技量だ。機動。射撃。白兵戦、ビット兵器の使い方。それぞれを細かく見ていたぞ。」
「それでも、あれだったら合格では?」
「私達の基準ならな。だが、教官は何か理由があるのか、意図的に基準を高くしている。私には、どうも、そう感じられたな。」
 クラリッサは、そう言って制御室を出た。

「今日の訓練の本番は、これからだ。この程度でへばられるわけには、いかんな。」
 アンプルを圧搾式注射器で注射しながら、千冬姉は俺の腕を掴んで立ちあがらせる。
 アンプルが効いてきたのか、立ち上がる力が出るのが今はなんだかうらみがましく思える。
「とりあえず昼飯だ。ビュッフェ方式で食べ放題だ。好きなだけ食べろ。」
 腹八分。
 いや、七分程度にしておこう。
 この分だと、食べ過ぎると午後は吐きそうだ。

「凄かったな。びっくりしたぞ。」
 ハルフォーフ大尉が、千冬姉の隣に座りながら話しかけてくる。
「どうも、ありがとうございます。」
 大尉が苦笑してる。
 結構、微妙な表情してるんだろうな。俺。
「私の嫁だ。凄くて、当然だな。」
 俺の隣に座っているラウラが、マスタードをたっぷりつけた、フランクフルトを食べながら言う。
 他の隊員の人達も、会話に加わりたさそうだけど、千冬姉にラウラ、ハルフォーフ大尉で席が占められているから、会話に加わりたくても加われずにいる。
「午後からは、生身での射撃・格闘訓練だ。そちらの技能が高ければ、さらにISの性能を活かせる。無論、相手は私だ。みっちり鍛えてやるから、覚悟しろよ。」
 千冬姉が、にやりと笑う。
 腹六分にした方が、いいかも…。
「第一、コンドームを持って恥じらいながら迫ってきた誰かの色香にやられて、もう少しで食われそうな状態では、話にならん。もう少し、そちらに耐性をつけんか馬鹿者。」
「「「え〜っ!!」」」
 げ、なんつうことを。
 ただでさえ、女子はこの手の話題が好きなんだから、勘弁してくれよ。
 なんか、隊員の子たちが、作戦会議開いているみたいだし。
 ちなみに、俺に迫ったのを知っているのは、当のラウラと千冬姉、そして、手を貸したハルフォーフ大尉。ラウラは、さすがにばれてほしくないのか、食事を早めに切り上げて、食堂を出る。

 つ、強え…。
 あれから、柔道、空手、合気道、軍隊格闘技、ナイフとたて続けに訓練をしたが、とにかく、強え…。
 手も足も出ない。
 もう、一方的な展開。
 ナイフだけは、多少はいい線いったけどな。
 訓練メニュー、見直さないと駄目か…。
 週末だけでも、習志野で訓練受けられないかな。
 前に、久しぶりに行った時、週に一度くらい来いって言ってたから、今度、聞いてみよう。
 自分を、根本的に鍛え直す必要がある。

「ふむ。射撃だけは、まあ、上出来だな。だが…。」
 千冬姉は、ヘッドフォンとシューティンググラスをつけて、デザートイーグルを立て続けに撃つ。
「これくらいの大口径銃でも、同じ命中率を保てるかやってみろ。」
 マガジンに弾を入れて、俺に渡す。
 俺のUSPが770g。
 一方、千冬姉のデザートイーグルは、.50アクションエクスプレス弾を使用するタイプで、2kgある。
 銃だけでも、重量は2.5倍。
 とにかく、撃ってみる。
 反動もUSPより、だいぶ大きい。
 6発撃ったが、やっぱりばらける。
「大口径銃を選ぶ手配を済ませてある。これからいくぞ。」

 つ、疲れた。
 死ぬ…。
 一日目でこれだ。
 後、3日。俺、耐えきれるのか。
 シャワーを浴びた後、用意された部屋のベッドに倒れ込む。
 とりあえず、手のしびれは取れた。
 俺が選んだのは、S&W M500
 市販される拳銃としては、世界最強と言われるリボルバーだ。
 有名な44マグナムを凌ぐ威力の、500S&Wマグナムを使用する。
 その分、やはり反動も物凄いので、撃ち始めて訓練が終わる事には、手がしびれ出して、食事も少し苦労した。
 でも、乗り越えなきゃな。
 二学期になれば、文化祭にキャノンボールファストと、いろんなイベントが目白押しだ。
 亡国企業。
 嘗て、俺を誘拐し、今でも俺を狙っている謎の組織が、動かないわけがない。
 その為にも、千冬姉がどれだけハードな訓練を課そうともクリアしてみせるさ。
 生徒会長として、学園で奴らの好きにはさせないさ。
 手を出そうものなら、許す気はない。
 皆を護り抜きたい。
 だから、俺は強くなりたい。
 この3日間、有意義に使わせてもらうぜ。千冬姉。
 とりあえず、今日は寝よう…。

『一夏は、もう寝たか。大分しごいたからな。それにしても、よくついてきたな。』
 ウィスキーを飲みながら、千冬は今日一日を思い返していた。
 午前中はISの操縦テクニック。
 午後は、生身での戦闘能力。
 それぞれを、図る為に使ったが、千冬の予想以上に一夏は伸びている。
 IS学園最強になってからも、我武者羅に厳しい修練を積み続けた成果が、きちんと出ている。
 それが、よく解った。
「誰かを護りたい。」
 その思いが、一夏の望みであり、強さの源だ。
 ISの操縦テクニックも、開発技術もその為の手段。

