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zoom RSS IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第6話 生徒会長の挑戦

<<   作成日時 : 2011/07/30 19:21   >>

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「はああっ!!」
 気合いと共に、俺は藁束数本を纏めて両断する。
 刀身についた藁屑を振り落とすと、ぶんっという音がする。
「やあ?織斑君、精が出るね?」
「あ、部長さん。場所を貸していただいて、ありがとうございます。」
 一日のトレーニングの仕上げの剣の稽古を終えて、俺は場所を貸してくれた剣道部の部長さんに、頭を下げてお礼を言う。
「気にしないでいいよ?そこは、使っていない場所だ、自由に使ってくれていいからね?」
 ほんと、いつも疑問口調だな。
 いい加減に、慣れたけどな。
「ところで、織斑君?いい加減に剣道部に入部する決心はついたんだろうね?」
 え、何でそうなるんですか?
 前にも言ったと思いますけど、俺は部活に入る気はありませんよ。
 訓練が、忙しいですから。
「まあ、まあ、そう言わないで。白式は、白兵戦で本領を発揮するISなんだから、是非剣道部に来るべきよ。」
 副部長をしている、3年の吉田先輩が俺の腕を取ってしきりに入部を勧めてくる。
 いえ、剣の稽古は自分でしてますから問題はないですし、第一、女子ばかりの剣道部に入部はできませんよ。
「いや、いろいろやることがあるんで、すいません。」
 俺はリストバンドとアンクルバンドを外しながら、そう答える。
「それにしても、織斑君のバンド、重そう。どれくらい。」
「うん?一個当たり、3.5kgだな。」
 1年の他のクラスの女子生徒に訊かれて、答える。
 スポーツ用品店で、買う事が出来るので一番重いのを、俺は使ってる。
 ISには、重い装備を扱う為にパワーアシスト機能があるが、やっぱり操縦者の身体能力を鍛えるのが大事だから、トレーニングの時はこれを使っている。
 最後にストレッチをして、俺は寮に戻ろうとする。
「あ、箒。お前、シャワーどうするんだよ?」
 まだ部屋の調整がついていないので、未だに俺と箒は同室である。
 そういうわけで、シャワーやらいろいろ互いに決めたルールに基づいて使用しているわけである。
「先に使って構わないぞ。私は、これからまだ稽古があるからな。」
「解った。じゃあ、頑張れよ。」
 そう言って、俺は寮に戻る。

「ああ。どうやったら、織斑君を剣道部に入部させられるのかな?」
 2年の部員が溜息をつく。
「ずっと、自分が作った訓練メニューで訓練だもんね。」
「一緒に部活したいよ〜。」
 他の部員達が、愚痴をこぼし始める。
「ねえ、篠ノ之さん。幼なじみで同室なんだから、何とかならない?」
「そう言われましても。」
 箒も、一緒に部活動が出来れば、嬉しい事この上ない。
 が、一夏は、見ている物、目標にしている物がある。
 ああなった時の一夏を、剣道部に入れるのは至難の業どころではない。
 その事を、よく知っていた。
「あ、すいません。これから、ISの訓練が入ってますので。」
 慌ただしく防具を片づけて、箒はアリーナに走っていく。

『せめて。せめて、少しでも、一夏に近づかなければ…。』
 最初は、世界で唯一人、ISを動かせる男子。と、いうことで注目された一夏だが、その類まれなる実力と、整った容姿。
 そして、それを鼻にかけない性格で、すっかり女子生徒に慕われている。
 中には、かなり露骨に迫って来る女子もいるが、一夏が恋愛に関して、並はずれた鈍感である事からそれには気づいていない。
 それでも、箒は安心できない。
 同じクラスで、第三世代ISブルー・ティアーズの専任にして、イギリス代表候補であるセシリア。
 2組のクラス代表で、第三世代IS甲龍の専任で、中国代表候補の鈴。
 2人の強力なライバルがいるので、箒は焦りを感じていた。
 箒には、幼なじみというアドバンテージがあるが、それは鈴も同じである。まして専用機持ち。
 セシリアも専用機持ち。
 2人とも一夏の訓練の時に、一緒に訓練をしている。
 専用機持ちともなれば、アリーナが解放されている時間で、申請をすればいつでも訓練ができる。
 一方、一般生徒は訓練機を使用する為に、山のような書類にサインをしなければならない。
 様々な点で、箒は2人に比べて不利な状況にある。
 同室ではあるが、一夏は、箒と一緒でいることをほとんど意識していないので、あまり意味を持たない。
 それが、尚更、箒を焦らせる。
『一夏め。私の気持ちも知らずに…。』
 実を言うと、一夏は小学校の時から、他のクラスの女子からも慕われていたが、まるで気づいていない。
 男子によるスカートめくりが流行っていた頃でも、他の男子は嫌だが、一夏にならパンツを見せても構わないと女子が考えていても、一夏は気づいていなかったし、「そういうのは、まずいだろ。」と言う始末だった。
 この、世界遺産級の唐変木の一夏に自分の想いを気づかせる為に、箒は一計を案じた。
 それは、今度開かれる、学年別個人トーナメントである。
『優勝する。優勝して、一夏に告白して、つ、つきあってもらう!』
 箒は並々ならぬ決意で、独自の訓練メニューをこなしていた。

「ふう。」
 シャワーを浴びて人心地してから、俺はスポーツドリンクを飲んでいた。
 ちなみにぬるめだ。
 冷たいスポーツドリンクは体には心地いいが、浸透率で言えばぬるめの方が高いし、第一、火照った体にいきなり冷たい物というのは、実は体に悪い。
 一時の快感の為に、健康を害するような真似はよくないからな。
 さてと、夕飯の時間まで刀の手入れをしているか。と、言いたいところだが。

