cogito,ergo sum

アクセスカウンタ

zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第3話 茶室の二人

<<   作成日時 : 2011/07/09 21:30   >>

面白い ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0

 俺の朝は、普通の人よりずっと早い。
 昔から、千冬姉が外に出て働いていたので、家では家事は俺の役目だった。
 さらに、朝飯の支度の前に、俺は欠かさず稽古をしているので、朝はさらに早い。
 IS学園は全寮制だから、食事の支度をする必要はないけど、体に染み込んだ生活習慣は抜けない。
 結果、いつもより、稽古の量が増えている。

 目の前には、数本の藁束がある。
 俺は、左手を鞘に添えて、右手で柄を握る。
 呼吸と態勢を整えて、精神を集中させる。
「はあっ!!」
 鞘から抜かれた刀は、藁束を全て真っ二つにした。
 見物していた剣道部の部員達から、割れんばかりの拍手が聞こえる。
 一礼して、俺は藁束の断面を見る。
 いつもは、爽快なほど綺麗に切れている断面が、ここ、3日ほど、乱れている。
『何でだ…。』
 藁束の断面を手にして、俺は考える。

「やあ?織斑君?見事な腕だね?」
 剣道部の部長さんが、俺の所に来る。
 どうでもいいが、どうして、口調が疑問を言う感じなんだろうか?
 まあ、いいか。
 人それぞれだし。
「それにしてもその刀をよく扱える物だね?持つだけでも一苦労だろう?」
 部長さんの言うとおり、俺の刀は凄く扱いづらい。
 湯殿国親
 それが、俺の刀を打った刀匠の名だ。
 同田貫で有名な、藤原正国の弟子のひとりである那須忠親が、師匠の名の一字を貰い受け湯殿山に籠り、湯殿国親と名を改めて、己が理想の刀を打ち続けた。
 より頑丈で、より切れ味の鋭い刀。
 それを追い求めて、ひたすら打ち続けた刀匠。
 幾本かは世に出回っているが、はっきり言って知名度は低い。
 刀剣収集家でも、特に熱心な人しか知らない。
 何しろ、扱いにくい。
 日本刀は、当初は馬上で使う事を前提としていたが、戦国時代になると馬から降りて戦う事も考慮されるようになって、変化していった。
 ちなみに、江戸時代になってからは、幕府によって刀身の長さが規制されて刃渡り2尺3寸。約70cmが普通になる。戦国後期で刃渡り2尺5寸。約75cm前後が通常のサイズだ。
 まあ、この長さの規制は藩によってまちまちで、薩摩藩では刃渡り3尺。約90cmの刀が、多かった。
 この刀は、刃渡り2尺9寸。約88cm。
 柄の長さは1尺1寸。約36cm。
 全長は、4寸。約1m24cm。
 普通の刀より、身幅も広く重ねも大分厚い。
 結果、抜刀時の重量は、1.8kg。
 ちなみに、日本刀の平均的な重量は、1.2kg前後。
 長さも重さも平均を大きく上回るので、これを自由自在に扱うには、持ち主には相当な身体能力と技量が要求される。
 これも、国親の知名度が低い理由でもある。
 俺自身、こいつを扱えるようになるには、随分、苦労した。

「しかし国親なんてマイナーな刀をよく手に入れられたものだね?誰から譲り受けたのかな?」
 部長さんの実家は、日本刀の鑑定師。
 当然、日本刀の知識は豊富だ。
「俺の武術の師匠ですよ。去年、亡くなられましたけどね。」
 俺は刀を鞘に収めながら、答えた。
 朝食の前に、シャワーを浴びようと部屋に戻る途中、俺はさっきの藁の切断面が気に掛かって仕方無かった。
 何が、俺の心を乱しているんだろうか?

