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キツイ…。 マジでキツイ…。 おかしいな。 ここは、ハルフォードじゃないのに、何で、こんなにきついんだ? 「一夏、何をしている?今日の訓練は、まだ半分も終っていないぞ。」 スポーツウェアを着た、千冬姉が腕組みをしながら、俺を見下ろす。 俺は、今、ドイツにいる。 イギリスから日本に帰る際、ドイツ経由になっていて、しかも、それが、千冬姉の地獄の猛訓練だった…。 「Dauer des Aufenthalts?(滞在期間は?)。」 パスポートを見ながら、入国管理官は滞在期間を訊ねてくる。 「Die vier-tagigen Aufenthalt.(4日間です。)」 俺が答えて、事務手続きを終えて、入国手続きは完了だ。 そして、空港では、千冬姉が迎えに来ていた。 「千冬姉。」 「一夏、オルコットは元気にしていたか?」 俺がイギリスにいるセシリアに行った経緯は、かなり複雑で他人には話せないので、当たり障りのない会話になる。 「ああ。前よりレベルも上がっていたな。それにしても、いるんだなあ。金持って。」 「ほお?では、婿養子にでもなってみたらどうだ?毎日、豪華な暮らしができるぞ。」 千冬姉がにやにやしながら言う 地雷だったか…。 「う〜ん。俺は庶民だから、庶民らしく暮らすよ。」 「ふむ、お前は家庭的なのが趣味か。」 相変わらず、千冬姉はにやにやしている。 なんでだ? 「ま、来たるべき時には、父親のようにふるまわせてもらうぞ。」 何、言ってんだ?千冬姉。 悪いもんでも食ったか? 「で、どうして、ドイツ経由なんだよ?しかも、4日間。観光でもするのか?」 別にドイツを経由したって、旅費は安くならない。むしろ高くなる。 「来れば解る。行くぞ。」 そう言って、千冬姉は歩きはじめる。 何なんだ?一体。 訳が解らないまま、俺も着いてゆく。 「は?」 我ながら、間抜けな声を出す。 目の前にあるのは、ユーロコプター社製EC135の軍用版EC635だった。 「乗るぞ。」 一言そう言って、さっさと乗る。 「よし、やってくれ。」 パイロットに言うと、ヘリが飛び立つ。 「千冬姉、これ、どういう事だよ?どこに行くんだよ?」 「ザクセン=アンハルト州の、レッツリンゲンだ。シュヴァルツェ・ハーゼの基地に、国内最大のIS用の訓練場がある、アルトマルク部隊演習場だ。」 はあ? 何で、そんなとこに行くんだよ? 「IS委員会から、シュヴァルツェア・レーゲンの改修でもしろって言われたのか?」 もし、そうなら、うんざりだ。 ラウラは、大事な仲間だ。 そのラウラのISシュヴァルツェア・レーゲンは、近距離戦等に偏り過ぎな所があるから、どうかと思っていたから、改修した方がいいとは思っていた。だが、それは、あくまでドイツが決める事だし、これ以上、IS委員会に道具扱いされるのは御免だ。 「4日間、お前に、IS戦の訓練を受けてもらう。ここの所、運動不足だから、みっちりとな…。」 千冬姉が笑みを浮かべるが、その笑みは、間違いなく獲物を見つけた肉食獣のそれだ。 そう言えば、極光のデータを取った事以外に、IS動かしてないからな。 ブランクを埋めておく事も、大切か。 話している間に、演習場に着いた。 「「「お久しぶりです。教官!」」」 黒の軍服を着て、右目に眼帯をした軍人らしい女の子達が、千冬に向かって敬礼する。 部隊証には、ウサギと銃。 成程、シュヴェルツェ・ハーゼ。 ラウラが隊長を務める、ISを運用する、ドイツ最強の特殊部隊の隊員か。 しばらくすると、ラウラが歩いてくる。 「もう少し、遅くお着きになられると思いましたが。」 「私も、そう思っていたが、思ったより早く着いた。で、いつまで、私の弟を珍しげに見ているんだ?」 隊員全員が、俺を物珍しげに見ている。 「紹介する。私の弟で、白式の専任操縦者の織斑一夏だ。一夏、挨拶しろ。」 「解った。」 日本語喋れるかどうか解らないから、ドイツ語で自己紹介するか。 「Zunachst allein zu lassen.Mein Name ist Itika Orimura. Ab heute, vier Tage nun geschult, um uns hier zu helfen. Bitte, danke.