「いい加減に入ってきたらどうですか?如何にも思わせぶりに、気配を消すのはどうかと思いますよ。」
 ドアの向こうに、人がいる。
 それ自体は、珍しくもないが、気配を消していた。
 普通の生徒が、こんな事を出来るはずもない。
『仕方ないな。』
 俺は手入れをする前の、愛刀湯殿国親を手にする。
「あっ。ストップ、ストップ。いやだなあ、軽いジョークだってば。入っていいかな?」
 俺は、いつでも精神のスイッチを、戦いに切り替えたままで、ドアを開ける。
 そこには、1人の女子生徒がいた。
 リボンの色からして、2年か。
「初めまして、私の名は更識楯無。ビッグ3の筆頭で生徒会長をやってます。」
 はっ?
 俺は、面喰うしかなかった。

 う〜ん。
 思った以上の手錬だねえ。
 気配を消した私に感づいた生徒なんて、今までいなかったんだけど、ばっちり気づいてるし。
 しかも、自然体でいるようで、いつでも刀を抜いて戦える態勢ができている。
 普通の人には解らないけど、剣の腕も相当な物だね。
 資料には、剣道は初段とあるけど、実質的には八段クラスとでも互角以上に渡り合えるだろうね。
 ISの実力は、クラス代表の座を巡る、イギリス代表候補のオルコットさんとの戦いや、ケイシー先輩やフォルテとの戦い。
 さらに、最近の学年別対抗戦でも、2組の中国代表の鳳さんや乱入してきたISとの戦いで、実証済み。
 しかも、私の見る所、実力を100%出し切っていない。
 さすがは、初代ブリュンヒルデ、織斑先生の弟さんてところかな。
 それに、ハンサム。

「で、その生徒会長さんが何か?俺、これから刀の手入れをしたいんですけど…。」
 刀というのは、言ってしまえば鉄の塊だが、手入れを怠るとすぐに駄目になる非常に繊細な物でもある。
 だから、毎日の手入れは欠かせない。
「じゃあ、手入れをしながらでいいから、私の話聞いてくれないかな?」
「はあ、まあ。邪魔はしないでくれるなら。」
 邪魔しないという約束で、俺は生徒会長の話を聞く事にした。

「君、部活動やってないわよね?」
「中学の頃から、帰宅部ですから。」
 拭い紙で、刀身の汚れを丹念にとりながら、答える。
 外で働いている千冬姉の代わりに俺が家事全般をやっていたし、武術の稽古もあった。
 IS学園に入学してからは寮にいるので、家事をやるのは、週末に家に帰ってからだけだが、空いた時間は、全て訓練に回している。
「不思議よねえ。入学からやっと2カ月になるかならないかなのに、実力はビッグ3の一角にして、IS学園のナンバー2。そんなに、訓練に回す必要はないんじゃないかな?」
「ありますよ。俺より強い人なんて、世の中一杯いますしね。」
 汚れを拭いとった刀身に、打粉を丹念にかけながら、答える。
 そう。
 俺が小さい頃から、外で働いて俺を養い守ってくれた、千冬姉。
 あの人に、俺は少しでも近づきたい。
 正直に言って、今の訓練でも足りないくらいだ。
「それはそうだけど…。あ、ひょっとして、織斑先生を目標にしてない?それはハードル高すぎるわよ。あの人の強さは次元が違うもの。」
 打ち粉を丁寧に拭った後に、俺は刀身の細部まで確かめる。
 よし、汚れも傷もないな。
「会長の言う通りですよ。でも。やっぱり目指したいんですよ。まったくの偶然ですけど、誰かを守れるかもしれないんですから。」
 そう答えて、油塗紙で、刀身に丁寧に油を塗って確認した後に、鞘に納める。

「それで、会長は何を言いたいんですか?」
 刀の手入れを終えた俺は、会長に向きあう。
「そんなに畏まらないでいいわよ。私の事は、名前で呼んでくれていいのよ。」
 何と言うか、こう、人懐っこいと言おうか、親しみやすいと言おうか、とにかく、変わった人だ。
「じゃあ、楯無さん。本題に入りましょう。」
 そう言うと、楯無さんは俺を扇子で指す。
「織斑君。生徒会副会長に就任なさい。」
 は…?
 どういう事だ?

「何でですか?理由が解らないんですけど…。」
 いきなり、生徒会副会長になれって言われても、困る。
 正直に言って、訳が解らない。
「あなたは知らないみたいだけど、各部同士であなたの争奪戦が始まっているのよ。覚えていないかしら?」
 そう言えば、部活動をしているクラスメイトから、気分転換に見学に来ないかって、よく言われるな。
 あ、そういう事か。
「今の所、有力候補は、剣道部と茶道部ね。剣道部には、幼なじみの篠ノ之さんがいる。茶道部の顧問は織斑先生であることに加えて、あなたは茶道の嗜みがある。間違いないかしら?」
 楯無さんが開いた扇子には、事実確認と書かれている。
 いつの間に書いたんだよ?
「間違いないですけど、箒が剣道部にいるからって入部する気はないですし、茶道部には、千冬姉、じゃなくて、織斑先生が入部しなくても、偶に気分転換に来るといいって言われてお邪魔しているだけですけど。」
 それで、入部有力候補なんてなっていると、剣道部に場所を借りたり、茶道部にお邪魔させてもらうのは、やめたほうがいいか?