 寮の俺と箒の部屋のドアを、まず見る。
 幼なじみとはいえ、男女が同じ部屋で暮らすのだから、いろいろとルールを決めている。
 まず、どちらかがシャワーに入っている間は、ホワイトボードにその事を書いてドアに掛けておく。
 もし、これを忘れたら、互いに裸を見られようと、着替えている途中を見られようとも、恨みっこなし。
 これが、俺たちの部屋のルールだ。
 うん。箒はシャワーには、入っていないな。

「一夏。稽古は終わったのか?」
 俺より、一足先に稽古を終えて身支度を整えた箒が、食堂に向かおうとしていた。
「ああ。先に行っててくれ。俺もシャワーを浴びてから、行く。
「わかった。」
 箒が部屋を出た後に、ホワイトボードにシャワー使用中と書いて、ドアに掛ける。

「おりむー、おはよう。」
「おはよう。のほほんさん。」
 のほほんさんこと、布仏本音さん。
 そでの長い制服と、異様なほどのスローペースが特長だ。
 そして、気づいた時には、俺のあだ名までつけていた。
 ま、いいけどさ。
「おりむー、いつも稽古してるの?」
「ん?ああ、俺の日課だし。」
「でも、部活は入らないんだね?」
「まあな。」
 焼き魚を一口食べながら、一緒にいる谷本さんに答える。
「おりむーって、中学は何部?」
「帰宅部。家事やんないといけなかったからさ。」
「あ、そうか。織斑先生が学園で仕事してるから、織斑君が家事するしかないんだ。もったいないなあ。沼間中って、剣道強いでしょ。」
 そう言われても、家事を疎かにするわけにもいかないしな。
 何しろ、千冬姉はずっと外で働いているから、家事は苦手だし、仕事から帰ってきてまで家事をやってもらうのは、俺自身嫌だ。
 道場は近くだったし、家事と両立できたから、武術は続けていたけどな。

「おい。早く食べて、教室に行って授業の準備をしろ。」
 朝食を食べていると、担任にして1年生の寮監の千冬姉の声が響く。
 鶴の一声。
 のんびり食べていた生徒が、急いで朝飯を済ませる。
 俺も、味噌汁の最後の一口を呑んで、朝飯を食べ終わらせた。
 さて、今日も一日頑張りますか。

『一夏さん…。』
 クラス代表を決める決闘から、3日。
 セシリアは、話しかけたくても話しかけられない日が続いていた。
 セシリアが勝利すれば、セシリアがクラス代表になる事になっていたが、決闘は一夏の圧勝だった。しかし、その前に一夏の逆鱗に触れて、一夏は自薦のセシリアがなるべきだと言って、自分はならないと宣言。
千冬の提案で、決闘で一夏が勝利した場合は、一夏とセシリアの和解が成立して、初めて一夏がクラス代表になる事になっている。
 一夏は一夏で、クラス代表になろうとはせずに、1組だけがクラス代表が決まっていないという事態になっていた。
 真耶は困り果てていたが、千冬は黙って事態の推移を見守っていた。

「織斑君。御免、ここ教えてもらっていい?」
「ああ。ここか。ここはな。」
 1時間目の授業が終わってから、休み時間の間にクラスメイトから質問を受ける。
 なんでも、俺の教え方は解りやすいらしい。
 千冬姉に恥かかせたくなかったから、家事や稽古の傍ら、勉強も頑張ったからな。
 それのおかげか、俺の教え方は解りやすいのかもしれない。
 人に物を教えるには、他人の三倍はその事に関して理解していなくちゃだめだって、言うしな。
 で、なぜか、俺がクラスメイトに教えている所を見ると、箒がちょっと不機嫌になる。
 なんでだ?
 俺が誰かに物を教えるのが、そんなに不愉快なのか?
 久しぶりに会ったけど、たまに良く解らない所がある。
「授業を始める。全員、席につけ。」
 おっと、千冬姉の授業だ。
 さすがに、皆、席に着くのが早い。
 端末か拳骨か、どちらかが頭に降って来るからな。
 そりゃ、席に着くのも早いさ。
 教科書を広げながら、俺の視界の端に、少し、落ち込んだ様子のオルコットが見えた。

 授業を進めながら、千冬は生徒の様子をつぶさに観察していた。
 千冬の担当する授業とあって、皆、真剣だ。
 一夏は、千冬の厳しさを特に知っているのもあるが、外で働いている千冬に恥をかかせまいと勉強で手を抜く事は無かった。
 箒は、生来、真面目な性格なので、熱心に授業を受けている。
 その中で、授業をきちんと受けながらも、気になるのがセシリアだった。
 代表候補なので、今の授業は受けなくても、はっきり言って問題ない。
 それでも、努力家のセシリアは勉強を疎かにする事はない。
 それは、セシリアに関する書類を見て、千冬もよく理解している。
 だが、どこか、落ち込んだ感じがする。
『ふむ。オルコットが切っ掛けを掴めずにいるか…。さすがに、私も何もせずにはいられないな…。』
 そう考えながら、千冬は授業を進めていた。