(初めまして、織斑一夏です。今日から、4日間、こちらで訓練させていただく事になりました。どうぞ、よろしくお願いします。)」 なんか、俺がドイツ語話せる事に、驚いているな。 「織斑君。皆、日本語は話せる。特殊部隊に語学能力は必須だからな。初めまして、この部隊の副隊長を務めている、クラリッサ・ハルフォーフ大尉。シュヴァルツェア・ツヴァイクの専任操縦者だ。隊長から、君の話はよく聞いている。君の腕前もな。」 強いな。この人。 ラウラ程じゃないけど、間違いなく強い。 それでも、国家代表にはなれるかどうかは、解らない。 それ位、国家代表への道は、茨の道だという事は、楯無さんやイーリやナタルと戦ったことで、よく解る。 「ハルフォーフ。男子用の更衣室や、シャワールームの手配は、済ませてくれたか。」 まさか、女性の隊員と同じ部屋で、着替えをさせるわけにも行かないので、千冬はクラリッサに、男子用の更衣室等の準備を頼んでおいた。 「はい。全て。」 「よし、一夏。すぐに着替えて来い。体を慣らしたら、すぐに訓練開始だ。」 「解った。」 「あれが、隊長の嫁か。」 「なんか、カッコよかったよね。」 「ビャクシキって名前よね。強いんでしょう。」 若い隊員達が、面白そうに話しているが、クラリッサだけは違った。 「一目で解りましたよ。彼は強い…。教官の弟だという点を差し引いてもです。国家代表クラスというのも、頷ける。」 真剣な目で、一夏の為に用意した、更衣室の方を見ていた。 「努力を惜しまず、毎日、厳しい訓練を課しているからな。どの程度まで成長しているのか、見る必要があると思ってな。」 千冬の言葉を聞いて、クラリッサが納得したような表情になる。 「能力査定ですか。」 軍の施設となると、実用性重視。 まして、質実剛健のお国柄のドイツだと尚更だ。 ま、俺はそっちの方が好きだから、いいけどな。 着替えが終わった俺は、外に出た。 「よし、さっそく、ISを展開しろ。」 「解った。」 その瞬間、光に包まれた一夏は、白式を展開していた。 2対のウィングスラスター 小型レールガンを内蔵した、右腕。 空力的に洗練された、物理装甲。 そして、何より目を引くのが、掌に大出力荷電粒子砲を備え、物理、エネルギー、そして零落白夜のクローとシールドを展開する、多機能武装腕「雪羅」だ。 そして、背部のスラスターと脚部には、第四世代技術である、展開装甲を実装している。 スラスターには多機能ビット「式神」。 肩部アーマーの下には、特殊散弾砲「鳳仙花」が装備されて、防御兵装として、物理、エネルギー両方に有効な防御フィールド「沖都鏡」がある。 わずか2機しか存在しない、第四世代ISの1機、白式。 隊員たちの目はくぎ付けになっていた。 何せ、各国は、多くの時間と、大量の技術者、莫大な開発費を費やしても、第三世代ISが、ようやく試験段階にこぎつけたばかりだ。 だが、それと同時に、一夏にも注目が集まる。 フランスの第三世代ISノブレス・イリュジオン。 既に、実用段階に達したと言ってもいい。 これを開発したのが、一夏である。 IS操縦者、そして開発者としても、一夏は興味の対象である。 その上、ハンサムなのだから、隊員は見惚れてしまう。 「何をしている!まだ、訓練中だという事を忘れたか!?戻れ!!」 クラリッサが一喝すると、隊員達はしぶしぶ戻る。 「済まなかったな。ヘルオリムラ。まだ十代。どうしても興味をひかれてしまうんだ。勘弁してやってくれ。」 クラリッサが謝罪して、軽く頭を下げる。 「別に、気にしてないですよ。俺の事は、オリムラでもイチカでも、どっちでもいいですから。」 思っていた以上に、気さくで好感の持てる性格である事に、クラリッサは親しみを覚える。 「では、名前で呼ばせてもらおう。私の事もクラリッサでいい。」 「一夏、訓練を始める。まずは、軽く基礎訓練だ。」 「はあっ!」 横一列に並んだ、ターゲットを纏めて、雪片で斬る。 まだ、最初だから通常モードだ。 ここでは、エネルギー消費をなるべく抑えたい。 