「ああ。いまさら、行くのを遠慮したって無駄よ。既に、水面下で駆け引きが始まっているんだから。」
 激戦必至。
 今度は、扇子にそう書かれている。
 本当に、いつ書いたんだ?
「それと、副会長と何の関係があるんですか。」
「簡単よ。私も、あなたのような優秀な人材を欲しているし、あなたは私という練習相手を得られる。互いにメリットがあるでしょう?」
 楯無さんは、そう言って、胸を張る。
 箒より、大きいかも…。
 じゃなくて。思い出したぞ。IS学園最強であるビッグ3の頂点にいるのは、生徒会長。
 つまり、楯無さんだ。
 確かに、練習相手にはちょうどいいだろう。
 でも、だからって、副会長になる必要があるとは思えない。

「お断りします。俺は俺のやり方でいきたいんで。」
「まあ、まあ、そう言わずに。今なら、セクシーなお姉さんがついてくるわよ。」
 そう言って、足を僅かに開くと、紫のパンツが覗く。
『何やってんだ、この人。』
 俺は呆れるとともに、顔が赤くなるのを全力で抑制しようとする。
「あ、見たんだ。織斑君のえっち。でも、男の子じゃしょうがないか…。」
 そう言って、リボンを外してブラウスのボタンをはずすと、俺の上にのしかかって来る。
 必然的に、開いた襟元から、パンツと同じ色のブラに包まれた、箒と同クラスもしくはそれ以上の胸が見える。
「ちょ、ちょっと、やめて下さいって…。」
 もうすぐ、箒が戻って来る。
 いや、それでなくても、セシリアや鈴が来たら、俺の命の危機が迫る。

「一夏さん。いらっしゃいまして?」
「一夏、遊びに来たわよ。」
「お前たち、勝手に入るな。」
 セシリア達が見たのは、ブラが見えるように襟元をゆるめた先輩が、俺に迫っているとしか見えようがない状態だった。
「おい。何を考えているか、だいたい解るけど、これは誤解だからな…。」
 俺は、誤解を解こうとする。
 このままでは、3人揃ってコ○ノハ様モードになってしまい、俺の命が危ない。

「一夏さん…。何が誤解なんですの?」
 セシリアの背後に、ビットが展開される。
「一夏…。何が、解ってるのかしらね…。」
 肩部アーマーが展開されて、龍咆が発射態勢に入る。
「一夏、貴様と言う奴は…。」
 箒が、手にしている刀を抜く。
 ま、待て、お前ら俺を殺す気か?
 誤解だって!
 俺は被害者だ!
 しかし、既にモードチェンジして目がうつろになった3人は、俺の言う事に耳を貸さない。
 そして、レーザーと龍咆が発射され、箒が斬りかかって来る。
 ああ、俺はここで一生を終えるのか…。

「は〜い。そこまで。」
 レーザーと龍咆、箒の斬撃が、何かに防がれる。
『水の…、ヴェール…?』
 俺を守ったのは、水のヴェールだった。
 楯無さんの手には、ランスが握られている。
 ISを展開して、俺を守ってくれたのだ。
「あなた、誰ですの?一夏さんに、こ、こんなふしだらなまねをして…。」
 うん、うん、その通りだ。
 セシリア、もっと言ってやってくれ。
「あんたねえ。抜け駆けどころか、強引に色仕掛けなんて、ルール違反よ!」
 ルールって何だよ?
 まあ、とにかく、強引な色仕掛けは俺も御免だ。
「ここは、私と一夏の部屋だ。なのに、こんな真似…。わ、私だって…。」
 は、何だよ?
 箒が、何やらごにょごにょ言う。
「と、とにかく、一から説明する。全員落ち着いてくれ。茶でも入れるから。」
 とりあえず、落ちついて貰わないと、部屋どころか寮が全壊してしまう。

「つまり、一夏さんを生徒会の副会長にしたい。そう言う事ですのね。」
 緑茶を飲みながら、セシリアがようやく状況を理解する。
「でも、こういうやりかたって、やっぱり、フェアじゃないです。いくら、生徒会長でも、やりすぎです。」
 会長が自己紹介したので、鈴も敬語を使う。
「そもそも、一夏にはやる意思がないのに、あのように強要するのは問題です。生徒会長にあるまじき行為です。」
 箒が、ぴしゃりと言う。
「まあまあ、落ちついてよ。それくらい、織斑君は優秀な人材なんだから。ああ、お茶が美味しいわ。」
 美味礼讃と書かれた、扇子を広げる。
そりゃ、どうも。
「と、言うわけで、自分からスカウトに来たわけ。で、特典でセクシーなお姉さんをつけてあげようとしたのよ。でも、彼ってガードが堅くって。」
 今度からは、やめて下さいね。俺の命に関わりますんで。

「でも、織斑君は訓練に忙しいから、やる気はないし。特典は駄目っぽいし。どうしたものかしら…。」
 同情を誘うようにしおらしくしながら、悲歌慷慨と書かれた扇子を広げる。
 あのですね。
 不運なのは、下手すれば死んでた、俺だと思うんですけど?
「と言うわけで、織斑君。決闘よ。」
 楯無さんが、たたんだ扇子でおれを指す。
 は?何で、そうなるんですか?
「私が勝ったら、大人しく副会長になってもらうわ。それが嫌なら、私に勝つことね。」
 勝手に、決めないでくださいよ!
 てか、俺の意思はスルーですか?
 いくら、女尊男碑の世の中だって、酷すぎやしませんかね?
「決闘は1週間後よ。じゃ、私はこれで。」
 そう言って、さっさと、楯無さんは行ってしまった。

「一夏さん、勝ちますわよね…?」
 ちょっと、待て。
 何で、俺が応じた事になってるんだよ。
 俺、やる気無いからな。
「一夏、負けたらどうなるか解ってるわよね…?」
 お前もか、鈴?
 俺は、やる気無いからな。
「一夏、男なら、これくらいの危機は、乗り越えられるな…?」
 ちょっと待て、箒。
 危機も何も、無理やり吹っ掛けられた、喧嘩みたいなもんだぞ。
 俺は、やらないからな。