「オルコット。昼休み、生徒指導室に来い。話がある。」
「あ、はい。でも、私、何かしましたか?」
 生徒指導室に呼ばれる事に身に覚えのないセシリアは、千冬に訳を訊ねる。
「それは、来てから話す。昼休みだぞ。忘れるな。」
 そう言って、千冬は、教室を出た。

「ねえねえ、聞いた?1組のオルコットさんの事。」
「聞いたわ。千冬様に呼び出しを受けたんでしょう。」
「何、やったのかしら?」
 昼休み、食堂はセシリアの話題で持ちきりだった。
「一夏、どうするんだ?」
「何がだよ。」
 アジフライ定食を頼んだ箒が、天ぷら蕎麦とミニ炊き込みご飯のセットを頼んだ一夏に話しかける。
「オルコットの事だ。この所、様子がおかしい。おそらく、クラス代表の事だろう。」
 それを聞いた一夏の箸の動きが、一瞬止まる。
「やればいいだけだろ。できないなら、辞退すればいいさ。」
 自分は関係ないとばかりに、一夏は蕎麦をすする。
 黙って食事を続ける一夏を、箒はしばらく見ていたが、言っても無駄だと解って箒も食事を続けた。
 基本的には、分け隔てなく優しい性格だが、ここは引かないと決めたら絶対に引かないのが、一夏だ。
 まして、セシリアの罵倒はそう考えさせるのに、充分すぎるほどだった。

「あの…、織斑君…。」
 昼飯を食べ終わった頃、オルコットと席が近いクラスメイトが数人、俺の所に来た。
「なんだ?」
 言いにくそうにしている様を見て、俺は首をかしげる。
「あの…。クラス代表の事なんだけど…。」
 ああ。そういう事か…。
 要するに、俺にやれってことか。
 悪いが無理だね。
 確かに、俺がやれば問題は解決するかもしれない。
 オルコットは俺に謝りたいみたいだから、俺たちも和解しやすくなるかもしれない。
 ただ、あそこまで言われて自分から和解の手を差し伸べるほど、俺は人間ができていない。
 俺は出来る限り、他人に優しくありたい。
 ただ、常に無条件には優しくなれない。
「言いたい事は、解る。ただ、俺にも引けない一線がある。悪いがクラス代表になる気はないよ。」
 トレイを持って、俺は出口に向かう。
「待って。織斑君、話を聞いて。」
 必死に食い下がって来る。
 女同士の友情か?
 周囲が、注目し始めた。
 さすがに、無視はできないか。
 俺は、振り向く。
「私達が、セシリアに言って、必ず、謝らせる。織斑君は不本意だろうけど、今回は妥協して。お願い。」
 そう言って、頭を下げてくる。
 さすがに、ここまでされると無視はできない。
 しょうがないか…。
「解った、話はしてみる。但し、和解に関しては、保証できない。それでもいいならな…。」
「じゃあ、今日の放課後、茶道部の部室に来て。休みだし、ゆっくり話せるから。織斑先生に頼んで、使えるようにして貰うから。」
 ああ、そう言えば、茶道部の顧問は千冬姉だったな。
 てっきり運動部かと思ったが、茶道部の顧問だと聞いた時は、驚いたよ。
 ま、そんな事は、どうでもいい。
 問題は、どんな話をするかだ。
 俺自身、オルコットとどう話せばいいのか、解らないんだよな。
 さて、どうしたもんかな?

「あれ以来、様子がおかしいな。どうした?」
 生徒指導室で、千冬はセシリアと話をしていた。
「はい、すいません…。」
 セシリアは、肩を落として、視線は机を見ていた。
「勘違いするな。別に、注意する為に呼んだわけじゃない。ただ、3日も続くと、担任としては放置するわけにはいかん。そういう事だ。」
「はい…。」
『重傷だな…。』
 原因は、一夏に負けたという単純な理由ではないのだろう。
 どういう形かは解らないが、初めて、男性に好意をもったが、激しく拒絶されたことで、ショックを受け、どうしていいか解らずこうなった。
 千冬はそう考えた。
 セシリアの生い立ちを知れば、今まで、男性に好意を感じた事など無かった事は容易に解る。
 金に群がるハイエナのような男を好きになるとしたら、よほどの物好きか、よほど人生を捨てている女だけだろう。
 無論、セシリアはどちらでもない。
 だからこそ、一夏という存在に戸惑ってもいると、千冬は見ている。
 女尊男碑の世の中であっても、一夏は、常に己を貫こうとする。
嫌な思いをしても、その部分だけは絶対に変わらない。
『イギリスでは、そういう男には出会わなかったか…。』
 ISが実用化されてから、どこの国でも女性優位。
 へつらう男など、別に珍しくも無い。