次は緩やかな曲線を描きながら、数機のターゲットが編隊を組みミサイルを発射する。 急降下して、超低空で地面を這うように飛ぶと、ミサイルは地面に激突する。 背後に回った俺は、空裂で全て仕留める。 制御コンピューターは少数では、逐次投入になると考えたのか、一気に戦力を投入する。 う〜ん。さすがにこれはヤバイか。 残り纏めて、俺を追って来る。 よし、あれで行くか。 一機に急上昇した俺は、ループの頂点でPICとスラスターをコントロールして、失速したように見せて横滑りして、斜め旋回をして背後を取る。 「行け!!」 肩部装甲がスライドして、鳳仙花が発射され、式神が射出され、完全に死角から攻撃されたターゲットは、瞬く間に全滅する。 「す、凄い…。」 クラリッサは、ダメージを全く受けずに、平均よりずっと短いタイムでターゲットを殲滅させた一夏の実力に、冷や汗をかく。 「ふむ。白式の、エネルギー消費の最適化も、進んでいるな。動きもだいぶ滑らかになっている。まあまあといったところか。」 驚くクラリッサに比べて、千冬はそれなりに認めていると言ったところだ。 『教官に取っては、あれでも、やれて、当然なのか?』 「よし、一夏。数とスペックを4割増しにする。準備まで10分あるから、エネルギーをチャージしながら、お前も休んでいろ。」 「了解。」 千冬姉に応えて、俺は休憩用のピットの椅子に座って、各種ミネラルを添加した、プロテインドリンクを飲む。 数とスペック4割増しは、鬼だぜ。 あと、一人いれば、大丈夫だけどな。 今は、ドイツにいるから、ラウラか。 シュヴァルツェア・レーゲンは、中・長距離をレールカノンで。短距離をワイヤーのコンビネーションで、近接戦闘をプラズマ手刀で戦い、ここぞという時にAICを使用する。 だが、基本的には接近戦仕様だから、中距離には弱い。 優秀なパイロットが駆る、イリュジオンみたいなISだったら、苦戦するのは明白だ。 懐に飛び込まれたら、まず、アウトだろう。 69口径パイルバンカー「灰色の鱗殻(グレースケール)」 通称「シールド・ピアース」 第三世代ISにとっても、脅威であるこいつを連続して使われたら、シールドエネルギーはすぐにゼロになる。 シュヴァルツェア・レーゲンは確かに強力だが、その反面、意外にもろさも兼ね備えているISなんだが、開発陣は気づいているんだろうか? そんな事を考えている内に、10分が過ぎて、エネルギーチャージも終了した。 『こいつは、ちょっときついな。せめて、甲龍並みに燃費のいい機体なら、助かるんだけどな。通常モードの雪片と雪羅のクロー。それに小口径レールガンで出来る限り、何とかするか。捻り込み、通用するといいんだけどな…。』 飛び交うミサイルとマシンガンを回避しながら、雪片とクローでターゲットを切り裂き、レールガンで撃ち抜く。』 常に意識を周囲に張り巡らせ、敵の気配を掴む。 例え、相手が機械であっても、一夏はそれを掴む事が出来る。 後方からの攻撃であっても、一夏は回避し返り討ちにする。 今まで積み重ねてきた修練が、それを可能にしていた。 それは、織斑一夏という人間の歩いてきた跡でも、ある。 「性能と数を、4割増しにしてもこれですか。」 クラリッサはそれきり、無口になった。 無口になったというより、言葉が無かった。 「イギリスでは、何かと忙しかったはずだが、腕はなまっていないな。」 千冬の口調に、クラリッサは何故だか、千冬が安心したように感じた。 「あ、まだ、終ってなかった。」 「急いできたかいがあった〜。」 訓練を終えた、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が、制御室に入って来る。 「ちょうどいい、見ておくといい。」 よっしゃ、残り3分の1ってとこか。 これなら、今の白式なら、普通に戦える。 空裂で、一気に突破口を作ると、右から迫って来るターゲットを、荷電粒子砲でなぎ払い、式神で、俺が感じた気配を元にターゲットを攻撃しつつ、雪片を、エネルギーブレードにして、次々と叩き斬る。 ずいぶん減ったな。 それじゃ、止めと。 鳳仙花を発射して、残りのターゲットを全て破壊した。 「凄い…。」 「ビット兵器を使いながら、あれだけの兵装を使用するなんて…。」 