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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第18話 フォー マイ コムラード(当然の事)

<<   作成日時 : 2011/11/19 23:30   >>

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「一夏。お前、束に言われて開発した、白式用の高機動パッケージは、テストをしたのか。」
 夕食の片づけをしている時に、千冬姉がそう言ってきた。
「いや、まだだけど。2学期じゃ、駄目かな?ちょっと最近、外、出たくないんだよな。」
 これにはきちんとした理由がある、ちょっと、街に出るたびに、IS関係の企業の営業の人に出くわして、「ぜひ、わが社の装備を!」と売り込んでくるからだ。
 俺はIS学園の生徒なので、基本的に、代表候補や国家代表に装備を売り込む際は、学園の事務方に申請をして、OKを貰ってからするのが本来のやり方なんだが、なんせ、この不景気だ。
 どうにかして、売り込みたいというのが各企業の本音。
 そして、売り込んでからの宣伝効果が一番あるのが、世界で唯一人、ISを扱える男性でIS学園最強であり、生徒会長である、俺だったりする。
 外出するたびにこういう事になって、さすがに俺も参ってしまった。
 故に、外出は控えている。
 元々、宿題も全部終わっているので、それこそ、ひきこもりみたいな状態になっても、何の問題もない。

「イギリスに行きたいとは、思わないか?」
「思わない。」
 即決だね。
 あの食材を冒涜したようなイギリス料理が、毎度、毎度、食卓に上るなんて、拷問以外の何物でもない。
 一度、ネットにうなぎのパイというのがあったので作ってみたが、不味いのなんのって。一生、食いたいとは思わないね。

「オルコットから知らせが来てな。白式の高機動パッケージのテストも兼ねて、別荘で避暑でもどうだろうかと、聞いてくれと、私に連絡があったぞ。返事は、早くしろ。いずれにせよ、テストはやって、データを取る必要はあるだろう?」
 そこを突くか。千冬姉。
 確かに、データを取る必要はある。
 それを元に、調整をする必要はあるしな。
 でも、向こうに行ったら行ったで、スパイが企業だけでなく、SIS(イギリス情報局秘密情報部)まで、情報入手に動きそうだしな。
 はっきり言って、海外で白式を使うのは御免だな。
「俺から、後で断わっておく。データ取りは、国内でやるよ。」
 いざとなったら、俺のラボでもそれなりにデータは取れるしな。

「まあ、そういわず、行ってこい。海外のIS関係の人間と知り合いになっておくのも、悪い事じゃないぞ。」
「白式に関しては、思う存分悪い事だよ。どんだけ、産業スパイが来るか、解ったもんじゃない。アラスカ条約にしても、いざとなったら、あまり機能しないのは、フランスに行った時に証明されているだろ?仮に、向こうが政府の情報機関も企業の関係者も、データ収集時はシャットアウトすると言っても、俺にとっては、空手形だよ。」
 生意気に聞こえたかもしれないが、俺は白式の専任パイロットだ。こいつを守る義務と責任がある。

『私が言うのも何だが、頑固な奴だし、鼻も効く。』
 千冬自身、イギリスがSISを何らかの目的で使用する事は、充分、予想している。
 セシリアもそうだろう。
 ただ、セシリアはイギリスの代表候補。
 それなりに、立場がある。
 防ぎたいだろうが、無理な相談だろう。

「…解った。行かないと、セシリアの立場に影響があるみたいだな。後で連絡しておく、但し、今回は航空機のチケットも、宿泊先も自分で決める。」
 裏にある事情を、おおよそ把握した一夏は片づけを終えて、自分の部屋に行く。

「気づいたか。」
 タイミングがあまりに不自然すぎる事から、確実に一夏は気づいている。と、千冬は考えている。
 裏に、イギリス政府が絡んでいると。
「正直、このままにはしておけんな…。」
 千冬に取って、一夏は大切な弟であり、唯一人の家族だ。
 各国の思惑のままに、おもちゃにさせる気は毛頭ない。

 俺は支度をしながら、裏事情をだいたい理解していた。
 今回は、セシリアは人形で。喋らせている人形遣いは、おそらくSISか、イギリス国防省だろうな。
 多分、EUでの主力機でのトライアルで、先を越されそうになって、白式のデータを少しでも入手しようとしている。
 そんなところだろうか。
 とりあえず、それを確かめておくか。
 このままにしておくのも、友人を見捨てるみたいで、目覚めが悪いしな。