 だが、それを、自国の為に、掠め取ろうとする薄汚い輩が、下水道の溝鼠より多くいる。
 つい、先だっても、イギリス政府が、セシリアの専用機ブルー・ティアーズの改修を一夏に要請したが、その際、千冬にも連絡が来た。
 フランスの件に続いて、2度目ともなると、さすがに千冬とて不機嫌になる。
しかも、外務大臣のヘミングスがいいわけなどするから、千冬の怒りの炎にオクタン価100オーバーのガソリンがぶちまけられた。
「はっきり言われたらどうですか?織斑の技術をよこせと…。」
 いたって穏やかに千冬は言ったつもりだったが、激怒しているのをヘミングスは悟り、丁重に謝罪した。
 ついさっき、連絡が来たが、その時に、千冬ははっきりと言った。
「一夏は、今までになく激怒していましたよ。誰に対してかは、敢えて言いませんが…。」
 千冬はそう言って、敢えて、一方的に通信を切った。

「無力だな…。私は。」
 両親に捨てられた日、千冬は何があっても一夏は護ると誓った。
 しかし、結局は誘拐され、護れず。
 どれだけ、犯人と自分への怒りと憎しみに震えたかは、昨日のように思い出せる。
 当時、既に第一世代IS開発の為のテストパイロットとして、多忙だったが、それを理由に自分を許せる千冬ではない。
 それからは、一夏を護る為だけに強くなってきた。
 第一世代ISが完成したのも、モンド・グロッソで優勝したのも、千冬にとっては、おまけにすぎない。
 だが、今でも守れていないと、千冬は改めて自分の無力を感じて、それをウィスキーと共に飲み干す。
 今、千冬の前に立ちはだかっているのは、政治の力。
 結局、一夏はいいように、利用されている。
 実は、ドイツ出張中にも、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン、クラリッサのシュヴァルツェア・ツヴァイクの改修を一夏に要請する前に、千冬に了解を取ろうと、ドイツ政府の担当者が、千冬の元を訪れた。
「何故、私の了解が必要なのですか?」
 その時、どんな顔をしていたのか、千冬には解らない。
 ただ、政府の担当者は、逃げるように帰って行った事から、よほど恐ろしい表情をしていた事は、確かだ。
 一夏が、自ら申し出て、政府や委員会での協議の結果、改修が決定するならいいだろう。
 それは、一夏が望んだ事だから。
 ただ、一夏を道具の様に使うというのなら、千冬は許す気はなかった。
『だが、どこまで出来るかも解らん。だからせめて、お前を鍛えたい。お前が望む事を出来るように…。だから、強くなってくれよ。一夏…。』
 グラスの中の残りを飲み干した千冬は、濃く水割りを作った。

「何をしているのだ?一夏。」
 翌日、午前中の訓練を終えた一夏は、端末で何か作業をしていた。
「ああ、ちょっとな。」
「ん?これは、シュヴァルツェア・レーゲンの改修案!?」
 喜びかけたラウラだが、千冬の顔を恐る恐る見る。
 出張の最終日に来た、関係者が、逃げるように帰って行った事は、皆が知っているからだ。
 それを見た一夏が理由を説明すると、千冬は黙って頷く。
「お前が必要だと感じ、政府や委員会の了承が取れればいいだろう。オルコットのブルー・ティアーズの改修もしたのだからな。」
 そう言って、食堂を出て行った。
 その後、ラウラから担当者に話しがいき、政府は全力で委員会の了承を取りつけて、一夏はシュヴァルツェア・レーゲンの改修を担当する事となった。

「ようやく日本か。なんか、慌ただしいな。今度こそ、穏やかであってもらいたいぜ。」
 フランクフルト国際空港に向かうEC635の中で、一夏がぼやくのを見て、千冬は苦笑する。
「中学時代の友人でも誘って、遊びに行ったらどうだ?金はあるだろう。ドイツ政府からの報酬はかなりの物だったからな。」
 この時、為替相場は、1ユーロ=140円。
 それで40万ユーロ。
 日本円で、5600万円。
 即日、一夏の口座に振り込まれた。
「なんか、大騒ぎにならなきゃいいけどな。」
「そんな事を言っていたら、家から一歩も出れんぞ。何、周囲もお前も、じきに慣れるさ。」
「だと、いいけどな。」
 年頃の少年らしくしている一夏を、千冬はどこか嬉しそうに見ていた。

後書き
今回は千冬の側に立って、書いて見ました。
学生時代に、両親に捨てられてから、姉としてそして親として、一夏を養い、護り、育ててきた千冬。
唯一人の肉親である一夏には、人一倍厳しく指導しますが、それは強くなって欲しいという願いと、少々、不器用ながらも愛情表現なのでしょう。
大事な家族なのですから、惜しみなく愛情を注いできた事は、間違いないのは確かです。
間違いなく、世界最強のISパイロットの千冬ですが、一人の力には限界があります。
政治の力の前には、どうしても無力です。
だからこそ、出来うる限り、一夏を鍛えて、どんなに辛い事があっても、乗り越えるだけの強さを持ってほしい。
それが、千冬の愛情表現なのだと、私は思います。

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