「機体のパワーもかなりのものなのに、思うように扱ってる。」 「さすが、教官の弟。」 隊員達も驚く。 「上には上がいるという事が、よく解ったろう?今日見た事を忘れずに、訓練に励め。いいな。」 「「「「はっ!」」」」 クラリッサの言葉に、全員背筋を伸ばして敬礼する。 ふう、さすがに疲れたぜ。 でも、エネルギーの節約と、使いどころの判断は大分慣れてきたな。 普通のISなら、問題ないが、白式みたいに、エネルギーをドカ食いするISだと、これが相当に難しい。そういえば、箒はそこの所はどうしてるんだろうな。今度、聞いてみるか。 ドリンクを飲むと、体に染みわたるみたいで心地いい。 そういえば、あと一回訓練したら昼飯になる位の時刻だよな。 とすると、もう一戦あるな。 俺は、エネルギーのチャージを通常から、緊急に切り替えて、レールガンの弾丸の装填を急がせた。 「そう言えば、僅かな時間だが、展開装甲を使用した上での、燃費無視の戦い方が、可能だったな。」 千冬が思い出したように、ぽつりと呟いた。 「は?それは、一体…。」 意味が解らず、クラリッサは首を捻る。 「言葉通りだ。白式は、背部のウィングスラスターと脚部に、展開装甲を実装している。それを展開した上で、イグニッションブーストを併用し、スピードと運動性能を飛躍的に高める事が出来る。もっとも、その後はエネルギーは空同然。帰還するのが、精一杯だがな。よし、こちらもターゲットを先程と同じ数で、最高速度と運動性能をマックスにして、やらせて、昼食にするか。」 『な、何だと!?』 クラリッサは、もはや言葉も出なかった。 千冬の言葉通りなら、搭乗者の身の安全を無視して、性能向上しか目指していない無茶苦茶なISに、短時間とはいえ、搭乗させるようなものだ。 『本当に、使いこなせるのか?』 そう思わざるを、得なかった。 『だが、もし、使えるとしたら…。』 見て見たい。 ドイツの最新鋭第三世代IS シュヴァルツェア・ツヴァイクの専任として、どうしても、クラリッサはそう欲してしまう。 「一夏。今度は、以前に使った、展開装甲とイグニッションブーストを併用した、白式のフルパワーで訓練を行ってもらう。」 げっ、白光モードでかよ。 あの後、白式の、燃費を含む各部の最適化をした際に、俺はそう名付けた上で、制御システムを構築。燃費を出来る限り改善した。 もっとも、それでも、使えるのは2分45秒が精々だ。 「千冬姉。使えて、2分45秒が限界だぜ?」 「よし、その間に、全てのターゲットを撃破しろ。ターゲットはスペックを最大にセットしてあるからな。気合いを入れろよ。」 は? 今、何て言ったよ? 最大スペックのターゲットを、白光モードで全機破壊しろ!? ちょっと、待てって。 あれって、かなりきついんだぞ。 少彦名神がなきゃ、よくて、ICU。下手すれば、あの世行き決定だぜ。 どこまで、スパルタなんだよ。 「早くしろ。それとも、私が相手をするか?偶にISを動かすのも、悪くないしな。」 「了解…。」 千冬姉となんて、やりあえるかよ。 自分から、棺桶に入るのと一緒だぜ。 んじゃ、行くか。 白光モード起動。 「あれが、展開装甲…。」 白式の2対あるウィングスラスターと、脚部の展開装甲が展開される。 映像も公開されていないので、千冬を除けば、全員、見るのは初めてだった。 「行くぜ!!」 イグニッションブーストを使用して、一気に片付けに掛かる。 ここまで来ると、燃費も何もない。 フルパワーで、迅速に撃破する。 それしかない事を、一夏は理解していた。 式神を射出し、道を開きながら、レールガンと荷電粒子砲を撃ちまくって、次々とターゲットを撃破していく。 スペックを最大にセットされたターゲットを撃破するのは、少々面倒なはずだが、白光モードの白式の方が、スペックは上であった。 問題があるとすれば、搭乗者が耐えうるか否かだ。 ISは絶対防御やPICといったシステムが、搭乗者の安全を確保するが、無理な機動を行えば、搭乗者は、骨折や内臓損傷といった重傷を、負う事もある。 それを防いでいるのが、世界で最初のワンオフアビリティ。白騎士の、生体再生機能「少彦名神」である。 