「一夏、入るぞ。」
 支度が終わって、チケットの手配も済んだ頃、千冬姉が入ってきた。
「どうしたんだよ。千冬姉。」
 そう言うと、千冬姉が分厚い財布を、俺に手渡した。
「5000ポンドと、いざという時のクレジットカードを渡しておく。名義はお前だが、引き落としは私の口座だ。むこうで何かあった時に、使え。」
「いいよ。貰う理由ないし。」
 俺だって、いつまでも小遣いを貰うガキじゃないしな。
「いいから、持って行け。何かあった時に、金は必要になる。」
 俺の手に財布を握らせる。
「だったら、俺の口座から下ろせばいいだろ?それぐらいの稼ぎはあるしさ。」
 一応。俺も代表候補級の待遇と言う事で、給料を貰っている。
 ISの開発が出来ると解ったことで、さらに増えている。
「それは、お前が二十歳になってからの、人生設計の為になるべく取っておけ。」
 半ば、無理やり渡すようにして、部屋を出ようとする。
「お前が、大人になって自分の選んだ道を、きちんと歩いて行けるようになるまで、お前を護る。私はあの日、そう誓った。私の給料はお前たちよりずっと高い。蓄えも充分にある。小遣いが必要な時は、私の所にいつでも来い。子供は大人の脛かじりをしながら、大人になるものだからな。」
 そう言って、千冬姉は俺の部屋を出た。
 俺は手渡された、財布を見た。
 5000ポンドとクレジットカードが入った、分厚い財布。
 子供扱いされているのではなく、自分に課した義務の証か。
 そんな事を、俺は、しばらく考えていた。

 ロンドン・ヒースロー空港
 イギリス最大規模の空港で、イギリスの玄関口とも言われる。
 その空港で、一人の少女が落ち着かない様子で誰かを待っていた。
 セシリア・オルコット。
 イギリスの最新鋭第三世代ISブルー・ティアーズの専任操縦者で、イギリスの国家代表候補である。
 彼女は、ある人物を迎えに、この空港まで足を運んでいた。
 だが、その人物は、中々、姿を現さなかった。
 やがて、しょんぼりし始めた表情が、急に一変する。
「一夏さん!」

 ヒースロー空港で、入国手続きをしていると、何人かが俺に気づいて、やれ、サインやら記念写真やらを求められて、どうにか逃げだしてきて、時間が結構オーバーしてしまった。
 今度からは、変装した方がいいのかな?
 少し、考えるか。
「一夏さん!」
 セシリアが、こっちに手を振ってきた。

「迎えに来てくれたのか?わざわざ、悪いな。」
「当然ですわ。イギリスにおられる間は、我が家にご逗留戴くつもりですもの。宿泊先は、まだですのよね?」
 ううん、そう来たか。
 言いにくいけど、きちんと言わないとな。
「気持ちは嬉しいんだけど。もうホテルは予約してるんだ。これから、そこにいくから。じゃあ、明後日の高機動試験ユニットの、テストの時に。」
 俺はそう言って、タクシー乗り場に行こうとすると、ジャケットの袖が何かに引っ張られる。
 後ろを向くと、下を向いたまま、俺のジャケットの袖を握っている。
「悪い、セシリア。ちゃんとした訳があっての事だけど、それは言いたくないんだ。だから、俺のやりたいようにさせてもらえないか?」
 それを聞くと、袖を引っ張る指の力が弱くなる。
「ご存じなんですね…。何もかも…。」
「おおかたの事は、な…。」
 どうやら、俺の予想が大当たりだったらしい。
 おそらく、セシリアの家に泊まるのも、政府の書いた筋書きだな。
 夜、趣味という側面もあるが、ISに関しての研究じみた事をしているのも、当然、知っているはずだ。
 お目当ては、それか…。
 この様子だと、セシリアも察しているらしい。
 こういう事態になるほど、イグニッションプランでの主力機選考は白熱しているのか…。
 セシリアを、利用しなければならないほど…。
 ある意味、かなりまずいな…。
 俺は、携帯を取り出して、泊まるはずだったホテルを、キャンセルした。
 国際ローミング機能が付いてると、便利だな。
 こういう時に、そう思うのは意外だったけどな。

「今更言うのも、何だけどさ…。やっぱ、好意に甘えてもいいかな?」
「え…?」
 セシリアが、信じられないという表情になる。
「見て見たくなったんだ。セシリアが生まれ育った家を。」
 セシリアの表情が、花が咲いたようになる。
「もちろんですわ。一夏さんのお部屋、執事とメイドも選びに選びましたのよ。チェルシー。何時頃に着くかしら?」
 セシリアが、近くにいるメイドに尋ねる。
「ちょうど、アフタヌーンティーの時間でございます。」
「ちょうどいいですわね。さあ、一夏さん。参りましょう。」
 セシリアが乗ってきた高級リムジンで、セシリアの家に向かった。