 ちょっと、待て、おい…。
 翌日、登校した俺の目に映ったのは、俺と楯無さんとの試合のポスターだった。
 なんで、こうなってるんだ。
「ちょっと、のほほんさん。」
 俺は近くにいたのほほんさんに、生徒会室の場所を聞こうとする。
「いやあ。おりむー、生徒会長と試合か〜。楽しみだね〜。ポスター作りにいそしんだ甲斐があったよ〜。」
 今、聞き捨てならない事を聞いた気が…。
「布仏さん。一つ聞いて、よろしいかしら…?」
 背後にペ○ソナを背負ったセシリアが、のほほんさんに詰め寄る。
 あれは、タ○トスか。
「ふえ〜、怖いよ〜。何でも教えるから、早く済ませてよ〜。」
 「助けてよ〜。」とばかりに俺を見るのほほんさんだが、今回ばかりは助けない。
 俺も、聞きたいからな。
 それに、このやり方は気に入らない。
「いつ頃から、ポスターを作っていらしたのかしら…?」
「あ、あの、一週間前から。会長が絶対におりむーを生徒会の一員にするんだって…。」
 そうか、前々から企んでいたんですね、楯無さん。
 やってくれますね…。
「で、何で、あんたがポスター作りに関わっていたわけ…?」
 甲龍の兵装の一つ、青龍刀「双天月牙」を、のほほんさんにつきつけている。
 まるで、雛○沢症候群を発病したみたいだ。
「いや〜、実は、私、生徒会の書記だったりするんだ〜。ふえええ、助けてよ〜。おりむー。」
 すまん、のほほんさん。
 今回ばかりは、助ける気になれない。
「成程、つまり、一夏を嵌めるのに、一役買っていたと…。」
 箒がまるで、人斬○抜○斎みたいになっている。

「来たわね。織斑君!」
 ISを部分展開し、俺たちを見下ろすように楯無さんが搭乗する。
「言っておきますけどね。楯無さん。俺、生徒会の副会長はやりませんし、試合もしませんからね!」
 俺は、皆の前ではっきりと断言する。
 こういうやり方をされるのは、はっきり言って頭にくる。
「あ、それ無理。」
 え?
「もう、アリーナは抑えてるし、先生達にも了解取っちゃってるから、貴方は私と戦うしかないわけ。」
 くそっ。なんつーことを。
 待てよ?
 千冬姉も、許したってことか?
 何でだよ?
 結局、やるしかないってことか…。
 ここまで、人の意思を無視してくれたんだ。
 俺が怒っていないなんて、思っていないよな!?
 簡単に、思惑に乗ってたまるか!

 一週間後、俺は試合会場になるアリーナのピットにいた。
「いよいよですわね。一夏さん。」
「ああ、今回は格が2つ3つ違う、最初から全開で行かないと確実に負ける。」
 俺は、セシリアにそう答えて、精神を集中させる。
 別に、楯無さんが、悪い人だとは思わない。
 俺が思うに、お祭り好きなんだろう。
 でも、今回ばかりは、度が過ぎている。
 思惑に乗るのは、御免だ。
 と、言いたいんだけどな…。
「じゃあ、行ってくる。」
 俺は、アリーナに出た。

 楯無さんのISは、非常に独特な外見をしている。
 物理装甲が、普通のISに比べて非常に少ない。
 代わりなのか、非固定型のクリスタル状のパーツから、水が生成されているのだろうか?装甲の代わりになっているようだ。
 第三世代ISミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)。
 そして、相手はロシアの国家代表。
 候補のセシリア達とは、格がまるで違う。
 今の俺だと、勝てる確率より負ける確率の方が大きいだろう。
 でも、全力で、勝ちをもぎ取って見せる。

「いいんですか?本当に…。」
 オペレーションルームで、真耶は不安そうに千冬に訊ねる。
「構わん。何かトラブルがあったら、私が責任を取る。」
 千冬はいつも通り、冷静な表情でモニターを見る。
 正直、真耶は今回の試合には、反対だった。
 周囲に隠すように試合の準備をして、殆ど直前に大々的に試合を発表。
 一夏の逃げ道をふさいでから、試合を開催する。
 普段は、温厚な性格の一夏だが、一旦怒るとどうなるかは、以前のセシリアの件で真耶は身にしみて解っている。
 今回の怒りは、あの比ではないかもしれない。
 そう思うと、不安で仕方なかった。
「山田先生。試合が始まるぞ。」
 千冬の声に溜息をつきながら、真耶はモニターに視線を戻す。

 あちゃ〜。
 やりすぎちゃったかな〜。
 こればっかりは、治らないなあ。
 織斑君の“気”が、今までとは、全然違う。
 完全に、本気モードになってる。
 ただ怒ってるだけなら問題ないけど、冷静さを失っていない。
 こういうタイプって、やりにくいのよねえ。
 経歴に関する書類は、読ませてもらったけど、さすがに小さい頃から、武術を修めていると、精神のバランスの保ち方がうまいわ。
 とにかく、後できちんと謝るしかないか。

「うぉおおお!」
 複雑な機動をしながら、一夏が距離を詰めて一撃を加える。
「甘いわね。この水のヴェール。そう簡単には突破できないわよ。」
 楯無が、水のヴェールを盾にする。
「そうですかね?」
 一夏が力を込める。
 すると、水のヴェールがどんどん押し戻されていく。
 ISのパワーアシストと、鍛え抜かれた一夏の筋肉があってこその攻め方だった。
「なっ!?」
 これには、楯無も意表を突かれて、緊急離脱をするが、それを見逃す一夏ではなかった。
 離脱に気を取られている楯無に、防御する暇を与えずに強烈な一撃を加える。
 今回は、始めから零落白夜を発動させて、一夏は戦いに臨んでいる。
 シールドを無効化して、ミステリアス・レイディのシールドエネルギーをごっそりと削り取る。
「くっ!」
 白兵戦用のランス「蒼流旋」で、楯無が反撃に出る。
 その一撃を、一夏は雪片の柄頭で裁く。
「まだよ!」
 蒼流旋に内蔵されている、4連装ガトリングガンが火を噴き、回避する一夏に十数発程、命中する。

 強い。
 今までの相手とは、訳が違う。
 一撃食らった後で、とっさに反撃出たときも、狙いは正確だった。
 さすがに、国家代表。
 そう簡単には、勝たせてくれないか。
 あのガトリング以外にも、何か、隠し玉があるな。
 あの水のヴェール。
 変幻自在みたいだけど、それだけじゃない気がする。
 俺は、やや乱れかけた呼吸を整えて、構える。

 やるわね。
 まさか、水のヴェールを強引に押し戻すとは思わなかったわ。
 日頃から、相当に鍛えているんでしょうね。
 離脱へ反応する速さも、尋常じゃない。
 白式は、篠ノ之博士が直接開発した機体なだけに、スピードもパワーも既存のISを大きく上回るけど、それを使いこなす織斑君も、かなりの手錬だわ。
 ちょっと、早いけど、あれを使うしかないわね。

「凄い…。国家代表の更識さんと、あそこまで渡り合うなんて。」
 楯無と一夏の激しい鍔迫り合いを見ながら、真耶は唖然とするしかなかった。
「予想以上に成長している。勝つ可能性すら、見えてきたな。」
 白式とミステリアス・レイディ。
 カタログスペックでは、白式の方が上である
 しかし、楯無は仮にも国家代表。
 スペックの差を、自身の技量で補う事は十分可能である。
 だが、今回はそれすら、怪しい。
「ひょっとして、織斑先生は、これを確かめるために…。」
 真耶は、千冬の真の目的を悟った。
「済まんが、理由はまだ話せない。あいつが怒るのを承知の上で、逃げ場をふさいで本気にさせる必要があったんだ。その時の織斑の事を、いろいろ確かめるためにな。」
 モニターから目をそらさずに、千冬は真耶にそう答えた。

「はああっ!」
 楯無の鋭い突きが、続けざまに一夏を襲う。
 その中には、ガトリングガンの攻撃を混ぜた物もあったが、一夏はあえて無視して、突きの回避に専念した。
 もっとも、全てを回避する事は出来ずに、何回かは喰らった。
『今だ!』
 ランスの柄を掴んで、再び一夏の一撃が、楯無を襲う。
『まずい。このままだと、完成する前にこちらがやられるわ。』
 楯無は一旦距離を取って、呼吸を整える。

 楯無さんが呼吸を整えている間に、俺も呼吸を整えていた。
「はああっ!」
 俺の一撃を防ごうと、再び水のヴェールを盾にしようとするが、俺はその時の水のヴェールの形状から、回避しながら肉薄できるルートを見つけて、楯無さんに迫る。
「予測済みよ!」
 楯無さんは、水を収束させて槍の穂先のようにして、至近距離から俺に一撃を加えようとする。
「まだ、間に合う!」
 俺は左腕の物理装甲を、盾代わりにする。
「思い切った事するわね。でも、そう長くもつかしら。」
穂先は、さらに装甲に食い込んでいく。
「忘れてませんか?雪片は健在なんですよ。」
 片手のまま、下から斬り上げる。
 手ごたえあり!

「うわ。マジかよ。楯無が押されてる。」
 ダリルが、驚きのあまり目をむいていた。
「肉を切らせて骨を断つ。その覚悟も凄いッスけど、きちんと楯無の骨を断つんだから、何言えば、いいんだか…。」
 フォルテも、一夏がここまでやるとは思っていなかった。
「さて、勝負はどうなるか…。」
「どうッスかね?どっちが勝っても、おかしくないですよ。」
「まあな。でも、個人的には。」
「勝った後が、気になりますね。この試合の経緯が経緯だけに…。」
 揃って、溜息をつく。

『ん?湿度が上がってる。』
 俺は、ハイパーセンサーが知らせてきた情報に、一瞬怪訝になった。
見る限り、ミステリアス・レイディは、パーツのほとんどを水で構成されているISだ。
 そりゃ、湿度くらいは上がるだろう。
 俺は、意識を目の前の楯無先輩に集中させる。
 今の所、俺の方が押し気味だが、先輩も勝負を捨てていない。

『まいったなあ。武器で言えば、こっちの方が、重量があるから破壊力もあるはずなんだけどね…。』
 一夏はそれをものともせずに受けては、反撃に出る。
『さすがにあの国親を、見事に使いこなすだけはあるなあ…。』
 世に知られぬ豪刀、湯殿国親を通常の刀と変わらぬように使いこなす一夏の事を聞いて、書類に目を通していた楯無は、驚いた。
 長さ、重量共に、打たれた当時でも、実戦で使うには使いにくい刀である。
 今では、まともに使えるのは相当な大男であると思っていたが、それを新入生が、物の見事に使いこなしている映像を見て、楯無は一夏に強い興味を持った。
 その事を思い出していると、ハイパーセンサーから、ある情報が知らされる。
『準備が整ったわね。私も、IS学園最強としての意地があるから、そう簡単には負けられないわ。』

『なんだ?湿度が高すぎる。どういう事だ。』
 ミステリアス・レイディの特徴を考えてみても、湿度があまりにも高すぎる。
 俺はその事に、ようやく気がついた。
 待てよ。
 あの、クリスタル状のパーツ。
 まさか…。
 くそ!やっぱり、ただの水じゃなかったか。