それでも、千冬の課題はハードだった。 相手は、銃剣付きのマシンガンと多連装ミサイルポッドを、装備している。 数機が、ミサイルを一斉に発射する。 「くっ!」 空裂でミサイルを迎撃すると、式神で撃破する。 『ここが使いどころか。』 肩の装甲がスライドして、鳳仙花を発射する。 途中で、炸裂して無数のエネルギー弾となり、ターゲットに命中すると一斉に爆発する。 その間にも、式神にターゲットを迎撃させる。 『きりがない!』 一夏は、式神の使い方を変える。 高出力フィールドを纏ったそれは、まるで鏃のようだった。 それが、縦横無尽に暴れ回り、ターゲットを破壊する。 式神が多機能ビットと呼ばれる、由縁である。 「何よ!?あの、ISは?」 「信じられない。今配備されている第二世代じゃ、歯が立たない。ううん。第三世代でも、勝てっこないわ。」 「多分、専用のパイロット保護機能があるんだろうけど、それでも、あんな、滅茶苦茶な機動をして、大丈夫なわけないじゃない!」 「教官…。一体、あれは…?」 クラリッサも、唖然とするしかなかった。 既存のISを遥かに凌駕する性能に、碌に言葉が出ない。 「いざという時の奥の手だろう。あまり、長続きせんそうだが、もって、あと、20秒か…。」 白光モードを使用し始めてから、腕時計のタイマーで時間を図ってきた。 くそ、目が霞む。 最適化の際に、スペックアップもしているから、俺の体に掛かる負担も半端じゃない。 後は、そんなにいないな。 この数だと、接近戦の方が有利だ。すれ違いざまに仕留める。 俺は、雪片と雪羅のクローを零落白夜にして、一気に突っ込む。 向こうもそれに釣られるように、突っ込んでくる。ミサイルとマシンガンの弾幕をかわして、すれ違いざまに、残りのターゲットを、全て斬り裂く。 ミッション・コンプリートだ。 バテバテだ…。 俺はISを解除して、ピットに戻る。 「残り8秒か。とりあえず及第点だな。」 千冬は栄養剤アンプルの入ったケースを持って、制御室を出る。 「あれで、及第点?」 「あれだけやれれば、問題ないでしょ?」 「やっぱりあれかしら?身内だから、採点基準を物凄く辛くしてるとか?」 「それは、どうだろうな。」 隊員達の会話に、クラリッサが加わる。 「教官が見ていたのは、タイムもそうだが、明らかに技量だ。機動。射撃。白兵戦、ビット兵器の使い方。それぞれを細かく見ていたぞ。」 「それでも、あれだったら合格では?」 「私達の基準ならな。だが、教官は何か理由があるのか、意図的に基準を高くしている。私には、どうも、そう感じられたな。」 クラリッサは、そう言って制御室を出た。 「今日の訓練の本番は、これからだ。この程度でへばられるわけには、いかんな。」 アンプルを圧搾式注射器で注射しながら、千冬姉は俺の腕を掴んで立ちあがらせる。 アンプルが効いてきたのか、立ち上がる力が出るのが今はなんだかうらみがましく思える。 「とりあえず昼飯だ。ビュッフェ方式で食べ放題だ。好きなだけ食べろ。」 腹八分。 いや、七分程度にしておこう。 この分だと、食べ過ぎると午後は吐きそうだ。 「凄かったな。びっくりしたぞ。」 ハルフォーフ大尉が、千冬姉の隣に座りながら話しかけてくる。 「どうも、ありがとうございます。」 大尉が苦笑してる。 結構、微妙な表情してるんだろうな。俺。 「私の嫁だ。凄くて、当然だな。」 俺の隣に座っているラウラが、マスタードをたっぷりつけた、フランクフルトを食べながら言う。 他の隊員の人達も、会話に加わりたさそうだけど、千冬姉にラウラ、ハルフォーフ大尉で席が占められているから、会話に加わりたくても加われずにいる。 「午後からは、生身での射撃・格闘訓練だ。そちらの技能が高ければ、さらにISの性能を活かせる。無論、相手は私だ。みっちり鍛えてやるから、覚悟しろよ。」 千冬姉が、にやりと笑う。 腹六分にした方が、いいかも…。 「第一、コンドームを持って恥じらいながら迫ってきた誰かの色香にやられて、もう少しで食われそうな状態では、話にならん。もう少し、そちらに耐性をつけんか馬鹿者。」 「「「え〜っ!!」」」 げ、なんつうことを。 ただでさえ、女子はこの手の話題が好きなんだから、勘弁してくれよ。 