「話してみたいか?」
 千冬の言葉に、セシリアは顔を上げた。
「でも、どうすれば…。私から、一夏さんにどう話しかければいいのか…。」
「解らないか。」
「はい…。」
 セシリアの答えを聞いて、千冬は心の中で小さな溜息をついた。
 肉親である自分なら、話し方もそれなりにあるが、セシリアとなるとなかなか微妙だった。
 それは、姉としてだけではなく、事実上、親でもあった千冬が誰よりよく知っている。
「録画は見たか?」
「はい。」
 決闘の日、セシリアは自分達の戦いの録画映像を見て、自分がどんな瞳をしていたか、なぜ、一夏を怒らせたかを理解した。
「その辺りから、話をしてみたらどうだ?それなら、お前も幾分かは話しやすいだろう?」
 と言うより、それしかない。
 そう、千冬は考えていた。
「お前がその気なら、私から織斑に話すが、どうだ?場所も用意してやろう。」
 セシリアが答えようとした時に、生徒指導室のドアが叩かれた。

「今は、面接中だ。後にしろ。」
「あの…、織斑君の事なんですけど…。」
 千冬はそれを聞いて、ドアを開ける。
「織斑が、どうかしたのか?」
「セシリアと、話しあってくれるって。私達お願いしたら、聞いてくれたんです?」
「一夏さんが!?」
 セシリアが驚きのあまり、席を立つ。
「ほう。よくやってくれたな。」
 千冬は満足そうに言う。
「それで、織斑先生、今日、部活は休みですけど、茶道部の部室を使う許可をいただきたいんです。」
 もちろん、千冬は許可した。

 放課後、俺は茶道部の部室にいた。
 どういうわけか、茶道具が一式用意されていた。
 つまり、これで茶でも点てろということだろうか?
 あのオルコットだから、緑茶も飲んだ事がないようだから、いきなり抹茶はハードルが高いと思うがな。
 まあ、俺も自分を落ち着かせるのに使えるから、いいか。
 しばらくすると、オルコットが入ってきた。
「ありがとうございます。来てくださって。」
「礼なら、友達に言うんだな。俺は、元々来るつもりはなかった。とりあえず、座ったらどうだ?立ちっ放しもなんだろ。正座がきついなら、足をくずせばいい。」
 オルコットが座ったところで、俺は茶器や茶碗を清めて、茶碗を湯で温める。
「あの、私、ティーセレモニーは初めてで、作法を存じ上げないのですが…。」
「自由にやってくれていい。がちがちにやるばかりが、茶道じゃないからな。ま、互いに落ちつければいいと思っただけだ。」
 茶道は、英語ではティーセレモニー。
 一応、セシリアも言葉ぐらいは知っていたようだ。
 海外でも、茶道を嗜む人は結構多いから、その筋だろう。
 茶碗が温まった頃に、湯を建水に捨てて、棗から薄茶を茶杓で茶碗に入れて、湯を入れ、茶筅で点て始める。
「一夏さんは、作法をどちらで学ばれましたの?」
「武術の師匠の所だ。剣術家たる者。礼儀作法や教養も身につけなければだめだって、言われてな。」
 武術を学んでいた時に、どういうわけか、茶室に連れてこられた時を思い出す。
 その時の俺は、武術だけを学んでいればいいと思っていたが、師匠にその考えをはっきり否定された。
「お前は、武術を身につけた人間で終わりたいのか?こういった事も、後々、大事になる。しっかり、学びなさい。」
 そう言われて、茶道に、書道、さらには舞まで習った。
 まさかこういう時に、役立つとはな。
 何でも、やっておくもんだな。
「どうぞ。」
 薄めに点てた茶を、差し出した。
 これなら、オルコットでも大丈夫なはずだ。
 そして、俺も自分の分を点てた。
「いただきます。」
 一口飲んだオルコットの動きが止まったみたいだが、全部飲めたようだ。
「独特な風味ですけど、美味しいですわね。」
「薄めに点てたから、飲めたようだな。」
 俺も自分の分を飲む。