 デカイ…。
 まず、思ったが、とにかくデカイ…。
 やっぱ、いる所にはいるもんだなあ。金持って。
「「お帰りなさいませ。お嬢様。」」
 多くのメイドや執事達、この家の使用人なんだろう。うやうやしく、セシリアを出迎える。

「ただいま。」
 小さくうなずいて、セシリアは応じる。
 むう、これがセレブというものか。
 俺達、庶民とは別世界だな。
「アレックス、オーレリア。」
「「はい、お嬢様。」」
 使用人の人達の中から、執事とメイドさんが1人ずつ出てくる。
「こちらが、あなたたちがお世話をする、イチカ・オリムラ様です。くれぐれも礼を欠く事のないように。いいですわね。」
「「かしこまりました。お嬢様。」」
 表情も口調も穏やかだが、上に立つ者としての厳しさを俺は感じた気がした。
 そう言えば、セシリアの家って、企業の経営もしてたっけ。これぐらいじゃないと、こういう家の当主は無理なんだろうな。
 こういう点は、学んでおこう。

「こちらが、オリムラ様のお部屋になります。」
 なるほど、こりゃすごい。
 広さは、寮にある俺の部屋と変わらない。
 けど、家具や壁紙、カーペットはずっと豪華だ。
「何か、御用がございましたら、卓上のベルをお鳴らしください。何か、疑問に思われた事は、ございますか?」
 特には無いが、一応聞いておくかな。
「セシリアが、俺がイギリス滞在時にこの部屋を使わせると決めた時から、どうでしたか、その、家具や壁紙とかを選んでいる時にです。」
 俺が、もう宿泊先を選んでいると聞いた時の、沈み具合が気になっていたので、機会があれば聞いておこうと思っていた。

「はい。家具や壁紙、カーペットは、全て、お取り換えになるとおっしゃられて、ご自分で時間をかけて念入りに選んでおられました。その時のお嬢様の、楽しそうなお顔は、奥様や旦那様が亡くなられてからは、一度もご覧になった事はありませんでした。」
 そうか…。
 だからか…。
「そうですか、ありがとうございました。じゃあ、俺は荷物の整理があるんで、これで。」
「そちらは、私どもが。」
 そっか。
 そういうのが、仕事だもんな。
「じゃあ、お願いします。」
「かしこまりました。」

「さて、これでよし。」
 マホガニー製のデスクに、IS関係の専門書の電子版と端末、ストレージを置いて、いつでも作業ができるようにした。
 さて、後は先方が、どれだけの装備を備えてくるかだな。
 SISなら、並みの対防諜シールドなんて、通用しないしな。
 無論、それに対する備えはしている。
 後は、どっちが優れているか。か…。

「そうか。彼は、ミスオルコットの屋敷に、着いたかね。」
 外務英連邦省で、イギリス外務大臣ウィリス・ヘミングスは部下の報告を聞いていた。
「はっ。これから、帰国まで、24時間の監視を開始します。」
「うむ。ぬかるなよ。」
 そう言って、ヘミングスは受話器を置く。
「許してくれたまえよ。ミスターオリムラ。私は公僕として、この国の国益を取らねばならんのだよ。」
 同じ年頃の娘がいる身としては、良心に痛みを感じないわけではなかった。

 絶品としか言いようのないアフタヌーンティーの後に、俺は趣味でもある、IS関連の研究を始めた。無論、俺特製の対防諜システムを作動させた上でだ。
 ま、実を言うと、見られても構わないんだけどな。
 ディスプレイには、一丁のライフルと、一丁の拳銃が表示されていた。
 ライフルの名は、スターライト・アロー。
 拳銃の名は、ムーンライト。
 後は、白式のエネルギー消費の最適化の為の、作業を開始する。
 臨海学校から帰って、3日ぶっ通しで作業をして、かなり燃費は良くなったけど、この作業は継続してやっておかないと、色々大変なのが、白式というISだった。

 その男は、オルコット邸から少し離れたアパートにいた。
 各所に仕掛けられた、システムの一つを作動させて、一夏の端末のディスプレイを録画しようとする。
「悪く思わないでくれよ。これも仕事でね。」
 端末に、システムからの映像が来るはずだった。
 が、何も映ってはいなかった。
「馬鹿な!最新鋭のスパイシステムが、歯がたたんだと!?」
 諜報機関は工作員の育成と共に、工作員に与える装備の開発も日夜行っている。
 今、男が使用しているのも、その一つだ。
 しかし、一夏は端末に特殊な処理を施しており、バイオメトリクスで登録した人間以外には、見えないようにしている。
 但し、写真撮影は不可能だ。
 あくまで映るのは、登録した人間の目だからである。
 つまり、SISが何をしようとも、情報を入手できないのである。
 一夏のスパイ対策が、功を奏していた。

 ふ〜ん。
 やっぱり、いたか。
 けど、これは人間の目を通さない限りは、見えないんだぜ。
 骨折り損のくたびれ儲けだな。
 ご苦労さん。
 悪いけど、諜報機関にくれてやるものは無いんでね。
 国家としては、一般的な道徳を無視してでも、行動しなければならないのは、俺なりに理解している。
 それを、理解していても、俺の大切な仲間であるセシリアを利用するのなら、徹底的に抗うだけだ。

「そうか。まるで、歯が立たんか。やむを得ん、引き上げろ。作戦は中止だ。どうやら、私達は彼を甘く見ていたらしいな。今回の筋書きも彼は呼んでいるだろうな。」
 ヘミングスは、今回の情報収集作戦を、中止する事を決定した。
「証拠を掴んでいるかもしれんな。こちらから赴く必要があるか…。」
 小さな溜息をつきながら、オルコット邸に赴く事を決めた。

「いかがでしたか?我が家のシェフの腕前は?」
 一般的に、旅行者からは「イギリスはいい所だが、料理は不味い。」と、言われ、多くの作家も風景や建造物は褒めるが、食事を褒めた人間はいない。
 しかし、上流階級となると、違ってくる。
 様々な国の料理を組み合わせたフルコースは、絶品である。
「ああ。絶品だったよ。」
 デザートまで、満足そうに食べた一夏を見て、セシリアはくすりと笑う。
 それを見た一夏は、優しい微笑みを浮かべる。
「ど、どうか、なさいまして?」
 セシリアが照れながら、尋ねる。
「今のセシリアの笑顔、いいなって思っただけだよ。じゃあ、俺、ちょっと、やることあるから。」
 アレックスが椅子を引くと、一夏は部屋に戻ろうとする。
「あ、あの、一夏さん…。」
「うん、何だ?」
 セシリアは、一夏に何かを言おうともじもじしていた。
 言いたい事があるのだろう。
 ただ。薔薇色に染まった頬が示す事。
 先程の一夏の言葉が嬉しくて、言葉をうまく紡げないでいる。

 何か、言いたいんだよな。
 こういう場合だと、なんだろうな?
 やっぱり、どうも、女の子って苦手だよなあ。
 どっか、理解できない。
 う〜ん。こういう時は…。

「ハーブティーでも、飲みながら、おしゃべりするか?何でもいいから。」
 一夏がそう言うと、セシリアは嬉しそうに頷く。
 しかし、そうはならなかった。
「失礼します。お嬢様。外務大臣ウィリス・ヘミングス卿が、お出ででございます。」
 さすがに、セシリアも驚く。
「外務大臣が?それで、ご用件は。」
「お嬢様と、オリムラ様にお会いになりたいと…。」
「俺?」
 一夏が、怪訝そうな顔をする。
 列記とした、英国籍を持っているセシリアならともかく、一夏に用件があるのは普通に考えればおかしいとしか言いようがない。
「一夏さん。申し訳ありませんけど、お会いになって下さりませんか?」
「解った。何か、重要そうだしな。」
「ありがとうございます。居間にお通ししてください。それと、紅茶を4人分。」
「畏まりました。」
 メイドが、一礼して下がっていく。
「では、一夏さん。どんな用件かは、解りませんが…。」
「行くと、するか。」

 居間には眼鏡をかけて、髪をきちんと整えた、まさに英国紳士という感じの50代前半の人物、ウィリス・ヘミングスがいた。
「お初にお目に掛かるな。ミスターイチカ・オリムラ。ウィリス・ヘミングスだ。」
「お会いできて、光栄です。ヘミングス外務大臣。それで、ミスオルコットはともかく。ISを動かせる事と、設計できる事を除けば、ありふれた一般市民である、俺に何のご用でしょうか?」
 この一夏の言葉は、痛い所を突いた。
 世界でたった一人、ISを動かせる男性。
 しかも、腕前は国家代表クラス。
 英国籍にできれば、検査と称して、何故、ISを動かせるかどうか、解明できるかもしれない、貴重なモルモットとも言える。
 また、ISの生みの親、篠ノ之束の唯一の弟子で、フランスの第三世代ISノブレス・イリュジオンの開発した天才科学者。
 イグニッションプランの選定対象に急遽加わり、高い性能と汎用性を併せ持つISとして高い評価を得ている。
 一歩、先を行って、うまくいけばEUの主力機に採用されたかもしれない、ブルー・ティアーズよりも評価は高く、イギリス政府も焦っている。
 彼が手がけたISなら、他国のISを大きく引き離してEUの主力機に採用される可能性も低くはない。
 これらの理由から、イギリス政府はSISに命じて、監視及び情報の入手を命じたのである。
「確かに、そうとも言える。だが、君は現実に、優れたIS操縦者で、科学者だ。そして聡い人物でもある。もう、解っているのだろう?」
「大筋は。国家の大義ですか?いずれにせよ、何であろうが、大切な仲間であるセシリアを利用した事を許す気にはなれませんね。」
 一夏の眼が鋭くなる。
「そんな権利が無い位は、解っているつもりだ。今日は、その理由を話に来た。これから話す事は、国家機密。他言無用だ。」
「了解しました。」
「了解。」
 ヘミングスが、対防諜システムを作動させて、空中投影ディスプレイに一機のISのデータを表示する。
「ブルー・ティアーズの発展型ですね。ビットの制御システムが、改良されている。これなら、制御はかなり楽だから、搭乗者の腕前によっては、使用しながら動けますね。このライフルは実弾も使用可能で銃剣付き。駆動系に推進系は、ほとんど変わりなしか。」
 データをざっと見ただけで、一夏はISの特徴を見抜いた。
「さすがというべきかな。第三世代2号機サイレント・ゼフィルス。ブルー・ティアーズで収集したデータを元に、開発されたISだ。だが、ある組織に、強奪された。」
「そんな…。わが英国の最新鋭ISが…。」
 セシリアの顔が、真っ青になる。
「それで、何故、俺にこの事を、話すのですか?理由が、解りませんが…。」
『答えは、予想できるけどな。』
「ミスターオリムラ。ブルー・ティアーズの改修を、お願いしたい。」

 やっぱりな。そう来ると思ったぜ。
 でも、国際関係どうするんだ?
 間違いなく、外交問題に発展するぞ。
 改修作業であっても、各国との調整を着けられるのか?
「姉君には、既に連絡を入れている。非常にお怒りになられていたが、それでも、君の力を借りねばならん。無論、報酬は支払う。通常ルートではないがね。委員会には事後承諾で、なんとか納得させる。」
「大臣。事後承諾に関しては、おそらく無理でしょう。以前のフランスでの学会の出席にイリュジオンの開発。それに、今回の事が重なると、欧州全体の立場が悪くなる可能性があります。協力するのは、やぶさかではありませんが、やはり、委員会の承諾を取るべきでしょう。」
 正直、今回は無理を通しすぎる。
 下手をすれば、日本やアメリカといった、IS開発の先進国の協力も得られなくなる可能性もある。
 はっきり言って、イギリスどころか欧州にとって、デメリットが大きい。
 それこそ、他の外交にも響くだろう。
 夏休み中に、承諾を取りつけて、二学期から改修。
 これが、無難だろう。
 ただ、真相をちゃんと話せればだ。
 最新鋭ISを盗まれましたと、素直に言うと、国家の体面という奴に、でかい傷がつく。
 イギリスが、それを堪える事が出来るだろうか…。

 その時、ヘミングスの携帯のバイブレーターが動いた。
「失礼。私だ。何、そうか。解った。」
 そう話すと、通話を終える。
「ミスターイチカ・オリムラ。英国政府として、要請する。我が国の第三世代ISブルー・ティアーズの改修をお願いしたい。」
 成程。
 さっきの電話は、IS委員会の承諾を取り付けたか。
 この分だと、前から承諾を取り付ける為の、交渉をしていたな。
「承知しました。少し、お待ち願えませんか?前に、作ったライフルがあるのですが、ブルー・ティアーズの戦力アップにもつながると思いますので、少々お待ち下さい。」
 俺は、メモリーにデータを移すべく、部屋に戻った。

「引き受けてくれたか…。」
 セシリアが自分のメイドの、チェルシーを呼び、紅茶を入れ返させた
 ヘミングスはほっとして、入れ替えられた紅茶を飲む。
「よく、引き受けてくれたよ。普通なら、激怒して引き受けないだろうに…。」
 ヘミングスは交渉決裂も、覚悟していた。
「ミスオルコット。今回の事は、君にも謝罪せねばならんな。だが、私も政府の要職にある者。そちらを優先せねばならない事を、どうか理解してほしい。」
 セシリアに向かって、頭を下げる。
「大臣。どうぞ、顔をお上げになって下さい。私なりに理解しています。もちろん、ミスターオリムラも。」
 セシリアが、紅茶を一口飲む。
「彼は優しい人です。やむを得ない理由があったからこそ、今回は承諾してくれたのでしょう。」

「ほう。成程。これは、これは。」
「レーザーも実弾も使用可能。それに銃剣付きで、白兵戦も対応可能なんて、素晴らしいですわ。」
 外務大臣は、データを見るなり感心し、セシリアは目を輝かせる。
 ブルー・ティアーズはレーザー兵器に偏りすぎ、対応を入念に施したISの前では、著しく不利になる弱点を抱えている。
 それを踏まえて、俺は以前から実体弾も発射できる兵装を考えていた。
 レーザーは媒体から光を作り出し、光共振器で増幅し、一定以上の出力になると発射される。
 さらにレールガンを追加している。
 こっちは、最初に弾丸に流し込む電流の出力を上げて、共振器と通常より加速する力を強化した加速部で加速させて発射する。
 これを両立させる為に、加速部と共振器を交互に並べて、それぞれが作動で影響を受けないようにすればいい。
 こうすれば、一つのライフルや拳銃でエネルギー兵器、実弾兵器が使用できる。
 しかも砲身を別々にしていないから、相手はどちらで攻撃が来るかは解らない。
「感謝するよ。ミスターオリムラ。」
「既存技術の応用ですよ。新しい技術を追求するのも大事ですけど、こういう事も大切だと思います。古きを訪ね、新しきを知る。温故知新という言葉が東洋にはあるんです。で、ブルー・ティアーズの改修もこの方向で行きたいと思います。各スラスターの出力を60%向上させると共に、推力偏向型にすることで、機動性を強化します。システムも最適化して、燃費も出来る限りよくしましょう。特に、BT兵器はやっておきたいですね。エネルギーを消費し過ぎていますからね。制御システムに関しては…。」
 こうして、2時間ほど、外務大臣にも解りやすいように、ブルー・ティアーズの改修案を説明した。
 さて、作業は明日からか。
 システムの最適化の、準備くらいは出来るな。
「あの…、一夏さん…。」
 部屋に戻ろうとする俺を、セシリアが呼び止める。
「ん、なんだ?」
 俺が見たセシリアは、俺に対して申し訳なさそうな顔をしていた。
「政府の要請があったとはいえ、申し訳ありません。一夏さんを利用するような事をして。」
 セシリアが、深々と頭を下げる。
「セシリアのせいじゃないだろ?それに、ブルー・ティアーズの弱点は気にしてたしな。じゃ、準備があるから。」
 俺は今度こそ、部屋に戻った。

 う〜ん。
 結局、一睡もしなかったか。
 やりだすと、止まらないのが、俺の悪癖だな。
 結局、必要なシステムプログラムは、全て、作り上げてしまった。
 シャワーで、眠気を吹き飛ばすか。
 この部屋にはシャワーもあるので、こういう時は助かる。
「一夏さん。起きてらっしゃいますか。」
 着替え終わった頃、セシリアがドアをノックする。
「おはようございます。あら?シャワーに入られたんですの?」
「ああ、気分をさっぱりさせたくてな。今日から、ブルー・ティアーズの改修と演習だろう。追加武装パックを必要としない、白式がそれを装備したらどうなるか。データも気になるしな。」
「そうですわね。第四世代は、いかなる状況にも、即時に対応できますから、私たちが使用した時とは、違うデータが取れるかもしれませんわね。」
 セシリアの言った事は、正鵠を射ている。
 即時に如何なる状況にも対応できるという事は、パラメータで表すと、非常にバランスの取れた機体だという事になる。
 だが、それに追加武装パックを使用すると、特徴の部分は突出する。
 その時、ISの中枢であるコアが、どんな反応を示すか。
 俺もそこには、凄く興味がある。

 ロンドンから北北西に、約430km。
 チェビオット丘陵の近辺に、NATOに加盟している国の軍も使用している、イギリス軍の演習場が存在する。
 迎撃ミサイルの使用訓練。
 航空機のエンジン研究施設
 砲兵の演習エリア。
 さまざまな私設の中に、ISの演習場はあった。
 そこには、ISの整備や改修も行える施設もある。
 昨夜の協議の結果、まず、ブルー・ティアーズの改修から行う事が決定した。
 イギリス政府としては、サイレント・ゼフィルスが強奪されたことで神経過敏になり、次に襲来した時に白式に奪還されると、著しくプライドが傷つくのだろう。
「さてと、まずは、スラスターの出力を向上させましょう。その間に、スラスターパーツを作ってください。こちらがデータです。」
 そう言って、一夏は、ブルー・ティアーズの装甲カバーを開けて、エンジンの改修作業に入る。
 その間に、スラスターパーツが自動で作成されていく。
 最近では、データを入力すれば、部品は自動的に作成され、後は人間が検査機器を用いて、きちんと設計通りに作られているかを細かくチェックし、設計通りでないなら、その程度によって作り直したり、調整する。そうして、出来た部品を組み合わせて、ISの各パーツが完成し、それを組み合わせてISとなる。
 今回の部品は、スラスターの推力偏向に関する部分で、イギリスの18番。
 世界初の垂直離着陸航空機を生み出した国の、面目躍如といったところだろう。
 ロールスロイス社製「ペガサス」を作った腕はなまっていない。
 その間に、エンジンの空気の圧縮系を調整して、システムを更新。推力を高める改修をする。
 改修したエンジンは、すこぶる快調で、これに新造した推力偏向式のスラスターパーツを取りつけて、昨日徹夜で作った制御プログラムできちんと動くかを確認する。
 想定通りに動く事を確認した一夏は、満足そうに頷く。
「一夏さん、いつの間に?」
「ああ。昨日の夜、必要なシステムを徹夜で作った。」
 そう言って、一夏は細かいパラメータをチェックする。
 想定内なのだろう。
 頷きながら、チェックを続けて終了する。
「一夏さん。ひょっとして、昨日、お寝すみになっていらっしゃらないのでは?」
 セシリアがおそるおそる、訊ねる。
「俺の悪い癖だな。この手の事になると、つい夢中になって、時間を忘れちまう。」
 そう言いながら、スラスターの改修と推力偏向追加に対応した、シールドの調整に掛かる。
 キータッチの速さたるや物凄い物で、皆が唖然とした。
「じゃあ、始めようか。あっちの方は、明日になるし。」

「セシリア、聞こえる。」
「ええ、よく聞こえますわ。」
 俺は、機体の状態を、全て把握できる端末の前に座って、通信の確認をする。
 何かあった時は、通信がちゃんと出来ないと、セシリアの安否の確認もできない。
「じゃあ、テストを開始するぞ。」

『凄い。このスピード。』
 巡航速度のつもりで飛行していたが、スラスターを改修したブルー・ティアーズのスピードはセシリアの想像を超えていた。周囲の風景が、今までよりずっと速く視界から消えて行く。
 推力偏向機能を使って、急上昇するが、その力強さも以前とは、まるで違った。
 まるで、舞うような機動をするが、全てのスラスターが微妙に推力偏向機能を調節し、以前では出来なかった機動を実現している。

「凄い…。」
「これが、改修の成果か…。」
 いつの間にか集まった、軍のお偉いさんが、テストの結果に驚いている。
 ま、そんな事はどうでもいい。
 俺が、今、見る事は、各スラスターの、推力偏向機能が、正常に作動しているか。スラスターは、正常に作動しているか。各部のシールドは干渉しあっていないか。等の、機体の機能を見て、正常に、稼働しているかどうかだ。
 浮かれ気味だけど、機体はきちんと扱っている。
 テストだってことも忘れていないから、かなりいろんな機動を試している。
 どちらかというと、こういうのできるかな?って、子供みたいに考えているが、むしろそのほうが、データは取れるみたいだな。
 これからの調整に、凄く役に立つ。
 じゃ、本番行くか。

「セシリア、これからターゲットが出るから、撃破してくれ。」
「了解ですわ。」
 じゃ、スタートだ。
 ターゲットと言ったが、ミサイルやレーザー、そして近接戦闘機能もある、実戦バージョンの最新型だから、結構手ごわい。
「行きますわよ。」
 セシリアは、スターライト・アローを実体化して次々と、ターゲットを撃ち抜く。
 レーザーとレールガンを不規則に撃ち分けながらの、高速機動。
 以前のブルー・ティアーズとは、まるで、別の機体だ。
 我ながら、うまくいったな。
「セシリア、ブルー・ティアーズも使ってくれ。制御プログラムは、修正版をインストールしてあるから、機動に支障はないはずだ。」
「了解ですわ。」
 ブルー・ティアーズが、肩のアーマーからパージされ、高速で移動しながら、ターゲットを、撃ち抜く。
 その間に、ムーンライトも実体化させて、両方の兵装で、セシリアはターゲットを撃ち抜く。

「ビットを使用しながら、機動性はまるで落ちん。」
「スペックでは、サイレント・ゼフィルスを上回っておる。」
 お偉いさんが驚く中、セシリアは銃剣も使いこなしていた。
 代表候補は、軍事訓練も受ける。
 銃剣術は、当然、やっているからな。
 まだ、修練の余地ありだけど、こんなもんか。
「セシリア、もう、上がってくれ。」
 よし、後はデータを解析して、微調整をして完成だ。