なんか、隊員の子たちが、作戦会議開いているみたいだし。 ちなみに、俺に迫ったのを知っているのは、当のラウラと千冬姉、そして、手を貸したハルフォーフ大尉。ラウラは、さすがにばれてほしくないのか、食事を早めに切り上げて、食堂を出る。 つ、強え…。 あれから、柔道、空手、合気道、軍隊格闘技、ナイフとたて続けに訓練をしたが、とにかく、強え…。 手も足も出ない。 もう、一方的な展開。 ナイフだけは、多少はいい線いったけどな。 訓練メニュー、見直さないと駄目か…。 週末だけでも、習志野で訓練受けられないかな。 前に、久しぶりに行った時、週に一度くらい来いって言ってたから、今度、聞いてみよう。 自分を、根本的に鍛え直す必要がある。 「ふむ。射撃だけは、まあ、上出来だな。だが…。」 千冬姉は、ヘッドフォンとシューティンググラスをつけて、デザートイーグルを立て続けに撃つ。 「これくらいの大口径銃でも、同じ命中率を保てるかやってみろ。」 マガジンに弾を入れて、俺に渡す。 俺のUSPが770g。 一方、千冬姉のデザートイーグルは、.50アクションエクスプレス弾を使用するタイプで、2kgある。 銃だけでも、重量は2.5倍。 とにかく、撃ってみる。 反動もUSPより、だいぶ大きい。 6発撃ったが、やっぱりばらける。 「大口径銃を選ぶ手配を済ませてある。これからいくぞ。」 つ、疲れた。 死ぬ…。 一日目でこれだ。 後、3日。俺、耐えきれるのか。 シャワーを浴びた後、用意された部屋のベッドに倒れ込む。 とりあえず、手のしびれは取れた。 俺が選んだのは、S&W M500 市販される拳銃としては、世界最強と言われるリボルバーだ。 有名な44マグナムを凌ぐ威力の、500S&Wマグナムを使用する。 その分、やはり反動も物凄いので、撃ち始めて訓練が終わる事には、手がしびれ出して、食事も少し苦労した。 でも、乗り越えなきゃな。 二学期になれば、文化祭にキャノンボールファストと、いろんなイベントが目白押しだ。 亡国企業。 嘗て、俺を誘拐し、今でも俺を狙っている謎の組織が、動かないわけがない。 その為にも、千冬姉がどれだけハードな訓練を課そうともクリアしてみせるさ。 生徒会長として、学園で奴らの好きにはさせないさ。 手を出そうものなら、許す気はない。 皆を護り抜きたい。 だから、俺は強くなりたい。 この3日間、有意義に使わせてもらうぜ。千冬姉。 とりあえず、今日は寝よう…。 『一夏は、もう寝たか。大分しごいたからな。それにしても、よくついてきたな。』 ウィスキーを飲みながら、千冬は今日一日を思い返していた。 午前中はISの操縦テクニック。 午後は、生身での戦闘能力。 それぞれを、図る為に使ったが、千冬の予想以上に一夏は伸びている。 IS学園最強になってからも、我武者羅に厳しい修練を積み続けた成果が、きちんと出ている。 それが、よく解った。 「誰かを護りたい。」 その思いが、一夏の望みであり、強さの源だ。 ISの操縦テクニックも、開発技術もその為の手段。 だが、それを、自国の為に、掠め取ろうとする薄汚い輩が、下水道の溝鼠より多くいる。 つい、先だっても、イギリス政府が、セシリアの専用機ブルー・ティアーズの改修を一夏に要請したが、その際、千冬にも連絡が来た。 フランスの件に続いて、2度目ともなると、さすがに千冬とて不機嫌になる。 しかも、外務大臣のヘミングスがいいわけなどするから、千冬の怒りの炎にオクタン価100オーバーのガソリンがぶちまけられた。 「はっきり言われたらどうですか?織斑の技術をよこせと…。」 いたって穏やかに千冬は言ったつもりだったが、激怒しているのをヘミングスは悟り、丁重に謝罪した。 ついさっき、連絡が来たが、その時に、千冬ははっきりと言った。 「一夏は、今までになく激怒していましたよ。誰に対してかは、敢えて言いませんが…。」 千冬はそう言って、敢えて、一方的に通信を切った。 「無力だな…。私は。」 両親に捨てられた日、千冬は何があっても一夏は護ると誓った。 しかし、結局は誘拐され、護れず。 どれだけ、犯人と自分への怒りと憎しみに震えたかは、昨日のように思い出せる。 当時、既に第一世代IS開発の為のテストパイロットとして、多忙だったが、それを理由に自分を許せる千冬ではない。 それからは、一夏を護る為だけに強くなってきた。 第一世代ISが完成したのも、モンド・グロッソで優勝したのも、千冬にとっては、おまけにすぎない。 だが、今でも守れていないと、千冬は改めて自分の無力を感じて、それをウィスキーと共に飲み干す。 今、千冬の前に立ちはだかっているのは、政治の力。 結局、一夏はいいように、利用されている。 実は、ドイツ出張中にも、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン、クラリッサのシュヴァルツェア・ツヴァイクの改修を一夏に要請する前に、千冬に了解を取ろうと、ドイツ政府の担当者が、千冬の元を訪れた。 「何故、私の了解が必要なのですか?」 その時、どんな顔をしていたのか、千冬には解らない。 ただ、政府の担当者は、逃げるように帰って行った事から、よほど恐ろしい表情をしていた事は、確かだ。 一夏が、自ら申し出て、政府や委員会での協議の結果、改修が決定するならいいだろう。 それは、一夏が望んだ事だから。 ただ、一夏を道具の様に使うというのなら、千冬は許す気はなかった。 『だが、どこまで出来るかも解らん。だからせめて、お前を鍛えたい。お前が望む事を出来るように…。だから、強くなってくれよ。一夏…。』 グラスの中の残りを飲み干した千冬は、濃く水割りを作った。 「何をしているのだ?一夏。」 翌日、午前中の訓練を終えた一夏は、端末で何か作業をしていた。 「ああ、ちょっとな。」 「ん?これは、シュヴァルツェア・レーゲンの改修案!?」 喜びかけたラウラだが、千冬の顔を恐る恐る見る。 出張の最終日に来た、関係者が、逃げるように帰って行った事は、皆が知っているからだ。 それを見た一夏が理由を説明すると、千冬は黙って頷く。 「お前が必要だと感じ、政府や委員会の了承が取れればいいだろう。オルコットのブルー・ティアーズの改修もしたのだからな。」 そう言って、食堂を出て行った。 その後、ラウラから担当者に話しがいき、政府は全力で委員会の了承を取りつけて、一夏はシュヴァルツェア・レーゲンの改修を担当する事となった。 「ようやく日本か。なんか、慌ただしいな。今度こそ、穏やかであってもらいたいぜ。」 フランクフルト国際空港に向かうEC635の中で、一夏がぼやくのを見て、千冬は苦笑する。 「中学時代の友人でも誘って、遊びに行ったらどうだ?金はあるだろう。ドイツ政府からの報酬はかなりの物だったからな。」 この時、為替相場は、1ユーロ=140円。 それで40万ユーロ。 日本円で、5600万円。 即日、一夏の口座に振り込まれた。 「なんか、大騒ぎにならなきゃいいけどな。」 「そんな事を言っていたら、家から一歩も出れんぞ。何、周囲もお前も、じきに慣れるさ。」 「だと、いいけどな。」 年頃の少年らしくしている一夏を、千冬はどこか嬉しそうに見ていた。 後書き 今回は千冬の側に立って、書いて見ました。 学生時代に、両親に捨てられてから、姉としてそして親として、一夏を養い、護り、育ててきた千冬。 唯一人の肉親である一夏には、人一倍厳しく指導しますが、それは強くなって欲しいという願いと、少々、不器用ながらも愛情表現なのでしょう。 大事な家族なのですから、惜しみなく愛情を注いできた事は、間違いないのは確かです。 間違いなく、世界最強のISパイロットの千冬ですが、一人の力には限界があります。 政治の力の前には、どうしても無力です。 だからこそ、出来うる限り、一夏を鍛えて、どんなに辛い事があっても、乗り越えるだけの強さを持ってほしい。 それが、千冬の愛情表現なのだと、私は思います。 ブログ村のランキングに参加しております。 来てくださった方は、よろしければクリックをお願いいたします。 励みになりますので。 相互リンクはいつでも大歓迎です。 リンクをしてくださる方は、コメント欄にお書き下さい。 リンクの設定をした後に、お知らせします。 目次へ戻る |
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