「で、どうする?互いに話をしないまま3日が過ぎたけど、このままってわけにはいかないだろう?」
「そうですわね…。」
 茶碗をおいて、セシリアが答える。
 2人分の茶碗を清めている間、2人の間には沈黙が下りる。
「あの時…。」
「うん?」
「あの時、決闘の時怒った理由が、はっきりと解りました。私は、あの時、あなたを狩りの獲物と混同していたんですのね。恥ずかしい話ですが、気づきませんでした…。」
 録画を見直してセシリアは、その事に気がついて愕然とした。
 一夏をあそこまで見下していた自分が、決闘の場にいたとは思いもしなかったからだ。
 それが、尚更、セシリアを一夏に話しかけにくくさせた。
「それで、それを知って、お前はどうするんだ?前にも言ったけど、俺は自薦のお前がクラス代表をやるほうがいいと、今でも思っている。だが、和解した時は、千冬姉に言われた通り、クラス代表をやるさ。」
 清め終った茶碗を拭きながら、一夏はセシリアに言って、真正面からセシリアを見た。
「もう一度聞くぜ。あの時の自分を知って、どうするんだ?」
 一夏に言われて、セシリアは息を整える。
「一夏さん。あなたに、聞いてもらいたい事があります。」
 セシリアは、自分の両親の話をし始めた。

「今頃、織斑君とオルコットさんは、話をしている頃ですね。」
 書類仕事をしながら、真耶は千冬に話しかけた。
「心配か?」
「織斑先生は、どうですか?」
「してないわけじゃない。まあ、なるようになるさ。」
 千冬はそう答えて、次の書類に取りかかった。
 それを見た真耶は、うまく和解してくれるように願いながら、再び、自分の書類を片づけ始めた。

「それが、私があなたを侮辱してしまった理由です。本当に、ごめんなさい。もちろん、両親の事を、免罪符にしようなんて思ってはいません。ただ、このままでいるのだけは、嫌でしたの…。」
 俺は、オルコットの言う事を、口を挟まずに聞いていた。
 成程。父親が、原因だったのか。
 子供にとって、親の姿は、男なら女に対する、女なら男に対する見方に大きく影響するからな。
 両親が揃って駄目人間な子供が、人間不信になった。なんて話も、聞いたことがある。
 無理もないか…。
 けど、免罪符にはならないのは、事実だ。
 それは、オルコットも認めている。
 突き放した言い方をすると、それはそっちの事情だろうとも言えるからだ。
 それで、罵倒された人間はたまったものじゃないしな。
 ただ、オルコット自身は決して悪い人間じゃない。
 高飛車な所はあるけど、努力家で、根はいい奴だ。
「後は、あなたが決めて下さい。私と和解したくないと思われるなら、はっきり言ってくださって、構いません。決して、恨んだりはしません。」
 真っ直ぐに俺を見る目は、真剣そのものだった。
 いろいろあったけど、こういう奴と仲たがいしたままってのも、それはそれで、ちょっとな…。

 セシリアは、自分の話を黙って聞いていた一夏を、見ていた。
 自分の心の内は語った。
 これで和解が出来ないとしても、恨む気持ちは無い。
 元々、必ずしも、和解が出来るなんて思ってはいなかったからだ。
 すると、一夏が、再び、茶を点て始めた。
 今度、自分の前におかれた茶は、さっきよりも色が濃く、一夏とほぼ同じだ。

「今度は、薄めにしていない。俺の分とほぼ同じ濃さだ。さっきよりは飲みにくいかもしれないけど、悪くは無いはずだぞ。」
 俺にそう言われて、きょとんとしたオルコットだが、恐る恐る口をつけた。
「あら。本当。美味しいですわ。なのに、私は…。」
 自分の分を飲んだ俺は、茶碗を清めた。
「過ぎた事だ。それでいいんじゃないか?セシリア。」
 もう、名字で呼ぶのもやめにしよう。
 セシリアは、何だか嬉しそうだった。
 名前で呼ばれる方が、嬉しいのか。

『セシリア。セシリア…。一夏さんが、私の事を名前で呼んでくれた。』
 稽古の為に、部屋に向かった一夏がいなくなった茶道部の部室で、セシリアは喜びをかみしめていた。

「いやあ?いつも熱心だね?」
「あ、どうも?」
 稽古を始めようとすると、部長さんに会った。
 刀を抜いて、いつもどおりに稽古を始める。

 あれ?