「よし、終り。」
 収集したデータを解析して、プログラムを修正した一夏は、大きく伸びをする。
「ミスターオリムラ。我が国の要望に応えていただき感謝する。」
「ブルー・ティアーズは、俺の大切な仲間のセシリアが駆る、ISです。見知らぬふりをするわけにはいきません。」
 礼を言うヘミングスに一夏はそう答え、ヘミングスは一夏の真意を理解した。
「あんたらの為に、やったんじゃない。勘違いするな。」
 世界屈指のIS搭乗者であろうとも、従わざるを得ない状況に巻き込む権力を持つ側にいる人間に対する、一夏の、精一杯の反撃だった。

「明日ですわね…。」
 食後の紅茶を飲みながら、セシリアがさみしそうに呟く。
 他の、ブルー・ティアーズの装備の開発にも携わり、白式の高機動パッケージのデータ収集を終えた一夏は、オルコット家の別荘で、3日ほど休養を取ってから、ドイツ経由で、日本に帰る事になった。
「ああ。ありがとうな。いい別荘だな。すっかりリフレッシュできたよ。」
 そう言って、一夏も紅茶を飲む。
「あの…。」
「うん?何だ。」
 喋りにくそうにしていたセシリアが、口を開く。
「私たち、イギリス人の事を、お嫌いになられましたか?」
 口にするのも、返事を聞くのも怖い。
 セシリアの表情は、そう語っていた。
 セシリアを利用して、スパイ活動で、一夏の研究成果を手に入れようとしたが失敗。
 それが駄目なら、IS委員会に働きかけて、ブルー・ティアーズの改修という形で一夏の改修のノウハウを手に入れる。
 イギリスの国益に適うかもしれないが、褒められた手段とは決して言えない。
 こんなやり方をした、自分達イギリス人を、一夏は嫌いになったかもしれない。
 セシリアは、そんな危惧を持ち始めていた。
「政府や軍のお偉いさんは嫌いだな。ただ、それとセシリア達イギリスの人を嫌うかってのは、別の問題だろう?今でも、セシリアは大切な仲間だよ。じゃあ、俺は荷物の整理があるから。」
 そう言って、一夏は部屋に戻った。
『良かった…。』
 セシリアは、心からそう思うと、自然と涙がこぼれおちる。
「お嬢様。よろしゅうございましたわね。」
「チェルシー。ええ、本当に、よかった…。」
 それからしばらく、セシリアは涙を流しはじめた。

 くそ!最低の気分だ!!
 セシリアが、あんな事を聞くのが、どんなに辛いと思っているんだ。
 それとも、お偉いさんっていうのは、今回の事で俺が自分達を嫌うんじゃないのかと、思うんじゃないかって考えもしないのか?
 それほど、想像力が無いのか!?
 考える必要も、ないのか!?
 だったら、俺は、将来、お偉いさんになんかなるのは御免だな!!
 さっさと、旅支度を整えて、俺は眠りについた。

「ほんと、何から何まで、ありがとうな。二学期、学園で。」
「はい。一夏さん、徹夜は御控えになられないと、お体に悪いですわよ。」
 笑顔のセシリアを見て、なんかほっとしたな。
 それにしても、世の中、反論できない事が結構あるもんだなあ。

「じゃ。」
「ええ。」
 セシリアに見送られて、俺はドイツ行きの飛行機に乗った。

後書き
当たり前の事ですが、一人の人間と、国家とは善悪のラインの位置がまるで違います。
たとえば、どんなに貧しくとも、他人の家のお金を盗むのは犯罪で許される事はありません。
しかし、国家としてはどうでしょうか。
国益のためと称して、他国の国土や資源を奪う事が善とされた時代がありました。
例えば、軍事機密に関しては、諜報員を使って盗み出す事は、国益に適うので盗む国にとっては、善となるでしょう。
ISの世界でも、同じような事があるでしょう。
まして、国防に関係すると、綺麗事は言っていられませんからね。
そう考えて、この話を書いてみました
一夏が大事な仲間であるセシリアの為と、自分に言い聞かせて協力しましたが、今回のイギリス政府のやり方は、一夏の基準では明確に悪。
汚い事、この上ない手段です。
しかし、それを強要する側にも、良心に痛みを感じる人間がいる。
結局は正当化してしまうとしてもです。
それを考えると、国をまたいだ人間関係というのは、複雑だな。
そんな事を考えました。

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IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第18話 フォー マイ コムラード(当然の事) cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
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