「気づいたみたいね。そう。これの名前はアクアクリスタル。見て解る通り、ミステリアス・レイディの表面を覆う水を生成しているの。そして、この水は、ただの水じゃない。ナノマシンで構成されているわ。そしてね。」
 楯無は左の親指を中指で、指を鳴らす。
 パチンという音とともに、周囲に白式周辺に散布されていた水の分子が、一斉に水蒸気爆発を起こす。
「一斉に加熱して、水蒸気爆発を起こす。それこそが、私の奥の手。清き熱情(クリア・パッション)。織斑君。あなたはよくやったわ。心から敬意を表する。でも、最後に勝つのは私よ。」

「決まり、でしょうか…?」
 クリア・パッションの威力は、真耶もよく知っている。
「解らん。モニタリングはどうなっている?」
「あ、はい。え?」
 モニターに映ったのは、爆発から離脱した白式の映像だった。

 はあ、生きた心地がしなかったぜ。
 水蒸気爆発すると同時に、緊急離脱していなかったら、まともに喰らっていたな。
 とはいえ、喰らったダメージも半端じゃない
 たく、あんな隠し玉を持っているなんて、お祭り好きなのに、喰えない人だぜ。
 でも、おかげで勝つ方法が見いだせたよ。

「よくやったと、褒めてあげるわ。まさか、発動と同時に緊急離脱をするとはね。でもね。そこにも、水はあるのよ。」
 だと思ったよ。
 一段構えでいる程、単純な人だと思った記憶はない。
 もう、一段用意していても、不思議じゃない。
 でも、それが必ずしも、楯無さんの勝機に繋がるわけじゃないさ。

「さあ、これでとどめよ。今度はさっきの様にはいかないわ。」
 周囲の湿度が、さらに高くなっていく。
 おそらく、防御のための水も使っているな。
 予測通り。
 後は、タイミングだけだな。
 俺は、呼吸を整えて、極僅かに動いてポジション取りをして、その時に備える。
「終りよ。クリア・パッション!」
 さっきとは、比べ物にならない水蒸気爆発が起こった。
 今だ!

「え!?」
 少しして、ミステリアス・レイディのシールドエネルギーがゼロになっている事に、楯無は気づく。
 そして後ろには、自分に強烈な横薙ぎを浴びせた一夏がいた。
「勝者。織斑一夏。」
 一夏が、勝利した瞬間だった。

「先ほどの織斑君の攻撃ですが、見えなかった生徒もいると思いますので映像を再生します。」
 真耶の声とともに、映像が再生される。

「織斑の周辺に、さらに水が濃く散布されている。」
「そして、決着をつけるために、一気にボン。」
「ああ。肝心なのはその瞬間だ。」
 その時の映像が再生させると、ダリルとフォルテ。
 ピットにいる、セシリア。
 観客席にいる、箒と鈴。
 その他の生徒が唖然とする。

「クリア・パッションのエネルギーを利用しての、イグニッション・ブースト!」
 イグニッション・ブーストは、スラスターから放出したエネルギーを再び取り込んで内部で圧縮して放出することで、爆発的な加速を生み出す。
 その際のエネルギーだが、別に他の物でも構わない。
 一夏は白式のエネルギーに、クリア・パッションのエネルギーを加えて、通常のイグニッション・ブーストを大きく上回る加速を得て、楯無に決定的な一撃を加えたのである。

「すごい高等技術よ。一歩間違えば、自滅だもの。」
 鈴が呆然となる。
 理論上は可能だが、いざ実行に移すとなると相当な覚悟がいる。
 その覚悟が一夏には、あったという事だ。
「これで、一夏がIS学園最強か…。」
 箒が、呟く。

「理論的には可能ですが、これを行うには相当な覚悟と技術が要りますね。」
 真耶も、こんな無茶な真似はした事は無い。
「それを、織斑は持っているということだ…。予想以上か…。」
「入学してからも、一生懸命に訓練をしていましたから…。」
 部活にも入らずに、日々、訓練に明け暮れていた事を真耶はよく知っている。
 その成果がこれなのだろう。

「約束ですよ。俺は、副会長にはなりません。俺は俺のやり方でいきます。」
 そう言って、一夏はピットに戻る。
「一夏さん。おめでとうございます。」
 セシリアが笑顔で迎える。
「ありがとうって言いたいんだけど、今回ばかりは無理だな。」
 そう言って、白式を待機状態に戻して、着替えに向かう。
「織斑君は?」
 少しして、真耶と千冬が来る。
「多分、もう、お部屋に…。」
「その様子だと、相当にご機嫌ななめな様子だな。」
 あまりに冷静な千冬の態度に、セシリアは怒りを覚える。

「織斑先生。一つ、お聞きしたい事があります。」
「何だ?オルコット。」
 相も変わらずの冷静な態度が、セシリアをさらに怒らせる。
「今回の茶番劇は、一体どういう事でしょうか?一夏さんの意思を一方的に無視した今回の試合は、教員、間違いなく織斑先生も許可されたはず。何故に、許可をされたのですか?先生は、自分の生徒をさらしものにするのが、そんなにお好きですか?」
 千冬にここまで言ったセシリアに、周囲は驚いた。
「必要な事だった。今、言えるのは、それだけだ。お前の言うとおり、織斑をさらしものにしたと言われても、私に反論する権利は無い。だが、必要な事だった。」
「答えになっていません!」
 さらに言葉を続けようとするセシリアを、鈴と箒が制止する。
「千冬さん。」
「織斑先生と呼べ。」
「今、私がお話したいのは、織斑先生ではなくて、一夏のお姉さんである千冬さんです。こんな真似をすれば、一夏が怒るのは解っていたはずですよね?」
「当然だ。あれは、私の弟だぞ。」
 教員ではなく、一夏の姉として千冬は鈴の問いに答える。
「なら、きちんと答えて下さい。私も箒も不機嫌な一夏なんて、見たくありません。」
 鈴が、苦手であるはずの千冬を睨みつける。
「今は、まだ言えない。ただ、私は、一夏が大事だ。それだけだ。」
 そう言って、千冬はピットを去った。

「オルコットさん、鳳さん、篠ノ之さん。いろいろ言いた事は、あると思いますけど、織斑先生は、本当に弟さんの事を、心から案じています。こんな事は、先生も反対でしたけど、それでもやる必要があったようなんです。例え、一時、弟さんに嫌われてでも…。だから、今は、何も言わないで上げて下さい。」
 真耶が、深々と頭を下げる。

 部屋に帰った俺は、稽古着に着替えた。
 火照った頭を冷やすには、稽古が一番だ。
 いつまでも、カッカしたままは御免だからな。
 刀袋に入った国親を持って、いつも通りの稽古に行こうとする。
「織斑。入るぞ。話がある。」
 千冬姉か。
 今は会いたくないんだよな
 でも、そうもいかないな。
 やれやれ。
「何でしょうか?これから稽古ですので、手短にお願いします。」
 我ながら、無愛想だと思うが、今はそんな精神的な余裕はないし、気分でもない。
 それにしても…。
「こういう時にまで、気配を消すなんてどういう事ですか?しかも、随分、中途半端じゃないですか?」
 中途半端といっても、気配はほとんど感じないレベルだったが、今の俺では、頭に来るだけだった。
「あ、うん。御免…。」
 肩身を狭そうにした楯無さんを連れて、千冬姉が入って来る。

「それで、何のご用でしょうか?」
 千冬の予想通り、一夏の態度は硬かった。
 が、それは想定内だったので、すぐに話を始める。
「織斑。生徒会に入れ。」
 千冬は、唯、一言、それだけを言った。
「理由がないのに、何故、俺が入らなければならないんですか?いくら、先生の言う事でも、道理に合わないとなれば、俺は従う気はありません。」
 一夏の千冬を見る目は、いつになく厳しい。
「授業初日に言ったはずだ。私には、絶対服従だと。」
「授業に関しては、ですよ。物事は正確にしてください。」
 普通の生徒なら千冬にここまでは言えないが、一夏は違った。
 否、一夏は誰にでもこうだ。
 女尊男碑の世の中で、女性の気まぐれで男はパシリにされ、拒否すれば下手をすれば警察の世話になる事もある。
 一夏もそうなりかけた経験があるが、それでも一歩たりとも引かなかった。
 今の世の中では、相当に珍しい部類に入るのが、一夏だ。
「それ程、生徒会に入るのが嫌か?」
「道理に合わない事が嫌だと、言っているんです。試合は俺の勝ちです。ならば、副会長になる理由は無いはずです。」
 そう言って、一夏は楯無を見る。
「さて。ここで一旦、話を切らせてもらいます。生徒会長。俺に隠し事をしていませんか?」
 一夏の厳しい視線が、楯無に注がれる。
「え?私は、別に…。」
 楯無の言葉に、一夏は険しい表情になり、深い溜息をつく。
「では、一つ質問をさせていただきます。今回の勝負、勝っても負けても、俺は生徒会の一員になっていた。違いますか?」
 あ。と、言いたげな表情になり、楯無は気まずそうに下を向く。
「どうやら、隠していたというより、忘れていたという感じですか…。ビッグ3の筆頭。IS学園最強の生徒とは、生徒会長の事。つまり、俺が勝った以上、俺が生徒会長になる。そうですね?」
 一夏は確認するように、楯無に問う。
「ええ。そうよ。御免なさい。決して、隠していたわけじゃないの。あの…。」
「国家代表に挑戦しようとする骨のある生徒が、いなかったのでな。楯無も、つい忘れていたのだろう。そうだな?」
 楯無に助け船を出すように、千冬が訊く。
「はい…。すいません。」
「いずれにせよ。俺に最初から、選択肢は無かった。試合の準備が始まった時点でね。まあ、今更言っても、後の祭りですが…。」
 そう、一夏は無表情で言った。
「では、生徒会長の任を引き継ぐのだな?織斑。」
「慣習に従う事に、納得しかねることは事実。ですが、従わせるつもりなんですよね?なら、自分が選択した方が、幾分かはマシですからね…。」
 確認するような口調の千冬に、一夏は、あくまで自分の意思で、生徒会長に就任する事を告げる。

「あの。」
「まだ、何か?」
「今度の事は、本当にごめんなさい。悪ふざけが過ぎたと、心から反省しているわ。私、こういう性格で、注意はしているつもりなんだけど、中々、治らないわね。謝られたところで、不愉快なだけだろうけど、とにかく、謝っておきたかったの。本当にごめんなさい。」
 楯無が、深々と頭を下げる
 一夏が知っている限り、楯無は快活でお祭り好きな性格だが、目の前にいる楯無は、まるで咲き誇る花が萎れてしまったような印象を受ける。
 今回の事に関する怒りは、未だ、一夏の心の中に火のように燻っている。
 しかしながら、今の楯無を見ていると、何やら事情があるように思えて、どういうわけだか罪悪感と憐憫の情が生まれ、怒りが消えていくように思えた。

「織斑。今回の件に関して、最終的な責任は私にある。更識は副会長として、お前のサポートにつく。生徒会で顔を合わせるたびにこれでは、仕事はやりにくいし、周囲も大変だろう。怒りの全ては私に向けろ。私が一番お前に言いたかったのは、それだ。楯無の事は許してやってほしい。詳しい事は、まだ、話せないが、お前を生徒会に入れて、楯無を周囲にいさせるのは、お前を守るためでもある。」
 えっ?
 俺を、守る?
 千冬姉の言った事の意味が、俺には理解できなかった。
 つまり、俺を狙っている奴らがいるってことか?
 ただ、一つだけ言える事はある。
「つまり、俺はまだ、自分の身を守る事も出来ないって事ですか…。これでも、今まで、必死に武術の修行に励んで来て、IS戦闘の他にもCQBやCQC、他にも色々な訓練を死に物狂いでやってきたんですけどね…。まあ、冷静に考えればそうか。ISを動かせるようになって、一年も経たないんですから…。」
 とんだ自惚れだ…。
 学年別対抗戦で、あのISから皆を守れたことで、少しはそこから抜け出せたと思っていたけど、全然だったんだな…。
 もっとも、千冬姉から見たら、俺は素人に産毛が生えたようなもんなんだろうけどな…。
 とりあえず、やっておく事はあるか…。

 え?
 下を向いたままのあたしの前に、笑顔の織斑君が、手を差し伸べてくれていた。
「和解したいと思いますが、如何でしょうか?俺がこんなこと言うのも何ですけど、ずっと気まずいままっていうのもね。」
 許してくれるの?
 あんな、悪ふざけをしてしまった私を。
 騙し討ち同然に、あなたを生徒会入りにした私を。
 私に勝ったら、あなたが生徒会長になるという、大切な事を忘れていた私を。
 
 優しいんだね。
 織斑君。
 普通なら、絶対に許してくれないのに。
 そこまで行かなくても、ずっと気まずいままなのに。
 ありがとう。織斑君。
 だから、私は…。

「うん!これから、よろしくね。生徒会ではきちんとサポートして見せるから、安心してね。」
「頼りにしてますよ。楯無さん。」
 優しい笑顔の織斑君に、私は今の自分の最高の笑顔を、織斑君に向ける。

「じゃあ。俺、稽古に行ってきますんで。失礼します。」
 一夏は二人に一礼して、部屋を出る。
「さて、私たちも戻るとするか。お前は、お前で引き継ぎの準備やら、色々とやる事があるだろう。」
 そう言って、千冬は楯無に生徒会室に行くように促す。
「あの…、織斑先生は?」
「これから、始末書の作成だな。いずれにせよ。最終的な責任は、私にある。」
 そう言って、千冬は職員室へ向かった。
 雲が広がる空を千冬が見ると、少しして雨が降り始めた。
「雨か…。こういう時は、憂鬱になる。」
 そう言って、千冬はその場を去った。

 最後に印鑑を押して、千冬は始末書の作成を終えた。
「山田先生。私は、理事長室に行ってくる。後を頼んだぞ。」
「あ、はい。解りました。」
 職員室を出る千冬の後ろ姿は、真耶にはどこか淋しそうに見えた。

「結構です。でも、わざわざ、始末書を書く必要はありませんでしたよ。私としては口頭注意で済ませるつもりでしたから。」
 千冬の目の前にいる、壮年の温厚な顔立ちの男性が言う。
 轡木十蔵。
 IS学園の、理事長である。
「結果的には、織斑は生徒会の一員になりましたが、その過程で彼には随分と不可解な思いをさせた事は事実です。けじめをつけなければ、私は私を許せません。」
 直立不動の姿勢の千冬が、轡木にそう言った。
「いくら、今は話せないとは言え、彼にとっては少なからぬ不愉快な思いをさせた事は事実ですからね。それに、貴方にも辛い思いをさせてしまった。憎まれ役を任せるような事をして、申し訳ないと思っております。」
「いえ。お気になさる必要はありません。必要な事で、私が最適だった。それだけのことです。」
 気遣い無用と言いたげな口調で、千冬は言う。
「それにしても、更識さんに勝つとは思いませんでしたな。」
 デスクのコンソールを操作して、部屋を対防諜モードにする。
 空中投影ディスプレイには、一夏の個人データが表示される。
「IS適性、測定不能。最低でもSランク。素質で言えば、彼は世界の頂点にいる。しかし、まだ原石のままだと思っていたのですが、習志野では自ら地獄のような猛訓練を志願したそうですから、不思議ではないのかもしれませんな。」
 感慨深く、轡木は言った。

「よく降る雨ですね。天気予報では、一日中快晴だって言っていたのに。」
 降り続く雨空を見ながら、真耶は憂鬱そうに言う。
「天気予報など、そんな物だ。いつも当たるとは限らんよ。」
 書類仕事をしながら、千冬は摩耶に言った。

「織斑先生大変です!」
 1組の保健委員の生徒が慌てたようすで、職員室に入って来る。
「どうした?何があった。」
「お、織斑君が、織斑君が倒れて…。医務室に来るようにって、先生が…。」
 予想もしなかった知らせに、真耶は腕時計を見る。
 あれから、大分、時間が経過している。
『うかつだった…。あの状態の一夏を、そのままにしておくとは…。』
「様子は…?一夏の様子は!?」
「とにかく、すぐに!!」
『一夏…。』
 はやる気持ちを抑えながら、千冬は医務室へ急ぐ。

幕間へ

後書き
楯無登場です。
ただ、文化祭通りではつまらないので、生徒会にスカウトする為の試合というアイデアを思いつきました。
その後は、少し、もめ事を入れて見ました。
原作がラブコメだからでしょうか。
一夏は自分の意思とは無関係に決められた事に、強く抗議していないように見えました。
でしたので、私の二次創作では強い不快感を持たせて話を書いています。
そして、明かされた、今回の試合の真実は、一夏に少なからぬショックを与えてしまいました。
この続きは、幕間で。


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IS<インフィニット・ストラトス>二次小説 第6話 生徒会長の挑戦 cogito,ergo sum/BIGLOBEウェブリブログ
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