「おや?どうしたんだい?」
「いえ、何も?」
 この所、太刀筋に僅かな迷いが感じられた気がしてたんだが、今日はそれがない。
『試すか…。』
 藁束を並べて、構える。
「はっ!」
 居合の軌跡にあった藁束が、全て両断される。
 さ、どうかな?
 俺は、両断された藁束を拾い上げる。
 その断面は、爽快なほどきれいだった。
 ああ、そうか。
 なんだかんだいいながら、俺もセシリアと和解したかっただけか。
 でも、それを認めたくなくて、太刀筋が乱れてたのか。
 やれやれ。

「大分、遅れましたが、1組のクラス代表は、織斑君に決定です。」
 翌日のSHRで、一夏が正式にクラス代表に決定した。
 険悪とまではいかないでも、冷え切った仲だった一夏とセシリアが和解した事は、真耶だけでなく、クラスメイト全員が喜び、教室には拍手が鳴り響いた。
「これで、うちのクラスの代表候補も決定。」
「しかも、世界で唯一人、ISを動かせる男子。これをもりたてない手はないわ。」
 ようやくクラス代表が決まって、しかも、それが世界で唯一人ISを使える男子である一夏ということもあって、クラスは盛り上がっていた。

 やれやれ、俺がクラス代表になると、何で、そんなに盛り上がるんだ。
 そりゃ、まあ、今まで中々決まんなかったっていうのはあるけどさ。
 そこまで、大騒ぎするほどの事でもないだろう。
「それで、ですね。やはり、一夏さんといえども、練習の相手は必要だと思うんですの。」
 セシリアが、何故か、頬を赤く染めてもじもじしながら、言う。
 何だ、風邪か?
 箒のが、うつったのか?
「一夏さんの相手をつとめるとなると、やはり、代表候補クラスでないと、力不足だと思いまして、もし、よろしければ、私が…。」
 セシリアがそう言うと、箒が机を叩く大きな音とともに、席を立つ。
「一夏の相手は、私が務める。第一、お前のISは、射撃型だ、一夏のISとはタイプが違う。」
 うん?なんで、箒がセシリアを睨むんだ?
 喧嘩でもしたか?
「あら、適性ランクCの篠ノ之さん。ランクAにして、イギリス代表候補の私以上に、一夏さんの練習相手が務めると思いなのかしら?」
 おいおい、俺が言うのもなんだけど、朝っぱらから喧嘩はやめろよ。

「さえずるな雛ども!私に言わせれば、この時期で、ランクなど大して意味はない。」
 さらに激しくなりそうな2人を、千冬姉が一喝する。
 さすがに、千冬姉には逆らえないか。
 ま、当然だな。
 それにしても、俺とセシリアが和解したかと思えば、今度は箒とセシリアかよ。
 このクラスは、誰かしら喧嘩をするのか?
 これじゃあ、1年間、大変だぜ。

後書き
一夏とセシリアの、和解の話です。
連載当初から、二人を一旦仲たがいさせる事は決めていたのですが、和解のシチュエーションがなかなか決まらなくて、果てどうしようと思っていた時に、
本棚になる、美味しんぼの63巻が目に止まって、そこからヒントを得ました。
最初に、薄めの抹茶を点て、次に普通の濃さの抹茶を点てたのは、自国の文化に誇りを持つのはいいが、他国の文化を馬鹿にしていた事をセシリアに気づかせる為です。
そもそも、文化に高いも低いもありませんよ。
イギリスにはイギリスの素晴らしい文化があるように、日本の文化にも素晴らしい物がある。それは他国も同じだと考えます。
ちなみに、一夏の愛刀湯殿国親は、もちろん、架空の刀ですが、師匠の藤原正国は実在の人物です。

ブログ村のランキングに参加しております。
来てくださった方は、よろしければクリックをお願いいたします。
励みになりますので。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

相互リンクはいつでも大歓迎です。
リンクをしてくださる方は、コメント欄にお書き下さい。
リンクの設定をした後に、お知らせします。

目次に戻る

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 8
面白い 面白い 面白い 面白い 面白い 面白い 面白い
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ブログランキング・にほんブログ村へ
IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第3話 茶室の二人 cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる